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異世界マイペーサー 作者:闇緒 恣恣

形白  ~ Relief in carnation

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十一話 優遇不遇  ~ どうしたことでしょう

 ザグさんと干渉魔術をお勉強する時間だー。わー。
 取り敢えず、テンションを上げて行こうと思う。
 中庭にて、俺はリベさんに作ってもらった布みたいな服を着て万歳をしていた。
 布で伸縮性が無いせいか万歳すると突っ張って服が持ち上がるけど、今からサーラさんの時とは違いちゃんと『魔術』を教わるのだ。ここまでテンションが当たっても仕方が無いと思う。
 ……獣人の人って感情表現をどうしているんだろう? 後ろで土煙を上げる要因となっている尻尾の事を見つつ、そんな事を考えていた。

 ザグさんは俺が落ち着くのを待っていたのか、暫くの間何もしないまま俺だけがジタバタしているだけという光景が続いていた。
 手を上げるのに疲れて、地面に膝をついて休んでいると、突然ザグさんが始めだしたのだ。
 疲れてから始めるとかっ、体育後の授業かよ……。

「……」
「どした、ケイ」
「何でも、無い」

 俺は頭と尻尾をブンブンと振って、気持ちを切り替えた。

「おし、魔術を使えるってのはサーラから聞いてるし、このまま続けても大丈夫だろ」
「使えないのも、いる?」
「…………あぁ、威人っつー……リベだな。妖鬼オニ族とかが分類される威人っつー人種は、魔力の親和性が低く、総じて魔術が使いにくい。他にも威人とは違って魔力に親和性があっても、何故か魔術として利用できない奴も居るんだ」
「へぇ、じゃあ問題無し?」
「おう、問題なしだ」

 グッと握った拳を突き出しながらニカッと笑うザグさん。
 俺はいまいち解らなかったけど、取り敢えず拳と拳をぶつけ合わせる感じでコツとザグさんの拳に俺の小さい拳をぶつけた。
 この反応で正しかったようで、拳を開きその手で俺の頭を撫でた。
 ザグさんの手は大きいな。耳の間に掌が入らないくらいだ。そのお蔭でザグさんに撫でられると、耳がグイーってなって気持ち良いんだけど。
 俺はこのまま撫でてくれても良かったけど、ザグさんの手の動きからしばらく続きそうだと察知して両手で手首辺りを掴んだ。
 ぅ、止まってくれね。
 俺は目の前で白刃取りのような体制でキープしている腕が左右に振られるのに抵抗しようとしても、今度は身体が一緒に振られるだけだった。
 俺が困った顔をしていると、ようやくそれに気が付いたのかザグさんは少し寂しそうな顔をしながらも手を頭から離した。
 う、俺が止めなかったら絶対辞める気なかったなザグさんの奴……。
 ちょっと凄みを利かせてザグさんを睨んでみる俺だった。逆になんだその顔って笑われたけど……。

 干渉系魔術と言うのは、サーラさんに教えてもらった現象系とは違いあまりイメージと言うものは必要ない。
 どっちかって言うとイメージも使うけど、干渉系は本当に風を操る感じを想像するんだそうだ。つまり、イメージ自体は左程問題じゃ無く、とんでもない集中力がいるんだそうな。

「干渉魔術は決まった形状が無い、だから変にイメージするより魔力を魔力のまま感じるのが大切なんだ」
「……簡単じゃないの?」
「体内にある奴はな。体外に出す、つまり『魔術』として成立させる時には途端に難しくなるんだ。
 魔術を使うと、魔力を吸い出される感じがするだろ? あれは体外で魔力を感じる事が出来ないからなんだ。本当はただ単純に、自分の魔力が皮膚を越えて外に移動しただけっていうこったな」
「けど、視えるよね?」
「は?」
「なん…か、もやもや~っと」

 俺も今一掴めないけど、魔術を使う時は大抵その人の周りには光を屈折させるような、蜃気楼のようなモヤモヤが見える。
 アレが魔力なのか、それともまた別の何かなのかは分からないけど、見えるのは確実だ。
 そんな事を言ってみたら、この通りザグさんはハトが豆鉄砲を喰らったように驚いていた。……ザグさんに豆鉄砲を撃つって言うのを想像すると、無意味って言う諺に感じてしまったけど。

「ケイ、魔力が視えんのか? こりゃぁ……」
「え、何?」
「……一応言っておく、魔力は見えるもんじゃない。ケイが特別なだけだ」
「……、え~、あぁ…」

 もしかして、これが優遇と言う奴だろうかなっ?!
 かなり微妙に頬を引き攣らせつつ、その後に続いたザグさんの言葉に耳を傾けた。

「なら案外簡単かもな。ほれ、サーラさんにお前の欠点も教えて貰ってる。対象はこの発光石だ」
「ムムム…」

 手のひら大の発光石と、何やら文字が書かれている紙を受け取った。
 ……ん、紙って量産できないんじゃなかったっけ? そう思ったけど、紙に書かれた文字に目を通す。
 そして、対象は発光石。なるほどね、そういう事。
 俺は一人納得した。

「発動後は、自分の集中力が要だからな」
「了解、ですっ」

 俺は今度こそ正解の方の敬礼を……、アテっ。今度も間違っていたみたい。
 いい加減、しっかりしないと。………敬礼をしないと言う風には一切考えていない俺だった。
 さて、んなことより、この紙だ。
 俺は紙に書かれたことを一字一字目で追っていった。

「“森羅…万象を綴りし…書よ、意を示した…まえ”、鑑定リファー……?」

 言ってみた、詠唱。鑑定って言う魔術だ。
 ザグさんが良く使うらしい魔術。
 効果は良く解らない。モノを調べるのに使うって言ってたけど……。
 そう言えばザグさんって詠唱しているの見た事無いな……。
 ま、まさかっ魔法陣!? ザグさんが紙を持っているのは魔法陣をその場で作って詠唱する手間を省くという算段なんだろうか。
 あれ、けど逆に手間が掛かるかな?
 そんな事を考えていて、ふと気が付いた。
 アレ、発動していないっぽい?
 俺は手の中にあるメモ用紙を見て、俺がさっき言った言葉を小さく復唱してみる。
 が、間違った様子ナシ。ブラス、詠唱する時に決まって起こる筈の魔力の発散が起こらない。
 発動ミス? にしても後者の魔力が体外に出ないってのはおかしい気がする。

「……?」
「どした、ケイ」
「……“森羅万象を綴りし書よ、意を示したまえ”、鑑定リファー……」

 結果は同じ。
 魔力がピクリとも動かず、魔術らしきものが発動した形跡が一切ナシ。
 ……。
 俺は、訳が解らずに泣けてきた。

「発動でっき、なかっ……!」
「ちゃんと詠唱は出来てたし……」

 ザグさんは俺の言動に困り顔だ。
 ずぐにザグさんの周りにモヤモヤ、魔力が漂い出してそれが俺に流れ込んでくる。俺は訳が解らずに、魔力に身体を侵食されていっているような感覚に抗えずにいた。
 暫くして、ザグさんの魔力らしきものは俺の中から抜け切った。
 ザグさんは、手元を何やら弄った後、盛大なため息をついた。

「ケイ、スマンが次回からは違う事をやろう…」
「何で、何でっ?!」
「お前に干渉系の素養が皆無なんだ」

 素養。
 何か、聞いててあまりいい気分にならない言葉だと思う。
 お前には素養が無い、素質が無い、センスが無い。前世で結構言われていた言葉だった。だからと言って苛められていたという事も無いんだけど。
 自分の格を他人の感覚で勝手に判断されている、という感じが気に喰わなかっただけだ。もちろん、俺に人並み以上の根性なんてある訳も無いからそんな事を言われた所でいつもスルーでやる通すことしか出来なかった。
 けど、ここまで来て、また素養か。
 俺は、だんだんと気持ちが高ぶって来た。
 干渉系だとかを抜きにして、もっと普通に扱えるものだと思っていた魔術が使えなかったって言うのもあるかも知れない。
 一時引っ込んでいた、涙が再び溢れ出してきた。
 泣き止もうとしても鼻の奥がツーンとして来るだけで、目の奥が熱くなってくるだけで一向に溢れてくる涙は収まらない。

「泣くなって…ッ! ケイには膨大な魔力があるんだし、現象系は今朝みたく使えてたじゃねえか」
「だってぇ、だってぇ……!」

 駄目だ、涙が止まらないし、嗚咽もまるで尋問にあっているかのようにどんどん口から溢れ出てくる。
 ザグさんのいう事も最もだ。魔力は結構あるとザグさんにも言ってくれてるし、灯台のような火柱を上げてしまえるんだから魔術が使えないっていう事じゃ無い筈だ。
 じゃあ、なんでこんなに喉の奥が熱くなってくるんだろ?
 怨みのような、この負の感情が湧きあがってくるのはどうしてなんだろうか? 干渉系って言う魔術が使えなくなっただけで、こんなに泣くのは俺でもおかしいと思う。
 けど、この怒りのような負の感情が……、その泣いている理由になってしまっていた。
 俺は、さっさと泣き止んで、ザグさんに教えてもらいたいのに……。
 何かが混沌となって、この一つの身体で対処が出来なくなっているっていう感じ。

「ザグさん……っ」
「……どうした、ケイ」
「おっれ……、自分のことっが、わかっらないぃっ……!」

 俺は何でこんなに泣き止めないのか、分からない。
 俺は嗚咽で潰れそうになりながらも、ザグさんにその事をしっかりと伝えた。

 俺の言葉を聞いてザグさんは何を思ったのか。
 俺をグワッと抱きしめた。
 そう言えば、リベさんには抱きしめられたことがあったけどザグさんには無かった。

「スマン、やっぱり……お前は、“分かって無かった”んだな……」
「なっにぃ……がっ?」
「いや、良い……。こっちの事だ」

 声がするたびに抱きしめるザグさんの身体が声で震え、バイブレーションになっている。
 ザグさんの声は、正直言ってちょっと怖い。…だけど、怖いけど安心できる。
 何が、て言うのは分からないし、何で、安心するのかも分からない。
 けど、ザグさんにこの状態で言われたことに対してはとても安心できた。
 気が付くと、俺を抱擁するザグさんの腕は片方頭に来ていて、ワシワシと髪を乱していく。

「不安だったんだよな、訳解らなかったよな……」
「ひっぐ、ぐっ……うっ、……ぅ」

 ザグさん。
 何を指しているのかは分からなかったけど、ザグさんの言葉には不思議な力があるなと思った。
 見た目通り、子供みたいだけど、ザグさんに抱きしめられながら、寝てしまっていた。


     ★


 気が付くと、俺がこの世界に転生した当初着ていた真っ黒の布みたいなのが掛けられた、いわゆる俺の部屋でベッドの中にいた。身体にはまだザグさんの匂いが残っていて、寝てしまってからあまり時間が経っていないのかもしれない。
 俺は何気なしに服を脱いだ。伸縮性が無くゆったりとしていたせいもあり、簡単に脱ぐ事が出来た。
 っていうか、何気なしに服を脱ぐって……。俺に露出癖なんてないと思うんだけど。
 そんな事を思いながらも、自分の身体を見下ろした。

 ブラなんて必要ない大きさの胸。……だけど、確かに脂肪の乗りは良い。双丘っていう言い方がピッタリかも知れない。そして、へその下から続く綺麗な曲線のフォルム。手でなぞってみても、つっかえるものは何一つない。
 俺は目に映った、黒い服に腕を通した。
 肌触りは、リベさんが作ってくれたらしい服よりもずっと良く、前世で流通していた服に似ているかも知れない。それくらいさらさらしていた。
 布みたいとは言っても、横幅の広いスポーツタオルみたいな感じな奴に穴を二つ開けたと言った感じだ。俺はその空いた二つの穴に腕を通す。
 腕を通して、向かって左側が余ってしまうので、身体と言う芯に沿って巻き始める。……何か脳内で「あーれー」とか言う奴が再生されたけど、やっている事はどっちかって言うと逆だ。
 最後まで巻き終えると、丁度いい具合に対になっている紐が右肩辺りから縦に三つ並んでいる。俺はそれを一つずつ、蝶々結びと言う奴で結んでいく。
 全て結び終え、腰に手を当てる。

 この服装を初めて見た感想はチャイナ服っぽいってとこだった。
 布の端が右側にあって、その部分は紐で結んであって離れることは無い。
 チャイナ服がどういうのかは知らないけど、直感的な感想はこんな所だった。

 俺はくるくると回って、変な所が無いか確認……している最中に部屋の扉が開いた。
 ザグさんが扉から顔を覗かせていた。

「じゃ、邪魔した……な?」
「ち、違ーのっ!」

 ちょっと、ザグさんが頭の中で何を思ったから超気になってしまった。
 どうせ、服装に気を使うお年頃…か。みたいな感じに決まっている!
 俺は、今度こそ自分の感情の赴くまま尻尾の毛を逆立てまくった。



 その日、何故か真っ黒い服を渡された。
 新しい服なんだそうだ。リベさんが作ってくれた。
 ……俺は別に、あの灰色っぽい服だけで良いんだけどな。

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