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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

戯函  ~ Bumpy road

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三十一話 聊爾旅路  ~ ベテランはちがいます

聊爾はりょうじと読みます。
「りょうじたびじ」或いは「りょうじりょじ」みたいな感じで
 ピコピコと耳を揺らす。
 風が吹いているけど、それに押されて…と言う訳では無い。
 耳の集音に意識を向けて、じっと耳を澄ます。
 特に問題のある物音もしない。
 何て事の無いサワサワと言う環境音が聞こえてくるだけだった。

「特に変な音は無かったです」
「そうか、なら大丈夫かな?」

 後ろに控えているアヴェンさんとそんなやり取りをしつつも、棒になって止まっていた足を再び動かし始めた。
 足の甲が少し隠れるくらい……十センチ程度の長さの雑草を足で蹴り、踏み潰していく。
 草が生えてくるくらいの湿度はあるけどぬかるみも無く、何かと比較するならば学校のグラウンドみたいな硬さの土。
 ちょくちょくとその俺の掌にギリギリ収まるか収まらないか位の雑草が見えるけど、全体的にはしっかりと土の色が見えていた。

「アウェイさーん…、何時まで歩くんですか~」
「…名前をちゃんと言えば教えてあげるよ」

 地面が雑草が生えていたりとボコボコとしているので、全体的に平坦でも結構足に来る。
 明け方出たのに、今はもう盗聴付近の髪の毛が熱くなりはじめていた。
 そろそろ、お昼だ。

 テクテクと歩く。
 懐にしまわず、腰に紐を通して下げる事を命じられた護身用のアヴェン短剣。
 名前は『アヴェンサン』だ。
 まあ本来名前なんてどうでも良いんだけど、ためしに読んでみたら『クエン酸』と何か音が似てたのでちょっと気に入っている。
 まあ、それでも冗談半分だし、口に出していう事はほぼ無いんだろうけど。

「アヴェンさん、ごーはーん、食べたいです」
「もう少し、歩こうよ」

 可愛らしく言ったのにも拘らず、荷物似てすらかけない真っ直ぐな男。
 その名も、アヴェンディなんちゃら。
 やっと、ここまで名前を覚えられたんだよ。アッハッハ。
 そんな事よりも南に向けて歩いている俺達の顔の右側に陽が当たりはじめた。
 お腹空いたよー。


 その後、お昼ご飯を食べた後、夕方…と言ってもかなり暮れの時刻に森の前に到着した。
 あれ、そう言えばこの森に着くまでに魔物、出会わなかったな…。
 お父さんの話だと、馬車が真面にこれないって言う魔物がいるらしいんだけど。
 植物は生息していたけど、動物が生活している様子はここまでには無かった。

「アヴェンさん、魔物は居ないんですか?」

 アヴェンさんの腰に付いたカタナの近くにある、服のゆとりの部分をちょいちょいと引っ張って聞いてみた。
 そう言えば、アヴェンさんの服って和服っぽいイメージがある。
 色もだけど、生地が薄っすらしていて、なんかこう…って感じ。
 良く分からないけど、和って感じがするんだ。
 掴んでいた服をスリスリと触っていた事に気が付いて、慌てて手を離す。
 アヴェンさんが変な顔をしていたけど、ほどなくして俺の質問に返してくれた。

「魔物はこの先、さ。は暗くなると絶対駄目だから、ここで今日は休みを取ろう」
「は~い」

 何でかは判らないけど、間延びした返事をした。
 その後パタリと地面にへたり込んだから、ずっと歩きっぱなしで疲れていたのかも知れない。
 それにしても、夜の森…かぁ。
 木が林になって、林が森になって。
 そんな感じで奥へ行くにつれてポツポツと木が多くなって行く風景を眺めながら、テントを張る準備に入った。



 テントと言うか、枠に布をかぶせただけのお粗末な物に、キラキラと輝きつつあった俺の眼の光は失ってしまう。
 確かに、キャンプとかは憧れだったし、いきなりテントを張ろうなんて言われたら期待してしまうのも無理ない。
 それに、服装から判るけどこの世界の人たちとは価値観が違う。
 そんな訳で、思い描く者が完全に再現されるとは判らないんだ。
 そんな事を心の中で暗唱して、気持ちを立て直す。
 アヴェンさんだけなら何も経てずに座って寝るらしいし、俺の為にわざわざ用意してくれたアヴェンさんの頑張りに泥を塗りたくないしね。

「す、凄いですねっ!」
「も、もう少し良い奴の方が良かった?」

 一瞬でばれましたよ、ええ。
 これは、本格的にポーカーテールを練習しないとお世辞も言えなくなってしまう。
 シュンと気落ちしたかのように垂れ下がっている尻尾を押さえつけて、俺は決意した。
 まあ、ここは取り敢えず。
 俺は後ろ手を組むようにして、尻尾の根元付近ギリギリの所を掴み揺する。

「い、嫌ですねー、そ、そんな事ある訳無いじゃないですかー」
「…優しさが痛い」

 全てを完遂させたアヴェンさんは、その場に崩れ落ちていた。
 て言うか、そもそもアヴェンさんが用意してくれたんだろうかな、これ。
 アヴェンさんはこう座って寝れるらしいし、そもそも持っている必要が無い。
 何かの時のために買っていたとしても、それは何かの時のためでそれほど値を張る物を買わなくても良い。
 んー、いや。長持ちさせたかったら、それでも値を張る物は買うのか。
 けど、このアヴェンさんの落胆よう。
 どういう事なんでしょうね?

「アヴェンさーん。確かに思ってたのとは違いましたが、別に問題無いですよ?」
「い、いや、良いんだよ。俺がお金をケチったからこういう事に…」

 ああ、そういう事。
 いや、別にそれならそうと言えばいいのに。
 そもそも、落胆する必要が無いじゃん。
 俺はそう小首を傾げながらも、崩れ落ちたアヴェンさんのわき腹を拾ってきた気の棒で突いていた。

 突く度に、アヴェンさんの身体がビクビクしてて、面白かったです。

 まあ、最後には顔を真っ赤にさせたアヴェンさんに起こられたんだけど。
 ていうか、こんなに腋が弱いなら敵と戦闘中に不意に接触したらどうするんだろう。


     ★


 目が覚めた。
 それにしても、なんか昨日の夜の俺ってなんか友達の内に泊まりに行くみたいなテンションでかなり変だった気がする。

「う~…」

 俺の黒歴史に次ぐ、かなり嫌な思い出を更新したことに頭を抱えつつも横を見る。
 右隣りには、何も無い。
 左隣には、地面に杭を打ったせいで張っているテントの壁である布が。
 ……アレ?
 そう言えば、上半身を起こしたにしては、ずいぶんとまあ…背が高くなったような。
 俺はちょっと、いや。だいぶこの先の事の予想が付きつつも、ゆっくりと変な感触の床の方を見た。
 むにゅり、というかぐにっと言うか。
 同形容したらいいのか沸かない柔らかさがお尻に接触していて、もうこれは確実だった。
 下を見ると、人の胴体…というか下半身が。
 うん、完全に見覚えのあるアヴェンさんの下半身だね。

「う、ううぅ……」

 後ろからは、アヴェンさんの唸り声。
 うん、あれだね。寝相が悪くてアヴェンさんに乗りかかったんだと思う。
 けど、どういう風にのりかかってたんだろ。
 俺は少し体勢を立て直して、女の子座りみたいなのをする。
 正直女の子座りって言うのが判らないし、そもそも女の子座りになっているのか判らないので『みたいなの』だ。

「ぶはっ、…け、けけケイっ?!」

 どうやらお尻では敷いてなかったけど、尻尾でアヴェンさんの顔を敷いてたらしい。
 くう、俺がアヴェンさんを夜のノリでテントに引きずり込んだせいで、こんな訳の解らない状況に…。
 俺は暫くアヴェンさんのお腹の上で座ったまま、硬直してしまっていた。



 アヴェンさんには、今後テントで一緒に寝ないという通達が来た後、朝食を食べた。
 朝食は取り敢えず今の所は、アヴェンさんと俺が持ってきた日持ちのしない食品を食べて終わる。
 本来は魔物とか動物を狩って…とかするらしいんだけど、俺達が通ってきたあの地域に魔物は愚か動物すらいないらしいので、簡単な食事はここまでだ。
 木の皮みたいに包まれたモノを食べて、残りの弁当箱部分は地面に埋める。
 うん、エコだね。
 衛生面ではちょっと微妙なんだろうけど。

「さてっと、そろそろ準備始めようか」
「そうですね」

 ちょっと俺の期待には添えなかったテントが畳まれ始める。
 まあ、流石に少しは手伝うけどさ。
 俺はアヴェンさんが杭を外した部分とは別の杭を、短剣の柄を使って地面からえぐり出した。

「あれ、手伝ってくれてる?」
「流石に、あんな態度をして悪気はあると思っているんですよ?」

 柄と杭のぶつかる音が聞こえたのか。
 目を見開いて、反対側の所から顔を覗かせてくるアヴェンさん。
 まあ、アヴェンさんに非は無いし、俺の態度が悪かった。
 そんな訳でありまして、…いや別にそんな変な言い訳を出すつもりは無かったんだけど。
 手伝ってはいる。
 うん、ちゃんと手伝うのだ。
 抜いた杭に付いた土を払いながら、袋に詰めていく。

 上から見た形が四角のテント。
 一辺につき日本の杭で張られていた布は、合計八本を抜き終わった頃には弛み切っていた。
 アヴェンさんが組み立てる時は先に一辺を取り付けてからやっていたみたいだけど、俺が手伝ったお蔭ですんなりと骨組みに被さった布を外すだけで済むようになっている。

「そっちは?」
「問題ありません」
「じゃ」
「「せーの」」

 本来ならば、こんな子供っぽい掛け声なんて必要ないんだ。
 俺が、超が付くほど小さいからね!?
 そうなんだよ。
 俺の身長がアヴェンさんの腰程度しかないから、アヴェンさんが軽く持ち上げている地点で既に俺の身体は精一杯だった。
 簡単に言うなら、無理して高いところにある物を取ろうとつま先立ちで顔を真っ赤にして頑張っている…って感じ?
 ……ヤバい。想像しただけで、恥ずかしくなってきた。
 俺の密かな頑張りがアヴェンさんにばれて、こうして息を合わせて“くれてる”のに感謝して、布を降ろす。
 ふわりと、掴んでいない部分が空気を蓄えて持ち上がるけど、次第に空気が抜けて行って萎む。

「じゃ、私が畳みますので」
「さり気なく、重労働の方を押し付けるのね」

 まあ、そのつもりだったけど。
 そんな独り言を呟きながらも、紐で縛られて見事なピラミッド形になっている木を解き始めたアヴェンさん。
 俺はそんな光景を尻目に、眼の前に鎮座する真ん中あたりが弛んでいる布を畳み始めた。
 えっと、どうするんだっけ。
 確かー、最初はアヴェンさんが取り出した時、綺麗に畳め…丸められてた気がする。
 ……畳まなくても良かったのか!
 何か効果音が付いていたらキュピーンみたいなのが付いていそうな閃きが起こったけど、出来るなら小さい方が良いよね。
 丸めたら空気が結構入りそうだし、丁寧に折りたたんでみるかな。
 アヴェンさん、こういう系の荷物全部持ってくれてるし、かさばるだろうし。



 テントを無事畳み終わった後。
 コンパクトにしたのは結構褒められたんだぞ、ハッハッハ。
 けど、アヴェンさんのあのテキパキとした動きは凄かったなぁ。
 流石、ベテラン。仕事が違う。
 一番最初の紐を解いて、さーて取りかかろうかと俺がなっている内に、もう一辺が終わってたし。
 俺も負けじと頑張ったけど、結果は「もうそれで良いよ」と隣から俺のやる気を削ぐ声援しか出さないアヴェンさんが生まれるというものだった。

「さて、行こうか」
「…ですね」

 風の向きが変わったのか。
 まるで俺達が旅を再開する事を祝福するかのように、ゴウッと音を立てて風が舞い降りる。
 どちらも、お世辞にも短いとは言えない髪形のせいで風にあおられないよう押さえつけるようにして数瞬。
 凄く行く気満タンだったのに、タイミングが風のせいで乱れて、ちょっと息がグッと詰まった。

「……行こう」
「……です、ね」

 お互いに苦笑いをし合いつつも、足を動かし始めた。
 目指すは森の突破。
 そして、出来れば魔物の捕獲。
 処理。
 調理。
 食事。
 …あれ、途中からどんどんご飯の方に逸れて行ったような気が。
 まあ、俺にとって処理なんて一昨日来やがれどころか、去年に来たからね。
 ……諺だし二度使うけど、一昨日来やがれって感じだよ。
 今日からは、多分文字通りの自給自足になる筈だ。
 まあ、俺にはお母さんが余分に作ってくれた分があるから、まだ一日分くらいは余裕がある。

 さーて、魔物ってどんなのだろーなー?
 そんな期待が無意識に籠もっていたのか、意識していないのにどんどん歩幅が広がって行き、早歩きみたいになっていた。
 アヴェンさんを追い抜く勢いだった。


     ★


 森。
 俺にとっての初めての自然形態。
 前世でも森とは縁のなさそうな所に住んでたし、こんなジャングルみたいな感じの所はとても新鮮味がある。
 俺はあの無生物地帯とは違って、膝下位まで伸びる雑草に気を取られながらもズンズンと進んでいく。
 ガサガサ、と木々が揺れ、音が鳴る。

「アヴェンさーん、凄いですねー!」

 そんな事を言いながらも、サクサクと大股でその緑の中をアヴェンさんを置いていく感じで突き進んでいく。

「あ、おいっ」

 アヴェンさんが、追いかけてこようとする。
 ふむ、ここで俺が「捕まえて御覧なさーい」という感じで逃げ出せば、いろんな意味で間違いなく追いかけてくるだろうな。
 そんな変な想像をしていたら、辺りの空気が変わった。

「…はい?」

 誰に言うまでも無く、ただ理解が追い付かなかった。
 何かが、変わった。
 雰囲気、森の様子、その他諸々。
 色々と変な感じがした。
 けど、何がどうって言うのかは判らない。
 俺はその場で、ピタリと動けなくなった。

 そんな時、耳が大きく揺れた。
 ビクリと、それはもう逃避が全体的に引っ張られる感じで、ググッと顔の皮膚も一緒になって後ろに引っ張られる感じだった。
 ゾクリと、本来耳の動きではありえないような、そんな震え方をしたような感じだった。

 ガササササッ

 そして、凶兆の正体が。
 音だった。
 俺に理解が出来たのはそれだけ。
 俺がその音の方へ振り向くよりも早く、たった首を六十度ほど回転させるだけの動作よりも早く。
 かつて俺が狙った的と同じくらい離れた場所から、一瞬に距離を詰めた音。
 終始ガサササ、という雑草をかき分けるような、雑草に風が吹き付けているかのような音がなっていた。

「カッ―――――!?」
「ケイッ!?」

 その瞬間、もとい音が俺と接触した瞬間の事だった。
 俺は肺の中の空気が強引に吐きだされ、宙を舞っていた。
 目の前に映るのは、紐が千切れて飛んで行った短剣。それと驚愕の表情をしたアヴェンさんだった。
 暫く俺の視界が回転した後、思い切り背中を気にぶつけた。
 かなり、痛い。
 痛みで呼吸法が忘れるほどだった。

「ケイっ、大丈夫か!?」

 近づいてくる、アヴェンさん。
 何も無いような所で抜いたカタナを振り、振り切った刀身には赤い液体が付いていた。
 う、うわー。
 アヴェンさん、強いなー。
 薄れゆく意識の中、何を血迷ったのか、何故かそんな事を考えている俺だった。

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