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ワールドオーダー  作者: 河和時久
パトリア編
32/70

31:新たな仲間

「にゃんにゃんにゃーにゃーにゃ~」


 馬車に揺られながら、御者をしているおじちゃんの膝の上に座り、私は思いつくままに歌を歌う。何かの決まった歌というわけではない。ただなんとなく歌う。題を付けるならおじちゃんの歌だ。前は家の近くの森にある、大きな木の上でよく歌っていた。そこの大きな枝の上でお昼寝するのが大好きだった。おじちゃんの膝の上は、なぜかその木と同じ感じがする。

 

 おじちゃんは私が落ちないように腰に手を回して支えてくれている。おじちゃんにもたれるとおじちゃんは笑いながらもう片方の手で頭を撫でてくれる。それはとても気持ちよくて幸せな気分になる。


「楽しいことも、悲しいことも、生きている時、全てが思い出という宝物になる。ひょっとしたら、今この瞬間も、ずっと遠い未来でふと、思い出すことがあるかもしれない。その時、君達はどんな大人になっているんだろうね。願わくば、みんな笑っていられる時代になっていて欲しいものだね」


 私にはおじちゃんの言っていることは難しくてよくわからない。でも、おじちゃんと一緒にいるこの暖かい一時ひとときは確かに宝物だ。

 あの日、知らない人達に連れてかれた時にはこんな日が来るなんて思いもしなかった。知らないおじさん達にいっぱい叩かれて、蹴られて、体中が痣だらけになった。泣くと余計に叩かれるから泣くこともできなかった。このまま私は殺されちゃうんだ。思い浮かぶのはやさしかったお父さんとお母さん、そしてお姉ちゃんの顔。そんな私を救ってくれたのは銀狼族のフェリアお姉ちゃんだった。連れ去られるときに馬車の中で出会ったお姉ちゃんは、種族が違う私にも優しくしてくれた。それから私が叩かれたりするたびに私を庇ってくれた。

 

「だいじょうぶ。きっと助かるわ」


 連れてこられてからずっとお姉ちゃんは励ましてくれる。フェリアお姉ちゃんは本当のお姉ちゃんのようだ。妹のファリムも仲良くしてくれた。でも私よりちょっと年上だからってすぐお姉さんぶるのがちょっと嫌。

 

 馬車の中は檻になっていて外を見ることもできなかった。そんな日が幾日も過ぎた後、とても大きなお屋敷に着いた。そして首輪をつけられた。首輪をつけられたとたん、お姉ちゃんは動かなくなった。

 

「お姉ちゃん!!」


 2人でお姉ちゃんに呼びかけるがお姉ちゃんは倒れたまま「だいじょうぶよ」と笑うだけだった。

 そのまま2人と一緒に牢屋に入れられた。このままみんな殺されちゃうんだろうか。お姉ちゃんはきっと助かるっていってた。誰が助けてくれるんだろう? お父さん? お母さん? お姉ちゃんが言うんだからきっと誰かが助けてくれる。体中が痛む中、私はまだ見ぬ誰かを待った。そしておじちゃんと出会った。


 おじちゃんのぬくもりに包まれながら私は昔のことを思い出していた。こんな思い出も宝物になるんだろうか。子供の私には解らないけど、おじちゃんが言うならきっとそうなんだろう。あっあの雲、お魚さんみたいだ!! おいしそうだにゃ……今日の晩ご飯……なに……かにゃ……










 パトリアへ向けて出発した俺達は順調に旅を続けていた。といってもまだ出発して1時間も経っていないが。御者をしている俺の膝の上で足を振り振りしながらマオちゃんが上機嫌でよく分からない歌を歌っていたが、しばらく頭を撫でていると歌い疲れたのかマオちゃんがウトウトとしだした。犬耳姉(フェリア)を呼びマオちゃんを後ろに寝かせる。ちなみに犬耳妹ファリムのほうはすでに絶賛お昼寝中だ。夏の暑い日差しも馬車の中では関係ないし、馬車の移動による風もあり、しかも下は羽毛布団というまさに天国な状況だから2人ともぐっすり寝られるだろう。馬車の振動も道が平坦だからあまり感じないし。まぁ日本のように舗装されているわけじゃないから、そこまで静かって訳ではないが。サスペンションでもつければもっと快適になるんだろうか。それともタイヤをゴム製にするとか。まぁゴムがあるのか知らないけど。

 

 

 

 そのまましばらく馬車を走らせる。辺りは見渡す限りの草原だ。地平線が見えるなんて日本じゃ北海道くらいだよな。知らんけど。まぁもちろん行ったことはない。しかし両親が北海道出身の幼なじみに聞いたところによると、北海道では50kmまでは隣町感覚なんだそうだ。スケールがでかすぎる!! その人達から聞いた逸話だと空港の近くに何の施設かは知らないけど『何とか王国まで200km』とかいう看板があるだとか、『この先ガソリンスタンドありません』なんて看板があるだとか枚挙にいとまがない。200kmって東京から静岡くらいまで行ける距離なんじゃないか? もうスケールがメチャクチャだ。そんなスケールで語るならガソリンスタンドがないっていう看板も納得できる。そんなところで都市部から離れた場所でガス欠なんて本当の意味で陸の孤島に置き去りに等しい状態だからな。でも一度は行ってみたかったなぁ。しかしネトゲの知り合いが北海道に転勤したときに言ってた話を聞く限り、冬の灯油代がやばいとか、ストーブがないと死ぬとか、もう北海道には行きたくないとかおっかない話しか聞いてないんだよなぁ。観光で2、3日行くくらいならいいところなのかな。そもそも1m積もる雪とか見たこともない人間が、いきなり冬の北海道なんて住めるとは思えないな。雪かきとかしたことないし。うん、やっぱり俺には北海道に住むなんて無理だな。

 



 代わり映えのしない景色を延々と繰り返しているとやはり思考の海におぼれてしまうようだ。気づくと行ったこともない、全くここと関係ない北海道の事を考えていた。代わり映えのしない景色といえど、晴れ渡った青空の下、大自然を悠々と馬車で進むなんて現代日本人としては夢の環境にいると思える。これでお昼寝とか最高だろう。後ろでスヤスヤと眠っているマオちゃん達をちょっとうらやましいと思いつつ、俺は大きな欠伸(あくび)をしながらのんびりと馬車を進ませた。


「キッドさんはどこの出身なんですか?」


「今じゃもう行けない、遠い所だなぁ」


 のんびりとした空気の中、フェリア(犬耳姉)と他愛のない話をしながら俺は馬車を進めた。今じゃもう行けないとは言ったが、まず根本的な問題としてここがどこなのか全く解らないということがある。考えられるのは2つ。

 

1:地球のどこかである。

 

 メディアの発達した地球でここまで大きい規模で完全に情報を隠蔽できるなんてどこだろう。空を飛行機でも飛んでたら実はエリアなんたらとか、広大な場所で隔離された空間なんて可能性も否定できない。一番確認しやすいのは夜に星座でも確認することなんだろうが、俺が知ってるのがオリオン座くらいで、しかも日本からみた場合だけなので明らかに日本でなく、しかも夏に確認できるのかっていうのが一番の問題だ。

 

 まぁここまで言ってなんだが……うん、実はもっと手っ取り早く確認できた方法があったんだ。実はここ……確認できただけで月が3つあるんだよね……実は星座がどうこういう以前の問題だった。おっちゃんの村で最初に見た時はさすがに驚いたが、ああ、ここは地球じゃないのかなぁなんて納得もした。とりあえず少なくとも現代の地球ではないことがわかった。だが、まだ可能性として遙か太古、もしくは未来には月が3つという可能性がなきにしもあらず。そうなればまだここは地球という可能性が残されている。まぁどっちにしろ現代ではない以上、あまり意味はない気もするけど。

 

 そうなるとやはり考えられるのは

 

2:異世界である。


 まぁこれが一番しっくり来る話だ。俺がここに来る意味が全くわからないが。実は地球でもよく聞く神隠しとか消失事件とか、実はこうやって知らずに飛ばされているのかもしれない。俺が知らないだけで。まぁそれで帰ってきたやつがいるのかどうかも怪しいけど。実際帰ってきたやつがいたとして、「俺、異世界から帰ってきた!」とか言ってるやつが居たら間違いなく距離を置くだろう。どこからどう見ても厨二病を(こじ)らせているようにしか見えないからな。だから知られていないだけで、実際は異世界に行って帰ってきてるやつが居るのかもしれない。だからといって俺が帰れるのかとは全くの別問題なんだが。

 

 まぁここを異世界だとして、いい歳して全く新しい環境で生活を始めるのは結構辛い。まぁそれは地球だったとしても同じで、全く新しい概念や習慣を大人になってから覚えなければならないのはやはりかなり辛いだろう。しかし、真新しい生活は驚きと刺激のある毎日ならその辺りは慣れと根性でどうとでもなる。いきなり海外にホームステイなんかするとこんな感じなのだろうか。しかしそれほど苦労というものを感じていないのはおっちゃんに出会えたということと、もう一つは地球では一番の大問題である言語によるコミュニケーションを全く気にする必要がない所だろう。言葉が通じるというのはとても大事だとしみじみと感じた。相手が何を言っているのはわからないというのはそれほどの恐怖だ。言葉が通じなかったら、まず最初に出会ったおっちゃんを熊と間違えて逃げただろう。話しかけるというのはとても重要なことだ。以前、アメリカで日本人学生がハロウィンの時に射殺されたとかいう事件があった。あれは言葉が通じればまだなんとかなったのではないだろうか。ハロウィンで行く家を間違えただけで殺されるとか怖いにも程がある。まぁアレは銃社会というアメリカならではの事だと思うが、この世界でも同じようなことが起きないとも言い切れない。弾丸の代わりに弓やら魔法やらが飛んでくるだけで。なので言葉が通じるというのはとても幸運だった。幸運なやつがいきなり異世界に飛ばされるのかっていうことは考えないようにしよう。じゃないとやってられない。

 

 

 

 

 

 





 ここが異世界だと解ったとして今の俺にとっては、だからどうなるというものでもなかった。俺はフェリアに御者の仕方を教えながら、のんびりと馬車を進めた。

 

 日中は俺が御者をして、さらに夜中に徹夜で見張りなんてしてたら、さすがに死んでしまう。なのでフェリアに御者のやり方を教えて、日中は任せて俺は寝ることにした。まぁ明日からだが。今日は犬耳姉(フェリア)に御者の仕方を教えつつ俺がそのまま御者をしている。1日くらい徹夜してもどうということはない。会社に勤めていた頃のデスマーチに比べればこんなものは天国だろう。俺は今ではもう遠い会社のことを考えて若干罪の意識を感じた。

 

(途中だったあの仕事、俺無しでどうしてるんだろうな)

 

 やはり途中で逃げたと思われているのかな。この業界じゃよくあることだけど。俺は逃げたことはないが過労で倒れて入院したことなら3回程ある。一人に仕事が集中しやすい仕事にはよくあることだ。まぁ仕事なんてできるできないじゃなくてやらなければならないんだから、やるしかないんだろうけどな。誰が引き継いだか解らないが健闘を祈っておこう。俺も同じ様な目に何度もあってるしな。

 




 夕方になり、街道から少しずれたところに馬車を止めた。火と鍋を用意してフェリアにシチューを作って貰う。薪は街で炭を買ってきたのでそれをそれを使った。結構大量に買ってきたので当分薪を集める必要はないだろう。

 普通なら長旅でこんな風に水を使って料理なんてしないんだろうが、この世界では水を作り出す魔道具があるためスープの類はよく作られる。吸収が早くて栄養がとりやすいからハンターにとっては重要な料理なのだろう。周りを警戒しなければ行けない場所では無理だろうが。ちなみに食器はコンビニから持ってきた紙製の使い捨ての物だ。使い終わったら薪にして燃やしてしまえるので便利だ。まぁスプーンだけは洗って使い回すが。

 

 夕食後、マオちゃん達は馬車の中でリバーシをしている。しかし布団の上でやっているのですぐに寝てしまうだろう。特に娯楽がないから基本的にこの世界の夜は早い。隠れ家にいたときは夕食後にマオちゃん達はすぐに寝てしまっていた。今日は旅先で興奮しているのか、それともつい先ほどまでのお昼寝のせいか、まだ起きているようだ。ちなみに馬車の後ろの扉は閉めており、御者側だけ開いている。馬車の中には四隅の天井に明かりの魔道具が設置されている。蛍光灯のように明るくはないが、蝋燭ろうそくなんかよりは明るい。何を使って明るくしているのかは解らないが、火を使っているのでは無さそうだ。明かりを灯す魔法でもあるのだろう。

 

 

 俺は一人火の前で気配探知の練習をしていた。馬車に乗っているときもずっと練習はしていた。かなり上達した気がする。もう50mくらいなら生物の反応が解るようになった。しかし、大きさはなんとなくわかるが詳しく何かまでは判別できない。上達すれば生き物以外でも一定範囲内ならなんとなく何があるかわかるようになるらしい。どうすればそこまで行けるのか今は皆目見当も付かない。無意識に周りを警戒できるくらいのレベルになるまでは頑張ろう。不意打ちが一番死ぬ可能性が高いからな。

 

 しかし、日中全部フェリアに御者を任せてしまう訳にもいかないよなぁ。何かあったときにすぐに対処できないとまずいし。気配探知の練習をしながら俺はふと思い出す。そういえば効果がいまいち解らなくて今まで使わなかったカードがあったな。あれを使ってみるか。

 

展開オープン


 俺はデッキを出して1枚のカードを取り出した。

 

「25セット」


No025R:四獣召喚 強力な守護者を召喚する。守護者はランダムで選択される。デリートするか守護者が死亡しない限り効果は永続する。


 カードから凄まじい光があふれ出し、それが一つの形に収束していく。そこに現れたのは

 

「……虎?」


 体長2mは優に超える白い虎だった。所謂いわゆる白虎(びゃっこ)というやつか。亀とか龍とか出てきたらどうしようかと思ったが無難に高速移動できそうなやつでよかった。さすがに馬車に乗せるには重そうだしな。

 

 虎はじっとこちらをみている。俺は右手を伸ばして頭を撫でてみる。虎は目を細めて気持ちよさそうにしている。そのまま調子に乗って顎までなでると虎はごろんと寝転がり仰向けになった。完全に猫だ。思わずお腹に飛びついてモフモフしてしまった。虎はいやがる様子もなくじっとしている。はっきりいって超気持ちいい。このさらさらの毛と暖かいぬくもりはくせになりそうだ。

 

「そうだ。お前の名前を決めないとな。白虎じゃ言いにくいから……白いんでシロでいいや。お前は今日からシロな」

 

「ガウ!」


 なんか犬みたいな名前だが気にしない。キッドは新たな旅の仲間が増えた!! これがゲームならきっとファンファーレでもなっていることだろう。


「シロは何食べるんだ? 馬は食べちゃだめだぞ」


 そういって俺は鞄から干し肉を取り出してシロの口に持って行く。しかしシロはそっぽを向いて食べない。

 

「肉は食べないのか。何食べるんだろう」


 その後、果物やら野菜やらを取り出すがやはり食べない。シロが単に偏食なのかそれとも食事そのものを必要としないのか……俺は途方に暮れていると伏せていたシロが急に起きあがりどこかを見つめて唸りだした。

 

 「どうしたシロ? 何かいるのか?」


 俺には何も見えないがどうやらシロは上空を見つめているようだ。すると月明かりに黒い影が横切った。梟のような夜行性の鳥か? それにしてはかなりでかい。バサバサという音が聞こえてきた。暗闇に紛れても音がする時点で意味ないだろ! あれか、巨大すぎて静かにできないのか? 梟なんかはその羽の仕組みボルテックジェネレータが新幹線に搭載されてるくらい消音設計なのにな。ちなみにボルテックジェネレータとは梟の羽の上のほうにある細かい切れ込みみたいなもので気流を細かく分けて音を静かにする仕組みらしい。20年くらい前にTVでみた知識なので正確には知らないが騒音問題でなかなか作れなかった新幹線がそれのお陰で完成したとかなんとか。野生動物ってすごいと心底感心したものだ。

 

 余計なことを考えながらも俺はすぐに馬車にのり、御者側の扉を閉めながらカードを使用する。

 

「84セット」

 

No084C:風餐露宿 半径5mの結界を作成する。虫や魔物を寄せ付けない。


 これで馬車は大丈夫だろう。馬は警戒しているようだが普通の馬と違って全然怯えていない。度胸ありすぎだろ。

 

 俺はシロの所に戻るとシロはすでに何か巨大なものを口に咥えていた。それは真っ黒な巨大なプテラノドンのような鳥らしき生物だった。

 

「プテラノドンて夜行性なんだ……」


 俺が現実逃避しているとシロは前足で胴体を押さえつけながら頭をそのまま噛みちぎった。頭の無くなった胴体からは血が激しく噴き出している。昼ならかなりグロい光景だろうが夜なのであまりショッキングな映像には見えなかった。


 どうやら上空にはまだいるようでシロが上をみて警戒をしている。しかし1匹倒して警戒されたのかなかなか降りてこないようだ。シロが仕留めた遺体を見ると、頭はプテラノドンだけど体はどちらかというとコウモリに近いようだ。コウモリか……ちょっとためしてみるか。

 

展開オープン


 俺は1枚のカードを取り出した。こんなことで使うとは夢にも思わなかったが何事もテストが肝心だ。俺はシロの場所までいきカードを使う。


「195セット」


No195C:打上花火 巨大な花火が6発上がる。


 ピューという甲高い音がし、上空で凄まじい音と共に大輪の花が咲いた。すると悲鳴と共にプテラノドン達が落ちてきた。なんか音か衝撃に弱いようだ。落ちなくても明かりで何匹いるかくらいは解るかと思ったが、どうやら思いの外効果があったようだ。落下してきたプテラノドンにトドメをさそうとすると

 

「ガウ!」


 シロが急に吼えた。すると落下してジタバタしているプテラノドンの真下から巨大なとがった岩塊が飛び出し、プテラノドンを全て串刺しにしてしまった。先端が細くてだんだん太くなっていくため、みんな岩塊の半ばに刺さった状態で、モズの早贄のようになっている。しかしまだしぶとくいきているようでみんなギャーギャーとわめきながら動いている。

 

「ガウ」


 シロのその一声でこんどは刺さった部分から横に岩塊が四方八方に飛びだしてきた。それによりプテラノドンは哀れバラバラに引きちぎられてしまった。全員動かなくなると岩が消えバラバラになった死体だけが残された。

 

「ガウ!」


 シロがこっちを見て吼えてすりよってくる。

 

「よくやったぞシロ! 偉いぞー」


 俺は頭を撫でてやるとシロは嬉しそうに喉を鳴らした。どうやら褒めて欲しかったようだ。家にいた猫がよくゴキブリとか咥えて持ってきては「ほめてほめて!」とすり寄ってきてたのを思い出した。

 

「しかし、これどうするかな……」


 長閑な旅先での夜が一瞬で血生臭い戦場跡になってしまった。するとシロが徐に1つの遺体の所に行き、むしゃむしゃと食べ出した。


(ひょっとして生肉しか食べないのか?)


 そう思っているとシロは何かを咥えてこちらにきた。それなりに大きな魔石のようだ。どうやら生肉を食べていたのではなく魔石を取り出してくれたようだ。何この子、利口にも程があるだろ! 

 

「シロ偉いぞー」


 俺は両手でシロの頭をなで回す。しかしシロは魔石を咥えて離そうとしない。

 

「ん? 欲しいのか?」


 そう言うとシロは頷いた。この子完全に言葉理解してるよね。

 

「でもどうするんだそれ?」


 シロは魔石を地面に置き、じっと魔石を見つめる。すると魔石からなにやら煙のようなものがでてシロに吸い込まれていく。それが1、2分程続くと魔石はただの石の塊になってしまった。

 

「これは……魔石から魔力を直接吸い出してるのか?」


「ガウ!」


 そうだといわんばかりにシロが答える。なるほど、肉とかじゃなく魔力がご飯なんだな。とすると

 

「俺から直接吸えないか?」


 するとシロは首を横に振った。どうやら無理のようだ。魔石からしか取れないんだろうか。だとすると魔石は売らずに取っておく必要があるな。

 

「シロ、とりあえず全部魔石持ってきてくれるか?」


「ガウ!」


 小一時間ほどしてシロが全部の遺体から魔石を取り出してきてくれた。全部で11個ある。1個シロが食べたのでプテラは12匹いたということか。

 

「シロはこの魔石一つでどれくらい持つんだ? 1日?」


 シロは何も答えない。

 

「2日? 3日?」


 そうやって聞いていくが答えない。

 

「10日より多かったら吼えて」


「ガウ!」


 どうやら10日以上持つらしい。結構大きめの魔石だからかな? 質問を続けるとどうやら30日は持つらしい。ここにあるだけで1年持つじゃないか。ずいぶんと燃費いいな。


「もっと小さい魔石ならもっと少ないよね?」


「ガウ」


 やはりそのようだ。しかし、今回のように魔力らしき物を使うと減りが早くなるかもしれない。あくまで戦闘をしない通常の生命活動を続けた場合の目安と考えよう。とすると半年分くらいと考えておこう。定期的に魔石を手に入れることを考えておかないといけないな。


 しかし、この遺体はどうするか……ほとんどがちぎれて原型もないし、素材としても使えなさそうだよなぁ。血の臭いで獣でも寄ってきたら事だし、なんとかしないとな。しかし1ダースもの巨大なプテラノドンを処分となると面倒この上ない。


「うーん、どうしたものか……」


 なやんでいるとシロが吼える。

 

「ん? 何かいい方法でもあるのか?」


 シロが遺体の方に向き一声吼えるとたちまち遺体が消えて無くなった。

 

「あれ? 何したんだ?」


「ガウ!」


 うん、何言ってるかわかんない。まぁいいや、深く考えないことにしよう。偉いぞーと褒めながらシロを撫でる。よくみると白い体が真っ赤な返り血で所々赤くなっている。さすがに風呂はないからどうするかと思案した結果、俺は一枚のカードを取り出した。

 

「83セット」


 No083C:浄化作用 対象を浄化する。解毒作用等はない。


 みるみるとシロは綺麗になっていき、最初に現れた時と全く同じ真っ白な綺麗な体になった。

 

「よし、綺麗になったな。ちょっと周りを警戒しといてくれるか?」


 シロにそう言って俺は馬車に戻る。馬達は起きているようだ。花火で驚いたようだが暴れたりしないあたりかなり図太いようだ。俺は御者側の扉を開けると中には3人娘が警戒してこちらを見ていた。みんな起きてしまっているようだ。

 


「何があったんですか?」


「なんかコウモリみたいなのがいっぱいきたけどだいじょうぶだよ。みんな片付けたから」


 そういうとマオちゃんはそのまま倒れ込んで寝てしまった。犬耳姉妹も安心したのかそのまま寝床についた。俺はたき火の所に戻り、シロがいるからだいじょうぶだろうとカードを引いた後、寝転がったシロに抱きついて毛並みを堪能しながら眠りについた。

 



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