44:光の妖精
10年振りに帰る村は、私が飛び出したあの時から、その姿を殆ど変えていなかった。
「ミル!? ミルなのか!?」
村の入り口にいるこの男にはうっすらと見覚えがある。私がまだ村に居た頃に何度も私に声をかけて来たやつだ。名前は……忘れた。私は適当に挨拶しながら家のあった場所へと向かう。そこには10年前と変わらない我が家があった。ただ、以前は何も建って居なかったはずの右隣に同じような家が建っていた。私は期待どころか不安でいっぱいの状態で家の前に立つ。父が居たら行き成りぶん殴られるかもしれない。扉にかけた手が震える。中々入ろうとしない私を、手をつないでいるミクがこちらをみて首を傾げる。私は勇気を振り絞り家の扉を開け放った。
そこには誰も居なかった。考えてみればまだお昼だ、猟に行ったり畑に行ったりしているだろう。安心感からため息を一つついた後、家に入り中を見る。所々記憶と違っている所もあるが、概ね私が出て行く前と変わっていなかった。2階に上がり、かつて自分の部屋だった場所に入る。そこは10年前と全く変わっていな……
「変わりすぎでしょ!!」
完全に倉庫にされていた。所狭しと色々な道具が置かれていた。ベッドの上にすら……。呆然としていると下に気配を感じた。部屋を後にし、1階へ降りてみるとそこには畑から帰ったであろう母の姿があった。
「ミミ? どうしたのこっちに来るなん……」
妹と勘違いして喋る母が私の姿を見て固まった。
「ミル……なの?」
「ただいま、かあさん」
「ミル!!」
母は私に向かって走り出し、そのまま私は捕まって抱きしめられた。
「無事で……無事でよかった……」
「心配かけてごめん、かあさん」
忘れていた母親のぬくもりに思わず私も涙が零れてしまった。
「元気そうでよかったわ、そっちの子が貴方の娘なの?」
「ち、違うよ!! この子は奴隷にされてた子で、私が引き取ってきたんだ」
結婚どころか、男と付き合ったこともないのに子供なんて……。思わず顔を赤らめてしまった。
「そうなの、お嬢さんのお名前は?」
「ミク」
「そう、ミクちゃんなの、いい名前ね。何もないところだけどゆっくりしていくといいわ」
そういってミクを抱きしめる母。「かわいい!! ミルの子供の頃よりかわいいわ!!」と大変失礼なことを言っている。ミクも嫌がることなく嬉しそうに母のなすがままにされている。
「お父さんは夕方までは帰らないだろうから、それまでゆっくり待っていましょ。お昼はまだよね? すぐ準備するわ!! あっ先にミミにも教えないと!!」
そういって母は外へ飛び出して行ってしまった。
「騒がしい母でごめんねミク」
そういうとミクはフルフルと首を振る。どうやら母は気に入ってもらえたようだ。
「お姉ちゃん!!」
しばらくすると母が妹を連れて帰ってきた。妹はすでに結婚しており、1児の母なのだそうだ。隣の見慣れない家は妹夫婦の家だったらしい。
「久しぶり、ミミ。元気だった?」
それから妹に10年も連絡もよこさずどこに行っていたのかと問い詰められた。しかし、今はそんな話をしている暇はない。
「お母さん、この子身寄りがないの。家で預かってもらえないかな?」
本当なら私が一緒に暮らすべきなのだろうが、私はまた旅に戻るつもりだ。無責任かもしれないが、こんな小さい子を危険な旅に連れて行くわけにも行かない。
「もちろんいいわよー。貴方達が独り立ちして、お父さんも私も寂しかったからちょうど良かったわ。この子は家の娘として育てることにするわ!!」
どうやら父の意見は全く聞かないらしい。家は母が最上位の存在なのでどっちにしろ誰も逆らえない。あの凶暴な父ですら睨まれるだけでおとなしくなってしまうのだから。
「それじゃ私はまだちょっと用があるから、すぐ戻るからミクはここでまっててね」
そういって私は村長の許へと走り出した。
10年振りにあった村長はその姿を全く変えていなかった。一体何歳なのか分からないこの村長は、10年前からずっと約100歳といっている正真正銘の化け物だ。その化け物に聞いてもやはり他の種族の村の位置は分からないそうだ。元々私達獣人は他種族とあまり交流がない。10年前までは人間の街で交流することもあったが、森で生活している時に交流することがないのだ。
場所が分からないのはしょうがない。そこでもう一つのお願いをすることにした。キッドが帰ってくるまでの間、他の子達をこの村で預かることができないかというものだ。女子供ばかりなのと、人間が居ないとの理由で了承してもらえた。村のはずれに空き家が一軒あるのでそこを使うといいとのこと。ただし、面倒までは見られないので、そこは私に任せてもらうことにした。
ずいぶんと時間を食ってしまったので急いでキッドの許へ戻り、亜人の子達の滞在許可が下りたことを話す。それと他種族の村の場所がわからないことも。村の場所が分からないのは想定していたようで「そうか」と一言いうだけだった。
私はキッドから3日分の食料と各々が使っていた毛布、そして背負子を受け取った。背負子は金虎族のリンが背負ってくれた。この子は見た目は美しい少女なのに力はとんでもないのだ。ただ、その代わり非常に燃費が悪いのか良く食べる。妹のマオちゃんも同じく、体の割りに非常によく食べるので種族的に大食らいなのかもしれない。
村の中へと行く前に話を聞くとキッド達はすぐにそのまま西へと向かうようだ。戻ってきたらまた合流したいというと了承してもらえた。この男についていけば少なくとも一人で行動するより遥かに安全だ。彼についていけば無事にリグザールへと戻れるだろう。もしかしたらあの遺跡の攻略を手伝ってもらえるかもしれない。そんな思いを胸に皆を連れて空き家へと向かった。空き家はまだ空いてから間もないらしく、結構手入れが行き届いている状態で、数日滞在するくらいなら何の問題もないくらいだった。
食料と毛布を渡し、皆にはここで暫く寝泊りするようにいい、私は自宅へと戻っていった。自宅に戻ると母達3人は食事を取らずに待っていてくれたようだ。いや、3人ではなく4人になっていた。妹の横に、妹をそのまま小さくしたような女の子が居た。
「ミラ、この人がミルおばさんよ」
おばさん……事実だけどなぜかその言葉が心に突き刺さって非常に痛い。ミラはミクと同い年らしく、すぐに仲良くなったようで、隣で仲良く話をしている。
「それじゃ、お昼にしましょうか。ミルも突っ立ってないで早く座りなさい」
母にせかされて席に座る。そして家族で一緒に食事を取りながら、私は今までのことを話す。奴隷にされていたといったときは母も妹も驚きを通り越して固まってしまった。それからキッドとの出会い、そしてここまでの道のり。
キッドとの付き合いはほんの数日しかない。一緒に居ると未知の遺跡に潜っている時のような感覚を受けた。彼を見ているだけで、これから何が起こるのだろう? 見ているだけでそんな不思議な期待が溢れてしまう。緑猫族は若い頃は誰も彼も好奇心旺盛だ。これは種族的な本能なのでどうしようもない。そんな私が彼に惹かれてしまうのは当然の帰結なのだろう。彼はやることなすことでたらめで全く予想がつかない。一緒に居れば退屈することはないだろう。
無意識に私は楽しそうに話をしたのだろう。母も妹も人間を好きになるのはやめておけと忠告してきた。それについては大丈夫だ。人間が嫌いというわけではないが、キッドは好みのタイプというわけではないので、異性としては見ていない。あくまで興味をそそる存在、それだけだ。
その後、ミクはミラに連れられて外へと遊びに行った。さっそく友達ができたようで何よりだ。私は久しぶりに村を散歩することにした。空き家にいる皆は成るべく出歩かないように言ってある。人間でないとはいえ、他種族に出歩かれたら村人が混乱するかもしれないからだ。まぁこの村に特に見るものなんてないから問題ないだろう。
村の中を歩いているとどうにも男達がピリピリしている感じがする。私達が来た所為とも思っていたがどうやら違うようだ。
「ああ、最近この近くで馬鹿げた大きさのオオトカゲを見たって報告があったんで警戒してるんだ」
とは、最初に村の入り口でであった男の話。名前は未だに思い出せない。オオトカゲといえばキッドが訳の分からん奥義とやらで殺したあいつか。オオトカゲそのものは遺跡で見たことがあるが、あそこまで大きなやつはみたことがなかった。それを問答無用で素手で殺すとか意味が分からない。あいつをみてると私の中の常識がどんどん崩れて言ってしまう。気をつけなくては。
「そいつならもう倒されてるよ」
「なんだって?」
「まぁ信じてもらうにもあたいは証拠とか持ってないから別に信じなくてもいいけどね」
そういって手を振りながら私は村の中をのんびりと歩く。家の数が増えているくらいで、村はあまり変わったように見えない。
「ミルちゃん!? ミルちゃんじゃないか!! 元気だったかい!? 10年もどこいってたんだよ!!」
小さい頃お世話になった近所のおばさん達が話しかけてくる。この村では子供は村全体の子供として大切に育てられる。そんな恩恵を受けながら、私はその恩を返さずに村を飛び出した。決まりきった生活に飽きたというのもあるが、この村にいたのでは未来が簡単に予想できてしまう程、代わり映えのない日々が続いたあげく次第に何も感じなくなり、そのまま静かに心が腐っていくのでは? と恐怖にも似た感情を覚えたからだ。
好奇心の塊である緑猫族が好奇心を失う。それはまさに心の死を意味する。狩りに出る男達はまだいい。では狩りにでない者はどうなる? 毎日畑との往復くらいだ。この村の女性陣はどうやって毎日を過ごしているのだろうか。10年前まではまだ人間達との交流があった。だが今はどうだ? 母から聞いた話では街に出ることもなければ、人間がこの村まで来ることもない。以前から付き合いのある商人は今でも変わらず客として扱ってくれているらしいが、この村まで来ることはない。特定の時期に危険を冒して森の外のとある村まで行かなければならないらしい。
そんな危険な役目が女に廻ってくるわけがない。そうなるとこの村では私の好奇心を満たすことは殆どできないだろう。この好奇心は子供を生めば大分薄れるとのことだが……。私には当分無理だろう。それに私には目的がある。そのために、私はリグザールに戻らなくてはならない。
考え事をしている間に村の外れまで来てしまったようだ。昔はよくここから森に入って怒られたものだ。昔を懐かしみながら家に帰ろうと私は踵を返した。
思いのほか時間が経ってしまったようで家に戻ると夕方近くになっていた。夕食の準備を手伝おうとするが、今日はお客扱いとのことで母に却下された。なぜか妹も来ており、母と一緒に夕食の準備をしている。旦那はほったらかしでいいのだろうか。
夕食を待っている間にミクとミラの2人と遊んでいると家の扉が開かれた。
「ただいま」
父が狩りから帰ってきたようだ。手にはラビを持っている。10年ぶりに見る父はずいぶんと老けたように見えた。緑猫族は成人してからあまり外見は変わらないが、それでもやはり私が村を出る前よりずいぶんと老けて見える。
「おかえり、父さん」
私がいうと父が目を見開いて固まった。
「ミ……ル、なのか?」
「そうだよ、ただいま父さん」
そういうと父はものすごい勢いで駆け寄ってきた。ああ、これは殴られるなと思って歯を食いしばって目を瞑る。しかし、いつまでたっても衝撃が来ない。恐る恐る目を開けると父が私を抱きしめて泣いていた。
「馬鹿が!! この馬鹿娘が!!」
それを見て思わず私も涙が出てしまった。口煩くしていても、やはり私を心配してくれていたのかと。喧嘩別れのような形で飛び出した私なんかのことを……。
「ごめんなさい、父さん」
そう思うと今までずっと言えなかった言葉が、不思議とすんなりと口から溢れ出ていた。それから妹の旦那も呼んで家族みんなで食事をとった。料理の質なんかは昨日キッドに連れて行ってもらったところとは比べ物にならないくらい貧相だったが、それでも私が今まで食べた食事の中で一番美味しかった。
食事も終わりまったりと家族で話をする。昔の私では気がつくことができなかった。普通の家族なら当たり前のような光景だが、実はこの時間こそが最高の幸せなのだと10年経ってからやっと気がついた。家族の有り難みというのは、普段から一緒だと気がつきにくいもので、私は失ってから初めて気がついたようだ。それでも私はそれを捨てて旅にでるつもりだ。
「また、旅に出るのか?」
そんな私の気持ちを察したのか父が尋ねてきた。うんと答えると待ってろといい席を立つ。しばらくすると何かを持って帰ってきた。
「これをやる」
ぶっきらぼうに渡されたのはひと振りのナイフだった。銀色に輝くそのナイフはとても綺麗で、柄の部分にギザギザの模様がある。
「うちに代々伝わるナイフだ。俺もオヤジから15の時に受け継いだ。古いが切れ味は確かだ。もってけ」
「でも……私……」
「ミミは嫁いでるし、俺もすでに使うようなことはない。一番必要なのはお前だろう」
「わかった。ありがたくもらっておく」
そういって渡されたナイフを手にする。初めて持ったのにとても手にしっくりくる。そしてすごく力を感じる。
「いつ出るんだ?」
「わからないけど、早ければ2、3日中には出ると思う」
川の辺りっていってたから、早ければそれくらいで戻りそうだ。普通はもっと掛かりそうなものなんだけど……。その後うつらうつらと船を漕ぎ出したミクをベッドに運んだ。私の部屋は倉庫になっているので、以前妹の部屋だった場所だ。その後、一旦空き家に顔を出した後、私もミクと同じベッドに寝ることにした。倉庫を片付ける時間がないわけじゃなく、どうせまたすぐ出て行ってしまうから、片付けることに意味がない気がしたからだ。そんなに大きくはないベッドだが、子供1人くらいなら余分に載せても問題はないようだ。
ムニャムニャと寝言のようにつぶやくミクを抱きしめて、私は10年振りに何の警戒をすることもなく意識を落とすのだった。
◆
川を渡り南下すること2時間。俺達はようやく最初に川に訪れた地点にたどり着いた。ここで俺は考える。このまま村に向かえば1時間程で着くだろう。しかしさすがに夕方から出発するわけにはいかない。ならば皆にはもう一泊してもらって明日の朝出発したほうが良いのではないか? 一応すぐ出発できるように、村に行き明日出発するということだけを伝えて野宿することにする。
門番にミル宛ての伝言を頼み、村から少し離れた所で今晩は休むことにした。村の入り口に人間が2人も居たのでは、さすがに見張りの気が休まらないだろうとの配慮からだ。村から少し南下した場所に空けた所があったのでそこで夜を明かした。
翌朝、早めに起きて川まで向かった。1人だったので周りを省みず全力で向かうと10分程で到着した。そこで俺は鞄から竿を取り出し釣りを始める。昨日川を渡ったときに気づいたが、ここはかなり魚が多く、釣りスポットになりそうだったのだ。とりあえず毛針を使って釣ってみることにする。竿は折りたたみで普通毛針釣りするようなものではないが、まぁモノは試しだ。竿を振ってみると思ったように飛んでいかない。そこでルアーの代わりに使おうと思い、毛ばりの上に小さな重りを付けてみる。すると良く飛ぶようになったが完全に毛針の釣りではなくなった。小さなルアーで釣りをしているのと一緒だ。だが、驚いたことに投げたら即ヒットした。網がないのでそのまま引き上げると30cmくらいの鮎っぽい魚だった。俺は鞄から携帯用のバケツを取り出して水と一緒に魚を放り込んでおいた。ちなみにバケツはキャンプ用品としてこちらの世界に持ってきたやつだ。元々釣りをするつもりだったからな。
その後も入れ食い状態が続き、10匹程釣ってバケツ2つ分がいっぱいになった所で戻ることにする。戻るとアイリがちょうど起きたところのようだった。俺が川に向かう時にはドクはまだ寝ていたが気配で気づいていただろう。なんだかんだいっても達人だからな。
釣ってきた魚3匹を朝食にした。非常に旨かった。小学生の頃にキャンプに行って食べた鮎の塩焼きを思い出した。ただ焼いた魚に塩を振っただけでどうしてこれほど旨いのだろうと不思議に思う。食べる場所によるのか、それとも魚の鮮度だろうか。
食事が終わり村へと向かう。門番に話を通して暫くすると村からミル達が現れた。ただ、ミルの後ろに知らない人影がある。
「君がキッド君かね」
そう尋ねてきたのはミルと同じ緑の髪をした猫耳の男だった。話を聞くとミルの父親らしい。
「娘達を助けてくれて感謝する」
そういって隣に居る女性達と一緒にお辞儀をする。恐らく母親だろう。もう1人は妹か姉か? しかし娘達ってことは恐らくミクを娘として迎え入れたということだろう。人間が相手でも全く物怖じせず、憎しみも感じさせずに応対しているあたり、緑猫族そのものがあまり人間に対して恨みを抱いていないのか、それともまだどこかで人間と繋がりがあるのか……。娘を奴隷にされて恨みがないなんてことはないだろう。とするとまだ他の人間との繋がりがあるのかもしれないな。まぁ俺にとってはどうでもいいことだ。
「どう致しまして。それよりこれ今朝釣ってきたんですけど、余ったので良かったら差し上げます」
そういって釣った魚を見せる。と、親父さん達は目を見開いて驚いた。
「い、いいのか?」
「はい。ただ、入れ物は使うので別のものを用意して欲しいんですが」
そういうとミルの母親らしき人がすぐさま走って行き、木で出来た桶、というよりはバケツのような物を持ってきた。それに魚を入れると後ろで見ていたミクが涎を垂らしていた。魚好きなんだ……。
「ま、まさか……今朝の朝食は……」
「これ食べたよ?」
そういうとミルが地面に項垂れてしまった。ミルも魚が好きなようだ。数匹残しておいても良かったかな……でも全員分ないからここは譲っておいたほうが後々面倒なことにならない分良いだろう。
「また、池や川があったら釣ってみるから」
「本当か!?」と目を輝かせてくるミルに思わず苦笑いしてしまう。一端のハンターのはずなのに、こうしてる姿はまるで子供のようだ。その後、親父さんがミルを諌めて「こんな娘ですがよろしくたのむ」と、頼まれてしまった。
その後、村を出発して東へと向かう……が、その前にカードを1枚使っておくことにした。
「305セット」
No305C:転移陣を設置することができる。転移陣に名称をセットする必要がある。別の転移陣と同じ名称はセットできない。このカードは転移位置を設定するだけで移動はできない。移動するにはNo306C:転移移動のカードが必要。
名称は猫村でいいだろう。ちなみに306はまだ引いてないので転移することはできない。しかし、位置だけセットしておけば、後から306を引いたら一瞬で戻ることができる。そうすればミルもたびたび戻ることが出来るようになることだろう。置いてきたミクのことも心配だろうしね。
そんなことをしつつ「さて、どうやって他の村を探したものか」と独り言を言っていると、アイリが木の精霊魔法を使うといってきた。なんでもどんな生物かまでは分からないが、生物の集落を見つけることはできるのだそうだ。もっと早く言って欲しかったが、良く考えると早く言ったとしても、ここまでのルートで変わることはなかっただろうから別に問題ないか。むしろそれを見越して今言ってきたのかもしれない。恐るべしエルフっ娘。
「ここから東に2日、北に1日程いった所に集落があるようです。一番近いのはそこですね」
「何がいるかわからんけど、そこから行って見るか」
とりあえずそこを目標にそのまま東に向かうことにしたその日の正午過ぎ。
「皆止まって」
先頭を歩いていたミルが止まる。いつもは俺が先頭なのだが、今日はなぜかミルが先頭を歩いている。なんか急にやる気をだした感じだ。手には俺が渡した剣ではなく、銀色の短剣を持っている。
「何か来る」
そう聞いて俺も魔力展開をしてみる。しかし、全く反応がない。どうやら俺の感知範囲内よりも外にいるようだ。暫くすると確かに複数の気配がこちらに向かってくるのが分かる。少し開けた場所まで下がり様子を伺っていると、光の玉のようなものがこちらに向かって飛んできた。
「たすけてー!!」
光の玉は俺の所に飛んできた。
ペチッ
思わずとっさに手が出て叩き落してしまった。地面に落ちたものを見てみると、いわゆる妖精という感じの生き物が居た。4枚の羽の生えた手のひらサイズの人間だ。
「い、痛いじゃないの!! 何す……ひぃぃ!?」
なんか喚いてるが隣でシロが唸っているのを見て怯えてしまった。
「何だお前は?」
妖精にそう聞くと同時に前方から複数の気配が現れた。それは子供のような大きさで角が生え、黄土色の肌をしたまるで子鬼のような姿だった。
「ゴブリンか!!」
ドクが叫ぶ。しかし、俺がシグザレストで見たのとちょっと違う気がする。場所によって違うのか、それとも俺が見たのが夜だったからなのか。良く見ると何かおかしい。ゴブリンの目の焦点が合っていないような……。元々こんなのだったっけ? 前倒したときは夜真っ暗で目までちゃんと見てないからなぁ。しかし、俺とシロがこんな近くに居るのにも関わらず逃げないってことはゴブリンは感知能力が低いのだろうか。前も近づいても気がつかなかったくらいだしな。
そんなことを考えていると森の奥から10匹程のゴブリンが出てきた。魔力感知に掛かるゴブリンはこれで全部のようだ。
「シロとドクは子供達を守れ。ミルは後ろと上を警戒」
「了解」
「わかった」
さて、どうするか。あのカードを使ってみるか。
「215セット」
No215C:爆破光球 術者の周りに光球を10個作り出す。起動後、術者は10個までターゲットをロックでき、攻撃命令でロックされた数だけ光球がターゲットに対し攻撃を開始する。光球は触れると爆発するが、その威力は起動時に術者が選ぶことができる。
カードを起動すると威力? (0~9999)というのが浮かんできた。この範囲で選べというのだろう。俺は適当に10と念じる。野球のボールくらいの大きさの光の球が頭上に10個程現れた。ゴブリン達を見ると驚いたり怯えたりはしていない。というか何か様子がおかしい気がする。魔物でこんな状態というのは今までに見たことがない反応だ。疑問を浮かべながらゴブリンを見ると1匹1匹にLOCK? という文字が浮かんでいる。ロックと念じると表示がLOCK ONとなった。ゴブリン10匹に対して全部ロックオンする。
「行け」
そう言うと光の球は縦横無尽に飛び回りながらゴブリンに向かって飛んでいく。そしてゴブリンに触れた瞬間爆発し、触れたゴブリンは上半身が跡形もなく吹き飛んだ。1つ目の爆発と同時にゴブリンは一斉に驚いて逃げ出そうとしたが、間に合うこともなく光球が直撃した。10回の爆発音の後、辺りは一転して静かになった。爆発はしたが、残ったゴブリンの下半身も回りの木もなぜか焦げたような後はなかった。そしてゴブリンは1匹も逃げきることもできず全滅した。
魔力探知をしても気配は感じなかったのでとりあえず戦闘体勢は解く。後ろを振り返るとやはり唖然としたドク達と目を輝かせる子供達がいた。
「い、今のは誘導攻撃の爆破魔法? まさか……いや、たしかに不可能ではないですが……そんなの魔導戦鬼クラスでも……」
ブツブツと呟くメリルがちょっと怖い。とりあえず目を合わせないようにしよう。と、思っていると何やら目の前を飛び回る姿が。
「すごいすごい!! 何アレ今の!! 貴方超強いのね!!」
さっき飛んできた羽虫……じゃなかった妖精がなんか頭の周りを飛び回っている。鬱陶しいから叩き落すかと考えているとなにやら話があるらしい。
「貴方の強さを見込んで頼みがあるの!!」
「だが断る」
「実……えーーーーーーっ!! 断るの!? しかも即答!? 断るにしてもちょっとは考えてよ!!」
プンプンと怒る羽虫は断るといったのを無視して話をし始めた。なにやら精霊を食べる巨大な魔物が現れて、このままでは森が大変なことになってしまう。自分達だけではどうしようもないからと退治できる勇者を探していたのだとか。
「自己紹介がまだだったわね。私は光の妖精族、ファム・イイリィよ。よろしくね!!」
どこかで聞いたような名前の、鬱陶しい羽虫が勝手に仲間に加わった。
気づいたら話が消える前と変わっていた。何を言っ