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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

戯函  ~ Bumpy road

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三十七話 巨蚓成因  ~ ミミズはすごいんです

 村での、ある日の事。
 村に着いて一日目は崩れ落ちるようにして寝て、次の日も盗賊を引き渡したりイースと良く判らないままじゃれ合ったり。
 そしてしっかりとした意識のまま自分の寝床に潜り込んで、一晩。
 三日目の事だった。

 その日は朝からイースと一緒に遊びとも言えないような他愛の無い事をして、暇を潰していた。
 ほんらいあそんでいるなら暇じゃ無い筈なんだけど、厳密に言うまでも無く遊びじゃないのでそれでも退屈だった。
 けどのんびりと寝転がって空を見たり、時々吹いてくる風に髪の毛を委ねたり。
 勉強や特訓という名の荒行のような修行の毎日を忘れて、イースとまったりのんびりしていた。
 いや、だって定期的に休みはあっても、基本ハードだからしんどいのには変わりない。

 冬っていう事を忘れて、イースの体が冷たくなっている事に気が付いた俺。
 死んでるって訳じゃないけど、何かやけにベタベタして来るなーと思ってたら、そういう事だった。
 尻尾を枕にしたりしていたイースは、いつの間にか尻尾の舌に潜り込んでいる。

「戻りましょうか?」

「ケイちゃんは、寒くないの?」

 寒いけど、耐えられるって感じかな。
 あるいは寒いけど、服を着込んでいるから大丈夫っていう感じ。
 今の俺の感じる「寒さ」をどう説明したものかなー…と考えながらも、難しく答えることは無いだろうしと頷いた。
 俺の振る舞いからは何と無く察しているようだったけど、改めてそう答えられて驚いたらしい。
 クリクリとした目が見開かれた。

「私は、寒いな……。ケイちゃん、すごいよ」

「毛が凄いんです。私じゃないですよ」

 俺はイースに毛布のように被っていた尻尾を持ち上げ、イースが立ち上がるのを待つ。
 よっこりよっこりとぎこちなく、ゆっくりと立ち上がったのを見てすかさず尻尾をイースに巻き付けた。

 ……狙ったつもりはないけど、相合傘の気分だ。
 俺の尻尾は長くないし、丸めた程度ではお尻の上から生えている尻尾が膝の上に乗るくらい。
 毛のボリュームで落っこちそうだけど、長さ的に言うとあまり余裕はない。
 そんな尻尾でイースを囲うようにしたから、それはもう大変。

「……近いですね」

「けど、暖かいよ?」

 そんな無垢な笑顔でニコリとコッチを向かれたら、俺の雑念が沸々と湧いて来ちゃうよ!
 今更ながら「女の子」と友達になっているんだな、と気付く。
 幼いけど、幼いからこそ俺の中で罪悪感が混み上がってくる。
 けどこの体勢から離れようものなら、一人でぬくぬくと寒がっている少女を見捨てていっているようでそっちも罪悪感が。
 取り敢えず恥ずかしさで真っ赤になっている顔をイースに見られないよう、そっぽを向く。
 自分の顔の熱さと、自分の隣に居るイースの徐々に取り戻してきた体温により熱くなってくる。
 意識を逸らせようと、『茹でだこ』ならぬ『茹でオオカミ』になりそうだー……とか思っていた。
 途中頭がこんがらがって、「子を茹でるって書いて茄子って言うのかな」とか夢想しだしていたのは無視だ。

 自宅……もとい、村長の家でありイースの自宅である建物の中に入ると、女の人がいた。
 イースと眼元が似ていて、ホルワールさんが良くしているのを見たエプロンのような物を携えた女性。

「ケイさーん、ちょ、ちょっと手伝ってくれませんか……?」

 少し戸惑った様子で現れたイースのママさん、イレイサさんだった。
 この名前をもし日本人やら地球の誰かが聞いたら、消しゴムって思ってしまうとおもう。俺だけじゃ無い筈。
 そんなイレイサさんが俺を指名した。
 イースそっくりの眼が垂れて、今にも零れ落ちてしまうかという程垂れきっている、かなりの困り顔。
 俺はイースを家に連れ戻してから、どうするか考えていなかった。
 まあ普通はイースと返ってからも遊ぶと言う選択肢なんだろうけど、イースを温めるのが先だろう。
 それに家の中は暖かく、俺も少しのんびりしたくなっていた。

「ふぁ、分かりましたー」

「そう、良かった……」

 のんびりしてたらまた寝てしまいそう。
 昼寝するのは嫌じゃないけど、やっぱり昼間なんだから起きていたいよね。
 と言う訳で若干もれそうになった欠伸を飲み込んで、イレイサさんに言葉を返した。
 イレイサさんはその俺の返事に、安堵と言う表情でニッコリとほほ笑んだ。
 さっきのイースと笑顔が似てるなーと思っていると、付いて来てと言うジェスチャーをしながら奥へと入って行くイレイサさん。。

「イース、ちょっと行ってきますね」

「うー、うん」

 若干迷ったようだったけど、唸りながらうんと返事をしてくれたイース。
 この後も遊びたかったのかな。
 そんな事を考えて顔がニヤケてしまいそうになるのを、そっと手で覆って隠す。
 イースがトコトコと歩いて行ったのを追いかけるようにして、イレイサさんの言った方向へ進んでいった。

 その場所は、台所。
 懐かしい匂いが鼻をツンと刺す。
 懐かしいと言っても、ここ数日台所で調理する事が無かったのでそう思うだけなんだろうけど。
 見るとホルワールさん家にも、俺の家……お父さんたちの家にもあった調味料があった。
 なるほど、これはこの匂いだったのか。
 鼻をスンスンと鳴らしていると、眉間に若干の皺を寄せたイレイサさんがこっちをゆっくりと振り返った。

「あの、ですね。これなんですが、私一人では難しいかな……と思いまして」

 そして、その手に握られている何か筒のようなもの。
 時々脈打つように動き、ウネウネと捻るように動く。
 尺取虫のようにグネグネと動いて、あの都市伝説で有名になったオノマトペのように動いている。
 ……動いていた。

「……そ、それは、もしかして」

 自然と引き攣った表情になる。
 いや、引き攣っているよりもかなり嫌な顔、不機嫌そうな顔になっていたかも知れない。
 それぐらいに、俺に表情筋を鍛えるようにさせる事が目の前にあった。

環蟲ワームの調理、手伝ってくれませんか?」

「え、ちょ、ちょっ!? 調理ですか!?」

 俺とイレイサさんのやり取りを理解したのか、イレイサさんの手の内でグニャグニャと動くソレ。
 どういう事ですか。
 取り敢えず、現実逃避したかった。



 ミミズって、凄いんだそう。
 日本でも……と言うか、地球の自然の摂理的なアレでも言われていた。
 詳しくは知らないけど、良い土を作るんだそう。
 あのスケイルワームだったかも同じで、眼の前で俺と相対して「シャー」って威嚇しているやつも同じ。
 この辺りの荒野は元々、砂漠のような所だったらしい。
 つまりは、今よりも酷かった。
 砂漠は元々と言っても、どんどんと砂漠化が進行しているという感じだった。
 森を切り拓いていって、今の猪の森程度に縮小されたから、その辺りからどんどん砂漠化。
 この村は猪の被害からは遠のいたそうだけど、砂漠化の進行で育ちにくくなった作物のせいで飢餓になって行く。
 なんつー、悪循環な。

 けど、そこに現れたるはザグラッドさん。
 うん、何度も言うけどザグラッドさん。お父さんだった。
 お父さんは昔に、この村へやって来た。話によると十年……いや、それ以上かも知れないんだけど。
 ザグラッドさんは……って言うか、もうお父さんで良いか。
 お父さんは元々、隠れ家と言う名目で猪の森を越えた先の半島に住居を持っていた。
 けど、森が減って行くと隠れ家で無くなってしまう。
 と言う訳で、この村辺りの環境を改善してやろうという事になったそうだ。
 ……若干自分勝手じゃないかなって思ってしまったけど、まあ事実よそ様の村だしね。仕方ないでしょ。
 そこで解き放ったのは、環蟲ワーム種。
 土の質を改善するという事で、お父さんは何処からか取り寄せてきたワームを砂漠化の進行する土地へ放った。

 ……というのが事の顛末らしい。
 訳分からん。
 それになんか話が壮大だし。
 元々あの猪とかの居た森ってこの辺りまで広がっていたって事なの?
 と言うか、もしワームをお父さんが育てていた……って言えばいいのか判らないけど、この辺りに解き放ったのなら、鎧蟲スケイルワームは?
 アレは、確かこの辺りに居たような気がするけど。
 もしかしてお父さんはそう言う虫が好きなのかな?

「そしてこの辺りでは作物が育つようになり、こうして時々ワームも食卓に並ぶように……」

「……普通、そう言うのは感謝して食べないものなんじゃないですか?」

「…………、感謝して、食べています」

 今、若干言い淀んだよね!?
 もしかして習慣化された事で、特に疑問を持ったことが無かったとか。
 急にしどろもどろになって、大きく視線が動くようになったイレイサさん。
 どもりながらも、諭すように俺に言った。

「け、けど、食べれるのですよ?」

「さっき聞いた経緯を聞いて食に困っていたと言うのは判りますけど、それに食べれるのも何と無く分かるんですけどっ!」

 地球でも蜂の幼虫とか食べられてるし、蚯蚓も多分どっかで食べられているでしょ。
 魚のえさになるし、鳥も食べてるし。食べれないという事は無い筈。
 ……けど、けどさ。
 外見も動物っぽいけど、やっぱり虫だよねソレ!

「……食べれるんですか?」

「キシャー!」

 まな板から飛びかかって着そうになるワームを押さえつけながらも、顔を顰めてイレイサさんに聞いた。
 イレイサさんは普通に掴めているけど、俺の手は小さいので掴めない。
 押さえているとくねくねと掌の中で蠢いて気持ちが悪い。
 けど両手で押さえるのも何か……的な感じで、ちょっと躊躇われる。
 そう言えばミミズって切っただけじゃ死なないって聞いたことあるんだけど、どうするつもりなんだろ。

「食べられます。コリコリとした歯ごたえで、中が空洞なので切ると輪っかのようになるのも特徴。美味しいのですよ?」

 うん、コレ切るみたいです!
 ついでに言わせてもらうなら、イレイサさんの後ろの方の網。
 蠢いています。
 それが意味する事はとても簡単。
 ワームが大量に後ろに控えているという事だよ、コノヤロー!

「イースは怖がって手伝ってくれませんし、ケイちゃんは料理できると聞きましたので、この際……と」

 も、もしかしてこれは。
 イースの代わりにこの虫どもを解体してくれという事なんだろうか。
 ていうか、ワームがウゴウゴしてキモチワルイ。
 スケイルワームじゃ無く、どっちかって言うとナメクジみたいな感じで、表面は粘々としている。
 あのデッカイスケイルワームと違って牙は無いようだけど、口がヒクヒクとしていてキモチワルイ。
 少し力加減を間違えたら、手から滑り落ちてそのまま全身の筋肉を使って俺に飛びかかってきそうだ。
 うー。
 俺は少し唸ってから、覚悟を決めた。

「……分かりました。切ります」

「ありがとう、助かります! ナイフはこれで良いですか?」

 そう言いながらもホルワールさん家で見たような形だけど、刃の部分の素材が違うようで輝きが違う包丁を渡された。
 包丁じゃ無くてナイフって言ってるみたいだけど。
 ナイフとフォークのナイフと違いって何なんだろ……って思っていると、手の力が緩んだ。
 キシャーと言いながら飛びかかってくる、ワーム。
 ベチャ。
 狙って飛んできたようなので、もちろん俺に命中。
 だけど、結局奴が飛びついたのは髪の毛の上だった。

 ……。

 俺はナイフをまな板の上へ置き、両手で出来る限り絞める感じに力を込めてワームを離す。
 そして、まな板へ。
 キモチワルイから、と思っていたのは何処へやら。
 今では横に倒れた砂時計みたいになる程力を込めて握りしめ、ナイフを突きつけた。


     ★


 簡易魔術で生み出した水を、同じく簡易魔術で温めてお湯にして、タオルに含ませて身体を拭く。
 そんな訳でサッパリして、服を着てリビングへ。
 髪の毛が濡れていたことを不思議に思ったのか、食卓を囲んでいた全員が俺の方を向いた。

「……身体を拭いていました」

 ちょっと面と向かって言うのは恥ずかしかったから、横を向いてそう呟く。
 というかこの身体は女の子なのであって、それなりに可愛いから、例えば目の前でそんな事を言ってくる女の子がいたら俺だって妄想してしまう。
 目の前には村長さん……オシウェスさんがいて、オシウェスさんの息子さん……ウェリム君がいて、アヴェンさんがいて。
 オシウェスさんアヴェンさんを除くとして、ウェリム君とかは真っ先に妄想してしまいそうだ。
 案の定、俺がそっぽを向いて小さめに言ったのにも拘わらず、頭の中でフィーバーしてしまったのかウェリム君の顔が真っ赤だった。
 アヴェンさんもちょっと顔を赤くしているのは無視しよう。第一、アヴェンさんは納得した上で想像してしまったらしく苦笑いしていたし。
 「ロリコン共め」、て心の中で呟こうと思ったけど、片方は年相応だし、放っておくことにした。

「……さ、さて、食べましょう! 今日はケイさんが手伝ってくれたので、いつもとは少し味が違うはずです」

 あの蟲野郎をぶった切るのと、それ以外の調理をちょこっとだけどね。
 そんな事を考えながらも、先に食べ始めた皆に続くようにして食べ始めることにした。
 まずは、そうだね。迷い箸って良くないらしいし、ここはひとつ、虫の奴を食べてやろうじゃないか。
 箸では無いけど、食べるようの道具でタコリングだったかイカリングだったかみたいなそれを取り、口に放り込む。
 そして、噛み締めた。
 ジャリッ

「ゴフッ、ゲフッ、ゴホッ!」

「どうかしましたか?」

「いや、これどう考えても砂のあ……」

 咽た拍子に下げた顔を上げてみると、何一つ表情を変えずにこの砂の塊のような味のするソレをパクパクと食べていく皆。
 狂ってやがる。
 そんな失礼な事を思ってしまったけど、事実、俺の舌と頭ではそうとしか思えなかった。

 頭の中に思い浮かんだのは、塩抜きが全く出来ていない貝。
 口の中に含んだその肉をゆっくりと噛み締めると、つるつるした表面を歯が滑る音がキュッキュと鳴って、その合間合間にジャリジャリと砂の噛む音がする。
 音がアレすぎて、味に集中できない。
 けど、その音を抜きにしても感じてくる、下に纏わり付いてくる気持ちの悪い苦み……と言うか渋みと言うかなんというか。
 ただ言えるのは、砂の入った袋を噛み締めているみたいだ。

「(……アヴェンさん、よくこんなの食べれますね?)」

「(え、……これぐらい普通だと思うけど)」

 アヴェンさんはこっちの側の人間だと思っていたのにっ!?
 急に身を乗り出してコソコソ話を始めた俺に村長家の四名が視線を向けた。

「お、美味しいですねえ……っ」

 耐えろ、耐えるんだ俺。
 口の中の悲惨さから涙が零れそうになるのを必死に堪え、無我夢中でその虫の肉を頬張った。

 それ以外の調理は俺が担当した事もあり、普通。
 良かった……。
 これほどに安堵したことは無いと思う一日だった。
ワーム=ミミズの世界です。

食用で出されるのは、歯の生えていない幼体。
ケイちゃんの言う砂の味は、土生の生物故、体内に微量の砂が紛れていたからです。


それと、茹子と茄子って似てませんか……?
片方は残酷ですけど。
+注意+
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