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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

戯函  ~ Bumpy road

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二十九話 冬気浸透  ~ とてもおどろきました

冬の日常回。
一瞬で季節は秋から冬へ。
 冬。
 秋の季節には王都への呼び出しが喰らったりと何かと事件があったので、いつの間にかこの季節に突入してしまっていた。
 冬は嫌いだったはずなんだけどなー。
 “狼”人なだけあって、寒さには強いのかも知れない。
 そんな訳で、今までとは違ってとんでもなく日が短くなってしまった今日この頃。
 朝のいつもならとっくに陽に満ち始める時にはまだ群青色の空が広がっていて、夕食の準備を始める夕方にはすっかり夜空が浮かんでいるこの季節。
 大事件は起こった。


     ★


 それは何て事無い朝の一幕。
 寒くて布団から出たくないとかの寝起きの悪さも無く、すんなりと迎える肌寒い朝。
 季節的には、まだ秋に近かったかもしれない。
 そんな朝の事だった。

「ふぁあ……あふ」

 大きな欠伸をして、口が大きく開く。
 よく寝たー、とか考えていた時のことだった。

 耳の外側が自然と伸びて、ピコピコと動く。
 尻尾もながい間同じ体勢でいたのか、ピーンと伸びて毛も立っていた。
 俺が掛け声をして、起き上がった後何気なしに俺の寝ていた寝床を覗き込んだ。
 すると。

「うわぁぁぁぁっ!!?」

 とんでもない悲鳴が上がりました。
 もう何処から出したのか判らないくらい、喉がヒリヒリとするぐらい大きな声が出たのだけは分かった。

 あまりの事に……いや、あまりのショックで気を失ってしまったのか、お母さんに膝枕されている状態で気が付いた。
 ああ、お母さんの胸って大きいなぁ。視界のほとんどを胸で隠されているじゃないか。
 そんな事を考えつつも虚ろな目をしばたかせていたら、お母さんが心配そうな視線をこっちに向けてきた。

「大丈夫? 何か怖い夢でも見た?」

 綺麗な唇がゆっくりと動いて、俺がまだ寝ぼけているのか心配なのか優しく語りかけてきた。
 ……いや、怖い夢見たんなら叫ぶだろうけど、再び寝たり気絶したりはしないと思うんだよ。
 お母さんの発言に苦笑いしつつも、気絶する寸前に見た光景は俺の眼にしっかりと焼き付いている。
 俺はそれはもう、怪談を語るムードで、恐ろしい話を語るような雰囲気で、怖い話を喋るようにおどろおどろしい口調で話し始めることにした。

「……、脱毛ぅ、してまし、た」

 思ったよりも、ショックだったらしい。
 おどろおどろしい雰囲気なんて出ずに、泣き出す前みたいに舌足らずな喋り方になっていた。
 それに思い出すたびに背筋がぞわっとなって、もしかすると本当に泣いてしまっていたのかも知れない。

「……毛がっ、抜けてたんですぅっ!!」

 キョトンとしているお母さんに、もっとわかりやすく喋ろうとしたら今度は感情が乗り過ぎてしまっていた。
 叫び声を出した時と同じ感じで喉から漏れ出してくる、悲鳴のような絶叫のような。
 お母さんの膝から頭を放し、勢いよく立ちあがって口を開く。
 取り敢えず、もっと判りやすく、俺の見たままの事をお母さんに話した。

「………はい?」

 キョトンとしていた目はさらに大きく見開かれ、勢いよく立ちあがった俺の顔を珍しそうに眺めていた。
 口も優しい微笑みがちょっと滑稽に見えてしまう程、唇に微妙な隙間が生まれてしまっている。……言い方を変えるなら、引き攣った微笑みをしていたって感じかな。
 ピクピクと、締りの悪い口をヒクつかせながら、大きく開いた目を結構な頻度で瞬かせる。
 何度見ても月見てるみたいで綺麗だなー……、とかお母さんの眼を凝視してしまったのは置いておこう。
 俺は事の重大さにお母さんが分かって無いのか、もう一度大きく口を開いて何度でも説明してやろうかと考えた。
 すると。

「……………クッ、クハハハハハハッ!」

 隣に控えて、俺とお母さんのやり取りを見ていたお父さんが突然腹を抱えて笑い出した。
 訳が解らないよ。
 何がツボにはまったのか、涙を浮かべ泣き叫ぶように、「ハハハッ」と壊れたみたいに笑い続けるお父さん。
 腹を押さえながら、地面を転げまわるように笑う。
 お父さんが伊達に良い身体した男の人だから、今の言動はかなり狂気じみている。
 というか、ウルサイ。

「何なんですかぁ……」

 泣きたいのはこっちだよ!
 主に、こんな小さいのに禿げが始まってしまったのかと思うと。



 …………………。

「モ、モチロン、シッテマシタヨ? オカアサンヲ、オドロカセタカッタダケデスノヨ?」
「ごまかしが下手過ぎる」
「……はあ。学院に通わせるのは、逆に可愛そうなのかしら」

 可哀相ってなんだよっ!?
 何だよもー、何だよもー。
 みんなして俺を苛めるなんて、俺は本当に何も知らないんだからねっ!
 ………と言う、現実逃避と自己肯定を同時にするのはほどほどにしておいてと。
 俺は必死に眼を逸らすのを諦め、まっすぐにお父さんの眼を見た。
 ……恥ずかしいから、やっぱり逸らしとこう。
 再びサッと横を向くことにした。

「いや、あのな。自分でも尻尾触って確認してみろよ……」

 横に向いたことで僅かに視界に入る、忙しなくばっさばっさと跳ねまわっている尻尾。
 俺は頑張ってコントロールして抑え込んだ尻尾に指を絡ませて、触ってみる事にした。
 毛の減りは感じられない。
 やっぱり抜けたのは、髪の毛なんじゃっ!?
 ……そんな冗談はさておき、もう少しモフモフと触ってみる。
 今までとは違い、モフモフ度が格段に上がっている。
 ただの狼狽から生まれる毛の逆立ちと判断するには、少しおかしいと感じるくらい毛の中に掌が沈む沈む。
 ………………。
 ふう。

 俺は前方に顔を戻し、今度は狼狽えるなんて馬鹿なことはせずにしっかりと表情を作る。
 いつかサーラさんに教えてもらった、笑顔。
 口角を指で押し上げるかのように、やんわりと上げるだけの「ニコッ」とした微笑みの表情。
 尻尾の動きにも注意して、機嫌が良い時のように上に向かせた尻尾を左右にフリフリと振る。
 腰も引っ張られて動きそうになるのを押さえながら、尻尾だけをご機嫌な状態に振る。
 そして余った手は両の掌をそっと合わせて、片方の顎の輪郭に沿わせるようにして顔の横に持ってくる。
 そして。

「気のせいです♪」

 出来る限り、上機嫌を繕ってそう答えてやった。
 お父さんお母さんが固まる。
 ふふん、俺のあまりの気迫に恐れおののいているんだろう……、と思う事にする。
 「何こいつ、いきなり笑いやがって」と思われかもなんて、取り敢えず考えないことにした。
 お父さんたちが直立不動の間に、心の中で何度も繰り返してマインドコントロールを施そうとし始める。
 ある訳無いよ。…うん、ある訳無い。
 お父さんの言う事なんてある訳無い。
 たとえ、日ごろ「歩く電子辞書」なんて心の中で呼んでいるお父さんの事でも、これだけは都合のいい勘違いなんだよ、きっと。
 俺は古狼だとかの特別種って言う可能性もあるんだし、例外だってあるんだよきっと。
 他獣人も皆そうらしいけど、俺は特別なんだって。

 俺が暫くマインドコントロールをしようと、ずっとさっきの表情のままでお父さんたちと同じように直立不動していると、お父さんが動き出した。
 ちっ、まだ記憶の改竄が済んで無いのに。

「……いやいやっ! ケイは換毛期に入ったんだよっ!」
「いやぁぁぁぁっ!?」

 そして、お父さんは包容力のある恰好良い声で、非情な現実を俺に叩き付けた。
 どうやら俺ッテ、毛が生え変わっただけだったらしいんダヨ。
 信じたくないって感じで、女の子女の子した黄色い悲鳴を出していた。



 後日、クレームが来ましたとさ。


     ★


 これが、冬に起こった「ケイ絶叫事件」の全貌ですね。
 アッハッハ。……ハァ。
 とまあ、尻尾とか耳とかのボリュームが冬に入ってアップしたのですよ。
 外見にして、結構な感じで。
 詳細には、指の第一関節くらいの長さが今までのボリュームに追加されました。
 他の全身には体毛すらないのに、体毛してから全くと言っていいほど寒さを感じなくなったんですよ。
 凄い。

「モフモフ」

 柔らかさは、前のモノと比にならないくらいモフッとしている。
 なんてったって、本人がモフッても思わず「モフモフ」と呟きたくなるくらいだから。
 俺は手櫛をしながらも、膝の上に回してきた一回りほど大きくなった尻尾を揉みしだいていた。
 一回り大きくなっても全体的に大きくなってしまっているから、俺の小さな膝には収まりきらなくなっている。
 どうしようかねー。
 どうにかできる事でも無いけど、眼の前の毛玉を眺めながらもそんな事を思っていた。

「ケイー、ちょっとこっち来なさいー!」
「はーいっ!」

 縁側でのんびりしていると、家の中からお母さんの声が聞こえてきた。
 俺はお母さんと同じくらいの声で返事をしつつ、立ち上がり……。

「………お母さん、何処ですかー!?」

 一度停止した足を再び動かし、お母さんを探し始めた。
 探し始めたと言っても、殆ど場所なんて限れてる。
 多分、部屋とかだと思うのでテコテコと歩いてすぐに部屋の前に立った。
 この部屋の扉が開いている所は見た事が無いけど、良くお母さんが出入りするから多分お母さんの部屋で合ってる。
 そんな訳で、ガチャリと。

「あれ、真っ暗」

 お母さんは居なかった。
 というより、闇のようで真っ暗。明り一つない。
 何だっけ、光の通らない霊安室だったかみたいに暗い。
 キョロキョロと見渡すと、なんか色々物が並んでいる。
 本当は家の中に差し込んでいる陽の光すら届かずに、完全なる真っ暗。
 けど、俺の狼ズ・アイにとっては何の問題も無い。
 wolf's eyeだっけ。一年近く英語の文字列に触れてないから段々と忘れてきてる…。

「………?」

 前世(むかし)の事を思い出しながらも、一歩その部屋に足を踏み入れて辺りを見渡すとおかしな物を見つけた。
 何か布のような、……良く解らない。
 尻尾の揺れがぴたりと止まって、動きがとたんに慎重になる。
 まあ、お母さんが危険なものを持ってる訳が無いし、何と無くの気分だ。
 手をぶらりと前に突き出して、つま先立ちになった。
 そして、ゆっくりと、ゆっくりと。

「……ふ、く?」

 ピラピラしたものはやっぱり布で、その布を縫い合わせて作られた服。
 お母さんが作った服の収納スペースだったのかな?
 そんな事を思いつつも、ハンガーに吊るされクローゼットにしまわれているような状態の服達をチラリと流し見しつ―――

「………」

 つ、ゆっくりと、さっきとは違う理由で音を立てずに一目散に忍び足で部屋の入り口に向かうことにした。
 忍び足で動いているせいか、とても遠く感じられる。
 この部屋には、時計が設置されているみたい。コチコチと時計の作動音が聞こえてくる。
 本来一定周期に起こる音の筈だけど、こんな時に限ってとても遅く聞こえた。
 その音以外静かなので、音が聞こえる度にビクビクと動く。
 くう、さっさと出ないと……。
 噂をすれば影が射すと言うし、この先を思うだけでも想像してしまうと本当の事になってしまいそう。
 そんな訳で、もう音なんか気にせずに思いっきり駆け出した。

 ガシャンッ

「カャ―――――――ッ?!!」

 思わず奇声が出そうになって、寸前に口を押えた。
 けど、この真っ暗な空間に俺の尻尾に当たり倒れた服の棚から発せられた音が響く。
 それは、もう完全に。

「…ケイ?」

 この洞穴に巣食うオニを呼び寄せるにはもってこいの音だった。
 何事かとばかりにすっ飛んできた、お母さん。
 あまり光が来ないと思っていたけど、ここから見たら充分に光が射していたみたいだ。
 お母さんの角に反射して、不気味な光を放っていた。
 そして、それ以上に妖しく光っているお母さんの眼。

「へえ……、見ちゃったん、だ」

 もう、それはにっこりと言えるほどでも無く。
 満面の笑みと言えるようなもので、お母さんの顔に掛かる光も相成って美しい光景。
 初心な男の人ならともかく、世のほとんどの男の人が見ていたなら卒倒していたかも知れないくらいの光景。
 俺は、ちょっと綺麗だな…とは思ったけど、それは何度も言うけどちょっと。
 「見ちゃった」と、変な所で区切りながらも、スローモーションに動いていくお母さんの口。
 妖艶な唇が開くと、少し尖った肉食獣を彷彿とさせるような歯がチラチラと見え隠れする。

 じり、と俺は足に力を入れた。
 これぞ、日ごろの訓練の発揮時だとばかりに、頭の中にイメージを浮かべもする。
 俺の他称、「常人離れの魔力」を持ってすれば、干渉系の“肉体強化”は出来ずとも何か足掻けるはず。
 そんな確かな希望を込めて、俺はこの魔窟から脱出すべく行動を開始した。

「ち、近寄らないで下さいっ! さもなくば、この少女趣味の服(ロリータファッション)に火を灯しますよっ!」

 行動、というか何というか。
 お母さんにこの狭い空間で真っ向勝負に出ることも無く、真っ先に出た卑劣な戦闘手段。
 この部屋の、恐らくは、お…俺に着せようとして、用意したと考えられる、かなり、その……。
 俺は軽率な判断じゃないという事を、手に『僅火エンバー』とかつて暴発させた『火炎ファイア』の中間みたいなのを召喚して示す。
 日が灯った事で、この部屋全体に光が行きわたって、照らされる。

「この、フリフリたっぷりの服が目に入らぬかぁ……!」

 そこには、フ…フリル…が、たっぷり、あしらわれた、服。
 そんなのが、大量にあった。
 俺はそんなのを着せられている事を頭に浮かべて、もう泣きそう。
 あ、目から汗が滴った。頬にポツリと液体が落ちた。
 もう自分でさえ何を言っているのか判らなかった。

「なな何でですかっ! おわたしにこんなのののが、似合う筈にゃ…にゃかろうがですかぁ!!」

 手も尻尾もブンブンと振って、訳が判らないまま暴れ始めている。
 服にチラチラと火が当たってしまっていた。
 それは俺がヒラヒラと呼んでいた部分がどっぷりとオレンジ色の明かりに浸かってしまう程。
 ピタリと、暴れるのが止まる。
 けど、俺のみ開かれた目は全く焦げてもいない服だけが映った。

「……燃やそうとしたんだし、お仕置きは…必要、よね?」
「ぴ」

 さっき以上のお母さんの微笑みが網膜に焼き付いた後、俺にとっては地獄、お母さんにとっては天国な時間が暫く続く。


 んー、ざっと半日、かな?
 試着数は数えてないけど、数十着はしているような。

「ねえケイ、次これ着てみよっか?」
「ワカッター」

 もう涙が枯れて出ませんでした、まる。

 お母さんを怒らせたら、コワイ。
 いくら嫌でも、我慢も必要だという事が判りました。



 服は大切にねっ!

獣耳っ娘って、換毛期ってあるんでしょうかね?
…この世界ではありました。

まあざっと冬に入ってから一回、夏に一回ですかね?
ケイ誕生時は夏毛だった、という事で……お願いします。


さて、オリベーンさんの服もちょろっと出てきました。
「燃えない」というシーンがありましたが、素材はまだ秘密。
『魔力を練って』では無いので、そこはご注意です。
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