表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールドオーダー  作者: 河和時久
パトリア編
44/70

43:別れ

 翌朝、いつもどおりの時間に起きてドクを起こすと頭を抑えている。どうやら2日酔いらしい。たしか2日酔いは脳に水分として吸収されたアルコールが蒸発することにより、脳内の水分が足りなくなって痛みが発生するとかなんとか。そんな聞きかじりの情報を思い出し、ドクに水を渡し、俺は一人剣の素振りをする。

 

 すると朝早いにも関わらずコウが起きてきた。何かとたずねると俺の奥義を教えて欲しいとのこと。俺も修行中だが人に教えることにより分かることもあるだろうと、まず気と魔力の操作を教えることにした。奥義がいいと言っていたが、いきなり奥義は無理だからと納得させた。そして色々できたほうがいいということで、一緒にドクに剣を教わることにした。気や魔力の操作は移動中でもできるから後回しだ。

 

 そうしてコウが素振り、俺と2日酔いから復活したドクが剣で打ち合いをしているとウィルが起きて自分もやるといって混じってきた。コウに負けたくないようだ。どうやら幼いながらもライバル心というものがあるらしい。この辺はやはり男の子ということだろう。2人共ドクのことは師匠と呼び俺のことは先生と呼ぶようになった。一応区別しているらしい。先生といっても教えられることなんかあまりないんだが。そもそも子供達は獣人だから肉体的には俺を遥かに凌駕しているはず。俺の適当に作った技とか無いほうが強い気がする。

 

 人を育てるというのはその人のその後の人生を左右しかねないことだから、本来なら俺のようないい加減なやつが、弟子とか生徒なんて取ってはいけない。しかし、頼る者も居ない子供が頼ってきたのなら、たとえ無理なことでもその期待に答えるべきだろう。それが大人の責任というものだ。俺が言ったところで全く説得力がないが。

 

 とりあえず俺が今教えられることとなると気力、魔力操作と体術だが、これはほとんど色々なゲームや漫画の知識から考え付いたものなので、特にきまった型や流派なんてものはない。だったら自ら作ってしまおう。基本はやはり男のロマン、八極拳だろう。それに柔道なんかの投げ技やらを組み合わせていくか。本当は漫画のように太極拳や八卦掌を組み合わせて剛と柔を併せ持ったものにしたいのだが、さすがに合気道や太極拳のように他人の動きと力を利用するような技は独学では非常に習得が厳しいだろう。なら最初は剛よく全てを制すという精神で、あらゆる物を粉砕できる流派を目指す。余裕があったら柔の技を研究する。そして俺がそれらを考えているうちに子供達には気力と魔力の操作を教えることにしよう。

 

 そういえば昔何かで読んだことがある。格闘ゲームを作るにおいて一番大変なことは? と聞かれた製作者は即答した、それは技の名前を考えることだと。なにせ普通の弱パンチから全部名前をつけないといけない。ただのジャブですら命名規則にそった大層な名前をつけないといけないのだ。確かにそれは大変だ。それを考えると俺も一応なんかそういう風に名前を考えないといけないのだろうか。なんたら流弱パンチとか。実際は格闘ゲームみたいに弱とか強とかボタンの威力なんてないからそれは無理だ。やはりここは基礎にして秘伝みたいな強力な基礎を流派として築き上げるべきか。そうすれば技なんて全部それの延長だから、特定の必殺技っぽいの以外はいらないだろうし。

 

 

 

 剣を振りながら色々と今後のことを考えていると、ふと思いついた。以前、魔力をナイフに纏わせたときは何の変化も感じられなかったが、気力を纏わせた場合はどうなるだろうか? そう思い俺はドクとの戦闘中、気力で剣を覆ってみた。すると剣がまるで自身と一体化したような感じになった。まるで手の感覚が剣にまで伸びたようだ。そのままドクと剣を合わせるとドクが剣を弾き飛ばされそうになる。しかし、ドクは後ろに飛びのき勢いを殺して剣を離さなかった、さすがだ。

 

「おいおい、何時の間にそんなことできるようになったんだ?」

 

 ドクが呆れたように言う。聞くとこれはドクでもできるそうだが、めったなことでは使わないらしい。理由を聞くとまず気力の消費が激しいのと、その維持に集中してしまい、他がおろそかになってしまう可能性が高いことだそうだ。普通剣士の気力は周りに展開して不意打ちなんかを避けるために使うのが一般的なんだとか。まぁそもそも一対一の戦いなんてそうそうないから多対一を想定して、全方位を警戒するのは当たり前のことだろう。

 

 気力展開しながら剣にも気力を集中するのは非常に難しい。息をするようにずっと気力展開を続けるくらいの錬度がないと無理だろう。俺も少しの時間しか同時にはできない。全くできないわけではないので、訓練次第でできる様になれる気はする。まずは移動中、常時気力展開できる訓練を続けてみよう。ちなみに気力展開は気力の濃度というか、気力の濃さみたいなものが関係して精度が変わる。うっすらと大きく広げれば、気配だけは感じるが、何かを投げられたりしても探知できない。普段はこちらを使い、何かが察知できたり、戦闘になったりした場合には精度の高い展開にする、という使い方になる。

 

 

 

 

 

 剣を気力で覆えたので今度は以前試してみた気力と魔力の合成、神気を剣に使ってみる。気力を込めた剣に同様に魔力を込めてみると、剣が輝きだした。その状態で近くにあった岩を切りつけると爆音とともに岩が吹き飛んだ。それと同時に剣も砕け散ってしまった。

 

「あれ?」


「あれじゃねえよ!! なにしてんの!?」

 

 どうやら神気はものすごいエネルギーを秘めているようだ。なんだろう……例えるなら気力と魔力が対消滅してエネルギー変換されている感じか? 神気にした途端、溜めていた気力と魔力がものすごい勢いで光りながら消滅していくのだ。持続するには常に気力と魔力を同時に作り続けなければならない。まぁ攻撃に使う場合は、最初に発生させた神気が無くなるまでは神気状態は持続するので、その間に相手を倒せばいい。防御の場合は神気の持続が旨くできないと、つなぎを狙われる可能性があるので使いどころが難しそうだ。

 

「今のは前やってた気力と魔力を同時に使うやつか?」


「ああ、ちょっと剣で試してみた。手ごたえからすると単純に気を纏うより何倍も強そうだ」


 そう答えつつ今度は剣ではなく拳に神気を纏ってみた。そのまま隣の大岩を殴ると、先ほどと同じように岩が吹き飛んだ。今度は隣の岩に向かって神気を一点に集中させて前方に打ち抜く感じで殴ってみる。すると岩は拳大に穴が開き、向こう側に貫通してしまい、砕け散ることはなかった。さらに今度は手のひらに神気をためてその状態で岩に触れてみる。すると殴ったときと同じように岩は砕け散った。どうやら神気は触れると兎に角破壊してしまうようだ。

 

 今度は魔力と気力をかなり少なめに調節して反応させてみる。すると神気にはなったが光がかなり弱かった。どうやらこれも濃度によって効果が変わるようだ。ではお互いをもっと強くしてみたらどうなるだろうか。気力を限界まで上げて魔力もそれに合わせてあげる。魔力を先に上げないのは、魔力の上限が分からないからだ。気力のほうは感覚で限界値が分かっているのでそこまで上げやすい。それを超えるとなんとなくまずいという気がするので、今はその感覚を信じてそれより上げないようにしている。

 

 かなりの力を圧縮して作った神気は作った瞬間、凄まじいまでの輝きを放った。その状態で同じように岩を殴ってみると……触れた部分が拳大に消滅してしまった。先ほどのように貫通したのではなく、触れた部分が煙を上げて完全に無くなっているようだ。これはやばい。むしろなぜ自分の手が消えていないのかが分からない。自分が作った物だからか、あるいは無意識に神気を神気で防御しているのか。

 

 作ったときにそれなりの力を込めているので今回の神気は中々消えない。仕方なく上空に向かって気で押し出すように発射した。1度神気になった後は、魔力や気力とは反応しないようだ。発射された神気は木よりも高い位置にとどまりそこで輝いている。重さがないためか落下してはこないようで、まるで小さな太陽がそこに存在しているかのようにとどまっていた。これは今のところ使い道がなさそうだ。とっても危ない防御フィールドとして使えるかもしれないが……。

 

 爆振機雷掌のように内部破壊をしようとしても、接触した時点で消滅してしまう。使うとなると、今のように飛ばすくらいしかないだろう。しかし、対人戦闘なら魔導拳のほうが便利だから、使うとしたら魔物相手くらいだろうか。それも巻き沿いが怖いので威力は弱めないといけないだろう。無理に使う必要もないかな。後は体の内部で神気を発生させた場合にどうなるかだ。そう思いつつさすがに消滅したらやばいので、安全のため強力な回復カードを引いてからにしよう。

 

 そんなことを考えていると、後ろからの視線を感じる。後ろを振り返ると、目を輝かせたコウとウィルがいた。

 

「先生今の教えて!!」


「今のは奥義を超える秘奥義だ。お前達にはまだまだ早い」


「おおー!!」


 まだ早いといわれて若干残念そうだったが、奥義よりさらに上と聞いてテンションがかなりあがったようだ。本当はまだ名前も考えてないとはいえない……。

 

  

 その後、朝食を取った後いつも通り出発する。道中、ウィルとコウにはまず気力の操作をやるようにいってある。獣人はある程度本能で気力を使えるようで、かなり上達は早い。お昼前にはある程度展開や集中ができるようになっていた。ちなみに気力は完全に消して気配を消すことができるが、魔力は隠すことができない。なので探査には気力と魔力両方ができるようになっていたほうが安全だ。ただし、気配を消しても気力探知の範囲内ならば移動する物体を捕らえることができるので、よほどのことがなければ困ることはない。よほどのこととは、気配を消しながら魔法を使って探知を誤魔化すような場合だ。おっちゃんに聞いた話だが、いわゆるレーダーに対するステルスのように気配探知から移動の察知を逃れて近づく魔法があるらしい。ただし自身の気配が引っかかるので、気配を殺す術を同時に身につけていないといけないのだとか。

 

 コウは獣人の本能なのか、気配を消すことがすでにできるようだ。ウィルのほうはまだできないようで、悔しがっていた。お互いを意識して切磋琢磨するのはいいことだろう。ライバルのような存在が居ると上達も早いだろうし。

 

 

 

 そのまま訓練を続けながら北に向かうとお昼頃に柵のようなものが見えてきた。どうやらミルの故郷の村らしい。猫耳の男という嬉しくない存在が村の入り口でこちらを警戒している。とりあえずミルとミクの2人に村に行って貰うことにし、他の皆は外で待つことにする。すぐに出発してもいいのだが、一応聞いておきたいことがあるためだ。

 

 その後、30分程してミルが戻ってきた。話を聞くとやはり他の種族の村の場所はわからないそうだ。これでもうこの村に用はないのですぐに川に向かって出発することにする。ちなみにミルの家には家族が住んでおり、ミクはミルの両親が娘として預かることになるようだ。同じ村にミルの妹も住んでおり、ミクと同い年の娘がいるそうなので、たぶん寂しくはないだろうとはミルの話。

 

 そしてしばらくならこの村でこの子達を預かってくれるそうだ。狼族の村を探すなら東に行かなければならない。しかし、これから先に向かうのは西方面、一旦アムルル達を送った後に、またここを通って東に向かう必要があるのだ。態々子供達に無駄で危険な往復をさせる必要もない。


 というわけで、ドクとアムルル、結界用にアイリ、そして黄狐族姉妹だけを連れて西へと向かうことにした。ちなみにミルはしばらく村で過ごした後、俺達とまた合流したいといってきた。なんでもリグザールに戻るのに俺がいれば安全だからとかなんとか。むしろ危険な気がするが、まぁ付いて来たいのなら別にかまわない。

 

「隠れて皆を守ってやってくれ」


 シロに向かってそういうと、シロはマオちゃんの影に潜っていった。この村が安全とは限らないので保険は必要だ。念のためシロを護衛につけておく。

 

 しかし、予想したよりも村人の反応が大分ぬるかった。人間が来た時点で村人総警戒で袋にされる可能性も考えていたのだが、見張りが2人いただけで何事もなかった。まぁ今回はそもそもこの村の誰かが直接誘拐されたわけではないので、そこまで警戒されていないのだろうか。まぁ何人か隠れて木の上からこちらを狙っていたようだが……。

 

 

 

 

 そして俺達は留守番組と別れを告げ、緑猫族の村から西に向かって出発した。そのまま歩き続けること2時間、ようやく川が見えてきた。それほど深くはなさそうだが、見える川幅は10m以上ありそうだった。

 

「そういえばアムルルは川で石拾ってたっていってたけどその石って丸かった?」


「はい、尖った石はあまり見かけませんでした」


 とりあえず見える場所に川原がないので、このあたりの石の形がわからないが、丸いということは下流のほうなのだろう。この川がそもそもどこから流れているのか分からないのでどれだけの長さなのか分からないが。それよりもやはり橋といったものは存在しないようで、今のところ泳ぐ以外に川を渡る方法がない。アムルルは川の向こう側でつかまったという話なので、どこかに渡る場所があるはずなのだが……。もしかしたらそのまま西か南に進んで森から出て、橋のある場所まで行ったという可能性もある。とりあえず渡れそうな場所は源流に近い上流のほうが狭いのでそちらのほうが可能性が高い、しかし川の石を考えると下流のほうに土の妖精族の村がある可能性が高い。どうしたものか……。一応アムルルに聞いてみるか。

 

「この川は渡れるところはあるか?」


「申し訳ありません。私は存じません」

 

 やはりないか、そう思っていると

 

「ここから半日程南に下ると川幅が狭く、崖になってるところがある。そこに倒木でできた橋みたいなものがある」


 そう答えのはココの姉のククだった。話を聞くとクク達の村も川の向こうにあるそうで、ククはそこを渡ってきたのだとか。崖にかかった倒木を渡るとか怖いにも程があるが、木1本分の距離ならたいした距離ではないだろう。とりあえずそこを目指して南へ向かうことにした。

 

 川を右手に見ながら南進する。特に魔物に遭遇するようなこともなく、1時間程歩いたところでアムルルが川原になっているところを指差す。

 

「あっこの辺り見覚えがあります。たぶんこの辺りで捕まったんだと思います」

 

 そこは川幅は狭くなっているがかなり深そうな場所だった。ボートでもあれば渡れそうだ。しかし、奴隷商人はわざわざ川を渡ってアムルルを捕まえて、また川を渡って戻ってきたのだろうか。ここから橋までも結構遠い。そうなると元々川の向こうにいて帰りも川の向こう側だったということも考えられる。それか、この近くに一旦奴隷を集めるアジトがあるかだ。奴隷商人を警戒しつつ俺達は南下を続けることにした。それから3時間程歩いたところで今日は休むことにした。

 

 翌朝、川の音を聞きながら南下を続ける。次第に川沿いは木が蔽い茂って歩けなくなり、若干離れた場所を歩くことになった。2時間程南下すると川からの距離は変わらないのに川の音が聞こえなくなった。ククの先導で川のほうへ向かうと川沿いは崖のようになっており、向こう側との間も5m程に縮まっていた。ただし、水面まで20mはありそうなほど高い。そこに1本の大きな木が倒れて向こう岸と繋がっていた。かなり大きな木なので転がって落ちるようなことはなさそうだが、万が一腐っていたら谷底に真っ逆さまだ。スキルで飛んでいない状態だと、はっきりいってかなり怖い。

 

 そんなことを思っていると、ククがココの手を引いて普通に木を渡って行ってしまった。木は全く微動だにせず、橋としての役目を果たしているようだ。それを見てアムルルが渡り、ドクが渡り、アイリが渡って、最後に俺が渡った。怖かったので下は見なかった。

 

 そこから北上すること半日、アムルルが連れ去られたという場所まできた。

 

「ここから西に2時間程歩くと村があります」


 アムルルの言葉に従い西に2時間程歩くと、着いた時にはすでに日は落ちかけていた。

 

「ここからは結界がありますので私しか入れません。本当は村で是非お持て成しをしたいのですが……」


「分かってるよ。人間を行き成り連れて行くわけにはいかないだろ。お礼はいいから早く帰ってご両親を安心させてあげな」


「ありがとうございました。このご恩は忘れません」


 そういってお辞儀してアムルルが歩き出すと一瞬でその姿を消した。結界の中とやらに入ったのだろう。見た目は普通の森なのだが……。俺も試しにそこにいってみるが、消えることもなく普通の森のままだった。とりあえず来た道を少し戻り、広くなっている場所で夜を明かすことにした。

 







 

 いつもどおり妻が夕食の準備をしている。その背中は寂しそうだ。やはり一人娘が居なくなったことに心を痛めているのだろう。そういう俺も心配でたまらない。毎日、朝から晩まで探し続けて1ヶ月。全く手がかりすらなかった。もう絶望的だと思われているが無理もない、魔物が跋扈するこの森で1ヶ月、戦士でもない女の1人身で無事に済むはずがない。しかし、頭では分かっていも感情が納得していない。危険な探索に村人をこれ以上巻き込むわけには行かない。探索は昨日で打ち切られた。俺一人でもいくつもりだったが、昨日の探索で怪我をした俺は探索に行くこともできずに家に居る。もちろん明日になったらすぐまた探索に向かうつもりだ。あの子は絶対に生きている。あの子は要領がよくて頭がいい。どうすれば生きられるのかをあの子は考えて判断できる。今の俺にできるのはあの子の無事を女神様に祈ることだけだ。そうして俺は今日1日中女神に祈りをささげている。

 

 そうしていると、誰かが走ってくる足音が聞こえたと思ったらその直後、ものすごい勢いで扉が開けられた。


「たたた大変だ!! あ、アムルルちゃんが帰ってきた!!」


 それを聞いた瞬間に俺は怪我していることも忘れて家の外へと飛び出した。そして村の中央へと向かう。どこだ? どこにいる!? 俺が探しながら走り回っていると、こちらへと向かってくる集団があった。その中央にいるのは……。

 

「アムルル!!」


「お父さん!!」


 日が暮れているのに俺にはまるでそこだけ真昼のように輝いて見える。その存在は紛れもなく俺達夫婦の光である愛娘だった。

 

「よく……無事で……うああああああああああ」


 俺は戦士だというのに……村人の前だというのにみっともなく涙で崩れ落ちた。今日ほど俺は女神様に感謝したことはない。俺達夫婦の祈りは天に通じたのだ。


「ほんとによかったなぁ。もうみんなだめかと思ってたんだぜ? 一体どこに居たんだよ?」


 そういって隣の家に住む男が娘に尋ねる。

 

「いや、もう日が落ちてる、話は明日にして今日はゆっくりと休んだほうがいいんじゃないか?」


「そういやそうだな。まぁなんにせよ良かったなババルスの旦那」


 そういって声をかけてくる村人達の声を受け、俺達は家へと戻っていった。今になって怪我をした足が痛む。だけどもういい、もういいんだ。この喜びに比べればそんなこと些細なことは吹っ飛んでしまう。

 

「おかあさん!!」


「アム!!」


 家に着くなり娘は妻と抱き合って泣いた。ひとしきり泣いた後、妻は「こんなことならもっと豪勢な食事を用意しておくんだった」と泣き笑いしながら愚痴っていた。


 それから一緒に夕食を取りながら娘に話を聞く。人族に捕まり奴隷にされたと聞いたときは思わずパンを落としてしまった。

 

「キッドさんという人族の方に助けて頂きました。この村のすぐ近くまで送ってくれたんですよ」


 そういう娘の話はとても信じられないものだった。その人族は森に住む亜人を奴隷から解放し、態々(わざわざ)家に送り届けているのだとか。しかも、遥か隣国から送ってきている子もいるらしい。ありえない。そんな危険なマネをして態々他種族の子を送り届けるなんて、正気の沙汰じゃない。娘の話は聞けば聞くほど訳が分からなかった。素手でドラグラガルトを倒した。信じられない料理を出す場所に一瞬で移動した。ただの石から魔石を作り出した。もうどれもこれもありえない話だらけで頭が追いつかない。あの冷静な娘がこんなに興奮して身振り手振りをして話す以上、本当のことなのだろう。着ている服もとてもいい生地のように見えるし、なによりいなくなる前よりちょっとふっくらしている。ちゃんと食べていた証拠だ。真実はどうあれとりあえず今は、娘が無事に帰ってきたことを素直に喜ぶことにしよう。

 

 

















 翌朝、川沿いには戻らず真っ直ぐ北へと向かう。黄狐族はここから3時間程北に向かったところにあるらしい。川を越えてもやはり全く魔物に遭遇することはなく、お昼前には黄狐族の村へとついた。といっても村の姿は肉眼では全く見えないが。強力な幻術で守っているらしく、黄狐族以外では見破ることはできないらしい。

 

「ありがとうございました」


「おじさんありがとう!!」


 姉妹2人はお礼を言いつつ森の中へと姿を消していった。これでやっと4人か。まだまだ先は長いな。そう思いながら今度は東の川沿いに向かって歩き出した。お昼頃川に着くと川べりで昨日引いたカードを使うことにした。ドクとアイリには離れてもらい川のすぐそばでカードを持つ。最近カードを持ちそのカードのことを思うだけでその効果がある程度分かるようになってきた。カードを持って念じるとこのカードの範囲がなんとなく頭に思い浮かぶ。十分いけると判断した俺はカードを使う。

 

「288セット」

 

No288C:範囲氷結 術者を中心に半径100mの地面を氷らせる。

 

 すると川が瞬く間に凍りついた。森の一部も一緒に。

 

「なぁ!?」


 ドクとアイリが顎が外れんばかりに口を大きくして驚いている。川を見ると氷は流れていないようだ。これなら渡れるだろう。放心しているアイリとドクを呼んで川を渡る。かなり滑るがなんとか転ばずに渡りきることができた。

 

 

「288デリート」


 すると一瞬で川も森も元に戻った。

 

「旦那は魔導師なのかい?」


「魔法は使えんよ」


「今の魔法だろ!? どうみても!! 魔法じゃなかったら何なんだよ!?」


「さぁねぇ」


 すっ呆けながら俺は南へと歩き始めた。確かアムルルが捕まった地点から北に1時間の位置に緑猫族の村があったはずだ。ここは北に3時間歩いた場所だから計算では2時間程南下すれば、最初に川に到着した場所に着くはずだ。

 

 しかし、川を渡ったことでずいぶんと時間を短縮できたはずだ。無駄に1日南下しなくても済んだから今日中には緑猫族の村についてしまいそうだ。皆にゆっくりとさせたいからもっと時間をかけるべきだったか……まぁそれよりも早く親に会いたいだろうからいっか。そんなことを思いつつ俺達3人は子供達の待つ緑猫村へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「ココ!! クク!! 無事だったのか!?」

 

 村につくと門番をしているダズさんが叫んだ。そのまま仕事をほっぽりだして村の中へと駆けていった。その行動は門番としてどうなんだろう。

 

 村の中に入ると村人が集まってきている。皆心配してくれていたのだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、少し嬉しい気持ちになってしまった。集まってくる村の皆と話をしていると必死に走ってくる2人の姿が見えた。

 

「ココ!! クク!!」


「おとうさん!! おかあさん!!」


 ココが走ってきた父に飛びついた。ココは父と母に挟まれながら幸せそうに泣いている。ひとしきり泣いた後、父は私を呼び寄せ、そして頭を叩いた。ゴツンという鈍い音が響く。

 

「――――っ!?」


 あまりの痛さに思わず頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

 

「馬鹿もんが!! でも……よくやったなクク。お前も無事で何よりだ。でも、もうこんな危ないマネはするんじゃないぞ」


 父と母の反対を押し切って、私はたった一人の妹を探しに村を飛び出したのだ。甘んじて怒られよう。今の拳骨は間違いなくタンコブができるほどの威力だったのでもう叩くのはやめて欲しいが。

 

「しかし、1ヶ月もよく無事だったな。一体ココはどこにいたんだい?」


「人間の街よ」


 村人の質問にそう答える。村人は全員絶句してしまった。両親もココを抱きしめたまま固まっている。

 

「な、なんでそんなとこに? ココはまだうまく変化できないだろ?」


「奴隷として捕まっていたのよ」


 それを聞いて村人全員が固まってしまった。

 

「でも、ある人間がココを助けてくれたの」


「おじさん強いんだよ!! トカゲをバーンってやってどーんってなって!!」


 ココが身振り手振りで話すが全く意味が分からないだろう。私でもあの不思議な魔法を見なかったら信じなかっただろう。思い起こすだけで今でも涎が出てしまいそうになるあの料理。あんな美味しいものはもう二度と食べられないだろう。

 

 村人が苦笑いしながらこちらを見てくる。ココの説明は微笑ましいがやはり全く分からないらしく、私が詳しく説明しろということなんだろう。私は会って数日しかたっていないその男のことを話した。信じる信じないは人それぞれだ。だが……このぬくもりは確かにここにある。私はココを抱きしめながら、この幸せが続くことを願った。

 

 

今日一日で書いたので色々おかしいかもしれません。後で修正するかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ