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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

形白  ~ Relief in carnation

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三話 食糧喰々  ~ いきるためにたべます

 目が覚めた。
 永眠はしなかった。土壁の中から土生の魔物が這い出てきて、寝ている俺を丸呑み……そんな悲劇は起こらなかったようだ。
 俺は若干明るくなった洞窟の中、俺はのっそりと起き上がって足だけを台座から降ろした
 おし、まず最初に命の危機を乗り切った。
 固く握りしめた拳をぐっとしつつ、そんな事を思った。…だけ、なら良かったんだけど。
 避忌していたことが起こってしまった。
 そんなことを考えたその次の瞬間、俺の体が欲望のまま叫んだ。

 クゥ…

「……ぅ」

 …おなかの虫が鳴った。
 要は、お腹が空いたのだ。俺はそっとグッした方とは反対の腕をお腹の方に持っていく。
 俺は目の前にある握られた拳に額を乗せ、暫く項垂れていた。

 この場所は、完全なる密室。そして、その密室を構成するのは土だ。
 中には、不思議物質で構成された社。そして、同じく不思議物質で織られている布を纏った俺。
 ……それだけだ。
 雑草を食って、副作用に耐性をつけつつ生き永らえる。…そういった小説も何度か読んだことがある。
 けど、雑草どころか毒キノコすら生えていない。
 この場所はどうやら、俺の墓となりそうだ。

「うぅっ……」

 年相応! 年相応の反応だから!
 俺は自分で想像しておいて、目に涙を浮かべてしまった。
 光が無いのに、いったいどうして。けど、俺の顔は起きてから確認することが出来た。
 これは…、多分だけど社を構成する物質のお蔭だろう。
 そんな訳で、窓の向こう側に広がる夜景を眺めるような感覚に陥ってしまいそうな、そんな台座を眺めて見たのだ。
 この空間の光の含有量が寝る前より多かったのか、つやつやした台座に俺の顔が反射して見えた。
 …女の子みたいな、かわいい顔だった。
 俺はどうやら間違いなく、小さい子に転生したみたいだ。
 だから普通! この身体が幼いから、涙も簡単に出ちゃうの!

 さて、食糧をどうするか。
 この土を掘って、何か出てきたのを食べるのはどうだろうか?
 そんな訳で、俺は地面を掘り始めた。若干頭の中には食べれるモノ…と言うより、食べたくないけど食べるしかないモノのヴィジョンが浮かんでいたけど。例えば、ミミズとかとか。
 長い爪の隙間に土が溜まり、これ以上掘れば爪と肉の間に土が入りそうなところで一度掘るのを止めた。
 …と言うより、一区切りがついたという所だろうか。
 土の中より何かを掘り出したのだ。

「あぅぁっ……!」

 凄い。凄いぞっ。
 土の中より出現したのは、なんと発光体。それも、かなり明るいモノだった。
 青白い光を放つ、石ころ。
 もしかして土の中にこんな光源があったから、あまり関係なく土壁とかを理解できたんだろうかな。
 俺は光る石を眺めつつ、それをそっと持ち上げ社へ持って行った。

 台座と社に使われている不思議素材は、この石ころと比べるべくも無いけど、薄っすらと光を生成している。そんな訳で、取り敢えずこの発光石を持って行ってみる事にしたのだ。
 洞窟の中は、青白い光に当てられ不気味だったのが一気に神秘的に感じる事が出来た。
 さて、そんな事より社でありますよ。
 社の前に持って行くと、黒光りしている素材が青白い光を反射する。
 ……特に何も起こらなかった。

「……ぅ?」

 おかしいな、こういうのって大抵共鳴するかのように光る筈なんだけど。
 あるいは、何処かこういうのをはめ込む場所があるとか……。
 俺は社や台座の周りをぐるぐるとまわり始めた。
 でっぱり、凹凸などなどは良くあった。けど、はめ込めそうな所は何処にもない。

「……う、ぅ~………」

 結局何もなかったと解った後、俺はお腹がすいている事に気が付いた。
 うぅうっ…!
 …俺はもう一度、土を掘り始める事にした。



 ヤバい。
 俺はそんな事を思っていた。
 いや、思うなんてこと…殆ど出来てない。本能的に、そういう事を理解している……そういう事だろう。
 俺は、この世界に転生してから一度も食べ物にあり付けていない。
 俺は尋常でない空腹の中体を動かし、台座にもたれ掛る。

「ぅあっ……、うゅ~!」

 なけなしの声で、周りに知らせようとする。
 もちろん、周りに誰かいるかなんて知らないし、それどころか魔物の生息地の近くなら魔物が寄ってくる。
 俺はそんな思考能力も無ければ、ただ若干大きく出せるようになった声を無意味に出す事しかしていない。
 ヤバい。
 そういう事である。

 俺は、二度ほど寝た。俺の寝るまでの行動で一日が経過しているとするならば、二日以上経っているという事になる。
 俺は三日目からあまりの空腹に寝れていない。いわゆるオールだ、徹夜だ。
 けど、何となく分かったことがあった。あの不思議物質の発行する間隔だ。
 あれは多分俺の活動時間…つまりは昼間、若干の光を含みだす。
 ……けど、それがどうした。
 そんな事を理解したとしても、俺の今の単純な思考回路の中では今が一日の何時かを想像する事にすら使っていない。

「うぅ~、ぁう~……」

 無意識に、声を出していた。
 ヤバい。
 思考が退行してってるって事は、見たまんまのチビって事じゃん。
 フフ、あまりの空腹からか乾いた笑い声が口から洩れてくる。
 ここまで判断能力が落ちている今、もう狂人って言われても否定出来ないよ。
 あぁ、おナカスイタナ………。


     ★


「おーし、一旦切り上げるぞ~」
「「「「おー」」」」

 俺は、採掘に協力してもらっている奴ら全員に向かってそう言った。
 冒険者に、村の仲間。それぞれ体力に自信がある奴がここに集まっている。
 皆は大地を削る道具を空に仰いで、俺の言葉に返事をしていた。
 ……ふむ、体力は七割切ってるか。これ以上させるのは、明日からの効率が悪くなりそうだ。
 今日はこれで解散にした方が良いな。

 採掘に使用する道具に、採掘した発光石ライティング・ストーン。持ち物の確認は終了。
 皆の状態を“視”てみると、人に寄っては体力が半分くらいに回復している奴も居た。

「うし、ヴェンディ。お前は石、三割持て」
「な、なんでですか、ザグラッドさん?!」
「お前が一番回復が速い。俺も三割持つ。他の奴らは残りの半分を均等に分けて運べ!」

 目の前のひょろひょろとした、周りとは明らかに顔つきの違う黒髪の男に石の詰まった袋を押し付けた。
 こいつは変わり者。東の端からこんな西の端に、海を渡らず陸の上を渡り歩いてきたそうだ。そんな訳で、体力がついていたんだろう。
 ここにいる人数は俺を合わせて五人。
 俺とこの女みたいな名前のヴェンディが全体の六割を負担し、残り四割を他の奴らに持たせた。

「うし、そろそろ村に戻るか」
「ちょ、体力はありますけどっ、腕がっ……」
「男は黙って仕事を完遂しろ」
「………」

 こいつは体力は残っていたが、いかにも気だるそうに石を運び始めた。
 ……腰に下げてる“カタナ”は飾りかよ。
 そんな事を思いながら、山肌に沿うようにできている道を俺達は下りはじめた。


「……う~、ぅ」
「なんか言ったか?」
「何も言って無いですよ」

 おかしい。唸り声みたいなのが聞こえた気がするんだが。
 いや、今度ははっきりと聞こえた。
 女…いや、ガキの声だ。ガキが苦痛から洩らすような、悲痛な唸り声。
 どこだ、何処から聞こえる。
 俺は知らず知らずの内にキョロキョロとし始めていたらしい。
 周りが不思議そうに俺を見ていた。

「どうかしたか、ザグ」
「…む、苦しそうなガキの声が聞こえんだよ」

 さらに不思議そうな顔になるリッド。
 それはそうだろう。俺達が立っているのは、幅三メートルと無い山道。それに山の向かい側は崖。
 崖から吹き上げる風の音だと思ったんだろう。
 ガハハ、とリッドは笑いながら進んでいこうとした。
 けど、流石に奴も異変に気付いたようだった。
 崖に吹く風の唸りでは無い、そういう事に。

「確かに、変だな」
「え、風じゃないんですか?」
「馬鹿か! 山から風が吹き下ろしても無いのに、山側・・から風の唸りが聞こえる訳無いだろうが!」
「リッドさんも、最初馬鹿にしてたじゃないですか!?」

 右に山。左に崖。そう言った構図での、右側から聞こえる唸り声。
 別に、山から吹き下ろした風で唸りが聞こえないという事も無い筈だ。だが今俺達に右側、或いは上からの風は吹いて来ていない。
 なら。

「ぅ、うぅ~……!」

 この呻き声はなんだ。
 俺達は、山肌に耳を近づけて、山を下っていく事にした。

 ここだ。
 ここから、音が聞こえる。
 俺が立ち止った場所は、この山の中腹辺り。火口付近が良質な発光石を採れるからあまりここ等で立ち止まってはいなかった。
 だが、探知魔術を使ってみると俺達が今こうして立ち止まっているこの場所が、明らかにおかしい事を明確にさせた。

「“鑑定不可”、だと?」

 今まで、様々な事にこの干渉魔術を取り扱ってきた。
 俺の技量で鑑定できないモノは、この世に存在しない……そう言われるほどの実力があると自負していた。
 だが、この探知に引っ掛かった物質は何だ。
 まるで、干渉しにいった魔力を相殺している。そんな訳の分からない物質。

「おしお前ら。この岩肌、ぶち抜くぞ!」
「マジ? 俺サッサと帰りたいんだけど…」
「馬鹿が! この先に未知の鉱石が眠ってるかもしんねぇんだぞっ!」
「未知…。それは興味深いですね」

 音の正体を探すのには積極的だったリッドは明らかに面倒くさがり、帰りたがろうとしていた。
 だが、それに反し黒髪のは続けていった俺の言葉に興味を高めたようだった。
 へっ、ひょろひょろした奴だと思っていたが、中々男のロマンが解る奴じゃねえか。

「っし、取りかかれ!」
「おぉっ!」
「「「………おぉ」」」

 リッドと、その他二人も面倒くさがりながらも、“未知の物質”と言うものには興味があるようだ。
 ゆっくりとだが、岩を削る道具に手を伸ばしていた。



 後少し。
 物体に付いては解らないが、後少しでこの岩壁を崩せ、先にある空洞と俺達が踏みしめるこの場を繋ぐ事が出来るのだ。
 しっかりとした魔術が使える奴がここにいれば、むしろこんな事をせずに数十秒で山肌に穴を開ける事は容易い。
 だから、俺達は道具を使いやっているのだ。……何事にも代えられない達成感を得るために。
 そんな事を考えながら、大きく振り降ろした一撃。
 岩の壁にしては、随分と反動が小さかった。

「つ、繋がった…」
「な、何があるんだ?」

 いつの間にか、やる気を出していたウィゼにホルワ。真っ先に貫通したことを察知した。
 俺は焦る気持ちを抑え、繋がった穴に沿って広げるように掘り進めた。
 徐々に、空洞の中へ日の光が注ぎ込んで中を照らし始める。

「何だアレ、魔鉱石…か?」

 光を反射させ、淡く輝く黒い物体。
 物体自体は黒いのに、何故か光を透き通すかのように淡く感じる。
 何かの建物にも見える。
 建物に、目が釘付けになっていて、この空洞の異質さに気が付いていなかった。

「な、何だよコレ…」

 かつて、伝説の書を読んだ時に見た事のある紋様。
 それが、壁一面に描かれていた。
 それは眼にも見え、不気味さが半端では無い。
 ここは伝承を紐解く特別な場所、なのか……?
 そんな事を考えていると、奇襲が掛かった。

「ぅ、ぅあぁぅっ!」
「おわっ」

 完全に気が付かなかった。
 鑑定が不可だった建造物の中から、何かが飛び出し俺に襲いかかってきた。
 尋常でない様子の、ガキだ。指は土に塗れ、爪も割れていた。
 あの不気味な紋様は、こいつが描いてたってのか……?
 けど、そんな事を考えていた時、ふとガキを視た。
 そして、俺の魔力はガキに干渉し終え、その結果が目の前に表示された。

「っ!?」
「うぅぅぁあっ」

 こりゃあ、トンデモねぇもん……掘り当てちまったみたいだな。
 だが、こいつは何が何だか解って無いよう。
 取り敢えず暴れ、俺に噛み付こうとしている。
 口からは、尋常でない量の唾液。そして、獲物を見るかのような動物の目。
 なるほど。
 その瞬間、俺はガキの攻撃を避けずに喰らった。

「ぐゅ、ぅっ……、はぅぅ…、んむぅっ」
「ぐぁっ……」
「ザグっ!?」
「落ち着け、多分これは……」

 こいつは、俺の腕に噛み付いた。
 そして、暫く骨をしゃぶる様に傷口を抉るように、何度も何度も歯を動かしていた。
 目の前の犬みたいなガキは、暫く俺の血を啜っていた。
 やっぱり、か。

「……腹が減って、食いモンに見境が無くなってるだけだ」
「…ぅあ、ぁ、うぁ……」

 俺は自慢じゃ無いが、それなりに筋力はある。
 その為、食料品も俺が持っていたりした。このガキは見た通り(・・・・・)鼻が効くんだろう。…そして、真っ先に俺に襲いかかった。
 仲間にこいつの事を簡単に説明する事には、ガキの口の動きは収まり、真面に喋った事が無いのか赤子のような声を出し、泣き出した。
 よっぽど腹が減っていたのか、それとも何か別の理由か。
 食い足りないのか、そう思い腕をガキが噛み付きやすいよう口の前に持って行く。
 これくらいの傷、俺のかみさんとシスターに任せばどうとでもなる。
 だが、俺の怪我を見たガキは食おうとしているのか、舌を伸ばしぺろぺろと傷口を弄った後、再び泣き出した。

「うゅ、ぅ、う、うぇぇぇぇんっ!」
「……ひとまず、一安心って所か…」

 今のこのガキは、俺に食らいつくのを躊躇い、その上で泣いた。
 人と食いモンの差はちゃんと解っているみたいだ。
 けど、あまりの空腹で我を忘れ、喰らい付いちまったって所か……。
 俺は、何とか無かった事にしようとしているのか、傷口を必死に舐めているガキの頭をそっと撫でつけた。

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