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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

形白  ~ Relief in carnation

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十八話 転変低迷  ~ みとめたくないですが

 思考退行。
 俺は明らかにそうだ。
 何と無く、思考能力が変わってきているのも解っていたし。
 これも、ソレの一環なんだろう。
 ……けど、今はそれはそれとして。



「風邪、よねぇ……」
「アフゥ~」

 俺は風邪を引いた。
 ……いや、前世の記憶を持っている俺には判るぞっ!
 ………知恵熱だっ!
 昨日に初めてのトイレの事を思い出したから、ちょっと恰好つけていろいろ考察を入れてみたのが失敗だった。


     ★


 風邪、というか熱。
 あんまし考えるとまた熱が出てしまうだろうけど、どうしてリベさんに熱があると知られたか教えてやろう。フフンッ。
 別に威張る事でも無いけど。

 あれはまだ俺が寝ぼけていた時。
 何かの気紛れか、ふと朝早く目が覚めたのでちょっとリベさんとザグさんの寝室を覗きに行ったのだ。
 俺の部屋は二階で階段を降りずに、一回で言う所の暖炉側にいけば二人の寝室がある。
 俺は抜き足差し足で忍び寄っていたんだ。
 それが、まさかあんな事になるなんて……。

 俺は何かフラフラするなーと思っていた。
 寝ぼけていたから、それもまた寝ぼけていたからだと決めつけて、どうせなら寝ぼけてたから…という理由を付けてザグさんたちの寝床に飛び込んでも面白いかもしれない。
 そんな事を考えていて、いざ寝室っ!
 けど、入った瞬間に結構大き目な目まいがした。
 そんな訳で、忍び寄っていたベットにポフリッ。………と言う訳にはいかなかった。

 ガウンっ

 誰かの頭とぶつけました。
 いや、この柔らかさ。リベさんです。

「ッ!? ……ッ!?」

 リベさんはまさか頭突きで起こされるとは思っておらず、暫く悶絶していた。
 そしてその間、リベさんに抱き着いておりましたとさ。

 そして、悶絶から解放されて跳び上がったリベさんは俺を叱ろうとして、俺の顔の赤さに気が付いたって所かな。



 そんなことがありまして。
 こうして寝かしつけられているのである。

「熱があるだけだし、寝てれば治るでしょ」
「りょかいです……」

 あまりしんどくは無いけど、身体がフラフラするって所かな。
 なんだろ、風邪と熱の合併症状みたいな……そんな感じ。
 正直な所さっぱりだけど、取り敢えず体が怠い。意識すると、その感覚がより強くなってくる。
 秋って体調を崩しやすい時期らしいし、もしかするとそれもあるのかも知れない。
 リベさんが居なくなった部屋で俺は、長い溜息をついていた。

 のんびりした事はあっても、ここまで何もできずダラダラ過ごしたことは無かったように思う。
 昨日は割とダラダラしていたけど、リベさんに変な服を着せられてから慌ただしかったし。
 ……そう言えば昼間から飲んでいたザグさんよりも返って来るの遅かったんだよな、リベさん。何処に行ってたんだろ。
 何故かリベさんが脱兎の勢いで玄関から飛び出して行ってた事を何と無く思い出していた。

「暇だ……」

 暇ですね…と言おうかと思ったけど、誰も居ないんだし素に戻っても大丈夫だろ。そう思って、ふと声を洩らす。
 案外、暇って事は暇だから言いたくなる。けど、行ったら言ったで思考内で留まっていた結論が口から発せられて耳にも届くのであって。
 ……余計、暇になった気がした。

「あ、んんっ!」

 意識を違う方に向けてみると、ちょっと声も変な気がした。
 咳き込むようにして見たけど、違和感は無くならない。
 ここ半年……プラス前世の分も合わせれば一年半くらいか。風邪とか体調面で特に何か悪い事が起こったりはしなかった。
 それが軽い症状でも、絶不調に感じる原因だったりしているんだろうか。
 リベさんも熱があるだけって言ってたし。
 ……少し目を閉じて、寝れるか試してみようかな。

 熱い。
 とんでもなく、熱い。
 熱ってこんなにも身体が火照るモノなんだっけ?
 若干前世のものと都合が違うように思えるけど、身体の熱さで記憶が焼け落ちたようにぽっかりと穴が開いたようで思い出せない。
 熱い。秋になったとはいえ、いまだ残暑のような暑さが続く中、冬用の布団に取り換えたのが拙かったんだろうか。
 俺はに布団を捲ってみた。
 汗を掻いて肌が水分に触れているせいで、布団を捲った拍子に流れ込んでくる空気が当たってほんの少し涼しかった。

「……熱い」

 けど、それも一瞬。
 まるで俺自身が暖房器具にでもなったかのように、外の空気を俺の身体が温めているかのように、じりじりと熱くなってくる。
 明らかに異常。
 だけど俺にそれは気が付かない。
 俺はこの世界の熱ってひどいもんだなー……とか考えつつ、熱い熱いと呟いていた。

 この世界に、完全な特効薬はないと思う。
 薬剤師とかはいるらしいけど、そんな病気の原因すら真面に理解できていないのに解熱できるとは思えない。
 時々リベさんやサーラさんがお見舞いに来ていた。
 ザグさん……は、炭鉱に出掛けていてすぐに帰ってくることは難しそうらしい。
 まぁ、俺が熱だって解ると炭鉱に出勤せずに看病するって言ってたから、むしろこっちの方がありがたいか……。
 看病だとかが嫌と言う訳でも無いし、この通り見舞いに来てくれても嬉しい。
 けど、なんか寝ている横でこうじっと眺められているのを想像したら、ちょっと背中がムズ痒くなる。



 ある時、異変に気が付いた。
 異変と言っても、なんか定期的な時間に来るリベさんが来ないのだ。
 お昼寝でもしているのか、それとも何か家事でもしているのか。
 最初はそんな事を思った。

「静かですねー……」

 耳鳴りで耳が痛くなってきそうなほど、シーンと言う音が響き渡ってる。
 そう、あまりにも静かなのだ。
 もちろん、俺には熱で真面に頭が働かず思ったことを口にしていた。
 その時、ふと扉が開いた。

「リベ、さん……?」

 扉の向こうから、顔を見せたのはリベさんでもサーラさんでも無く。
 それは……。


     ★


 その日、誰も知らぬ間に転移装置が作動した。
 動かした者は一人。子供一人が入りそうなほど大きな荷物を持った男だった。
 本来ポータルは、何人もの魔術師が内包するような膨大な魔力を必要とされる。そのため、武人の多いこちら側からでは作動する事はまずない。
 なら、何故この男はたった一人でこのような大掛かりな魔導装置を作動できるのか。
 結論は簡単、ポータルと言う点と点を結ぶ先……王城からポータルは作動されているのだ。
 何もこの男が魔術師何人分の魔力を内包しているのなら、このような小細工は全く必要が無いのだが。

「これで、俺の仕事は……」

 そう歓喜に口を歪めながら言葉を洩らす男は、作動しているポータルを潜り世界に二つだけしかないであろうもう一つのポータルに転移を果たしていた。


 王城。
 その一角、奇妙な五角形の形をした台座のような装置……ポータルが設置されている場から光が漏れた。
 転移が成功したのである。
 もちろんその台座の上に仁王立ちしているのは、先ほど辺境と言われるオプネイル村から転移してきた男。
 本来ならばこのような小汚い場には決して立ち寄ろうとはしない国王も、この日は珍しくも転移の光景を眺めていた。

(これで、私は……)

 男の帰りを心待ちにしていた国王は、帰還に胸を躍らせその感情が表情にも出ていた。
 男は国王が居る事を察知すると、重そうな荷物を軽々と肩に乗せそちらの方へ歩いて行く。
 側近に加えこの場の警備をしているであろう者は、男の礼儀がなっていないと睨み付けていたが本人はそんな事気にすらしていなかった。

「王様さんよ、これで良いのか?」

 いびつな形に歪んだ荷物の紐を解いて行き、男はその荷物の中身を国王に確認させる。
 実物なんてものは男しか知らず、ましてや国王は噂に聞く程であった代物。
 未だ生存報告がなされた事の無い、“黒狼種”の獣人だった。

 東洋で栄える漆塗りと言う技術。
 本来は武器の鞘などに施すものであるが、あまりにも美しいとのことで西洋では芸術品とされることも多い。
 目の前に丸められている獣人の少女の髪は、まるでその漆塗りで染められたかのような艶やかな黒。
 頭蓋に付属するようについている獣人特有の“耳”を覆う毛の色も、濡れているかのようにこの部屋の明かりを反射している。

「これは……素晴らしいっ!」

 漆黒の髪とは相反して、白磁の陶器を連想させるような純白の肌。
 そして芸術品と言われても誰もが信じてしまいそうなほど、整った顔立ち。

(ククク、もうこの者は私の物よ…!)

 想像以上の上玉。
 それが自分の物となる、それだけで国王の表情が下卑た笑みに変わる理由になった。

「報酬は、契約通りに渡してやろう」
「ありがとよ、王様さん」

 報酬と聞き、男もまた国王のような笑みを浮かべた。

「時にリッド。聞いても良いか」

 国王はふと表情をいつもの彫刻のような顔に戻し、男に聞いた。
 リッドと呼ばれた男はポータルを潜り抜けようとした時に呼び止められたことに嫌そうな表情を浮かべながらも、早く言え……そう言った意味を込めて国王の目を見た。

「ザグラッドとは仲が良かったのではないのか?」
「ザグラッドとは、な。そこにいるガキじゃねえよ」

(どうせ村では、化物に襲われた事になってんだ)

 リッドの考えたシナリオはこうだった。
 リッドは幻覚と睡眠作用のある毒霧を放ち村の全員を眠らせ、その内に遅効性の毒を飲ませたケイを連れ出す。
 幻覚は人によってまちまちだろうが、基本恐ろしいモノを見るような幻覚の毒。
 それにあの辺りでは、Aランクの魔物が生まれても不思議でない環境だ。
 リッドは国王の言葉に、簡単に答えすぐさまポータルを潜った。


 村に戻った瞬間、リッドの視界は地面に引き寄せられていた。

「がはっ! オ、オリベーンっ!?」
「ケイを何処にやったの、リッドッ!?」

 物質化しそうなほど高濃度の魔力を噴出し、眼を爛々と輝かせる鬼に。

急展開……?
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