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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

形白  ~ Relief in carnation

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二十四話 遭遇群像  ~ きかくがいでしょうか

 スケイルワーム。
 ワームの中でも、硬質な皮膚或いは鎧のような鱗を備えた魔物に名付けられる名称だ。
 元がミミズのような生物であるが故に、ソレら特有の不気味さを備えた巨な体躯。
 肉体が犯され、精神が崩壊した魔物と呼ばれる生物と化してしまった、元ミミズ。
 辛うじて、手足の無いのっぺりとした筒状の全長からソレであったという事が想像つくような外見で、鱗がびっしりと表皮に弧べり付いているはまさに“異様”だ。

 突如、ケイ一向に襲い掛かってきたスケイルワームは、そんな大蛇のような身体を伸ばし襲いかかってきた。
 ただ大きな身体にそぐう口を精いっぱいに開けての頭突きに近い攻撃なのだが、標的になっているのがワームの口径よりはるかに小さい人間。
 喰らえば一たまりも無いだろう。

「ほにょあっ!?」
「こ、これはっ!」
「これが、“無詠唱”ですか……ッ」

 だが、声は聞こえるもののワームの口が激突した場所には土しかなかった。
 いや、ただの土と云う訳ではない。これほど地響きが聞こえる衝突であったものの、地面が凹んでいない。
 つまるところ、ワームの攻撃は硬質化した土に阻まれたのだ。
 標的を仕留め損ねたのに苛立っているのか、中々地面に戻らず鎌首をもたげゆらゆらと揺れるワーム。外見上は全く違い不気味なことこの上ないが、そのさまは敵を狙い定める蛇のようだ。

 一方、硬質化した土に守られたケイ達。
 ケイは少し……いや、ワームの攻撃を食らう直前に発した奇声の通りかなり動転していた。
 尻尾や耳を覆う体毛が逆立てさせ、尾は踊り狂っているかのように跳ね回っている。
 だが、その驚愕していることにすら本人は気が付いていないらしく、目を大きく見開いたままであった。
 …目の前に唐突として出現した土壁を注視すること、暫く。
 やっと自身を含むこちら側へ魔物が攻撃を仕掛けてきたという事実を認識できた。

「にゃにゃにゃにゃ、にゃいがっ!?」
「落ち着け、猫みたいになってんぞ」

 だが舌は、空回りどころか真面に動いていおらず、まだ現状を察知していないらしい。
 魔物が襲ってきたという事は頭で理解していても口にそれを出す事が出来ず、戸惑いのまま口からは要領の得ない悲鳴のような発言だけが飛び出す。
 毛並や尾の形から猫種の獣人…猫人ワーキャットでない事は判るが、猫の鳴き声「にゃー」を連呼した為にケイの身体を抱えるザグラッドから突っ込みが入った。

(………よよーし、落ち着こう。こういう時は深呼吸、だ)

 ザグラッドの冷静な突込みで現実に引き戻されたのか、ケイは何度か深呼吸をできるだけ静かにする。……もちろん、さきの取り乱しをごまかすための咳も時に交えながら。
 何往復か、呼吸音が聞こえた後。ケイは周りを見回し、現状を確認した。

「……何故に、土壁が?」

 ザグラッドに抱かれていることや、見覚えのある馭者が地に伏していること、目の向くものはそれ以外にもあるが土壁。
 本来、未発達な少女であれ女性であるならば少なからずの羞恥心が湧くはずの位置にあるザグラッドの腕にも気が付かず、土壁。
 ケイは目の前の突然に表れた土壁にしか、興味が向いていなかった。
 その光景が転生し初めて見た光景に似ていたからもあるかも知れないが。

 ノウルガード。
 土壁の正体が、そういう名称の魔術だった。
 分類は現象+干渉。魔術と呼ばれる中でもそう少なくない“普通”の魔術だ。
 大地に魔力を流し込み疑似的に地面を自分の領域として、地面を抉り窪みを作りその上から流し込んだ魔力で操った土をドーム状に固めるという魔術。

「これほどの強度の物を、無詠唱で一瞬……」

 女騎士が壁の陰に隠れるようにくぐもった声で呟いていると、再び地響きが鳴った。
 ワームが再度頭突きをしたのだろう。
 魔術によって生み出された土によって砂が固着しているのか、この狭い空間にはかなり大きな振動は伝わって来るものの、砂埃一つ上がらない。
 女騎士はずっと護られている事が癪だったのか、それともこのままでは不味いと思ったのか、体勢を立て直し腰に添えられた剣の柄に触れた。

「ザグラッド様、不肖だとは承知ですが私を外に出しては貰えないでしょうか?」

(元“最強”のザグラッド様と言えど、任せきりと言うのはやはり性に合わないな)

 ザグラッドに目配せをし、自分の存在を主張する。
 彼女とて、身の丈と言う物は判っている。冒険者となれば瞬く間に一人前以上のランクになる事が出来るほどの実力は持ち合わせているが、それでもこの障壁を作ったザグラッド程では無い。
 だか、それでもザグラッドの勇姿を眺めるのではなく、自分が動きたい。
 軽く見ただけでも荒く昂ぶっていると理解できるほどだったのか、溜め息をつきながらも一か所の土壁が薄くなってくる。
 冑の中で戦人の眼を爛々と輝かせながら、ワームの待ち構える地上へと女騎士は躍り出た。
 恐らく、彼女の事は俗にこう呼ぶのだろう。

 戦闘狂バトルジャンキー、と。


     ★


 私は、全く持って不幸である。
 真面目だけが取り柄で、馬車乗りとなって各地を転々としていた。
 冒険者に護衛依頼を出す事もあるが、その逆……冒険者が客となり馬車に乗りこんでくることもあった。
 収益は殆ど無だ。だが、私はこの仕事が好きで、むしろ収入は二の次だった。

 少し前、引き抜きにあった。
 それは王の客などの重鎮を運ぶ馭者を探していたのだと言う。
 馭者とは、馬の状態を見、尚且つ周囲にも目配せしていく、観察力のいる仕事だ。
 そのため、馭者が裏切り……敵側に付いていると、宜しくない。
 なので、真面目だけが取り柄の私が選ばれてしまった。
 もちろん私は断る気だったし、想像通り金に物言わせる取引だったのでそれもすっぱりと断った。
 私は私のやりたい事だけやりたいのだ。
 ……だが、こうして元宮廷鑑定士であり『最強』を冠したザグラッド様を王の客として運ぶ仕事をする事になった。
 ……要は、仕事を断りきれなかったのだ。
 私の今の職業は、宮廷付の馭者……と言う所だろうか。


 現在、土の下に押し込められているような感覚がする。
 事実、私が最後に目をしたのは襲い掛かるワームから私……いや。私達を護るように地面の土が盛り上がってくると言う現象だった。
 その後の衝撃で、この通り地面に頭がめり込んでしまった。このような状況で無ければ、笑いの中心となっていただろう。
 高度な魔術のようで、硬度が私の知る魔術とは飛びぬけていた。

「これほどの強度の物を、無詠唱で一瞬……」

 傍から声が聞こえた。
 女のような、だが良く通った力強い張りがあるため、中性的なイメージを持たせる……そんな声。
 声色からして、馬車の中から聞こえていた鎧の人だろう。
 鎧と言っても、私の知る警備隊のような動きづらそうな外見では無く、防御力を失わない程度に軽量化を図ったようなフォルム。
 だが肝心の体型がいまいち不明瞭で判らず、結局声の質から女騎士であろう……事しか判断できない。
 そして、その女騎士が漏らした言葉。

「むふぇいほう、……がほっ、ペッ!」

 顔面から土に飛び込んだようなあって、口の中いっぱいに土が入っていた。
 吐きだしても口内のザラザラは収まらず、けれどそれ以上に頭の中には先ほどの事実だけが繰り返される。
 確かに、無詠唱だった。
 口ぶりから察するに、ザグラッド様の子息であられる狼人ワーウルフ…あるいは犬人ワードッグの子ども。彼女を抱きかかえ、私を範囲サークルへ引きずり込み、一瞬で術は発動していた。

「これが、最強……」

 しばらくザグラッド様の所業に感服と言えばいいのか、放心していると女騎士が立ち上がった。
 立ち上がる程の空間は無いものの、出来る限り体制を整えスッとした構えになっている。
 そして手には、淡く光っている片手振りの両刃剣が。

「ま、まさか……」

 耳にも土が詰まっていたのか定かではないが、女騎士がザグラッド様に何かを言っていたのだが聞き取ることは出来なかった。
 だが、今地上へ行く様。
 一瞬開いた土の壁の隙間から漏れる光に照らされた、手元の一振りの剣。
 そして、壁が閉じる寸前に聞こえた独特な詠唱。

 私は再び影に覆われたこの空間で、一人の人物を記憶の底から引きずり出していた。


     ★


 ケイら、地面に潜るようにして隠れている三人は騎士の少し後に地面から這い出た。
 空気が足りず息がしづらくなったからもあるが、単純に騎士が心配になったという理由からだった。

「ザグさん、これは夢でしょうか?」
「いや、現実逃避する以前に日常茶飯事だぞコレとは」

 妙な感情が混じれば即座に動き出すはずの獣人の耳も尻尾も反応せず、ただ感情の籠らない呟きにも似た抑揚のない声がケイの口から発せられる。
 ケイが見ていたのは、一足早く地上の空気を吸っていた女騎士とワームの攻防……いや、一方的な蹂躙だった。
 対して、ザグラッドは顔色一つ変えずケイの隣でその光景を眺める。
 ザグラッドはあまりの衝撃から現実逃避しているケイにあきれの混じった溜息を吐きつつも、諭す。
 確かに、モンスターのランク上あまり渡り合える者はいないが、渡り合える者であるならばこのような光景になるのが普通である。
 ……そういうように。

「こんなのが、あちこちで……」

 だが、ワーム限定のはずが“日常茶飯事”の部分が無意識に強調されたおかげで、世界のあちこちでこれほどの戦いが行われていると思ってしまっていたケイだった。


 ワームの巨体から繰り出される頭突きで地面は凹み、変則的な地響きが辺りに広がる。
 そんな大地の形が変わり動きづらい中、日に照らされかがやいている鎧を纏った騎士が駆けていた。

「“其は閃影にして閃光―――」

 ケイ達のいる場所からは聞き取れないが、その詠唱を始めた瞬間明らかに場の空気が変わる。
 研ぎ澄まされた鎧の照り返しに負けじと輝き始めた、騎士が持つ剣の刀身。
 ワームは先ほどまでの攻防でよほど激昂していたのか、騎士が速度を緩めゆっくりと歩きだしたのを好機と見て奇妙な光景には目もくれなかった。

「“澄みし光は刃が如く、磨いだ刃は光の如し―――」

 周囲の光を集め出したかのように、光を纏い始める剣。だが、そのうち刀身に引き寄せられ刃の輝きを一層高める。
 先ほど鳴っていた地響きと間違えてしまいそうな、腹を揺さぶる唸り声を上げながら、ワームが徐々に距離を詰めていた。
 騎士はその光景を見てもさして驚くことなく、詠唱を続ける。

「“満たす光は、邪を見定め―――」

 ほんの少し、剣が動く。

「“そらを駆け抜き、穿ちたまえッ!”」

 詠唱は終わった。
 騎士の持つ剣は光を放つだけでは収まらず、周囲に白いオーラをちりばめ始めている。
 ユラリ、と刃を傾ければオーラは広がりいっそう白さが増す。
 そんな白と輝きの中心にいる騎士は、魔術……いや、“剣技”発動の引き金を引いた。

閃線ラディウスッ!!」

 自身を鼓舞するためか、大きく息を吸って出した声。
 そして、地平線に伸びる光の線が一瞬、空間に引かれた。
 魔力に満ちた刀身を振り切り、斬撃を飛ばすという戦闘手段にも似ているが規模が違いすぎる。
 地を掠めるように低い所で、横から騎士に噛み付こうとしていたのか大きく口を広げて進んできていたワーム。……だが、もう動きは無い。
 その身体はまるで斧を振りおろした後の薪のように綺麗に裂け、光の線が触れた部位が完全に分断されている。

「…こんなものか」

 フッと息が漏れる。
 顔が覆われているので確認は出来ないが、冑の下は微笑していた。
 だが、その微笑みは次第に無くなり無表情…ではなく、少し物悲しいような顔をした。
 彼女は振り切った剣を下に降ろす。

(やはり、この力は手に余るな……)

 輝きを失った剣を眺め、鞘にその刀身を収めた。
 やはり、圧倒的な力でねじ伏せるよりかは、一進一退の攻防戦の方が心躍る。
 此度の戦闘で、改めて実感する自分の性格。
 先ほどの勝利の時洩らした息とは違い、苦笑を浮かべながらの溜息をつく。

「私は、どこまでも規格外なようだ…」

 悲しみを含んだ言葉を誰にも悟られることなく呟き、皆の集まる場所へと足を向けた。


     ★


 ……ん~、ああー。…うん。
 奥歯がかみ合わないと言えばいいのか、それとももどかしい何かがあるのか。
 ……深く考えようにも、考えることが思いつかない~みたいな不思議な感じに包まれる。

「あんなのが、普通……っ!」
「いや、……最後の止めはさすがに」
「凄いですねー、うん……凄い」

 あんなBIGなモンスターを瞬殺できるビーム出せるのが、普通と来ましたか。
 ザグさんが何かを言った気がするけど、思考が混濁している中耳から入ってくる情報まで処理することは出来なかった。
 つまり、何か言ったかは分かったけど、内容は判らない。『右から左に~』って奴。
 取り敢えず、今見た俺の想像をはるかに超えるモンスターとの戦いの感想を、適当に「凄い」とでっち上げた後、ザグさんの方を向いた。
 しばらく待ったけど、ザグさんの口は開かない。
 俺が痺れを来たして、首をかっくりと横に傾けるとようやく口が開く。

「どした、ケイ」
「何か言いましたか?」
「……まあ良いか、何も無い」

 ザグさんは何かを迷ったように頬をポリポリと掻いた後、そう答えた。
 要領の得ない解答だねーとも思ったけど、言わなくても問題ないことだとザグさんが判断したんだし、俺が何度も聞き返すような事でも無いんだろう。
 しばらく眺めていると、点のように小さかった騎士サンが戻ってきた。

「恐れ入ったぜ」
「いえ、ザグラッド様には遠く及びません」

 すれ違う時、何か言い合っていたようだけど、ザグさんは笑っていたし、騎士サンの方もあまり深いそうな声色じゃなかった。
 皮肉の言い合いではなかったみたい。




「さて、一番問題のある魔物を討伐してしまったので、今後の道のりは楽になるでしょう」
「いやっ……はい、今後は平地が続きます。この調子で進めば、夕刻までには予定の宿場には到着できる……と思います」

 あー、壮絶な光景ですっかり忘れてたけど。
 俺、身体持つかな……。
 先の不安が、頭の中に浮かんだ。
 馭者っていう人の不安がる視線の原因は、俺の超が付くほどの酔い易さだろうな~…と思いながらトボトボと奇跡的に無傷だった馬車に向かって歩き始めた。
+注意+
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