60:家族
「アーあーアーあー」
まるで発声練習をするかの如く目の前の俺が声をあげる。はっきり言って奇妙極まりない光景だ。
「これで通じるでしょうかマスター」
「念の為に聞くがマスターって俺か?」
「そうです。私を生み出した貴方様こそマスターであります」
「お前は何だ?」
「マスターに生み出された従者にございます」
そう言って目の前の俺がまるで貴族に仕える優秀な執事のように見事な礼をする。その姿は俺とは思えない程気品に満ち溢れていた。
「その姿は何なんだ一体」
「マスターの姿をお借りしました。マスターの記憶から理想の女性を顕現しようとしたのですが……」
「ですが?」
「マスターの記憶の中に正確に記憶されたお顔が一つも存在しておりませんでした」
そう言ってくる目の前の自分にやっぱりかと少し悲しい気持ちになる。確かにぼやーっと相手の雰囲気やら声やらは覚えているが、顔は全く覚えられないと日々思ってはいた。だが、そもそも記憶として全く残っていなかったとは……。どれだけ顔覚えるの苦手なんだ俺は。
「全体のパーツや気配としては残っておりますが、細かい部分となりますと……。恐らくマスター自身が人の顔に興味ないのでしょう。声についてはかなり正確に記憶されてますから」
そう言って俺が笑う。その姿はまるで鏡を見ているようではっきり言って気持ち悪い。
「だからといって自分の姿はなんか気味が悪いな」
「どこかでマスター好みの容姿の方を参考に姿を作りましょう。それまではしばらく別の姿になっていましょうか?」
「変身できるのか?」
「はい。ある程度は自由に変えられます」
そう言ってもう一人の俺は小さな黒猫の姿になった。記憶にない可愛い黒猫だが、元が俺の記憶なのだとしたらどこかで見たことがあるのだろう。全く自身に覚えは無いが。しかし、顔を見る限りちゃんと猫の姿をしているということは、動物の顔はちゃんと覚えているということか?
「便利なものだな」
「中身は殆ど別物ですけどね。猫の姿のままですとそもそも発声が難しいですから」
どうやら色々と部分的にも肉体構造を変えられるようだ。
「しばらくはその姿のままでもいいだろう。猫可愛いし。名前はあるのか?」
「マスターに作られた所有物ですのでマスターがお付け下さい」
そう言われて考える。猫の名前にすると今度は人型になった時に困るか? でも変身出来る従者で黒猫といったら……。
「ロデムなんて名前はやめて下さいね。第一それなら黒豹でしょう」
「ぐっ……」
思考を読まれたようだ。俺の記憶を見ているらしいから思考パターンまで把握済みということか。
「ならめんどいからクロでいいや」
シロもいるし分かりやすいだろう。
「了解しましたマスター。これからよろし……いえ、コンゴトモヨロシク」
ちょいちょい小ネタを挟んで来るなこいつは。全く誰に似たんだろう。そう思いながらクロを抱えて皆のいる場所へと戻った。
コウはまだ寝ているようだが、他のメンバーは既に起きてきたようだ。コウも俺が行くと目を覚ましたようで元気に挨拶してきた。
「お父さんそれ何!!」
俺の肩に乗っているクロを見つけてコウは一気に目が覚めたようで、目をランランと輝かせて聞いてくる。
「新しい仲間でクロだ。シロと同じく俺が召喚した」
そう言ってクロを見ると猫らしく顔を洗って知らんぷりしている。その姿はどこからどう見ても唯の猫だ。
「シロと同じってことはそんななりでも相当ヤバいんだろうな」
苦笑いしながらのドクの台詞に皆が納得したような顔をする。シロはというとクロの前に来てクロと見つめ合っている。そして頭を下げるクロに頷くと寝ていた場所まで戻って行った。今ので何かしらのやり取りがあったのかどうかは俺には判断ができなかった。
その後、少し離れた場所で朝練を行う。最近はレナとリナもミルに体術らしきものを習っている。メリル曰く「魔導師も最低限の体力が無ければ、魔法を撃つ前に殺されますわ」とのこと。自身は全く体力がない癖に一体何を言っているのかとも思うが、メリル程のレベルになるともはや体力云々ではないのだろう。杖がないと無力だが。まぁそんなこんなで双子はミルがトレーニングを見ることになったようだ。
「くっ!?」
「どうした? そんなもんか?」
コウは剣を使ってドクと打ち合っている。かなり上達しているが、それでもまだまだ剣王と呼ばれる師には程遠いようで簡単にあしらわれている。
「こうなったら……」
そう言ってコウは気力と魔力を纏いだした。そして次の瞬間体が薄らと輝きだし、一瞬でドクに詰め寄った。
「うおおお!? な、なんだあ!?」
ドクは戸惑いながらもコウの嵐とも呼べる剣戟を華麗に捌く。コウの使っているあれはまさか……。
「神気!?」
そう。それは俺が編み出した気力と魔力を融合させる神気という技術。気力や魔力の濃度や強さによって効果が今一つ安定せず、まだまだ研究の余地が必要なあれだ。それをコウは薄らと全身に纏っている。どうやら身体能力が大幅に上がっているように見受けられる。細胞が活性化しているのか、はたまた身体能力を魔法的に補助しているのか。以前、俺が使った時には爆発したような気がするので、危なくて俺は全身に纏うなんて真似はしていなかったが、まさかそんな効果があるなんて思いもしなかった。確かに爆発というよりは爆発的な高エネルギーが発生しているという感じではあったが……。それをコウは極自然に体に纏って使いこなしている。薄らと発光した体が高速で動く為、光の粒子の様な残像を残して移動しているその姿はまさに質量を持った残像のようだ。なにあれ超かっこいいんだけど。
しかし、それでもやはり剣王の壁は厚かったらしく、最終的にコウは剣を弾き飛ばされていた。
「ハアハア、やっぱり……勝てなかった。良い感じ……だったんだけどなぁ」
コウは息も絶え絶えに悔しがっている。ほんの数秒使ったわりには消耗が激しいようだ。
「コウ、お前いつの間にそんな技覚えたんだ?」
「んーと昨日遊んでる時に何となくやったら出来た」
コウはドクの問いにあっさりと答えた。この子天才かも!! さすが俺の子だ。だが神気は消耗も激しく使うにはかなり危険な部類なので、多用してはいけないと一応注意しておく。コウの場合は殆ど感覚のみで使いこなしている感じなので、慣れる為にはもっと使った方がいいのかもしれないが、それでも危険な技術なのでもっとじっくりと練度をあげていくべきだろう。金髪に輝くスーパーなあの人みたいに極自然にその状態で過ごして慣れさせるのが一番か? アイリも俺も近くにいる状態なら何があっても大丈夫だろうし。早速移動中の馬車で俺も一緒にやってみることにしよう。
キリもいいのでそこで朝練は終了し、朝食を摂る。コウが規格外になっていくハプニングはあったが、それ以外は普通にいつもの朝練だった。疲れて倒れこんでいる双子の姿もここ最近では見慣れた光景である。その後、朝食をとっているとミルが何かに反応する。その視線に釣られてその方向を見ると遠くに何かが移動してくるのが見えた。
「岩蠍だ」
「岩蠍の集団だと!?」
ミルの呟きにドクが驚きの声で返す。岩蠍とは要するに巨大な蠍だ。岩の様に丈夫な甲殻と鋭い鋏、そして尾は蠍と言うよりも鋏虫という感じで二股に分かれている。遠くから見るとフォルムは普通の蠍なのだが、この距離からみて大まかな蠍の形が判別できる時点で異様な大きさであることがわかる。
「あんな大群初めてみたぜ」
そもそも岩蠍は単体で動くことが多く、集団行動するような生き物では無いらしい。だが今現実に100匹以上はいるであろう集団がこちらに向かってきている。
「どうする? 普通ならこっちが全滅する数だから逃げの一手なんだが……」
討伐依頼でいうと単体なら銀2ランク程だが、あれほどの集団となると恐らくランクは跳ね上がるだろう。そしてドクが逡巡しているのは俺とメリルという存在のせいだろう。何せ二人ともいわゆるマップ兵器のような攻撃手段を持っているからだ。
「私が行きますわ」
ドクの意見にどうしようか考えているとメリルが立ち上がった。なんでも双子に見せたい魔法があるらしい。
「リナ、レナ」
「なんですか師匠?」
「また浮いたまま命がけの鬼ごっことか嫌ですよ?」
ぶつくさと文句を言いながら綺麗な金髪の双子がメリルに答える。
「あらあら、師匠に対して随分と生意気な口を聞きますわね」
その一言に双子は「ヒイィ」と怯えて抱き合う。ちなみに浮いたままの鬼ごっことは浮遊魔法でメリルの誘導弾から逃げるというものだ。当たると死にかけるので逃げる方は必死である。そんな修行を見ても母親のルナは笑って眺めている辺り、実は相当なドSなのか? むしろレアンの方がメリルにやり過ぎと文句を言っている程である。あのメリルに文句を言える辺り相当子煩悩なパパになりそうだ。
「まぁ良いですわ。良い機会ですからこれから魔法を見せます。良く見ておきなさい」
そう言ってメリルは杖を目の前に出すと体の前に光の球が出来ていく。完全な球という訳でなく、例えるならマリモのようなヤドリギのような。いくつもの細い物が集まったような球体である。それがドンドン大きくなっていきメリルより遥かに大きくなった所で、集団の遥か頭上へと飛んで行った。
「弾けなさい!!」
メリルの言葉で球体は勢いよく弾け飛び、そして何かが蠍の集団に降り注いだ。それはメリルの身長よりも大きな光の槍の様なものだった。それが広範囲に雨の様に降り注ぎ、下に居る蠍たちに一斉に突き刺さる。広範囲だが、槍の間隔が絶妙でかなりの蠍が槍に突き刺さって息絶えたようだ。岩のような甲殻とは一体……。だが全滅したわけではないようで、運よく光の雨を逃れた2匹の蠍がこちらに向かってきた。しかし前に出たレアンとドクによってその2匹は一瞬で倒された。ドクはあの刀をずいぶんと自然に使いこなしているようだ。常人ならいつ動いたのかすら見えない速度で蠍とすれ違い、刀をしまった音がしたと同時に蠍が綺麗に2分割された。レアンに至っては普通に下からぶん殴って裏返しに倒した後、腹の上に乗り拳を叩きつけて潰してしまった。本当ならこんなにあっさり倒せるような相手では無かったはずなのに、その集団が気づけば瞬殺である。よくよく戦力がおかしい集団だと改めて思い知ることとなった。
「メリル、あの魔法はなんだ?」
「私のオリジナル魔法ですわ」
メリルは自信満々にふんぞり返るようにこちらを見てくる。あの魔法にはまだ名前が無いということで何故か俺が考えることになった。ヤドリギの木みたいだったから……。
「ミストルティンてのはどうだ?」
「どういう意味ですの?」
「あの魔法発動前の球みたいな格好の木があるんだ。伝説の武器の名前にもなってる」
「聞いたことありませんが貴方にしては良い名前ですわね。あの魔法はミストルティンと名付けましょう」
ということでメリルの拡散弾はミストルティンという名前になった。どうせ使えるのがメリルだけなんだから何でもいいだろう。
「おい、なんかまだ来てるぞ」
メリルと会話してると遠くから何かが接近してくるのが見える。まだ何かあるのか、早く朝食食わせろと辟易としてドクの言う方向を見ると、巨大な猿のような生物がこちらに向かって走ってきている所だった。
「紫猿鬼かよ!? 岩蠍はあいつから逃げてたんだな」
ドク曰く、猿鬼は集団で行動する角の生えた猿で、丈夫な毛皮と鋭い爪、そして高い知能を持っている獣だそうだ。その猿鬼という獣が魔獣化したものが紫猿鬼らしい。そして猿鬼は岩蠍が好物らしいので恐らくそれを追いかけてきたのだろうとのこと。遠くから見ると普通の猿なんだがやはりこの距離で形が判別出来る辺り縮尺がおかしい。そして集団で行動すると言う割に1匹しかいない。魔獣化したせいで単独行動するようになったのだろうか。ちなみに紫猿鬼は銀7相当でそこに猿鬼の集団が合わさると銀8まであがるそうだ。熊より強い猿って一体……。
「で、あれはどうする?」
「蠍追いかけてきたならこっちこないんじゃない?」
遥か遠くにはメリルによって串刺しにされた蠍の死体が一杯ある。餌には困らないだろう。
「生きて無い餌に目を向けるかだよなぁ」
猿鬼は元々生きている蠍を好むそうだ。ならばその猿鬼が魔獣化した紫猿鬼ももちろんその特性を残していると考えるべきだろう。案の定、蠍の死体を素通りして猿はこちらへと猛然と向かってきている。
「じゃあ昨日考えた魔法を使ってみますわ」
そういうとメリルがまたしても前に出て杖を掲げた。またしても光の球が出来るが今度は大きくならずにどんどん小さくなっていく。
「行きなさい!!」
メリルの言葉に打ち出されるように野球のボールくらいの大きさになったその球はかなりの速度で射出された。猿はかなり遠いので当たったかどうかはわからないが、猿が咄嗟に避けたように飛び退くと同時に、猿がいた場所に凄まじい爆発が起こった。一瞬後、凄まじい衝撃が俺達を襲う。アイリが防御魔法を使って皆を庇わなければ、軽いコウ達なら後ろに吹き飛んでいたかもしれない。それほどの衝撃だった。
「先日貴方の使った魔法の爆発を再現してみたのですが……まだまだですわね。今の私では10発分くらいしか同時には撃てないでしょう」
メリルは恐ろしいことを平然と言ってのける。あの流星砲撃を自力で再現しようとするとは……。この子怖い!! なんて思っているとまた名前を考えろと言われた。流星砲撃を真似たのならもじった方がいいだろう。星で爆発とすると……ビッグバン? そこまでいくと宇宙誕生か。超新星ならスーパーノヴァだが……燃え上がる炎とまぜてフレアノヴァなんて中二っぽくていいんじゃないか? というとそれに決まってしまった。こんな意味分かんない単語でもいいらしいので、これからはなんかもっと適当につけても良さそうだ。超威力の魔法を連続で見てコウ達子供は大はしゃぎだが、反対にドク達はもう達観したような表情になっている。もはや驚くのも馬鹿らしい状態になっているのだろう。ちなみに猿がどうなったのかわからないので警戒はしている。土煙がすごくて確認が出来ないのだ。ただミルが反応していないということは特にこちらに向かってきてはいないのだろう。
その後、何も来ないことを確認した後に朝食をとり、すぐさま出発する。あんなヤバい魔法をバカスカ撃たれたらとても馬車なんて進めないと思うだろうが、幸いにも蠍や猿が来た方向が進行方向ではなかった為に進路に影響はない。遠くに森のような緑が見えるので、あそこまで行けば木がある以上メリルも自重すると思われる。メリル達の種族は木を大事にするらしいからだ。それを考えるとむしろ木がない場所で襲ってこられたのは運が良かったと考えるべきか。あの数の獣はさすがに周りを配慮していては殲滅するのは難しい。子供もいる現状で、あの大群相手に各個撃破なんて真似は正気の沙汰ではないだろう。無傷で殲滅出来ないことはないが、手持ちのカードを温存しておけるならしておきたい。無駄に使わないで済むならそれに越したことは無いのだから。
その後、見えてきた森の傍を通り馬車で一路西へ向かう。朝の喧騒が嘘のようにその後は何の問題もない旅となった。俺は馬車の中ではコウに話を聞きながら神気を纏う技術を試してみるも全然体に変化がない。何とか神気を纏うことは出来てもそれによって何の効果も体感することはできないのだ。コウは明らかに早く、そして強くなっているというのに……。これはつまり神気での身体能力アップより俺の所持しているスキルの身体能力アップの方が強力なせいで効果がない、もしくは薄いという可能性がある。それだとさすがにパッシブスキルを無効にでもできないかぎり確認しようがない。とりあえず俺が神気を纏うことについては一旦保留にし、しばらくはコウの神気の訓練を見つつ自分も神気調整の訓練をすることにしよう。
森の傍を通り日が天の頂上に差し掛かる頃、前を行く馬車からリナとレナが飛んできた。文字通り空に浮いたまま御者台と同じ高さで浮いた状態でこちらにだ。良く見ると二人ともふらふらである。恐らくメリルにずっとやらされているのだろう。
「キッドお父さん、村が近いって!!」
「キッドお父さん、師匠に何とか言ってよ!!」
この二人も何故か俺のことをお父さんと呼んでいる。父はレアンじゃないのかというとコウちゃんのお姉ちゃんだからという理由らしい。俺には意味がわからなかったがレアンはパパと呼んでるらしいのでまぁいいかとそのままにしてある。村については食料もあるし特に寄る理由もないので素通りしていくと二人に言うと、声だけは元気に「わかった!!」といいながら二人はまたふらふらと前の馬車へと飛んでいった。旅は順調に進み数日後、俺達は無事にこの国の王都へと到着した。
☆
「まだそんなに経ってないはずなのに、とても懐かしい感じだ」
街の入り口でしみじみとドクがそう呟いた。ドクとしても色々と複雑な感情が湧きあがっているのだろう。ちなみに入場に関してはドクの顔パスで入ることが出来た。有名人だけのことはある。だが念の為にアイリ達には以前俺の買った首輪をしてもらっている。何の効果もない首輪で、すぐに自分で外すことが出来るやつだが、無いと色々と問題が起こり兼ねない国なので警戒してのことだ。ちなみにメリルとレアンはしていない。きっと襲ってきたら嬉々として返りうちにするのだろう。全くたちの悪いトラップである。
その後、ドクについていき街中を馬車で走る。元々馬車が通ることを考えて設計されているのか、通りはかなり広めに作られているようで、馬車で通るのに何の問題もなかった。
「ここだ」
そう言って止まったのは大通りを少し過ぎた場所。周りが少し空き地になっている為に余計に庭が広く感じる大きめな屋敷だ。
「エミリア!! ローナ!! 帰ったぞ!!」
そう言ってドクは家へと入っていく。鍵とかかかってないのか? 不用心だな。
「ドク!?」
「パパだー!!」
「ははっエミリアちょっと大きくなったんじゃないか? 元気だったか?」
「うん!!」
扉の隙間からそんな声が漏れてくる。さすがに親子の感動の対面にお邪魔するほど俺も無粋ではない。そのまま俺達が忘れ去られないか心配ではあるが。
「馬鹿……」
「ん?」
「馬鹿!! もう会えないかと思ってたんだから!!」
「ローナ……すまない、心配かけた。もう大丈夫だから」
「でもあなた、一体どうやって……」
「ある人に助けて貰ったんだ。あっ!? すまん外にその人を待たせてたんだ。ちょっと待ってくれ。旦那!!」
そう言って扉を開けてドクが出てくる。足元には金髪の可愛らしい女の子がくっ付いてこちらを珍しそうに見ている。
「この人が俺を助けてくれた恩人。キッドの旦那だ」
「初めまして。キッドです」
「ご丁寧に。この度は主人がお世話になりました。妻のローナと申します」
そう言って家の中から現れたのはおっちゃんの奥さんに勝るとも劣らない美人だ。薄い緑の髪がシルクのように透き通った輝きを見せ肩に掛かっている。そして腰は細いのに出る所は出ており、とても子供を1人産んだとは思えないプロポーションだ。
「おじちゃんだれー?」
足元の可愛らしい子供が首を傾げながら尋ねてくる。
「パパの恩人だよ」
「恩人?」
「パパを助けてくれたんだ。エミリアもご挨拶しなさい」
「うん!!」
そう言って小さい子はちょこちょことあるいて俺の前まで来た。
「エミリアです!! 4歳です!!」
「おおーちゃんと挨拶出来るんだね。えらいぞ」
そう言って俺はエミリアの頭を撫でる。エミリアはされるがままに頭を動かすが、嫌がるどころか嬉しそうに目を細めている。
「おじさんはキッドっていうんだ。パパのお友達だな」
「キッドおじさん?」
「ああ」
「パパを助けてくれてありがとう!!」
何をどうしたのか聞いてもいないのに助けたと言う単語を聞いて理解しているのか? まぁドクが自慢するだけのことはある。可愛くていい子の様だ。
「みなさん是非上がって下さい」
奥さんの言葉に従い、馬車を庭に置いて俺達はドクの家へとお呼ばれすることにした。