挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

戯函  ~ Bumpy road

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

32/56

三十二話 危険経験  ~ やられてしまいました

 意識が覚醒したのは、少ししてから。
 まだお腹が痛く、服を捲くってみたら少し赤くなっていた。
 凄く痛かったなー。
 というか、身体が吹っ飛ぶくらいの勢いだったのに赤い痣が出来るだけで済むって、どういう事なんなんだろ。
 揺れる視界の中、そんな事を考えていた。
 時々その痛いところに圧迫が来て、その度に顔を顰める。
 尻尾がファサファサと揺れて、少し変な感じ。

「あうぇんさん」
「……何だ?」

 何か言おうと思ったけど、冷やかに突っぱねられる。
 まあ、確かにそうだけど。
 俺の不注意で、こんな事になっちゃったんだし。
 アヴェンさんが起こるのも仕方が無い。
 そして、この体勢になるのも…。
 って、ソレだよ!!

「アヴェンさん、この体勢痛い! 辛いです!」
「我慢してくれ、またどっかに走ってかれたら助けられるか判らないんだよ?」

 アヴェンさんに担がれる事、暫く。
 俺は一切体を動かしていないのに、勝手に視界が動いていき勝手に体が揺れていく。
 めっちゃ変な感じ。
 そんな、かなり変だという事が判ってもらえるだろうけど。
 感覚がおかしくなりそう。
 お腹がひっきりなしに押さえられ、振動がお腹に直接来る。

「あうぇんさん。言うの忘れてましたけど…」
「……何」

 再び突っぱねられる感じがするけど、これだけ入っておかないと完全にアヴェンさんに迷惑をかけてしまう。
 俺は不快感から震える唇を必死に動かして、言う。
 言い切ってやる。

「私、乗り物…駄目なんです」
「…それは、何と無く分かってるけど」

 ああ、そう言えば馬車に乗りたくないだとか、馬車に乗ったら吐くだの、やり取りを玄関先で目撃されてたなー。
 いやいや、そうじゃなくて。
 俺は喉が球ってなるのを頑張ってこらえながら、再び口を動かす。

「ぎもぢわるい……」
「…………ちょ!?」

 急に慌て始めたアヴェンさん。
 けど、慌てる度に身体が揺れ、担がれた俺はもろにその振動が来る訳でして。

「吐ぐぅ……」
「待って、もう少し待って!」

 因みに、アヴェンさんは無傷でした。


     ★


 森で、注意しなければいけない事。
 それは、音だ。
 音以外にも、森の中では食事をする際に出来るだけ匂いを飛ばすのが必要。
 匂いが森の中に漂っていたら、魔物とかが飛びかかって来るらしい。
 肉食獣とかが。

 俺はアヴェンさんという乗り物に強制に乗せられた後、暫くしてから吐いた。
 吐くまでの間にアヴェンさんは走ってたし、時々血が飛び散っていたから魔物も蹴散らしていたらしい。
 そんな訳で、いつの間にか森の結構な所まで進んでいたらしい。
 魔物も俺をブッ飛ばした奴がいつの間にかアヴェンさんの背中に背負われていたし、食事はそれなりに出来るという事も確認済みだ。
 俺の足で歩くより、アヴェンさんの調子で行けばさっさと森を抜けられるという事をいやというほど突きつけられる事、数刻。
 まあ、そんな訳であの調子でずっとアヴェンさんに運ばれているんだ。

「あえんさーん、ちょっと、ちょっと待ってくらひゃーい」

 吐きそうになると、即座にアヴェンさんに降ろされ、地面に蹲って待機。
 面倒かも知れないけど、はるかに効率が良かった。
 アヴェンさんが凄く着かれているかも知れないけど。

「ケイって軽いから、実質荷物くらいの重さしか感じないよ」

 軽いっていわれて、どう反応すればいいのか判らなかったけど取り敢えずアヴェンさんは疲れていないらしいから問題ないか。
 んー、もしかして、俺があの魔物にブッ飛ばされた時かなり盛大に飛んで行ったのは俺が軽いっていう事もあったのかな?
 それなら、振動とかで脳が揺れて気絶しても掛かった力が弱いから軽傷で済んでいるっていう事も、有り得るかも知れない。

「アヴェンさん、歩かせてください。顔に向けて発射しますよ」
「地味に酷いな、それ」

 取り敢えずは、アヴェンさんから絶対に離れないという事で勘弁してもらった。
 アヴェンさんの服を掴んで、オーケーなんだそうだ。

「動きにくくないですか?」
「ケイが音に気を付けてれば、魔物には遭遇しないんじゃないかな?」

 ぐう。



 音に気を付けて耳をピコピコと揺らす事、暫く。
 何度も魔物と遭遇しかけたけど、寸前のところで回避する事が出来た。
 まあ、時々避けられない事にも遭遇する。

「ケイッ、音確認!」
「辺りに二次の襲撃無し! 大丈夫です!」

 アヴェンさんの質問に捲し立てるように返す。
 アヴェンさんの方に一匹、俺の方にその逃した一匹が向かってきた。

 怒猪(レイジボア)
 怒っている猪っていう感じだけど、それだけじゃ無くしっかりとした魔物。
 知能がかなり乏しいので、難敵だ言う訳でも無い。
 けど、怒っているというだけあって、かなり厳しい部分もある。

猛猪(ワイルドボア)よりは、やっぱりキツイ…か」

 アヴェンさんの呟いた通り、俺をブッ飛ばした猛猪とは違い手ごわい。
 …俺? ブッ飛ばされたけど、あれは相手が勢いがついてただけだし!
 そんな事は置いといて。
 怒猪の危険な点は、それは猪突猛進にある。
 知能が無い為に、完全な力任せに突進する。
 それは自分の身を滅ぼすこともいとわない、屍者(アンデッド)の域に到達している。
 …要は、脅しや手加減をしての攻撃は一歳の無駄という事だった。

「ケイッ、こいつの皮膚はかなり固いよ!」
「解ってます!」

 完全に見きる事は出来なくとも、猪の動きに合わせて短剣を構える程度は出来る。
 そして、その短剣で斬り付けられた傷は、目の部分のみ。
 皮膚は刃に当たりはするものの、全く突っかかりも無く過ぎて行った。

「ブモォォォッ!」

 片目を潰された事に対して更に怒ったのか、光を失った赤い眼から血を垂れ流し、もう片方の独眼でキッと俺を睨む。
 けど、俺はその少しの間を待っていた。
 俺は猪の叫び声に被せるようにして、小さくつぶやく。

「“穿て”、空槍(エア・スピア)

 穿つ事だけを意識して、魔力をかなり凝縮する。
 ホルワさんに教えてもらった言葉は元々は「貫け」だった。
 けど、俺はちょっと恰好付けたいという気持ちもあったのは事実だけど、こうして「穿て」に変えている。
 貫くのではなく、抉る。
 突くのではなく、突き通す。
 そんな感じの気持ち・意味を込めての、この短縮詠唱。
 魔力に回転が加わって、僅かにキイーンという高音域の雄たけびを放つ空気の槍。
 そして、トリガーとなる言葉を放った。

 音が無ければ、まだアレだったんだろう。
 けど、猪の身体を深く貫いた槍は容赦なく肉を削って行く音を辺りに飛び散らせた。
 その血肉と一緒に。

「……あれ?」

 ピチャピチャと、その残滓が俺の身体にも降りかかった。
 よく見ると、只の肉塊となっている猪の後も何かが飛んで行ったかのように地面が抉れていた。

「ケイ、どうかしたの…か」
「う、うぇ…」

 只の肉塊。
 それは、かつて俺の見た自分の罪と重なって見えた。
 人の肉と、猪の肉。
 只の肉となってしまえば、違いは何も無かった。

「げぅ」

 アヴェンさんの目の前で、俺はきょう何回目となるか判らないけど吐いていた。



 ふう、落ち着いた。
 俺の持つ荷物から布を取り出して、血をふき取る。
 魔物は、魔物だ。
 別に倒したところで罪にはならないし、誰も咎めない。

「ケイ、大丈夫か?」

 けっして、俺の魔術の事は聞かない。
 連鎖的にあの肉塊の事を思い出させないように、そう取り計らっているんだろうか。
 けど、俺には何も関係が無い。

『そう、私は間違ってなど居ないのだ』

 うるさい。
 あの肉塊が引き金となったのか、またあの声が聞こえてきた。
 どうやら自分の意志で押し込められるという事が、秋の季節を過ごしていた時に何度か経験している。
 今回も、その時と同じように押し込んだ。
 くぐもった悲鳴のような物を出しながらも、深い泉の底へ沈んでいくように消えていくその声。

「大丈夫です。…悪夢見そうですけど」

 ほら、良くあるじゃん。
 人を殺したり、動物を殺したりした後に罪悪感から夢に出るみたいな。
 確かにこの通り罪悪感がある。
 いつもなら心情が揺らいでいたはずの『私』の声にすら、乾いた怒りが湧いてくるほどだった。
 俺の手で殺したんだ。
 別に間違ってたとか、間違ってないだとかの問題じゃないんだ。
 俺の、俺の意志によって、殺した。
 俺のもう一つの人格が俺の意志に反して、勝手に殺したんじゃない。
 俺の手で…。

「今日中に、森は出られますか?」

 いつもより何だか、感情のノリが悪い。
 のっぺりとした、自分で聞いていても怒っているのか…と思ってしまう。
 そんな冷ややかな声が出てしまった事に、自分でも驚きつつもハッと顔を上げるアヴェンさんを見た。

「あ、ああ。そうだね、もう少しってところだ」
「では、行きましょうか」
「お、おい。あんなに魔力込めてたんだし、少しは休憩した方が……」
「大丈夫です。何も、問題は…」

 俺はそこまで言って、耳を傾けた。
 そう言えば、いつも周りの音を気にして居ろってアヴェンさんに言われてたんだよね。
 視界の隅で黒い点のようなモノが動き、聴覚の方でもその辺りから音が聞こえた。

「アヴェンさん、魔物があちらの方に居ます。直ぐに行動を」
「……ケイが良いなら、それで良いけど」

 まだ点だ。
 それでも目視できるほどだ。
 雑草や木々に阻まれていても、何故かそれを目に捉える事が出来た事は置いておくとして。
 横倒しではあるけど、俺の身体とさほど変わらない猪たち。
 それにあの猪突猛進具合を考えるなら、これくらいの距離なら十数秒で縮まってしまうだろう。

「行こう」
「解りました」

 もう一度ビクリと耳を動かして、周囲の音を確認。
 さっきの猪を殺した音が聞こえたのか、それとも猪の鼻で血の臭いを嗅ぎ分けたのか、走ってはいないけどこちらに向かいつつある音がある。
 俺はアヴェンさんにそれを簡単に伝えて、俺の血をふき取った布で刀身を拭って辺りに捨てた。
 これならまだ紛らわす事が出来るだろう。


     ★


 んー、あまりネガティブシンキングは似合わないな。
 冷静になるのも大事だけど、アヴェンさんの表情から察するにかなりさっきまでの俺は怖かったようだ。
 まだ血まみれの中「アハハハハッ」みたいな感じで笑っていた方が怖いような気もするけど、それとは何か違っていた。
 まあ、そんな訳で昼食タイムですよ。

「アヴェンさーん、これ食べますかー」
「じゃあ頂くよ」

 本来ならば、ここで昼食をすることは無かったのでアヴェンさんは何の用意も無い。
 ここは森極力避けて通るような道だから、只突っ切るよりかは断然に速い。
 それでも魔物には遭遇するし、半日ほど掛かる。
 半日過ぎて、森を出た辺りで昼食を取る予定だったので、アヴェンさんは弁当らしきものの用意は無いのだ。

「オリベーンさんは、用意が良いね」
「というよりも、お母さんはお節介やきなのです」

 俺もこんな事態になるなんて思わなかったし、何度かお母さんにこの弁当を返そうとした。
 こんな事態になる原因は全て、俺なんだけど。

 まず最初、猛猪(ワイルドボア)に吹っ飛ばされたこと。
 アレは凄かった。人は飛べるのかという淡い希望を持ってしまうくらいの鮮やかな飛翔だった。
 …そんな冗談はさておき、アレで飛んで行ったからアヴェンさんが心配して担ぎ上げた。

 担ぎ上げて走ったお蔭でその時のタイムロスを解消できた。
 その後のアヴェンさんに乗っている事での乗り物酔いがきた。
 結局あまり差が出来る事が無いどころか、俺が吐く度にランニングが中断されるので、実質的に余計時間が掛かっただろう。

 そして、この魔物の遭遇。
 俺自体はあまり時間が経ってないと思ってたんだけど、猪を殺してからかなりの間呆然としていたらしい。

「暮れまでには、出られますかね?」
「もうすぐそこだから、大丈夫でしょ」

 木の皮を結ぶ紐を解いて中に入った食べ物を取り出して、食べ始める。
 俺は朝食だとか昨日の夕食分だとか全部土に埋めてしまっていたけど、あれは焚火の燃料になるみたいだ。
 俺はそんな事も知らずに捨てていたので、今回ばかりは木の皮に食べ物の残りが付かないように注意して食べた。
 食べ終わった頃には、木々の隙間から見える太陽が傾いて来たので結構時間が経っていたみたい。

「もう少し、ですか」
「そうだね」

 そんなこんながあって、やっとこさ森を出る事が出来た。
タグに「ゲロイン」でも付けましょうかね?
今回も吐きまくりましたが、まだどれほど入るか判らない「馬車シーン」もありますんで(汗)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ