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ワールドオーダー  作者: 河和時久
パトリア編
38/70

37:オークション

 翌日、正午前に村のようなものが見えた。しかし、人の気配が無い。建物はいくつか壊れているが壊されたという感じではない。自然に自壊した感じだ。完全に倒れているのではなく一部の支柱が折れて倒壊しかかっているものがほとんどだ。まぁ中には完全に倒壊しているものもあるが。


「これは魔物に襲われたってわけじゃなさそうだな。病気かそれとも他の理由かわからんが、今はもう廃村になってるみたいだ」


 ドクが村の中を歩きながらつぶやく。村の中を見ると網があったり干物を干す台のようなものがあったり、ここは漁村として機能していたのだろう。つまりあのでかい魚達がきたから漁に出られなくなり、漁村として機能しなくなって他に移ったということだろうか。


「10年くらい前にきたときは活気があったんだがなぁ」


 ドクの言うとおりならその10年の間にあの魚達が来たということだろう。あくまでも予想だが。しかし、この辺りに住んでいるのなら亜人の住処についても情報があるとおもったのだが当てが外れたようだ。地形的にみるとここから北は森になっているのでここから先は西に向かうことになるだろう。つまりこの森から先が亜人の住んでいる場所という可能性が高い。シャルクの街に向かう前にこいつらを先に処分しておくとしよう。

 

 俺は護衛達の武器と食料をその場に置いた後、牢を馬車から降ろし護衛達にカードを使う。

 

「32セット」

 

「52セット」


 すると護衛達は放心したように動かなくなった。目が虚ろで焦点が定まっていないようだ。


「お前達はこれから一生、奴隷商会の誘拐班の拠点を潰し、誘拐班を殺し、誘拐されたやつらを無事に解放し、故郷へ送り届けるんだ。それと亜人に対して偏見を持って接してはいけない。最後に、俺に関することを他人に漏らさないこと」


 俺が牢を開けると護衛達はゆっくりと外にでて、食料と武器を持って森へと移動を開始した。


「旦那、一体何したんだ?」


「なに、ちょっと特殊な魔法を使ってみただけだ」


No032UC:範囲拡大 次に使用するカードの対象範囲を拡大する。効果のないカードもある。


No052UC:唯唯諾諾 対象を操ることができる。対象は術者の命令を忠実に実行する。デリートしない限り効果は永続する。


 催眠術みたいなものだろうか。しかし後々誰かにつかった場合、それをデリートしたらあいつらの効果も消えてしまう可能性があるので、これからためしに使うなんてことはできなくなったな。しかしこれから奴隷商会が潰れた場合に彼らはどうなるのだろうか。居もしない誘拐犯を探し続けるのだろうか。まぁ元盗賊だった彼らの贖罪としてはいいだろう。

 





 俺達は森へ向かった護衛達を他所よそにそのままシャルクの街へと向かった。直接亜人の村を探しにいってもいいのだが、ここから行くとすると馬車をここに放置することになってしまう。スレイとプニルを放置するわけにもいかないのでシャルクの街で預かってもらってから、もう1つの馬車で森へと向かう予定だ。森に着いたらその馬車は破棄するつもりだ。ちなみに馬屋というのは大体の街にあるらしく、馬の売買だけでなく馬や馬車の管理も行っている。馬車を預かれるほど大きな宿なんてそうそうあるはずもなく、大抵は馬屋に預けるのが一般的らしい。商会の馬車でも預けるだけなら問題ないだろう。たぶん。森まで近いといっても歩いていくとなると結構時間がかかるし、なにより子供の足だとその後、森に入った後も歩き続けるのだからなるべく歩く距離は少ないに越したことはない。

 

 そのまま街に泊まらずに北上してもいいのだが水、食料の確保と移動時間の関係で夜に森に到着する可能性もあるため、街で一泊してから翌朝早くに出発することにした。

 


 

 

 廃村から西に進むこと1日、俺達はシャルクの街に到着した。子供達には俺の持ってきたペット用の首輪をつけてもらっている。これで俺の所持奴隷ということにしてもらった。ちなみに奴隷は扱いは所有物だが街に入るときに所有者が一緒に入場料を払うらしく、1人に付き銅貨5枚程取られた。

 

 街へ入るとまず水と食料を購入した。水は魔道具でも出せるがあれは飲み水には適さないし、あまり何度も同じ場所で使うと量が減ってしまうのだ。空気中の水分を無理やり集めているのだろうか。

 

 買い物が済んだらそのまま馬屋に向かい馬車を預ける。引いてる馬がスレイプニルということで驚かれたがなんとか預かってはもらえそうだ。ちょっと高めの料金だそうだが致し方ない。

 

 今日はここで宿に止まり、明日朝早くに森へ出発することにして街を散策することにする。奴隷を大量に連れていることで周りの目を引いたがこの街は奴隷産業で成り立っているらしく特に問題にもならなかったようだ。

 

 街のいたるところに奴隷を見かける。街全体に魔道具解除のカードを掛けてやればみんな逃げられるだろうか? しかしその後の安全が確保されないのでは意味がない。やるならもっと根本からするべきだ。誘拐班が壊滅すれば少しはマシになるだろう。まずはこの子達を無事に送り届けることを優先しよう。

 

「お客さん! ずいぶんと沢山奴隷を連れてるね。これから奴隷のオークションがあるんだが参加してみないか?」


 街を歩いていると客引きらしき男に話しかけられた。奴隷商人だろうか。どうやら俺を奴隷コレクターとでも思っているようだ。まぁ傍から見たらそう見えるかもしれないな。開催場所だけ聞いて、俺は子供達を宿に連れて行く。そこはずいぶんと高級な宿のようで一泊で銀貨30枚も取られた。その分部屋もかなり大きく清潔感があり、部屋に風呂まで付いてまるで高級ホテルのようだった。一泊で一般家庭が半年は暮らせる金を取るだけのことはある。ちなみにこの宿の最高級の部屋で一部屋で20人は泊まれるスイートルームだ。5階建てのこの宿の最上階の部屋すべてが一つにつながっているため5階を貸切の状態だ。一体誰がこんなとこに泊まるんだといわんばかりの部屋だったがこの部屋しか空いていないといわれればどうしようもない。他の安い宿でも良かったがその場合子供達が心配だ。まぁ偶には贅沢をしても罰は当たらないだろうということと、セキュリティの面で安全が確保できそうなここに泊まることにした。どうせ明日の朝には出て行くんだしな。

 

 ちなみに奴隷は所有物扱いなので宿泊料金は取られないが別途持込料金ということで多少金を取られたが銀貨1枚もいかなかった。

 

 

 馬鹿でかい部屋に入ると俺は窓際へと向かった。周りに比較するような高さの建物がないため、辺りが一望できる絶景だった。しかしこの世界は夜にそれほど明かりをつける訳ではないので夜景は期待できないだろう。

 

「ふわふわにゃー!」 


 後ろを振り返るとベッドにのってマオちゃん達が飛び跳ねていた。ベッドを触るとバネが入っているようには感じられない。しかしヌルリとした感じで妙な柔らかさがある。ウォーターベッドのような感じだ。何らかの液体が入っているのかもしれない。

 

 

 

 

 楽しそうに飛び跳ねる子供達を横目に俺は別の部屋へと脚を運ぶ。一人になったところで俺はあることを試すために右手に金の入った袋を持ったままカードを使った。

 

「78セット」

 

No078UC:物体複製 対象を複製する。カード、生物以外の物体のみ対象にできる。起動時に対象に手を触れていなければならない。


 すると全く同じ袋が左手に現れた。俺は間違えないように本物を鞄にしまい、偽物の中身を確認する。すると中身も完全にコピーされているようだった。つまり白金貨1枚に金貨50枚以上が入っていた。奴隷がいくらかわからない、念には念を入れてもう一枚使っておこう。贋金だけど奴隷商会そのものを潰すつもりだからなんの憂いもない。これだけの大金ならすぐさま貨幣が流通することもないだろう。これで買えるだけ買ってみよう。まぁ商人殺して奪うよりはマシだろう。

 

 はしゃぐ子供達を後に俺はオークションのあるという会場へ1人で足を運んだ。アイリが付いてきたがったが危険なのでおいてきた。ドクが居れば子供達は安心だろう。最初はドクだけ安宿にでも放置しようと思っていたが、奴隷商会に面が割れているため、あまり目立った行動はさせたくない。街ではずっとフードをかぶせた状態にしている。それに高級宿といっても完全にセキュリティを信頼しているわけではないので万が一のための護衛においておくことにした。シロは俺の護衛だ。影に隠れて付いてきてもらっている。

 






 そこは街の中心部にあるそれなりに大きな建物だった。なんでも定期的にオークションが開かれているらしい。入り口で入場料を支払い、番号の書かれた割符のようなものを貰う。入場料は銀板1枚と言われた。何のことかわからなかったので金貨を渡したら銀色の板を1枚返された。つまり銀板1枚で銀貨50枚分ということなのだろう。入場料50万て高すぎだろ! と思ったがこれはオークションに参加した人には帰るときに返却されるらしい。ひやかし防止のためなのだろう。

 

 会場には参加者席に椅子があり、すでに大半は埋まっていた。空いてる席に座って開始を待っているとすぐに舞台に司会らしき者が出てきた。


「皆様、大変長らくお待たせ致しました。これよりオークションを開始致します」


 司会のあいさつでオークションが開始された。司会はマイクのようなものを持っているが、スピーカーは見当たらない。単純に拡声器のような効果なのだろうか。それにしては声は指向性を持っているというより会場全体に聞こえるように広がっている感じがする。

 

 オークションの初めは男の亜人からだった。おそらく狼系だと思うが銀狼かどうかはわからない。金貨1枚から開始して金貨3枚で落札された。その間俺はオークションのやり方を見ていた。手の形で競うセリとは違うようで、単純に手を上げて金額を言うだけで良さそうだった。しかし銀貨1枚単位での上げはしていなかったようなので最低単位が銀貨10枚、もしくは50枚辺りなのかもしれない。今回は2枚半という声の後に3枚という声だったのでおそらく金貨2、銀貨50から金貨3枚にあがったということなのだろう。10枚単位の掛け声もあるかも知れない。相場がこれくらいなら買えるが、出品される奴隷の数もわからなければ、相場もわからないので成るべく取り返しが付かなくなる可能性の高い女性、子供を優先的に買うことにしよう。

 

 オークションの前半は男ばかりだった。女性もいたかもしれないがトカゲというかリザードマンというか雄か雌かわからない人だけで後は基本的に大人の男ばかりだった。しかも驚いたことに亜人だけでなく普通に人間の男も混じっていた。借金のかたにでも売られたのだろうか。それともこの国では亜人と同じように普通に人がつかまって売られてたりするのだろうか。

 

 たしかに性処理目的でもなければ力もあるし戦闘も含めて仕事は男のほうが便利なのだろうが、誰でも彼でも問答無用で捕まって奴隷にされるのでは治安も何もあったものではない。だったら奴隷商人を捕まえて奴隷にすれば他の奴隷全部買ったのと同じことになってしまう。奴隷が元犯罪者かどうかの区別は俺には付かない。誘拐してきた奴隷だった場合、このシステムに対して少なくとも奴隷商人がお咎めを受けない何かしらの力が働いているか、それとも法の抜け穴のようなものを利用していることになる。

 

 それはつまりここを国が管理しているのなら国に、領主が管理しているなら領主に近しい者に奴隷商人とつながっているやつがいることになる。必然的に国家権力と戦う必要性が出てくるというわけだ。最初からクライマックスだな。

 

 しかし誘拐しても犯罪にならないならそこら辺にいるやつ片っ端からさらえばいいのだからまさに無から有を生み出す錬金術だ。でもそんな街から住民が逃げ出さないわけがないし、住民が居なくなったら領主なんてただ死ぬのを待つだけの存在だ。つまり奴隷にされるにも無差別ではなく、何かしらの選別理由により少数に対して行っている可能性が高い。それは名うてのハンターだったり、美人だったりとそういう理由なのかもしれない。そういう売れそうな少数の人を何かしらの罠にかけて売っぱらっているのではないか? そういえばそもそもドクが同じような罠にかかってたな。まぁそれもこれも奴隷は誘拐で行っている非合法のものという前提での想像にすぎない。

 


 オークションは進み、10人を超えた辺りで女性が出品され始めた。始めは猫耳の女性だった。歳の判別は俺にはできないが子供ではなさそうだ。いきなり金貨3枚から開始されたが5枚辺りで声が止んだ。あまり人気がないのだろうか。

 

「6枚」


 俺は手を上げてそういうと何人かが振り向いた。そして係員だろうか、知らない女性が番号札を持って手渡してきた。何かと聞くとこれを帰りに受付に渡すことによって入場料の返却がされるとのこと。オークションに参加した証のようだ。番号は参加した出品番号か、それとも連番なのかはわからない。ちなみにその女性は金貨6枚で俺が落札した。

 

 その後は犬耳の女性やら人間の女性やらが続々と出品されるがすべて俺が落札した。その数全部で8人。ここまでで金貨46枚使っていることになる。さすがに周りはドン引きだ。


「お次は本日の目玉商品です。めったなことではお目にかかれない一品です」


 そういって引きずられて登場したのは黒髪黒目、そして犬耳の小さな少年だった。

 

「一見ただの獣人に見えますがこの少年、なんと狼に変身することができるのです!」


 そういって係りの者が少年の手前に鞭を振り下ろすと少年は驚いたように座り込んで小さな黒毛の狼の姿になった。子犬にしか見えないが。しかし司会者の話を聞く限り獣人って獣の姿に成れないのか? そもそも変身できるものだと思っていたが館内のどよめきを聞く限り非常に珍しいのだろう。

 

「10枚!」


「11枚!」


 物珍しさからか一気に値段が上がった。金貨20枚まできたところで館内が「おおー」という完成に包まれた。

 

「金貨20枚でました!」


 司会者の興奮した声が響く中、俺は手を上げた。

 

「30」


「さっ!? 30枚!! 30枚でました!! もうないですか!!」


「さ、31」


 前のほうに座っている青っぽい服を着ている太った男が声を上げた。男は服のサイズがあっていないのかピチピチになっている。


「40」


「くっ……41」


「50」


「ごっ!! 50枚!! なんと50枚出ました!!」


 この日一番の歓声が上がった。一気に上げているのは刻むより一気に上げたほうが競合相手の戦意を下げられるかと思ったからだ。俺に降りる気配がないことを悟ったのか青デブはそこで手を上げるのをやめて悔しそうに俺を睨んだ。そのまま少年は金貨50枚で俺が落札することになった。


「さて、お次は本日の最後の商品になります。先ほどの少年よりもさらに希少価値が高い幻の種族。闇の妖精族です!」


 それを聞いて会場がどよめいた。俺は何のことかわからずにそのまま様子を伺っていると出てきたのは俺よりやや背の低い、少し麻黒い肌に黒髪、そして耳がちょっととがった少女だった。

 

「皆様ご存知のとおり妖精族は土の妖精族以外はめったなことで人前に姿を現しません。それが闇の妖精族ともなると、もはや幻といっていい存在です。過去のオークションを振り返りましても1度も出品されたことがないほどです。この機会を逃すともう手に入らないことは確実です。皆様ふるってご参加ください」

 

 司会が熱弁すると一気に参加者達がヒートアップする。

 

「10枚!」


「15枚!」


 どんどん値段が上がっていく。先ほどの少年と同じ金貨50枚まで来た所で周りの声が止まる。

 

「金貨50枚! もうないですか!?」


 司会が煽る。しかもなぜか俺を見てくる。

 

 これが最後といっていたからな。どうせ贋金だから全部使ってしまおう。そう思っていると誰かが声を上げた。

 

「55」


 先ほどの青っぽい服を着ている太った男だった。希少価値が高そうなものにだけ反応しているあたり、おそらく奴隷コレクターといったところか。


「60」


 俺は直様すぐさま値段を釣り上げた。

 

「ぐっ65」


「70」


 5刻みにあげる青デブに対して10刻みで上げていく俺。実際の値段はお互いに5づつプラスされていくだけだが。

 

「80!」


 青デブが一気に80まで引き上げた。周りはもう俺達2人の戦いを見ているだけのようだ。歓声が上がると青デブは勝ち誇ったようにこちらを見てきた。

 

「100」


「……は?」


「聞こえなかったのか? 100だ」


「ひっ100枚!! でました金貨100枚!!」


 青デブが何が起こったかわからないように固まっている。その数瞬後再起動したように立ち上がりこちらに叫んだ。

 

「ふざけるな!! 貴様みたいなやつがそんな金持ってるはずがなかろう!!」


 憤る青デブを無視シカトして俺は係員に連れられてその場を後にした。しかし後半すべて買占めとか普通なら出禁ものだな。というか次回から参加できない可能性も高い。まぁ次回を開かせないのが一番なんだが。

 

 俺は係員に案内され別室へと足を踏み入れる。中には俺が落札した奴隷達10人、そして商人とその護衛らしき者達がいた。


「お待ちしておりましたお客様。この度は大変な数のご購入ありがとうございます」


 そういって商人らしき男が頭を下げる。

 

「あなたは?」


「これは申し送れました。私ラトロー奴隷商会シャルク支店、支配人のボルドーと申します。以後お見知りおきを」


 歳は20代後半から30代くらいだろうか、色白で見た目は人のよさそうな、しかし腹黒そうな優男がそういってお辞儀をする。顔は微笑んでいるが目の奥ではこちらを値踏みしている感じだ。

 

「こちらが商品です。代金のほうですが隷属の首輪が10人分で金貨5枚となっておりますので全部で金貨201枚ですが、お客様には大変高額な落札をしていただいておりますので端数をとって200枚とさせていただきます」


 2億つかって割引100万とかアホかと問い詰めたいが支払いは偽金、こちらの懐はなんにも痛くないので言わないでおこう。俺が袋を出して白金貨2枚を渡すと商人は何か大き目の虫眼鏡のような機械っぽいものを取り出し白金貨に当てた。するとレンズにあたる部分が赤く光だした。

 

「申し訳ありません。失礼とは思いますが、何分貨幣の真贋の確認は決まりごとでして……」


 台詞からするとあの虫眼鏡っぽいのは貨幣の真贋を確かめる魔道具ということなのだろう。台詞からするとどうやら本物と判定されたのか。一体どうやって真贋を判定しているのかわからないが、疑っていないということはかなり信頼度の高い判定方法なのだろう。

 

「隷属の首輪はすでに取り付けてあります。後は貴方様の血を一滴でも首輪につけていただければ主人として登録されます。それとこちらは鍵となっております。なくされますと首輪がはずせなくなり、譲渡や売却ができなくなりますのでご注意ください。首輪についている紐と鍵についている紐の色ががそれぞれ対になっておりますのでご確認下さい」

 

 なるほど、奴隷はあくまで物なので購入後も譲渡や売買ができるようにしてあるというわけか。そして10人分も同じ形の鍵があるとどれがどれだかわからないので紐の色を分けて付箋代わりにしていると。


「奴隷が自分で鍵を奪って自身で解除することはできないのか? 俺が前に買ったときは鍵なんて貰わなかったぞ?」


 俺が思ったことを質問する。奴隷に慣れているのなら常識なのかもしれないので嘘を織り交ぜておく。

 

「モグリの奴隷商人なのでしょう。通常は鍵をセットにして販売しております。飽きて売られる方も多いですから。首輪についてですが隷属の首輪をつけた者は鍵に触れることも首輪を解除することもできなくなっております。それは他人のものでも同じです。一度付けた首輪は契約者以外はずすことはできません。そしてご存知のとおり奴隷は契約者に反抗することができませんし、万一契約者が死亡すると奴隷も同じく死亡するので殺されて奪われるというようなことはございません」


「へえ、買った後に売るやつなんているんだ」


「はい、飽きてしまわれた、または壊れてしまったということでお売りになる方もいらっしゃいます」


 腐れ外道だな。おもちゃ感覚なんだろう。現代人に一番近い感覚でいうならゲームソフトと同じ扱いといった感じだろうか。飽きたら売る、お気に入りは売らない。人によっては不正に入手することもある。いわゆる「割れ」というやつだ。そんなことするやつは死ねばいいと思っている。俺なんてプレイもしないのに積みゲーとして買い続けることがよくある。一度もプレイすることなく続編が3つも4つもでるやつとかはさすがに買う気がなくなってくるが。

 

「本来このオークションでは決められたルールというわけではございませんが、暗黙の了解というものがございます」


 ん? なんか急に言い出したぞ。やっぱり後半全落札とかやばすぎたか。

 

「こちらのオークションでは連続での落札は2人までとさせていただいております。本来、初めてのお客様には予め注意事項としてお話するのですが、こちらの不手際でお客様にはお話しておりませんでした。ですので今回は不問とさせていただきますが、次回からはお気をつけください」


「わかった。後は他に注意事項はあるか?」


「後は落札金額についてですが、金貨10枚を超えた場合には最低上乗せ金額が金貨1枚からとなります。それまでは銀貨50枚からとなっております。そして上限は現在の金額の倍までとなっております」


「なるほどね。気をつけておこう」


 もう来ることはなさそうだけど。俺は金貨を袋にしまうと契約を終えた奴隷達を連れて会場を後にした。奴隷達は服というのもはばかられるような布だけを巻きつけており、足はもちろん裸足だ。俺は奴隷達を連れて洋服店と靴屋に向かい、奴隷達の服や靴、あとは大量の毛布を購入した。服も靴も各人に好きなように選ばせたため、奴隷達は驚いていたが気にしない。ちなみに奴隷購入以外は全部本物の金を使っている。

 

 支払いがちょうど白金貨だけだったのはちょうどよかった。アレならすぐに使われて市場に出回るなんてこともないだろう。アレだけの金が市場に流通してから唐突に消えたらさすがに問題だからな。

 

 奴隷達を大量に連れて歩いていると、いかにもといったチンピラ風の男達が6人程前から近づいてきた。

 

「おい、兄ちゃんちょっと話があるんだが、顔貸してくれねえか?」


「お前らの主人はあの青い服のデブだろ?」


 俺がそういうと何人かが驚いたように顔をしかめた。適当に言ったけど予想は当たったようだ。なにしろオークションで俺と最後まで争ってきたのはあいつだけだ。そして俺に終始憎しみを込めた視線を向けてきていたのも。


「いいからこっちに来な!」


「ちょうど良かったよ」


「はあ?」


「晩御飯どうしようかと思ってたんだけど、餌のほうからきてくれるなんていい街だなここは」


「何いってやがんだ?」


「シロ」


 俺が呼ぶと影からシロが姿を現した。


「ま、魔獣!?」


「6匹も居るから全部食いきらなくていいぞ。美味しいとこだけ食べればいい」


 俺がそういうとシロは唸りながらゆっくりとチンピラ達に向けて歩き出した。

 

「ひいっ!? こ、こんなの聞いてねえぞ!! た、たすけてくれえ!!」


 男達は悲鳴を上げて一斉に逃げていった。男達が去ったの見送った後、シロは振り返って俺を見てきた。

 

「よくやったぞシロ。もちろん食べろってのは単なる脅しだからな。あんなの食べたらお腹壊しちゃうし」


 そういいながらシロを撫でる。後ろを振り返ると購入した奴隷達が驚いて固まっている。

 

「だいじょうぶだよ。シロは俺の仲間は襲わないから」


 そういいつつシロを影に戻す。俺はそのまま奴隷達を連れて宿へと歩き出す。視線は多いが今度はすんなりと帰れそうだ。

 

 

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