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ワールドオーダー  作者: 河和時久
パトリア編
63/70

62:試験

 ドクの案内で王都の街並みを散策しながらギルドへと向かう。同じ王都とはいえやはりシグザレストとはまた違った趣がある。一番の違いは屋根が平らではないことだ。シグザレストは基本的に平らな屋根だったので、ここは雪でも降るのかもしれない。ただ雪国のようにそこまで急な角度ではないので、そこまで積もるということもなさそうだ。


 そして街を歩いていてもう一つ気づくことがある。


「結構多いな」


 あちらでは見かけなかったもの。獣人の奴隷である。歩いている獣人はほぼもれなくといっていいほど首輪が付いている。ダミーかどうかまでは判別できないが。馬車での移動に付き添うように歩く、もしくは御者などをしているものが多いようだ。それなりの金持ちが所有者であるということだろう。念の為アイリ達にダミーの首輪をさせておいたのは正解だったかもしれないな。首輪をしていない獣人がいない時点で目立ってしょうがなかっただろう。アイリもフェリアも美人だし。


「レアン達はどうするんだ? ハンター登録するのか?」


「ああ、面白そうだからな」


「私達も登録します。持っていても損になることはないでしょうし」


 アイリの言葉にフェリアも頷く。他のメンバーがやばすぎてあまり目立たないけどフェリアも実は相当強いからな。爪装術だったかは使えないようだが、それを抜きにしてもミル並の速度とレアンには及ばないまでも相当強い腕力を持っている。戦い方を知らなかっただけで、レアンやミル達との訓練で実はかなりスペックが高いことが発覚した。怒らせないようにしよう。


 とりあえずみんなハンターになるようだから、一緒に行動するならクランとか作った方がいいかもしれないな。結構パーティーのバランスもいいし。もう少し大きくなったらコウも登録してやろう。きっとすごいハンターになるに違いない。あっというまに史上初の金10ランクになるかも。


 そんな妄想をしつつ、通りを抜けて街の中心部よりやや外れたところまで来ると、一際大きな建物を発見する。


「あれだ」

 

 ドクの言葉からするとその大きな建物がギルドのようだ。大きいといってもやはり本部よりは小さ目だが、それでも十二分に大きい建物である。きっと悪いことして儲けているんだろう。


 建物に入ると中は結構広く感じる。作りは基本的に本部と同じようで、受付カウンターと依頼ボードがある。人の数はまばらで、柄の悪そうなやつが多く見える。基本ハンターは誰でも柄が悪そうだけど。


「お、おいアレ!?」


「ま、まさか……剣王!!」


「嘘だろ!? 死んだんじゃなかったのか!?」


 柄の悪そうな人たちが騒然としだした。普段のノリから結構半信半疑だったんだけどドクが有名人だったのは本当のことだったようだ。自信満々、威風堂々とした感じでギルドを歩く姿はドクのくせに非常に生意気だ。後で殴っておこう。


「お久しぶりですドクトゥスさん」


「ああ、久しぶりだな。今日は俺の復帰登録とあそこのメンバーの登録に来たんだ」


「ついに剣王が復帰されるんですね。かしこまりました。支部長に伝えますので、しばらくお待ちを。新規登録の方はあちらのカウンターでお願いします」


 そういって受付嬢は足早に奥へと去って行った。やはり受付嬢は美人しか駄目というルールでもあるのだろう。ここの受付嬢もやはり美人だった。ドクの奥さんに鼻の下を伸ばしてたと言いつけておいてやろう。


 受付嬢が帰ってくる間に隣のカウンターでレアン達のハンター登録を行った。懸念していた『獣人だから』とか『奴隷だから』等は特に問題になるようなこともなく、新規登録の受付はスムーズに終了した。


「私は新人ではない。だがギルドカードはない」


「紛失ですか? 1度目なら再発行に銀貨10枚が必要になります」


 ちなみに2度目以降は金貨が必要になるらしい。ぼったくりにも程がある。とりあえずミルのカードの再発行代金は俺が立て替えておいた。


「そちらのあなたは登録されないのですか?」


「俺? カードあるよ?」


 そういって俺のギルドカードを見せる。受付嬢は手に取って機械のようなものにカードを入れると驚いたような顔をした。


「全然依頼を受けてないじゃないですか!! 銅ランクとはいえ、いくらなんでも1か月以上も間を空けるなんて……怪我でもされていたんですか?」


「いや? 元気いっぱいだったけど」


「……」


 受付嬢の無言の圧力が怖い。まさか奴隷を解放して回ってましたなんてこの国で言える訳がない。


「あまり長期間、依頼をされていませんと降格、もしくはハンター資格の取り消しにもなりますからね」


「なんっ」


 何か叫ぼうとしたフェリアを手で制して止める。俺がなぜ依頼を受けられなかったのかを知っているから、恐らく憤慨したのだろう。自身がその理由の一端を担っているだけに。だが正直な話、俺がハンターでいる理由も結構いい加減なので、資格なんてなくなっても何ら問題がない。今なら普通に生きていけるだろう。だからそのことでフェリアが受付嬢に機嫌を損ねる必要はない。


「これからがんばりますよ」


 とりあえずそう返しておいた。しかし、受付嬢に怒られてしまった。美人に怒られるなんてご褒美でしかない、なんてことを思ってしまうと、後ろから恐ろしいほどの殺気が飛んでくるので考えてはいけない。


「お待たせしました。ドクトゥス様、支部長がお呼びです。こちらへいらしてください」


 そういって先ほど奥へ引っ込んだ受付嬢が現れた。


「はいよ。それじゃ旦那、ちょっといってくるぜ」


 そういってドクは受付嬢の後をついて奥へと歩いて行った。後で美人の尻を追いかけていたと奥さんに言ってやることにしよう。


「ではこちらにお願いします」


 ドクを待っている間、適当な依頼でも見ようとするとなぜか受付嬢に呼ばれた。どうやら新人には加入試験というのがあるらしい。俺はそんなのなかったというと、「銀5以上の方のご紹介があったのでは?」と言われた。なるほどおっちゃんの紹介という扱いだったのか。それなら納得だ。


 新人に紛れて俺も一緒についていくと一際大きな部屋へと案内された。中には約50m四方の石造りの舞台があり、その脇には一人の男が立っていた。


「お前らが新人か。俺が試験官のヤグザだ。一人づつ舞台にあがれ」


 そう言って禿たガタイのいいおっさんがこちらをにらみつける。日本なら間違いなくかかわってはいけない類の容姿だ。スキンヘッドに眉毛がなく、顔に3本の爪痕がある。恐らく遭遇したほとんどの人間が絶対視線をそらして逃げるだろう。名前までもそれっぽすぎて俺からしたら名前だけで危険度マックスだ。


「じゃあ俺からいくか」


 俺がそんなことを考えているとは知らず、颯爽と舞台にあがったのは厳ついおっさんよりもさらに厳ついレアンだった。2人が舞台中央で睨みあう。どう見てもあちらの筋の方たちがメンチ切ってるようにしか見えない。


「なかなかいい面構えだ。遠慮なくかかってこい!!」


「いいのか? それじゃ行かせてもらうぞ」


 レアンはその言葉と同時に踏み込み、そして右拳を振りぬいた。「ガッ」という呻き声を残し、試験官は遥か彼方へと吹き飛んでいき3回程バウンドした後、舞台から落ちて漸くその動きを止めた。


「え? え!?」


 一緒に来ている受付嬢が絶句している。人手不足なのか案内してきた受付嬢が立会人も兼任していたのだろうか。それともそもそも試験官が新人に負けるなんてことは想定しなかったのか。


「今の何割くらいだ?」


「3割くらいだな」


 俺の問いにレアンが答える。どうやらレアンの3割の力で試験官は吹っ飛んで行ってしまったようだ。ぴくぴくとしていることから試験官は死んではいない。レアンには珍しく上手く手加減できたのだろう。最近朝の訓練でコウを相手にしているため、自然と手加減が上手くなってきているようだ。


「ヤグザさん!!」


 我にかえった受付嬢が試験官に走り寄る。揺すっていると呻き声のようなものをあげているのでそこまで酷いことにはなっていないのだろう。


「アイリ」


「はい」


 俺の言葉にアイリは頷き、試験官へと歩み寄る。そして精霊魔法によって回復させるが、試験官の意識は回復せず、眠ったままだった。


「試験はどうするの?」


「し、しばしお待ちください!!」


 そういって受付嬢は走って部屋を出て行ってしまった。倒れた試験官ほったらかしでいいのだろうか。まぁ寝ているだけだし問題はないか。ただ待っている間、暇なのでレアンと組手をしていると部屋の扉を開く音がした。


「派手にやったようだな」


 振り向くとドクがマッチョなおじいさんと一緒に部屋へと入ってくるところだった。


「そいつらがお前の仲間か」


「ああ、旦那は銅ランクだけど俺よりはるかに強いぜ?」


「ほう。それは期待できそうだ」


 マッチョなおじさんとドクの会話がとても嫌な予感しか思い起こさせない。


「わしがここの支部長、ダセップだ」


「どうしてここに?」


「ドクはしばらく依頼を受けておらんのでな。復帰のためには試験がいるんだよ。その相手を儂自らがしようとおもってな」


 どうやら間が空いていると復帰にも試験が必要なようだ。鈍った体では死亡率も高くなるだろうし当然といえば当然か。


「しかし、試験官であるヤグザが新人に倒されるとは。こう見えても銀5ランクなんだが」


 そういって支部長は倒れている試験官を一瞥するとありえないことを言い出した。


「どれ、新人試験もわしがやろう」


 新人の試験に一番トップが出てくるという。普通、長ともなると書類仕事とかじゃないのか?


「おっさんはただ戦いたいだけだろが」


「だって書類仕事ばっかりで最近体がなまって仕方ないんだもん」


「もんじゃねえ!!」


 どうやらバトルジャンキーのようだ。レアンと気が合うかもしれないな。


「ドクの前にまず新人たちから相手して肩慣らしさせてもらおうか。誰からくる? 全員一度でもいいぞ」


「俺からいこう」


「お前さっき試験官ぶっ飛ばして終わっただろうが!!」


 その言葉に真っ先にレアンが答えたので思わず突っ込んでしまった。


「合格の判定とかもらってないから問題ないだろう?」


 確かにそんなもの判定する前に相手おねんねしちゃったけどさ……。


「ほう、お前がヤグザを倒したやつか。いいだろう。お前はこの戦いとは別に先に合格としておこう。仮に儂を倒したら特別にランクをあげて登録してやるぞ」


「それはありがたい」


 そういってまたしてもレアンは舞台中央で睨みあう。


「かかってきなさい」


「遠慮なくいかせてもらおう」


 そういってレアンは先ほどよりもさらに早く飛びかかる。しかしその拳は支部長の手によって華麗にいなされ、まるで舞を舞っているかのように美しい動作でかわされつづけた。


「力まかせではあたらんぞ」


 支部長はかなり余裕をもってかわしつづけている。太極拳などでいう化勁というやつだろうか。対人戦闘はあまり発達していなさそうなこの国でこんな技術を持っている奴がいるとは。まさしく熟練の達人の動きである。


「くっボス以外にこんな真似できるやつがいるとは……世界は広いってことか!!」


 そういってレアンは笑う。強い相手がいるというのは戦闘狂のレアンにとって悔しいよりも嬉しいという感情の方が強いのだろう。


「本気で行く。剣を抜け」


「ほう、怖い怖い」


 間合いを離した後、レアンは腕に爪装術を展開する。それに対して支部長は腰にさしていた剣を抜き放つ。白銀に輝くその刀身に思わず目を奪われる。柄の部分には鳥の羽のような飾りがついている。


「おっさんに剣を抜かせるとはな。こいつ程じゃないがあれもアーティファクトだぜ?」


 そういってドクは自身の刀をポンポンと叩く。ギルド長クラスがもつ一品なのだから相当な業物なのだろう。その姿は持ち主の厳ついガタイからは想像もできない程の優雅さを醸し出している。


「では……ゆくぞ!!」


 そういってレアンが突っ込むと支部長はおもむろにその場で剣を振りぬいた。レアンがまだその場に到達していないのにも関わらずだ。レアンはお構いなしに突っ込んでいき爪を上から振るった。ズドンという音と共に床に爪痕が刻まれるが、支部長はいち早く避けていたようで丁度立ち位置が反対となっていた。


「避けたか。まだまだいくぞ!!」


「手当をしたほうがいいぞ」


 支部長のその言葉にレアンは怪訝そうな顔をする。するとレアンは自身の胸が十字に切り裂かれていることに気が付いた。見る限り切られているといっても掠り傷くらいにみえる。


「この程度の掠り傷で!!」


 そういって再びレアンは襲い掛かる。すると支部長はまたしてもその場で剣を振りぬいた後、レアンの攻撃を避ける。そして再びレアンの胸が切り裂かれた。


「ふむ。ずいぶんと丈夫な体のようだ。ここまで切れないのは久方ぶりだ」


「くっ……」


 舌打ちをしつつレアンは再び猛然と襲い掛かる。そしてやはりレアンが到達する前に振るう剣に対し、レアンは横にジャンプして避けた。どうやら軽く振っているかのような剣の衝撃波のようなものが襲っていると判断したのだろう。


「もう同じ手は食らわんぞ!!」


「そうかな」


 レアンの支部長がレアンの攻撃を避けるとまたしてもレアンの胸が切り裂かれた。単なる衝撃波が襲っているわけではないようだ。おそらくあの剣に秘密があるのだろう。アーティファクトなんて言ってるくらいだしな。


「く……俺の負けだ。このまま続けても俺ではお前に攻撃を当てることができないだろう」


「ふむ。潔く負けを認めるか。判断も正確で早い。申し分ない逸材だ。単純な強さだけなら銀5以上だろう。だが下位ランクには色々と学ぶことも多い。お主はまず銅5ランク辺りから始めるがいい。なに、お主ならすぐに上へ駆け上がれる」


 満足そうに剣をしまう支部長の言葉に嬉しさ半分、悔しさ半分の表情でレアンは頷き舞台を降りた。


「本気のおっさん相手にして立っていられるだけで相当な強さだから、あまり悔しがることはないぜ」


「しかしボス以外にこんなに簡単に負けるとは……まだまだ俺は弱いな。村を出て正解だった」

 

 悔しそうな表情から一転、レアンは非常に嬉しそうな表情に変わっていた。戦闘狂にとっては自身が全力を出しても負けられる相手がいるということはうれしいことなのだろう。


「さて、次は誰かな?」


「私がいきます」


 そういって次に上がったのは銀色の髪がまぶしいフェリアだった。

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