挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

形白  ~ Relief in carnation

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

16/56

十六話 放蕩放浪  ~ まったりだらだらです

ダラダラはしていないかもです
 何とも気持ちの良い天気なんだ。
 俺は、肌に吹き付けるヒンヤリとした風に身を任せていた。
 風に揺らめく髪が目に入らないよう注意しながら片目を開けると、変色し始めた落ち葉が俺の身体に体当たりするのと同じ風に乗って地面近くを舞っていた。
 季節は秋。
 俺がこの世界に転生して、半年を迎えていた。


     ★


 最近の俺は随分と落ち着いてきた。
 今は哀愁の季節…とも言うけど、生憎夏の後半あたりからは暫く俺が泣くようなことは無くなっていた。むしろ、俺にとっては泣き止みの季節だ。
 多分、転生したせいで自覚外に不安になっていたんだろう。そして、流石に半年と言う時間を過ごしてだいぶ落ち着いてきた…って所かな?

 獣人の朝は早い。と言っても、俺のケモノ耳が物音に敏感なだけなんだけど。
 誰かが起きる音のせいで目が覚め、起き上がる。
 大抵は、音を立てずに行動をするザグさんらのせいで寝起きの二人に出くわしたことは無いけど、それでも朝食を作り始める前には絶対に目が覚める。…まぁ、朝食を作り始めた所で今度は鋭敏な嗅覚のせいで急激におなかが空いて、いやでも目が覚めるんだけど。

「おはよう、ザグさん」
「うす。ケイ、涎垂れてる」
「うにゃっ」

 自分の口の端に指を当てながらそう言ってくるザグさん。
 この癖もこっちに来ても治っていなかった。
 俺はどうしても寝ると口の締りが悪くなって、涎が垂れてきてしまうのだ。
 その事を子供っぽい…とか言われたりもしたけど、一番の問題は自分が恥ずかしい事だった。
 俺は垂れた涎を拭いつつも、恥ずかしさでほんのりと朱に染まっているであろう顔を逸らした。

 ザグさんの朝は早い。
 ザグさんは、炭鉱…と言うより『ダグリューン高山』という山に毎日のように出かけるから。
 山までの距離は人の足でとぼとぼと歩いていると、俺の慣れ親しんだ時間の物差しで大体三時間。その三時間をザグさんが短いと思っているのか、長いと思っているのかは生憎判らないんだけど、それなりの距離がある。
 ザグさんはあの光る石、発光石ライティングストーンを採掘して、一割研究、残りを加工やら何やらをして、金を稼いでいる。それに、ザグさんの得意分野でもある鑑定で副産物で採れた鉱石などを調べて、この村に住みつく鍛冶師に売りつけているらしい。
 要は、我が家の家系はザグさんによって成立していると言って過言では無い。

「ケーイ、サーラが今日は授業休みだってー!」
「やったー」

 リベさんの朝はザグさんと同じ。早い、と言うよりザグさんが起きれば起きる…と言うスタイルだ。
 俺がザグさんの前で硬直していると、玄関先にサーラさんが来ていた。
 サーラさんとリベさんは歳が近いうえに同じ女の人という事で、男手の多すぎるこの村では欠かせない友達なんだそう。一瞬頭の中にホルワさんの顔が思い浮かんでしまったけど、すぐさま頭を振って妙な事を考えるのは止めておいた。

 サーラさんがこちらを見てニコリとほほ笑んだ。
 俺は取り敢えず、歯を出してニカッと笑い返してやった。
 そうすると、サーラさんはまるで『こうですよ』と言っているかのように、薄っすら上がっている口の端を指で押さえて更に上げている。
 レディたる者、歯を見せて笑ってはいけないらしい。
 別にレディって年齢でも無いけど、サーラさんは歳がどうであれ女性レディであることに変わりは無い…と思っているみたい。
 俺はサーラさんと同じように、口を閉じたまま端だけを指を使ってちょこっと持ち上げた。

「ぐっどです、ケイさんっ」
「何アイコンタクトしてんのよ、あんた達は…」

 そんな事をしているとリベさんに呆れ顔をされていた。
 どっちかって言うと、表情コンタクト、或いはフェイスコンタクトって感じかな?
 俺は口の端を押さえる指を放して、手を振っているサーラさんに手を振り返していた。



 この家に娯楽は少ないけど、縛るものもあまりない。
 例えば勉強しろって言う催促も無い。
 むしろ、こっちの勉強は只だらだらとしたモノじゃないので案外面白かったりする。
 サーラさんの座学の教授では国史を習う『国学』が前世で言う『社会科』のような物で、素直に楽しめないものもあったけど。
 けど、どれも新鮮な気分で味わう事が出来た。

 俺はただ今、町をぶらぶらとしていた。
 今の時間、いつもならサーラさんの所でお尻と尻尾が痛くなるほど座り続けているか、リベさんの家事の手伝いで家の中でひっきりなしで動き回っていたから、少し身体が違和感を持っているけど今日は一日お休みだ。
 なんでも、最近はずっと休ませる暇が無かったから…らしい。これからは、十日に一度は休みを設けてくれると言う言質も頂いた。

「フフフ…、私は今日一日自由なのですっ!」

 バッと布の擦れる音を出しながら、道の真ん中で俺は万歳をしていた。
 そして、最近やっと真面な敬語が言えるようになってきた。
 今日のなのですは、ですます調の応用編だ。俺はまだ変化する動詞を覚えられてはいないけど、ですます調の応用編を駆使できるようにはなっているのだ。
 フフンッ。
 俺は、上がっているテンションに合わせるように大きく鼻息を噴き出していた。


 この村は、もう村って言う規模じゃ無いような気もする。規模って言い方もどうかな…と思うけど、それ以外思いつかなかったから仕方が無い。
 ファンタジーな世界って言うくらいだから、中世のまだ人力的な動力源が沢山あるような世界だと思っていた。
 初めて、この世界の現状を見た時に思ったことはただ一つ。
 SFっぽいファンタジー。これだけだった。

 さて、俺は村を回ってみる事にした。だって最近はずっと教会と自宅の往復だけだったから。
 村に立つ家はまちまち。ザグさんのように意志を組み合わせたような頑丈そうな風貌の家もあれば、日本家屋のように木の板を張り巡らせているような家もある。
 要は、色々とごっちゃになっているんだ。

「ホルワさーん」
「おお、ケイか。どうだ、良い包丁が手に入ったんだっ。試し切りしてみるか?」
「遠慮しておきます…」

 ホルワさんの家は、木造が基本の所々石で組まれているこの村で一番多いタイプの家だ。
 俺は最近会ってい無かったホルワさんに会いに行ってみると、出迎え早々血まみれの包丁を持った状態だった。流石に引くぞな……。
 ホルワさんは、俺と話す時は基本フードを取ってくれる。変な噂を流す事を無いと信用してくれての事だった。

 初めてホルワさんが始めてフードを降ろしてくれた時は、本当に驚いた。
 髪を切るのが面倒なのか、一度ポニーテールにしてから余った部分を一度結んだところに手繰り寄せてもう一度結ぶという感じでも肩に掛かりそうなほどの長さ。横から見たら、後頭部にℓの形が出来ている感じか。
 髪の長さにも驚いたけど、最も驚いたのが顔だった。
 わざとやっているのか生まれつきなのか判らないけど、キリッとした目付き。味方によっては冷ややかな印象のある目付き。けど、恰好良い…と言うかそんな印象だ。
 そして、目付きと同じようにスッとした顎の形。頭蓋骨が逆三角形の形をしていると言ったらいいんだろうかな? そんな訳で、綺麗な小顔だった。
 凛とした目つきに反するかのような、桃色の唇。特に何もしていないとのことだったけど、油ものを食べた後のようにテカテカしていると言うか艶々していると言えばいいのか、取り敢えず瑞々しい唇。
 俺の感想。
 ホルワさんが女だったら求婚していただろうくらいの、可愛さだった。口元の鮮やかな唇のお蔭か、美女と言うより美少女の感じ。

 そんなホルワさんがニコニコとした表情で、血まみれの包丁を持っているのだ。俺の前世の友達の一人に合わせたら、間違いなく狂喜で卒倒する光景だっただろう。
 けどそんな生易しさは無く、ホルワさんの付けている血塗れのエプロンで、『試し切り』と言うものが物凄く壮絶だという事を物語っている。……多分、今ホルワさんの調理場に言ったら血みどろのステージになっているんだろうな。
 俺は苦笑いをしながら、ホルワさんの提案を一蹴していた。

「おお、変な男言葉治ったんだな」
「治った、というより言わなくなったってだけです」
「そうか、まぁ前より可愛くなった感じはするな」
「ホルワさんも口調を変えたらどうですか?」
「丁重にお断りしておくよ…」

 意地悪にホルワさんの振りに返していると、今度はホルワさんが苦笑いしていた。
 ホルワさんは、男にモテる。そんな訳で、基本女性っぽさを出したくないんだそうだ。
 料理は、自分なりの拘りがあるそうなので、女性っぽさを抜きにして止める気は無いそうだ。
 俺はホルワさんに手を振りながら家を後にした。


 俺がこの村で一線を凌駕していると思う建物。『鍛冶屋』、そう言われている場所だった。
 俺は暇になればそこに行ってみようと思っていた。
 と言う訳で、本日この奇妙な建物に訪れた訳であります。

「お邪魔しまーす」
「邪魔するなら帰ってくれ」
「うぐっ、スミマセン…」

 皆さん、聞いてくれ!
 ゴメンの丁寧版、すみませんが言えるようになったのだ!
 聞いてる分には解るけど、いえるには程遠かった。
 アレだ。英語のリスニング問題と、暗唱の違い。聞き取るのは問題無くても、自分の口から言うのは難しいと言うアレだ。…ま、俺はどっちも苦手だったんだけど。その証拠に、入試ではリスニング全部運試しのようなモンだった。
 そんな訳で、日本人にとっての謙譲表現『お邪魔します』を、口頭で説き伏せられた俺は素直に謝っていた。

「って、ザグラッドん所の嬢ちゃんか」
「ザグさんがお世話になってます」
「良いって事よ。で、何か用か?」
「鍛冶屋の中が気になったので、見学に来ました」

 鍛冶屋は、金鉱を加工する。ザグさんには簡単に説明してくれた。
 けど俺が頭の中に思い浮かんだのは、金属を溶かして成形してカンカンと打ち付けて強度を上げて言う行程だった。
 こんなに小さな村なのに、強度を上げる工程の騒音が聞こえないのはおかしいと思ったのだ。

 ここでSFっぽさがまた出てきた。
 “魔石”、それに“魔導装置”。
 魔石は、魔物の魔力が結晶になった物。その証拠として、魔結晶という事もあるそうだ。
 そして、魔導装置。あのポータルとか言われているもの確かそう言われていた。
 魔導装置は、魔力を流すことで作動する。いわば電飾を通すことで動作を開始する機械の様なものだった。

「こいつは、鍛冶をするので不可欠な『炉』。ほら、ここに空洞があるだろ?」
「そこに金属を…?」
「あぁ。ついでに、こっちの窪みには魔石を填めれんだ」

 そう言いながら、ツボのような形をしている『炉』の側面を指さす。そこには大きな出っ張りがあって、その出っ張りの先に窪みがあった。
 魔石を填めこむ…ね。

「何が出来るんですか?」
「この炉は魔導装置でだな、魔力を流して中の温度を調整してんだ。けど魔石を使うと、魔導装置が勝手に動き出してくれるっつー魂胆よ」
「へぇ…、じゃあ、これは手動で温度調整している最中なんですか?」
「あぁ、魔石が調整してくれるっつっても、設定温度から変わらんからな。融通が利かんのよ」
「なるほど…」

 そんな事を話していると、真っ赤になっていた空洞の中から真っ赤になった石みたいなものを火ばさみみたいなので取り出した。

「こいつを叩くことで、硬く伸ばして行くんだ。見てろ」

 そう言いつつ、火ばさみを持つもう一方の手で大きな金槌を握りしめる鍛冶師さん。
 お、この過程があの音が鳴るシーンか。そう思いながらワクワクして尻尾が動いてしまっていた。手で押さえつけつつ、これからどうなるか穴が開くように凝視していた。
 ザグさんみたいに隆々とした筋肉が一瞬引き締まり、その瞬間金属の塊みたいな金槌が真っ赤に染まった物質に振り降ろされる。

 ゴゥンッ

 ……何か思ってたのと違う、鈍くてお腹に響く音だった。
 俺は大きな音が出ると思って目を固く閉じていたけど、全くの杞憂。その分お腹に響いたせいで感情が思いっきり尻尾に出てしまった。
 逆立った毛を撫でつけつつ、グワハハと笑う鍛冶師さんをきっと睨みつけた。

「グハハハッ、嬢ちゃんは抑音マッフルは初めてか? 久々に面白い反応が見れたな」
「抑…音、どころか鍛冶場自体初めてですっ」

 更に目を細めて睨みつけた。鍛冶屋に見学、と言う所で察して欲しい。
 未だ収まらない毛の逆立ちをもう放っておくことにして、尻尾から手を離した。

「そう怒るなよ。抑音マッフルっつーのは『音止め』の意味なんだ。鍛冶場みたいな騒音が酷い場では、よくこの魔術が付与された建物が使われる。
 ……ま、我慢すりゃ済む話だからわざわざするような所は少ないがな、グハハ」

 そう言いながら、何で火災後も笑っている鍛冶師さんだった。



 人が嫌がっているのを見て楽しんでいるような人だけど、お土産もくれたので悪い人では無いんだろう。
 お土産は、ダマスカス鋼。
 …鍛冶師さんによると、魔鉱石を鉄に混ぜ合わせると出来上がるらしい。
 良く解らないけど、波紋が表面に浮き上がっていて面白いし綺麗だから大事にしまっておくことにした。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ