33:奴隷商人
砦を後にした俺達はそれから半日程進んだところで野宿をすることにした。すでにパトリアに入っているだろうがパトリア側には関所のようなものはないようで今のところ見当たらない。それともあそこの砦が両国からの出資でやっている共通の物だったのだろうか。そんなの聞いたことないけど。
いつも通り夕食を取った後、俺は焚き火の前で魔力操作の練習をしていた。深夜になり、そろそろ寝るかと火を消そうとしたところマオちゃんが馬車から降りてきて俺にくっついてきた。
「どうしたの? 眠れないの?」
マオちゃんはなぜか俺にしがみついて離れない。昼間の兵士達が怖かったのだろうか。俺は火を消した後マオちゃんを抱っこして馬車に入る。馬車の入り口にシロを寝かしてマオちゃんを抱っこしたまま眠りについた。反対側にはなぜかフェリアがくっついてきていたが気にしない。
翌朝、息苦しくなり目を覚ますとマオちゃんが胸の上に乗っかって寝ていた。昔うちにいた猫もよく寝ていると胸の上に来て箱座りして寝てたな。なぜ猫は顔を見下ろす位置に陣取るんだろうか。おなかの上でいいじゃないと思いつつも、なぜか退かせずにそのまま猫が起きるまで動けないのは猫好きの性というものだろうか。しかし、この体勢は寝返りもうてなくてとてもきつい。俺はそっとマオちゃんを起こさないように横に寝かせてシロの頭をなでながら跨いで馬車を出た。そして周りを見渡し、誰も見ていないことを確認した後にカードを引いておいた。
その後朝食の用意をしていると、3人娘が起きてきた。マオちゃんはシロに抱きついたまま馬車を降りてきた。どうやらぐっすりと眠れたようだ。朝食後、すぐに出発した。ちなみにパトリアに入っても周りの景色はほとんど変わらなかった。
「村までの道ってわかる?」
「すみません。森から出たことがないので……」
フェリアが申し訳なさそうに答える。マオちゃんは頭にハテナマークが浮かんでいる。
「まぁなんとかなるか」
いざとなったら奥の手もあるし大丈夫だろう。俺は気楽に考えながら馬車を進めた。周りは見渡す限りの草原。道はあるがセーヴィルを出てから1度も人とすれ違ったことはない。よっぽどパトリアは危険な状態なのか、それとも元々流通がない場所なのだろうか。危険だとしたら砦で注意されたりとかしなかったのも気にかかる。砦にずっといるとその辺りの情報が入ってこないんだろうか。それとも渡航勧告なんてもともとないのか。
疑問に思いつつも俺達は北上を続けた。以前聞いた話では亜人はパトリアの東のほうに固まっていると聞いた。そしてここはパトリアの東の端っこのほうだから少なくとも何かしらの手がかりはあるだろうと踏んでいる。詳細な地図がないのが痛いところだが。
そのまま北上し太陽が真上に昇る頃、荷台からフェリアとシロが出てきた。
「どうした?」
「先ほど一瞬ですが同族の匂いがしました」
どうやら何か匂いを感じ取ったらしい。フェリア達の村が近いのだろうか? しかしシロが警戒したように前を見ている。何かあるといけないので俺は馬車の後ろの扉を閉めさせて前方を警戒する。
しばらくすると遠方に何かが見えてきた。次第に形を成していくそれを見続ける。どうやらそれは旅を始めてから初めてこちらとすれ違うことになりそうな馬車のようだった。しかしここで考える。この時期にパトリアからシグザレストへの馬車。フェリアが感じた匂い。この2つが指し示すことといえば……
俺は馬車を止めて以前のようにシロに馬車を岩で囲わせた。これで馬車は大丈夫だろう。違っていたら違っていたで素通りさせればいい。もし予想通りだったら……グロい所を子供達に見せたくはない。
「シロ、あの馬車を止めろ」
「ガウ!」
阿吽の呼吸でシロが猛スピードで前方からくる馬車に対して駆けていく。俺はそれを追うように前方へと駆け出した。
「ま、魔物!?」
御者の男はすぐに馬車を止め、掛けてあった鐘を叩く。カーンカーンカーンと金属を叩く音が辺りに響き渡る。それを聞いて荷台の男達が一斉に降りてきた。
「おいおい、こんなところでいったいなんだってんだ? 盗賊でも出たのか?」
「うちを襲うなんてモグリもいいとこじゃないか」
剣を持ったガラの悪い男達がぞろぞろと先頭の馬車の荷台から6人の男達が現れた。男達は止まった馬車の前まで行くと立ち止まり、今まで威勢の良かった声はなりを潜め、今までにない緊張感に包まれていた。武器を握る手にも汗が染みこんでいた。彼らは護衛という仕事をしているせいか、相手の強さを知る感覚は養われている。例えそれが見たこともない魔物だったとしてもだ。なにせその感覚を誤ると即、自分の死に繋がってしまうからだ。そして6人が目の前に佇む魔物を一目見て同じ匂いを感じた。そして気づく。これが死の匂いだと。
威風堂々と馬車の前に佇む白くて巨大な魔物。その姿たるやまさに獣の王といった風格が漂っていた。
一目見て瞬時に悟った。これは人の手でどうこうできる相手じゃない……と。男達は全員最初から戦うことを考えていなかった。みんな考えていたのはどうにかして逃げられないか? である。すると魔物の後ろから1人の男が歩み寄ってきた。
「君達に聞きたいことがあるんだがいいかな?」
まるで街中で友人に声でも掛けられているかのような気軽さで男は語りかけてきた。
「なんだてめえは!?」
「殺し屋だ」
男達はビクッと反応し、武器を持つ手に力が入る。
「あー冗談冗談。言ってみたかっただけだよ。本当はただの旅人だ」
そういって手を振る男はたしかに殺し屋にしてはずいぶんと軽薄そうだ……しかしただの旅人にしてはありえない威圧感を放っていた。何より信じられないような魔獣と一緒にいる。そんな旅人いるか! とツッコミたかったのを我慢して護衛の男は冷静に問い返した。
「その旅人が何のようだ? 俺達を誰だか知ってるのか?」
「知らねえよ。でも俺の予想が正しいなら……ラトロー奴隷商会……かな?」
ビクっと反応する男達。
「その反応は正解かな? まぁ何の用かっていったら最初に言ったように聞きたいことがあるんだ。ちゃんと答えれば生きて帰られる可能性が高まるぞ。ではまず1つめ。護衛のお前達はハンターか?」
男は人差し指を上げながら質問してきた。
護衛たちは皆あせっていた。この男の実力はわからない。しかしこの魔獣はやばい。この男が魔獣使いとするとこの男はこの魔獣より強いということになる。何故なら魔獣使いは魔獣を屈服させることによりその魔獣を支配下に置き、使役することができると商会に所属する唯一の魔獣使いの男に聞いたことがあるからだ。それが正しければこの男は相当やばい。
「違う。俺達は全員商会の人間だ」
1人が正直に答えたが俺達が商会の人間と知って相手に対して交渉素材になるとも思えなかった。何しろ相手は最初にこちらを商会だと予想して襲ってきているからだ。おそらくハンターと答えればハンターカードを確認される。持っていない以上そんな嘘はすぐにばれてしまう。この状況ですぐばれる嘘をつくメリットがない。
「そうか。それじゃ2つ目。お前達が扱ってるのは亜人の奴隷。今はそれを輸送中ってことでいいか?」
「……そうだ」
「なるほど……それじゃ最後の質問だ。生きたまま魔獣に食われて死ぬのと武器を捨てておとなしく降伏するのならどちらがいい?」
言われた瞬間全員武器を捨てていた。護衛といえどあくまで優先されるのは自分の命。奴隷はまた攫えばいいが自分が死んだらそれまでだ。ならば何をしてでもまず生き延びることを考えねばならない。6人全員でかかればこの魔獣は倒せるかもしれない。しかし何人かは必ず死ぬだろう。誰もその死ぬ側になりたくはない。隙があればもちろん倒すがあの魔獣にはそんな隙は微塵も感じられない。魔獣使いの男を倒したとしてもそれで魔獣が死ぬわけでも見逃してくれるわけでもない。魔獣使いが死んだら使役した魔獣は野生に戻るからだ。野生に戻った魔獣が見逃してくれる可能性は限りなく低い。その低い可能性のためにこの魔獣使いを倒そうとするのはリスクが大きすぎる。今は大人しく従ってチャンスを待つしかないだろう。
「それじゃ全員そっちに並べ」
御者も含めた7人は馬車から離れた場所に移動させられた。
「シロ、50mくらいの垂直の高台に乗せてやれ」
すると男達のいる地面が円筒状に盛り上がりそのまま急上昇した。50m程の高い塔のような物ができあがり、その頂上にいる7人は何が起こったのか解らず悲鳴をあげるだけだった。塔の側面は恐ろしく綺麗でツルツル滑る。手足をかけることもできないためさすがに無事に降りることは難しいだろう。男達はそのまま放っておいても大丈夫だろうと俺は2台目の馬車へと向かう。御者はすでに逃げているらしく誰もいない。俺は荷台に向かい垂れ幕を上げるとそこには鉄製の牢屋のようなものがあった。暗くて奥のほうは見えない。俺は鉄格子をつかみゆっくりと、そして強引に引っ張った。かなり丈夫な牢屋なのだろう。鉄格子は外れずそのまま牢屋が丸ごと馬車から引きずり出された。ドスンという大きな音とともに牢屋が地面に下ろされた。牢屋の中には亜人が3人程捕まっていた。暗がりから急に出されたせいかみんな眩しそうにしている。
「誰?」
金髪猫耳の少女が俺に問いかける。フェリアと同い歳くらいだろうか。マオちゃんと同じ金髪に猫耳、そして数本づつ左右に生えた髭。顔立ちもマオちゃんにどことなく似ている。
「俺は獣耳モフモフ協会会長だ。世界中の獣耳少女の平和と安全のために日夜戦っている」
「はあ?」
強ち間違ってはいないんだが、猫耳少女は呆れているようだ。
「まぁ簡単に言うと君達を助けにき……エルフ!?」
よくよく牢の中を見ると金髪のそれは美しい耳の長い少女が首輪をはめられて横たわりこちらを睨んでいた。ちなみに残りの1人はマオちゃんよりちょっと年上くらいの犬耳の男の子だ。フェリアが嗅いだ匂いはおそらくこの子のものだろう。どうやってこの子達を牢からだそうかと悩んでいたところ不意に声を掛けられた。
「おいおい、ありゃ何だってんだ一体」
後続の3台目の馬車のほうから何人かの男達が歩いてくる。その先頭、恐らくリーダーであろう茶髪の男がシロの作った円柱を見据えながらこちらに歩いてきた。
「ずいぶんやばそうなの連れてるなあんた」
茶髪はシロを一目見て肩に力が入る。
「かわいいだろ? モフモフで気持ちいいんだぜ」
まるで十年来の友人のように初対面で軽口をたたき合う2人。お互い笑顔に見えるが2人とも目が笑っていない。
「お前は他の奴らとは毛色が違うようだが……お前も亜人誘拐の一味か?」
「今回初仕事の護衛だ。こんな仕事やりたくないんだが訳あって仕方なく……な……」
剣を肩に担ぎため息をつきながら男は答える。
「何をしてるんだ! 早くそいつを何とかしろ! お前は護衛だろうが! お前の娘が助かったのは誰のお陰だと思ってる!?」
男の後方、護衛には到底見えない、どちらかというと悪徳商人といった感じの太った男が叫んでいる。
「へいへい、感謝してますよ……ってことだ。お前さんに恨みはないんだがこれも仕事なんでね」
そう言って男はシロを一瞥した後、こちらに向けて剣を構えた。
「そいつは王国の騎士団で部隊長を勤めていた程の男だ。逃げるなら今のうちだぞ!」
太った男がまるで自分のことのように自慢する。
「へー、そうは見えんな」
「よく言われるよ」
そういって男は不適に微笑みながら剣を構えた。
後ろの馬鹿がいるせいで降参はしてくれなさそうだ。シロに相手させるのが一番だが殺さずに無力化となると動く相手では難しい。まぁ対人戦闘の実戦経験をつんでおくのも悪くないか。しかし面白そうな男だ。素直にそう思った。できるなら小細工無しで真っ向から戦って見たかったものだ。お互いの能力が解らないで対峙するこの緊張感は実にいい。相手のデッキが解らずに対戦するカードゲームのようだ。しかし今回ばかりはそんなお遊び気分でやるわけにはいかない。なぜならここで俺が負けることになれば、間違いなく俺が連れてきた娘達がまた奴隷へと落とされるからだ。この男には悪いとは思うが仕方ない。インチキさせてもらうとしよう。引いたばっかりでまた使うとか、なんかこいつに頼ってばっかりだな。
「60セット」
「74セット」
No060UC:速度倍加 自身の速度を倍加する。
No074UC:先見之明 数秒先をみることができる。
「さて、やろうか」
通称瞬殺コンボを起動しつつ、俺はトンファーをホルスターから抜き、クルクルと回すと腕に添える形で構えた。
「ずいぶんと変わった武器だな」
「特注品だからな。高かったんだぜこれ。そして本邦初公開だ! 喜べ、お前はこいつの犠牲者第一号だ」
「そいつは光栄だな……あんまりうれしくねえけど」
お互い軽口をたたきあいながら徐々に間合いを詰めていく。男の持っているのはブロードソードとでもいうのだろうか。剣の種類なんかはよくわからないが使い込まれていて手入れが行き届いている、そんな印象を受ける剣だ。俺は剣の専門家じゃないからあくまでそう思うだけなんだけどな!
男の身長と剣の長さから考えると、もう俺は相手の間合いに入っているはずだ。しかし相手は動かない。ならばと思い切って踏み込んでみる。懐に飛び込むが未だに敵の攻撃映像が見えない。そしてトンファーで腹でも突こうとした瞬間、俺が真っ二つにされる映像が見えた。すぐさま攻撃を中止し後ろに飛び退く。
「何!?」
攻撃は来なかったがなぜか男は驚いているようだ。
「懐に入って何もしないとか手抜いてんのかい?」
「いやいや、いたって大真面目さ。あのまま1秒でもいたら真っ二つだったろ?」
お互いに笑いながら探り合う。そういえば人間相手の命がけのやり取りなんて始めてだな。魔物なんか相手にするよりはるかに難しい。まぁ能力を極力見せないで殺さないことを前提にしたらの場合だが。相手は革の鎧を着込んでいるからそれなりに防御力はあるだろう。棒で叩いたところでそうそうダメージが通るとは思えない。むしろ貫通するダメージを俺の今の腕力で与えたらつぶれてしまう可能性が高い。この男は何故かおっちゃんと似たような空気を持ってるからなるべく殺したくはないんだがなぁ。しかしなぜ攻撃してこないんだ? さっきも俺が攻撃する瞬間まで動かなかった気がするし……カウンターに特化したスキルでも持ってるのか? 速度アップした俺の攻撃より後出しにもかかわらずこちらより先に攻撃が発生していた気がする……試してみるか。
俺は再び踏み込みながら右手のトンファーを振りかぶる。男は右に避けると同時に首を薙ぎに来るがそれを左手のトンファーで止める。カキンという甲高い金属同士のぶつかり合う音が響く。すぐさまもう一歩踏み込んで再度右のトンファーを突き出すが今度は左に避けて再度俺の首を薙ぎに来る。映像が見えている俺は剣の軌道スレスレを屈んで避けてさらに踏み込む。右のアッパーを放とうとするがその瞬間腹を切られる映像が見えたため即座にバックステップでかわす。
「おっと危ない。攻撃してたら死ぬとこだったな」
「おいおい、どんだけ勘がいいんだよ」
薙いだ後にそんな速度で切り返せるのか……フェイントでもないのに明らかにおかしい速度だ。しかもやはりこちらの攻撃に対して必ず後出しで攻撃がきている。カウンター型スキルなのかそれとも相手にそう思わせているだけなのか。しかし1つわかったことがある。こいつのかわす速度はそれほど速いわけではない。長年の経験により培われたものという感じがする。どんなにこちらが早くてもやはり素人の攻撃。経験者から見たら読みやすいのだろう。若干動作より早めに動き出して避けられている気がする。しかしカウンターとして攻撃してくる速度だけは尋常じゃない。こちらに匹敵する速度で攻撃してくる。普通の人間なら攻撃する瞬間を狙われたら対処するのは難しい攻撃だ。
「ええい、何をてこずっているんだ! お前達も加勢しろ!」
太った男が近くにいる護衛らしき男達に声を掛ける。ちなみに後方から来た護衛らしき男達は今戦っている茶髪をいれて3人。残りの2人は俺達の戦いを見守っていた。
「そっちが複数で来るならこっちも複数で相手しないといけなくなるんだが?」
俺がそういうとシロが俺の隣に来て相手を威圧する。護衛の2人と太った商人風の男は「ヒィッ」という情けない声を上げてたじろぐ。
「食われたくなきゃ大人しくしてろ」
そういうと3人はまた後ろに下がっていった。
「さて、待たせたかな。続きをやるかい」
「俺としてはあんまりやりたくないんだけどねぇ」
そしてお互いまたにらみ合う。しかし困ったな。カウンター型相手にトンファーのみは正直厳しい。トンファーは相手の剣を受け止めてそのままカウンターとして相手を殴ろうと思って作った武器だったのになぜか初戦の相手が逆にカウンター型というふざけた状況。攻撃しない限り攻撃してこないんじゃ受けながら懐に飛び込むのが難しい。こうなったらどちらが攻撃を我慢できるかチキンレースでもやるか。
俺は武器を構えずにそのままズケズケと歩いて間合いを詰める。男は驚いた様だが冷静に剣を片手で肩に担ぐように構えている。尚も俺は歩き続け遂に武器が体に届く間合いにまで到達する。俺は右手を前に出すと男がそれに合わせて剣を振り下ろす。手を出したのは攻撃ではなくただ伸ばしただけのフェイントだ。俺は半身に体をずらしながら剣のくる機動を避けて懐に飛び込む。そして両手のトンファーを離して相手の振り下ろす腕を取る。
「なん? うおおお!?」
俺は男の腕を取り、力任せに一本背負いで投げた。但し足は内股のように相手の太ももをこちらの太ももで蹴り上げる形だ。
「ぐはっ……が……」
今の俺の腕力で全力でたたき付けられた男は背中から地面にたたき付けられ一瞬呼吸が止まったようだった。投げた後俺も勢いにまかせて一回転し、男の体の腹に膝を落として落下した。その後武器を持っている右手の手首を持ったまますぐさまマウントポジションを取り流れるように男の首に手を当てる。
「やめたほうがいい。俺ならそいつを抜くより先に首を折れる」
男は腰の後ろに回した左手に隠し持ったナイフを捨てて手を上げる。
「いや、まいった。俺の負けだ」
右手の剣も捨てながら、すがすがしい笑顔で茶髪の男はそう答えた。