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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

戯函  ~ Bumpy road

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三十六話 友好交流  ~ ともだちとあそびます

「……指名手配情報は無し、暫くは拘置所で放置。治安維持のご協力、感謝します!」

 先延ばしにしておいた、盗賊の突き出しを完遂させた俺。
 歪んだ顔をムリヤリ引っ張ったりして、顔を確認する役所の人を眺めているとそんな事を言われた。
 役人さんが確認していた紐で本のように纏められた木の板は、いわゆる指名手配所のような感じなんだろうか。
 ぺらぺら……というか、パタパタとと捲って行き、一周した辺りで溜め息を付いてたから。

「暫く……って、どうするんですか?」
「行商の方が来るまでか……あとは、スイルからの警邏隊けいらたいが視察に来るまで、だね」
「へえ」

 出来れば、行商のに乗るんじゃなくて、警邏隊に連れて行ってほしいよ。
 俺はそれに同乗する形になってしまうから、それだけは勘弁願いたい。
 目の前の役人さんは、俺の顔色を見て心情を察したのか、助け舟を出してくれた。

「まあ、そろそろ定期視察の時期だろうから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

 まあ、俺の頭を撫でたかっただけなんだろう。
 ふむ、慣れない手で撫でられるのはちょっと不思議な気分だ。
 人に触られる感じ……って、触られてるのか。
 ちょっと気持ちが良いって言う気持ちが出てくる前に、感情を抑えるような……そんな感じか。
 あまり気持ちよくは無い。
 まあそれでも耳の後ろがググってなるのは、自分の手でも出来るけどやっぱりスッキリする。

「ふっ、やっぱり突き出して正解ですね」

 アヴェンさんと盗賊を引き摺って持って行くか縛って放置するかで言い合いをした結果こうして村に連れてきたわけだけど、俺は生まれて初めてお金を手にした。
 この世界のお金はルクスと言うらしい。
 役所を出ながら、袋ごと貰ったお金……硬貨の一枚を取り出して、眺める。

「ケイ、どうだった?」
「はい、お金はばっちりです」

 アヴェンさんは外で待機。
 そんな訳で、出てきたところで声が掛かった。
 アヴェンさんの方は向かずに、硬貨の装飾を眺めてみる。
 何か装飾というには少し、質素な感じもするけどまあお金っぽかった。

「それにしても、案外普通でしたね」
「何がさ」
「いえ、股間潰れてるのに顔色一つ変えなかったなーと」
「……いや、それは気付いてなかったんじゃないかな」

 何でも、少なくとも見れば気分が悪くなる状態らしい。
 暫く役所の近くで座り込んでいると、青ざめた人が入り口から出ていって何処かに走って行った。
 俺とアヴェンさんはその光景を見ながらも、再びボーっとしている。
 少し時間が経った頃、さっきの人が独りの人を連れて戻ってきた。

「……お医者さんでしょうか」
「多分、ね」

 アヴェンさんは苦笑いしていた。



 そう言えば馬車の来る日……詰まる所、行書の人が来るのは定期的だけど、不正確らしい。
 六日ごとに来るらしいけど、前後に数日ずれたりはしょっちゅうあるそう。
 そんな訳で、大体六日間の滞在が決定していた。

「さて、何しましょう」

 お父さんの所とは違って、賑やかでない外。
 時々、物々しい恰好をして森とは逆の方へ向かっていく大人の人を見たりはしたけど、それ以外はかなり寂しい村だった。
 寂しいと言えば、この土の壁の家もか。

「ケイちゃん、あそぼ」
「あ、今行きまーす」

 イースが俺を呼びに来てくれた。
 遠目に眺めただけだけど、この村にもちゃんと子供が沢山いる。
 男女比率が有り得ないくらいに偏っていて、尚且つ力だけでゴリ押しできないくらい女の方も強い俺のいた村では、子どもなんて全くいなかった。
 そもそも女の人ってサーラさんとお母さんとホルワールさんくらいしか居なかったような……。
 そもそも五十人くらいの集落なのに、その比率はおかしいのかも知れない。
 ……あれ、今変な名前が出てしまったような気がするけど。

「さて、何しましょうか?」

 子どもは沢山いたようだけど、これから俺と遊ぼうとしているイースは一人だった。
 二人で遊べることと言えばかなり限られてくるけど……。
 そもそも前世でも国によって遊びが違うんだ、世界が変われば遊びも違うかも知れない。
 何か口をもごもご動かして、恥ずかしそうにこっちをちらちらと眺めているイースを見ながら、一体これから何をするのか考えていた。
 イースはモジモジとしながら、言った。

「な、何しよう……」

 イースも特に何か考えがあると言う訳では無かったみたいだ。
 そもそもとして、あまり人と遊んだことが無いような感じで恥らっているイース。

「もしかして、友達って居ないんですか?」
「……うん」

 なんと。
 顔を覆い隠すように手を顔に当てるイースは、暫く唸った後そう言っていた。
 暫く俺達の間に流れる沈黙。
 じゃあ、……どうすればいいんだろ。

 イースはずっと家で家事のお手伝いをしている事が多いんだそうだ。
 俺としても出来る事が家事くらいしか無いので、一緒に手伝おうと食卓に居たイースの母親らしい女の人の元へ行ったら。
 「せっかくなんだから、二人だけで遊んだら?」……と、気を使っているようで我が子を千尋の谷へ突き落す獅子のようなお言葉を頂いた。
 何度か取り合ったものの、相手にして貰えなかった。
 それ所か娘に友達が出来た事に喜んで、現状を理解していないらしいママさんだった。
 俺とイースはトボトボと村長の家の裏庭を歩いていた。

「……耳、触っても良い?」
「はい、良いですよ」

 そう言えば敬語でばかり喋っていたけど、友達なんだから敬語じゃ無い方が良いんだろうかな。
 あー、けどそうなったら巣の俺の口調が出てしまいそうだ。
 中途半端に区切って喋ってもよさそうだけど、流暢に話せている自信のある俺の喋りがいきなり片言になったら周りが不審に思いそうだ。
 んー、と首を傾げていると、急にゾワゾワっとなった。

「にゃ、何ですかっ?」
「ご、ごめんなさい、痛かった?」

 耳を触っていたイースがふにゃった顔を向けて、申し訳なさそうにしていた。
 イースが触っていた部分は、耳の内側……というか耳の穴の部分だった。
 ああー、そう言えば耳かきしてたらゾワゾワする事ってあったような気がするな。もしかして、それだろうか。
 意識してみると、確かに耳の穴に指を突っ込まれている感じがした。

「そこは恥ずかしいので、指入れるのは……」
「そ、そうだったんだ! ごめんなさい」

 ブワッという勢いで勢いよく指が引き抜かれる感覚も声が出そうで危なかったけど、今は耳の外側を撫でられるような感じがするから良しとしよう。
 いつの間にか座り込んでいたので、イースが耳にじゃれ付いている間に俺は俺で尻尾の感触を楽しんでおくことにしよう。
 地面に接触していたせいで若干ついた土を払いながらも、毛の流れに沿った動きで尻尾を撫ではじめる。
 夏の時の毛と違って、かなり毛が多いような気がするし、フカフカ度が段違い。
 冬の蹴って何でか太い気がしたけど、むしろ一本一本はさらさらしているような気もする。

「……これって、遊んでいると言うんでしょうか」
「……違うよね」

 出来ればせめて遊びと言ってくれれば、このまま続きそうだったけどイースもそれは思っていたみたいだった。
 双方手が止まって、イースの手が耳から離れる。
 そう言えば耳の外側だけ触られるのも、直接ぐいぐい押される感じがして気持ちが良かった。



 俺はただ今、短剣を持ち出している。
 イースがママさんに呼ばれて、一人になったからだった。
 短剣と言っても、間違っても鞘から抜けないように紐でしっかりと固めている奴だけど。
 まあ、もちろんアヴェン短剣(アヴェンサン)だ。
 あ……、何か自分で名付けといて久しぶりに呼んだ気がする。

「上段の構え……ですか」

 型は教えてもらったけど型に収まり過ぎれば実戦に活用できないという事なので、かなり我流という事になってしまっている構えを始める。
 まあ身長の事もあって上段の構えでも大の大人相手だと中断くらいの高さにしか届かないんだけど。
 この身体の利き手はどうなのかは気にした事無かったけど、前世の時と同じように右で柄を掴んで構える。
 左肩の上で静止させる右手。

「えーと」

 本来なら、ここから真横に振り切る形になる。
 けど何を思ったの袈裟斬りみたいに左上から、右上に振り降ろした。
 出来るだけ鞘に包まれた刀身がぶれないよう、完全に勢いだけで押し切ろうとせずに大切に動かす。
 そして自分の太腿辺り……振り切った所に来ると、握りを緩める。

「まあ、こんな事実戦では使えないだろうけど」

 握りを緩めると、巻き込むように手首を勢いよく折り曲げる。
 隙間の生まれたての中で剣が回転、そして再び握りしめて再び体を捻って、腕を振り上げる。
 目の前に着た辺りで静止。
 刃が上を向いた状態で握られている剣が目に入った。

「……はあ、何をやっているんでしょうか」

 そもそも短剣だからできるのであって、普通の剣ならばそう簡単に手の内で動かない。
 それに片刃だから意味があるのであって、諸刃ならば返す必要も無く只戻すだけで充分。
 アヴェンさんから貰った短剣は、刀の文化のある圏だからなのか片刃のそれだった。
 切っ先は若干両刃になっているけど、反対向きにした所で切れる所が限定されて普通に剣として扱うには難し過ぎる。
 そもそも若干沿っている刀身だから、そんな使い方をすれば切っ先が下を向いてしまう。

「習った時の上段の構えは……」

 盾を装備していないから出来る、上段の構え。
 アヴェンさんに教わっていて思ったんだけど、この上段の構えを含めた「五行の構え」って言うのはどうしても剣道の試合を見ているように感じる。
 要は両手で柄を掴んで、頭の上で構える姿勢。
 胴ががら空きになって肝心の攻撃を受ける剣も頭の上に位置するからと、アヴェンさんは超攻撃型の構えと言っていた。
 けどそんな事もあって、試合のような対人戦には相手に挑発を掛けているの同じだそうだ。
 「攻撃できるもんなら、やってみろよ!」みたいな感じなんだろう。
 けど、超攻撃型なのはアヴェンさんの言う通りで、対魔物戦闘ならそれなりに使える。
 力の乗りが一番良く、かなり大きく振れるから……だそう。

「ふっ!」

 これをするたびにどうしても息が漏れ出てしまうけど、仕方ない。
 さっきの袈裟切りとは違って、天辺から真っ直ぐ振り降ろすだけなので軸もぶれ難く剣速が上がる。
 鞘に収まっているにも拘らずヒュオッという音が鳴って、腰の辺りで剣が下を向いた所で静止した。

「盾とか装備するなら片手になるし、精々出来ても添えるだけなんですよね」

 そんな事を呟きながらも、長めに持った右手の上を添える形の俺のメインの構えに戻す。
 上段は、火の構え。何度も言うけど攻撃な形だから。
 中段は、水の構え。剣道であるように腰辺りに持ってきた手で少し上に向けて構える形。防御にも攻撃にも流れるように動ける、万能の構えだから。
 下段は、地の構え。相手の攻撃に合わせて防御する形だから……なんだけど、いまいち使い所が判らない。剣が下を向いていて防御の構えでも対応が追い付かないので、間合いを広く取らないと駄目だから。
 他は力を分散というか、掛け過ぎない持久の構え、木の構え。剣を立てに構えて腕をハの字のようにする形で、こうしておくと腕が疲れにくいんだそう。
 最後に、完全な実戦向けの構え、金の構え。腰に居合の構えのようにして、刀身の長さを隠すようにする。間合いを悟られないようにする為らしい。
 その五つの構えを順にして、暇な時間を潰した。
 ……ちなみに、最後の二つはそれぞれ木の構えが「陽の構え」と、金の構えが「陰の構え」に言いかえられるらしい。
 何でも両方刀身が隠れるか隠れないかで判断するので、正面に真っ直ぐ構えるせいで刀身の長さが相手に知られる方が「陽」。刀身を隠す構えが「陰」なんだそうだ。



 けど結局のところ、イースが帰って来たのは剣の構えの訓練に飽きてきたところだった。
 イースは短剣を持っている俺の事を不思議には思っていたけど、特に何も言ってこない。

「何かあったんですか? 遅かったので」
「うん、何かね、ケイちゃんの事でって。内緒なの」

 口元に指をピッと当てる仕草をするイースは可愛かった。

イースの他に、剣が友達のケイちゃんでした。
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