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ワールドオーダー  作者: 河和時久
パトリア編
41/70

40:宿屋にて2

 

「ご主人様は……その……男色なのでしょうか……」


 主人であるキッドが風呂にのんびりと浸かっているその頃、一つのベッドの上に女性陣が集まり、自らの主人についての話題で盛り上がっていた。

 

「たしかに、裸を見られてもいやらしい目をされることはありませんでしたね」


 アイリの問いに答えたのは唯一人男性経験のある子持ちのルナである。


「あれは理性で押さえ込んでいるというよりも、恐らく魔法における思考分割のような見方をしていますわね」


 女性陣の集まるベッドの隣のベッドに寝転んでいたメリルがつまらなそうに答えた。

 

「どういうことです?」


「すぐれた魔導師は複数の魔法を同時に使うことができますが、同時に2つ以上のイメージを発生させるときによく用いるのが思考分割、いわゆる複数思考ですわ。人によりやり方が異なるのですがよくいわれるのが、その時に発生する事象を一歩引いた視点で大局的に捉えることにより、複数の事柄を全体としてとらえるなんていわれてますわ。要は細かくその事象1つ1つを見るのではなく、一歩引いた視点で薄く広く視野を広げる感じでしょうか。恐らくあの男は1人1人を犯したいきれいな女性の体ではなく、全体としてみて洗うべきそれぞれの肉体というような感じで捉えている感じがしますわ」


 へえーと女性陣の感心した声が聞こえる。

 

「メリルさんはすごいですね。よくそんなことわかりますね」


わたくしを誰だと思っていますの? ミグード最高の天才、ミグード最高の頭脳と呼ばれているのは伊達ではありませんわ!!」


 そう自信満々に誇るメリルだが、実際ミグード族ではミグード最高の天才ではなく天災と呼ばれていることを本人は全く知らないのであった。

 

「それでしたら、まだご主人様のご寵愛を受ける可能性は残されているということですね」


「アイリさんはキッドさんのことを?」


「はい、愛しております。できることなら子供が欲しいです」


 何のためらいもなくそう語るアイリに、質問したフェリアのほうが赤くなって照れてしまった。


「まだ出会ってからほとんど経っていないのに、なぜそこまで……」


「詳しく説明するのは難しいのですが、森の妖精族の血とでもいいましょうか……理性ではなく感情のことなので説明はやはり難しいです」


 リンの問いかけに対してアイリは首をかしげながら、全く答えになっていない答えを返す。


「まぁたしかにキッドさんは相手が亜人であっても態度が変わらないですし、優しくて強くて不思議な力を持っていますし、これほどいい方は銀狼族にもいないかもしれませんね」

 

「金虎族にだっていないよそんなの。ドクのおじさんにだって勝てるやつがいるかどうか分からないくらいなのに」

 

 そう答えるのはマオの姉のリン。捕まるまでは自身の強さにある程度自信を持っていたがドクとキッドの戦闘を見て、すぐに自身が井の中の蛙だということに気がついた。勝てないまでも村で最強である父とだってある程度は戦える自信があったが、キッドとドクの戦闘を見たらそんな自信は木っ端微塵に吹き飛んだ。ほとんど動きを捉えることすらできなかったのである。飄々(ひょうひょう)と語りながら人外の戦いを行う2人を見て、相手が人間であることも忘れて戦いに見入ってしまったのだ。

 

「私は実際見たことがないのだが、主殿はそんなにお強いのか? 只者でないことはわかるのだが……」


「恐らくこの中で一番一緒にいる私もほとんど戦う姿を見たことがありません。でもサピールさん、私達と一緒に貴族に捕まっていた人の話ですと、私達を捕まえていた貴族の私兵が半日で皆殺しになっていたそうです」


 十六夜の問いかけにそう答えるフェリア。その答えを聞き全員が絶句していた。

 

「し、私兵というのはどれくらいいたのです?」


「聞いた話では200人以上とのことでした」


 それを聞いてさらに全員の顔が青くなった。


「本当にたった1人で……200人以上を殺したの? 同じ種族の人間を?」

 

「そう聞いています」


 もはや理解ができなかった。たった1人で200人を殺すこともだが、亜人のために同族に、しかも貴族に敵対して皆殺しなんて正気の沙汰とは思えなかった。


「一体どうやって……主殿は怪我等しておられなかったのか?」


「傷一つおっていませんでした」


「そんな馬鹿な……一体どれほど強いというのだ……その強さならたしかに鋼殻竜を倒すという自信も頷ける」


「その時返り血なんかは浴びていませんでした?」


 そういって会話に割り込んできたのはメリルだった。

 

「いえ、特に服が汚れていたことはありませんでした」


「ならば恐らくあの男は魔導師、もしくは大規模戦闘に長けたスキルの持ち主という可能性が高いですわね。いや、もしやあの魔獣が……」


 そういって唇に指を当てながらぶつぶつとつぶやき、周りを全く置いてきぼりでメリルは己の思考の海に浸る。

 

「シロさんはシグザレストを出てから旅に加わりましたから、やったとするならキッドさん本人だと思います」


 そうフェリアが付け加えるもメリルは全く聞いていないようだった。


「ご主人様は魔法が使えるのですか?」


「魔法かどうかはわかりませんが、一瞬で別の場所に移動したり、鍵を使わないで首輪を外したりしてました」


「転移魔法!?」


 それを聞いて一瞬で思考の海からメリルが戻ってきた。

 

「こちらの国では転移魔法が実現しているとでもいうのですか!?」


 メリルが興奮したようにフェリアに詰め寄る。ガクンガクンとなすがままに首を揺らされてフェリアはノックアウト気味だ。

 

「落ち着いてくださいメリルさん!!」


 リンとアムルルの2人に止められてなんとかフェリアはメリルから開放された。はぁはぁと息を荒く興奮冷めやらぬメリルを咳き込みながらフェリアは見つめた。


「魔法については私では良くわかりません」


 そう答えるフェリアを一瞥した後、メリルは周りの女性陣1人1人を見つめる。見られた女性陣はすぐさま首を横に振る。そんなものは知らないと。


「これはあの男を問い詰めるしかないようですわね」


 そういって不敵に笑うメリルは自身の首に隷属の首輪がはまっていることを全く忘れているのだった。

 

 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「あーいい風呂だった」


 本当に久しぶりに風呂に入ったせいでとても幸せな気分だ。ちなみに使用済みタオルはすべてお湯で洗って脱衣所の布が掛かっていたところに干してある。明日の朝には乾いてなくてもそのまますべて鞄に放り込むつもりだ。ちなみにあれからドクはすぐ上がったため、一人になった時にカードを引いておいた。

 

 風呂から上がるとリビングには誰もいなかった。寝室に向かうと女性陣が一つのベッドに集まってなにやら話をしているようだ。子供達は違うベッドですでに寝てしまっている。ちなみにこの部屋には巨大なベッドが6つ程置いてある。一つでゆうに大人3人は寝られる程大きなベッドだ。一番窓際は俺が寝るということで他の子はそれ以外で寝るようにいってある。しかし、窓際のベッドを見るとすでにコウがそこで寝ているようだった。万が一外からの敵襲を考えてのことなので、後で隣で寝ているマオちゃん達のところへ移動させよう。まぁ警戒するのは俺じゃなくてシロ頼みなんだけどね! あっドクは寝室ではなくリビングにあるソファーで寝てもらうことになっている。敵が来る場合にどっちからかわからないからね。「なんで俺だけ」なんて愚痴を零していたがタダでこんな高級宿に泊まれるんだから文句いうなといって黙らせておいた。

 

 寝室に入った瞬間からなにやら女性陣、特にメリルの視線が痛い。それはもう視線で人が殺せるのではというくらいに俺を睨んでいる。

 

「貴方にちょっとお聞きしたいことがありますの」


 そういって笑いながらメリルが語りかけてくるが目が全く笑っていない。

 

「貴方転移魔法が使えるって本当ですの?」


「なにそれ? 俺魔法そのものが使えないんだけど」

 

「え?」と女性陣が全員こちらを驚いた顔で見た。

 

「貴方確か先ほど魔力を圧縮した石を作れると仰られてませんでした?」


「ああ、アレは魔力をただ圧縮するだけだからな。魔法とは全然関係ない」


「それでは200人からなる貴族の私兵を倒したというのは?」


「何のことだ? そんなことしたこと覚えないぞ?」


 なぜそんなことを知っているのか。この中で知ってる可能性があるのはフェリアくらいだ。しかしフェリアには言っていないはず……。だれかから情報が漏れた? サピール辺りは情報の大切さを知ってるはずだからいうとは思えないし……俺がやったということはいっていないはずだがサピールとの会話を聞いてそう判断したということか? 

 

「なるほど。正直に言うつもりはないということですわね」


 そういってじっと睨んでくる。しばしの時間の後「まぁ今はいいでしょう」と言い残し、メリルは隣のベッドにいってすぐに寝てしまった。今は杖もないし首輪もあるから、力ずくで聞き出すことができないと判断したのだろう。魔法を使えないってのは本当のことなんだけどなぁ。

 

「さっ明日は朝早いんだ、みんな適当に分かれて寝てくれ」


「あ、主殿」


 みんなに寝るように促すと十六夜がおずおずと問いかけてきた。

 

「ん? どうした?」


「そ、その……闇の妖精族は日が落ちてから皆起きだすのだ。そして朝日が昇る頃に眠りに着く。早い者でも起きるのはお昼過ぎなので、その……明日の朝、皆の移動中起きていられるかどうか……男なら日中でも普通に活動できるのだが、女の場合午前中はほとんど眠ってしまうのだ……」


「あれ? 迷宮で情報収集してたとかいってなかったか?」


「夜の酒場で聞き込みを行っていたのだ。日中は宿で寝ていた。まぁそこを襲われたのだが……」


「そうか、それなら起きられる限界までがんばってもらって、だめなようなら俺が運ぶよ。馬車についたら荷台で寝てるといい。森に着く頃にはお昼にはなってるだろうから」


「あ、主殿にそのようなマネをさせるわけには!!」


「俺がいいっていってんだからいいの。女の子の1人や2人運ぶくらいどうってことないよ」


「お、女の子……」


 そういうと十六夜は頬を赤らめてうつむいた。あまり言われなれていないのか、それとも女の子扱いされていなかったのか……。それをみてなぜかアイリの目が冷たくなったのはきっと気のせいだと思う。

 

 そのまま俺はシロを枕に窓際のベッドで一人眠る。翌朝、息が苦しくなって目が覚めると、胸の上にはマオちゃんが、右足にはコウが、左腕にはアイリがくっ付いてた。どうりで暑苦しかったわけだ。俺は3人を起こさないようにベッドに寝かすと風呂場に向かう。


「おはようございます主殿」

 

 ベッドから降りると眠そうな顔で十六夜が挨拶してくる。腕時計を見ると現在朝の5時。闇の妖精族にとっては今からやっと寝る時間なのだろう。

 

「おはよう。もうちょっとがんばって起きててくれ」


「がんばります」


 そう答えた十六夜だが、すでにまぶたが落ちそうになっていた。寝室を出るとドクがソファーで寝ていた。扉が開いた瞬間に反応して目を開ける辺りさすが元騎士だ。

 

「おっす旦那、はやいな」


「ああ、まだ寝てていいぞ。朝食にはまだ時間がある」


 朝食は6時に持ってきてくれと頼んである。俺は風呂場に入りお湯を暖め直す。地球にいた頃は朝風呂が日課だったのだ。せっかく風呂に入れるのだから沢山入ったほうがいいだろうと思い、昨夜お湯を抜かないでおいたのだ。

 

 脱衣所に入ると俺はカードを引く。するとSRが出て思わず声を上げそうになった。2枚目のSR。しかしこれは……。シロみたいなものなのか? シロのぶっとんだ能力でRなのにこれがSRになんてなったら……結果が全く予測できないからみんなを送り返した後にでも使うとしよう。

 ちなみに風呂に入るときは手袋は脱衣所においてあるため、完全に無防備だ。ここで襲われたらかなりやばい。まぁ一応保険はかけてあるのだが……。

 

 お湯を確認すると沸かし直さなくてもそれなりに暖かかったので沸かしながらそのまま入ることにした。やはりお湯に浸かると落ち着く。これは日本人の性なのだろう。

 

 まったりと湯に浸かり、満足して風呂からあがるとちょうど朝食が届いた。俺は子供達を起こしそのまま朝食を取る。寝ぼけ眼の子供達だが、朝食の匂いを嗅ぐと、とたんに目を覚ましたようだ。朝からすごい食欲でガツガツとパンを食べる姿は見ているだけで胸焼けがしそうだった。

 

 

 

 

 

 朝食後、そのまま宿を後にし、馬屋に向かう。十六夜はふらふらと足取りもおぼつかないが、まだなんとか起きているようだ。闇の妖精族はとても朝に弱いらしい。そもそも夜に闇の精霊の加護により細胞が活性化して元気になるため、夜寝ることができないのだとか。そして日中はその逆で、闇の精霊の恩恵が全くないため脳細胞が休眠しようとして眠くなるのだろう。別に加護がないくらいで眠くはならないと思うのだが、俺は闇の妖精族じゃないので詳しくは分からない。その種族でもないのに分かったようなことをいうのはおかしいので何も言わないでおく。

 

 ふらつく十六夜を気にしながら俺達は馬屋についた。そして奴隷商人が使っていた馬車のほうを引き取る。その際、ルナ親子3人の首輪を外しておいた。金貨2枚を渡して泊まれるだけ宿に泊まるように指示をする。これだけあれば俺が帰ってくるまでは持つだろう。ドクに聞いたところこの辺りの普通の宿なら1泊で銀貨1枚もしないそうだから。1人銀貨1枚として3人なら2ヶ月は泊まれる計算になる。食事代なんかも入れてもそれくらいは持つだろう。さすがに1ヶ月も掛からないと思うが万が一を考えて余計に渡しておいた。まぁ帰ってきたら逃げていたなんて可能性もありえるがその時はその時だ。寧ろ貴族に見つかって誘拐されないかのほうが心配だ。念のため昨日買っておいた顔が隠れるローブを渡しておいた。これを着ていれば何かあったときにも外に出ることができるだろう。

 

 渡した金貨だがもちろん本物だ。金貨だと使い勝手が悪いだろうが、この世界にも両替商と銀行がそれぞれ存在するのでそこで両替してもらえばいいだろうと金貨を渡しておいた。

 

 

 

 銀行は銀行と翻訳されているが実際の名前は違うかもしれない。銀行には銀行用のギルドカードのようなカードがあり、それに対して預金額の情報が書き込まれる仕組みとなっている。ネットワークで全世界にその情報が共通化されている訳ではない。つまりそのカードさえ偽造できればなんでもありなのだ。しかし銀行はどこも国が直接運営しているため、カード情報については国家機密だ。さすがに重要度が桁違いなので解析したり偽造したりするのは難しそうだ。それにそうしたことが見つかった時点で即極刑であるためリスクがかなり大きいし、あまりに不審な金額操作をした場合すぐにばれてしまうので使いどころが難しいだろう。

 

 そして銀行では本人しかカードを使うことができないため、他人のを盗んでも意味が無い。銀行は国ごとに管轄が変わってしまうため、他国にいった場合はそこでも新しいカードを作る必要がある。それに他国の銀行に入れたお金を下ろすことはできないので、使うためには新たにその国で預金する必要があるのだ。国を股に駆ける商人はいくつもの銀行カードを持ち歩くのが普通だと以前ランドさんに聞いたことがある。ランドさん自身も若い頃は色々な国を回っていたそうで色々な国のカードを見せてもらった。その時のランドさんの懐かしそうな表情は今でも覚えている。正確な顔のつくりは思い出せないけど。

 


 ちなみに俺は銀行カードはまだ持っていない。ルナも持っていないそうなので作ってもいいのだが、どうせすぐに出国するなら作ってもあんまり意味が無いかと思い、手続きが面倒なようなら作らなくてもいい、その判断は任せるといっておいた。こんな大金を持ち歩くのは不安だといっていたので恐らく作ることだろう。ただ、銀行や両替商を使うなら回りに気をつけろといっておいた。そこを見張るだけで間違いなく金を持ったやつが出てくるから狙われやすいだろうと。

 

 しかし、その辺りも国は考えているらしく、ドクに聞いたところ出入り口に近いポイントや見張れるような場所は常に騎士が立って見張っているとのことだ。そして何より銀行は必ず騎士団の詰め所のようなところがセットになっているのだとか。地球でいうなら銀行の1階、もしくは同じ建物内で隣接しているのが警察というわけだ。それならよほどのことでもないかぎり無茶なことをしようとするやつはいないだろう。その警察が犯罪者とグルでないかぎりは。

 

 建物の出入り口も多いらしく、出入り口を変えれば大きな建物なので個人に付け狙われる危険も少ないだろう。ただし、それでも狙うやつは狙ってくるし、出口だけを見張って狙うやつがいるかもしれない。それに命の掛かっている孤児なんかはなりふり構わず金を盗みにくる可能性がある。危険なことには違いないので警戒は必要だ。念のため俺はドクにルナ親子を宿に連れて行くように指示をする。その際、必要なら銀行へもついていくようにと。

 

 ドクを待っている間に一度皆馬車に乗ってもらう。かなり大き目の馬車だが、さすがに10人以上乗るとかなりキツキツだ。まぁ大半は子供なので何とか入るが。

 

わたくしにこのような狭い所に入れというのですの?」


 と、メリルが文句をいってくる。仕方ないので俺はメリルを持ち上げた。非常に軽い。これなら上に放り投げたら月まで飛んでいくんじゃないか? 屋根の上にでも放り投げてやろうと思っていたがそれをやめ、俺はメリルを回転させて勢いを付けて遥か上空へ投げ飛ばした。名づけてムーンサルトジェットコースター!! いや垂直落下だからフリーフォールかな?

 

「ちょっと月まで行って来い!!」


「い、一体なにきゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――――」


 悲鳴を上げながらメリルは星になった。全力では投げていないのですぐに落ちてくるだろう。全員が見上げるなか十秒程した後にやっと落ちてきた。

 

「――――――――――――――――――――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」

 

 しっかりとキャッチした後、勢いを殺すようにその場で数回転した。メリルを見るとピクピクと震えているが反応がない。どうやら気絶しているようだ。静かになったので馬車へと放り込んでおいた。ちなみに十六夜はすでに馬車に入り込んで眠っている。


 メリルを投げるのを見たマオちゃんが自分もやってやってと強請ねだってくるので、手加減しながらメリルとは違いやさしく投げてあげた。「とんでるにゃー!!」と大変ご満悦のようで、「もう一回!! もう一回!!」と何度も強請ってきて大変だった。それを見たファリムやコウも強請ってくるので結局、ドクが戻ってくるまで延々と子供達を上に投げ続けることになった。


「待たせたな、さぁ行こうか」


「襲われなかったか?」


「あぁ、問題ない。ちゃんと無事に送り届けてきたぜ。怪しいやつもいなかった。それとこれが頼まれてたやつだ。これでよかったか?」


 そういってドクが渡してきたのは背負子しょいこだ。薪なんかを担ぐ木でつくったリュックのようなやつだ。今はもうあまり見かけないが俺が小学生の頃には学校に二宮金次郎の銅像が置いてあった。あれの担いでいるやつといえばわかるだろうか。まぁ実際は二宮金次郎は薪を担いで勉強していたわけじゃないらしいけど。


「ああ、いい感じだ。じゃあ行くか。ドク御者してくれ」


「全く、旦那は人使いが荒いな」


 そういいながらドクは御者台に上り、俺達は森へと出発した。


ちなみにランドさんはシグザレストでマルクート村と王都を行き来している商人さん。

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