27:その後
なんか文章がおかしくなってきた。
日が暮れ始めた頃、俺は隠れ家へと着いた。入り組んでいてわかりにくいが、さすがに3回目だと場所は分かる。鍵などかかっていない扉を潜り、2階へと向かう。入ったとたん一斉にみんながこちらを向く。そのとたんマオちゃんが突進して抱きついてきた。しかし様子が少しおかしい。
「どうしたのマオちゃん?」
「みゃううぅ……」
頭を撫でながら聞いてみるが、マオちゃんはずっと俺のお腹に顔をすりつけてくる。
「マオちゃん、さっきからリムに負けっぱなしで悔しいんですよ」
そういって犬耳姉がリバーシを指差した。どうやら犬耳妹のほうがマオちゃんより少し年上のせいか、若干強いようだ。
「それじゃ、マオちゃんおじちゃんと勝負しようか?」
そういうとマオちゃんは嬉しそうな顔をして頷いた。実際やってみるとマオちゃんは先の事を全く考えずに、目先にある引っ繰り返る場所しかみていないようだ。俺は巧みにマオちゃんが角を取るように誘導して、接戦の末負けた。
「勝ったにゃ!」
「あー負けちゃったか。マオちゃん強いねー」
マオちゃんは非常に嬉しそうにしている。よっぽどみんなに負けていたんだろう。大人達も大人げなく勝っていたというのだろうか。そうしてると奥からサピールとライドさんが現れた。
「おっはやいな。どうだった?」
「伯爵には何もしてないけど、私兵の方はあらかた片付いたから、もう外を出歩いても大丈夫だと思うよ。こっちを追うような暇はないだろうし」
「片付いたって……屋敷にいただけでも200人近くは居たはずだが……」
「ライドさんは念のためフードでも被ってギルドに行ってみたらどうです? アマンテさんも弟さん達もいるはずですよ」
「そうか! 早速行ってみるよ」
「あっと、支部長に言伝お願いします。伯爵の家が魔物に襲われたらしいから調査したほうがいいと」
「なんだって!?」
「屋敷の上を大量の魔物が飛んでるのを見ました。何だったら国に調査依頼でも出した方がいいかもしれないですね。その辺は任せます」
「わかった。伝えておこう」
よっぽど会いたいのか、大急ぎでライドさんは部屋を出て行った。
「フェリア達は一応ここで大人しくしといてね。万が一って事があるから」
「わかりました」
「フェリア達はリバーシやってないの?」
「やりましたよ」
「まさか大人げなく、マオちゃんこてんぱんにしたりしてないよね」
そういうとフェリアは気まずそうに目をそらした。どうやら亜人は非常に負けず嫌いのようだ。
「一番強いのはフェリア?」
「サピールさんのほうが強かったです」
「そうか、じゃあ、サピールちょっとやってみようか」
「おっやんのか? 俺はこういう頭を使うのはちょっと得意なんだぜ」
そう言って自信満々なサピールと勝負を始める。マオちゃんよりは強いようだが、俺からすれば全然素人だった。真っ白になった盤を、同じく真っ白になったサピールがぼーっと見つめる。
「お前、少しは手加減ってものをな……」
もちろん俺が白。全部染めてやった。今は反省して……いるわけがない。
「サピールはマオちゃんより強くて、サピールより俺が強くて、俺よりマオちゃんが強いからちょうど三竦みだね。だからマオちゃんはリム達に負けても一番弱いわけじゃないからね」
そういってマオちゃんの頭を撫でる。よく分かっていないようだが、マオちゃんは嬉しそうに目を細めている。
「ライドが大丈夫なら俺が出歩いても大丈夫か。ちょっくらギルドに出かけてくるわ」
「絶対安全とはいわんからな。それに伯爵以外に追われてた場合は知らんぞ」
「追われてねえよ! ……たぶん」
そういって、力無さそうにサピールも部屋から出て行った。
「そういえば、帰りに買ってきたんだった」
そういって俺は焼き鳥を鞄から取り出す。そのとたんマオちゃんの耳がピンと立ち俺に襲いかかってきた。
「にくにゃー!!」
「ほら、マオちゃん落ち着いて。焼き鳥は逃げないよ」
そう宥めるが全く落ち着いていない。
「じっと待ってないとあげないよ?」
するとピタっと動きが止まった。まるで時間が止まったかのように。
「ゆっくり1本づつ食べるんだよ」
そういって焼き鳥の袋を開けると、ちゃんとみんな1本づつ手にとって食べ出した。まぁ元々両手持ちで食べてたのは、マオちゃんくらいだったが。それにしても昼も食べたのによく飽きないなと感心しつつ、また自分が食べ損ねるんじゃないかという勢いで食べ続ける3人を見て、慌てて俺も食べ始めた。
「支部長はまだいるか?」
先ほどギルドに入ってきた、フードを目深く被った男が、受付嬢にそう告げる。
「あの、どういったご用件でしょうか?」
訝しげにこちらを見てくる同僚に、男はそっとフードを取り外した。
「ラっ」
といったところで受付嬢は口を押さえられた。
「騒ぐな」
男がそういうと、受付嬢はだまって頷いた。そして「お待ち下さい」といい席を立った。しばらくすると受付嬢が戻り、支部長がお呼びですと告げる。男は黙ってそれに従い支部長室へと案内された。
「ライドか、話はキッドから聞いておる。無事で何よりだ」
「ご心配をおかけしました支部長。死ぬ寸前だった所をキッドに助けられました。本当にキッドには返しきれない程の借りができました」
「詳しい話を聞こうか。いや、それよりも出歩いて大丈夫なのか?」
「それについてキッドから言伝があります。伯爵の家が魔物に襲われたそうです」
「なんじゃと!?」
「昼間に伯爵の屋敷の上空を大量の魔物が飛んでいるのを目撃したそうです。なので調査した方がよいのではとのことです」
「わかった。至急調べさせよう」
「恐らくそれで伯爵の私兵が壊滅したとの話で、それによって私にかまっている所ではないと判断し、参上した次第です」
「なるほどの。壊滅したとの話はキッドからか?」
「はい」
「なら間違いないじゃろう。どうやったかまでは分からんが……」
「あまりスキル等については詮索しないほうがよろしいかと」
「なぜじゃな?」
「わざわざ命を危険にさらすようなマネはするべきではないでしょう」
断言する男にたいして支部長は一言頷いた。
「そうじゃな」
恐らく伯爵の私兵をやったのも彼だろうと想像が付く。報告が真実ならヴェントーザを一人で倒したというその能力は計り知れない。そして彼は能力を秘密にしたがる。それを暴こうとしてその計り知れない力の矛先がこちらに向いたらたまったものではない。藪をつついて蛇どころかドラゴンが出てきかねない。そんなことになればこのギルドだけの問題では無くなってしまう。しかし、魔物を自由に操れるのか? そんな力は聞いたこともない。迂闊な詮索はしないほうがいいだろうと結論づける。
「して、伯爵に誘拐されたのは間違いないのじゃな?」
「はい。まだ明け方でした。交代してしばらくすると数台の馬車がやってきました。それを止めて御者の男に近づいて話をしていた所までは覚えているんですが、その後、気づいたらすでに牢のような所に入れられていました。恐らく睡眠の魔法を使われた可能性が高いです」
「そうか。捕まってからはどうじゃった?」
「AFはどこだと質問されて、AFはアマンテが持っているから言うわけにもいかず、知らないと言うと手足を1本づつ折られました。その状態で腹を蹴られ続けたので、恐らく内臓を損傷していたと思います。キッドが来なければ命が危うかったでしょう」
「キッドは回復の魔法をつかえるということか?」
「申し訳ありませんが、私の口からは言えません」
その話はキッドが出かけている時にサピールから聞いていた。そのままだと間違いなく死ぬであろう状態だったはずが、ものの数分で回復させたという。そして全員をつれて牢から転移魔法のようなものをつかって脱出し所有者以外、外すことができない奴隷の首輪も軽々とはずした。やつは敵に回す男ではないと口を酸っぱくして言われた。ライドは元々感謝こそすれ裏切るようなマネをするつもりもない。彼には一生掛かっても返さなきゃならないくらいの恩ができたと思っている。例えギルドを敵に回しても彼の側に回る覚悟があった。
「そうか、深く詮索はすまい」
そうはいっても普通に考えれば、死にかけていたはずが、すぐに五体満足で動いている以上、なにかしらの回復手段があったと容易に考えられる。それが魔法によるものなのか、秘薬や魔法薬によるものなのかは分からないが。
「何にせよ無事でなによりじゃ。キッドに借りができたな」
「はい。それでアマンテ達なんですが……」
「ああ、皆無事じゃ。ギルドの仮眠室で匿っておる。念のため今夜一晩くらいは泊まっていくがいいじゃろう」
「ありがとうございます」
そういってライドは部屋を出て行った。そのまま仮眠室へと足を運ぶ。仮眠室と呼ばれているが、ごく普通の部屋で通常の宿屋の一室よりも大きく、造りは豪勢だ。元々は来客用の部屋だったのだが、ギルドに泊まっていく様な来客もないため、部屋を遊ばせているのもなんなので職員が仮眠室代わりに使い出した。今では完全に職員用の仮眠室となってしまっている。
仮眠室の扉をノックすると美しい女性が出てきた。
「ライドっ!?」
女性は尋ねてきた男性に抱きついた。また、男の方も抱きしめ返す。
「心配かけて済まなかった」
「ううん、あなたが無事ならそれでいいの」
人目もはばからず抱き合う2人を現実に引き戻したのは小さな声だった。
「お兄ちゃん帰ってきたの?」
部屋の奥から聞こえてくるのは、幼い弟の声だ。部屋の中へと進むと、弟と妹の2人が飛びついてきた。
「お帰りなさい!」
「ただいま。2人ともいい子にしてたか?」
「うん!」
2人が元気に答える。しばらく弟達と恋人との楽しい時間を過ごす。また無事に皆に会えたことに心から喜びを感じ、助けてくれた恩人に感謝をした。
「今晩ここに泊まっていって明日家に帰るからな」
「わかったー」
「もう大丈夫なの?」
子供達は素直に返事をしたが、アマンテは疑問を投げかける。狙われたことがある以上当然であるが。
「キッドが大丈夫っていった以上、大丈夫だと思う。念のために明日の朝、俺が先に街を見てくるよ」
「わかったわ」
アマンテは渋々納得した様子だ。実際ライドのほうも初めは信じられなかった。実は伯爵の手先がAFを手に入れるために、ただ俺を泳がせているのではないか? そう思ったこともある。しかし、それだと自分だけでなく亜人や情報屋まで助ける理由がない。聞いたところ見張りの兵士を2人殺しているとのこと。それすらも芝居で策の内だとしたら、さすがに自分ではどうしようもないだろう。大体AFを入手するために、そんな苦労をする必要がないはずだ。アマンテを狙えばそれで済む話なのだ。アマンテと面識があるにもかかわらずそれをしなかった彼は、伯爵の手先の可能性は限りなく低い。そして彼の持つ謎の力。どのような力かは分からないが、恐らくそれは我々の常識を覆してしまう程の、あるいはスキルという概念そのものを根底から覆してしまう程の物である可能性が高い。単なる魔法や魔道具という物ではあり得ない現象を軽々と起こす彼の力は、自分程度では計り知ることなどできない。それは古に伝え聞く英雄の力と並び称させるくらいのものだ。そのような存在に助けられた自分達は運がいいのだろう。彼が今後何をなすのか見てみたい。純粋にハンターとして、1人の男としてそう思うライドであった。
『ごほっごほっ、一体なにが起こったのだ…… む? 何故、私は裸なのだ?』
目の前の男が兜を落としたと思ったら、とたんに息ができなくなった。その場に蹲って苦しんでいたところまでは覚えている。その後どうなったのだ? 意識を取り戻すと何故か裸の自分がいた。そして自分を服を持って立ち去ろうとする部下達の姿が。
『おい! 何故、私の服を持って行く!? おい! 待て!!』
しかし、その声を聞いても部下達は足を止める事はなかった。
『待てと言っている!』
そう服を持つ部下の肩に手を掛けようと手を伸ばす。しかしその手が肩に届くことはなかった。いや、正確には届いているのだが触れることができなかった。するりと手が部下の体を擦り抜け、その勢いで転んでしまった。
『ぐう…… 何なのだ一体……』
自分の体に触れて確かめてみるが、衣服を着ていないくらいで特におかしいところも見あたらない。そのままギルドの壁に手を伸ばしてみる。
『これは一体なんだ!? 触れない!?』
そのまま壁に向かって歩いてみると、なんとそのまま壁を擦り抜けて、そのまま外に出てしまった。
『何なのだこれは……』
壁にも人にも触ることができない。周りの反応からすると恐らく私の姿も見えていないのだろう。一体何が起こっているというのだ。まさかこれが先ほどの黒髪がいっていた呪いというやつなのか? たしか不死系の魔物がそのような状態異常効果を持っていると聞いたことがあるが、まさか見えないだけで私の周りにそいつらが居たというのか? しかし、それなら今までこのような状態にならなかったのは何故だ? 亜人共を殺したのなんて昨日今日の話ではない。いきなり今日に限ってそのような状態になるとは考えにくいが……
だめだ、全く分からない。仕方がない、まずはこれからどうするかを考えるとしよう。そう思いながら街を歩いてみる。裸で街を歩き回るのは、初めかなりの羞恥心ととまどいを感じたが今では逆に快感を覚えそうになる。
「これは、なかなかいいかもしれない」
そんなことを言いつつ街を練り歩く。なかなか新鮮な気分だ。意気揚々と街中を歩いているとなかなかいい女を見つけた。どうやら買い物をしているようだ。手を伸ばすが案の定素通りしてしまう。そのままおしりに顔を近づけたが、顔は尻を貫通して体の中にはいってしまい、下着は全く見えない。ならばと今度は地面に寝そべって下から除いてみる。しかし、大陽の光が顔に当たって見ることができない。このままでは引き下がれない。仰向けに寝た状態から上半身だけ起こし、スカートの中に顔を突っ込む。……スカートの生地が厚いせいか暗くてよく見えなかった。これは黒の下着に違いない。そう思うことにして他の女を捜すことにした。
それからずっと街を探すがいい女は見つからなかった。そして分かったことがいくつかある。この体は地面以外を触ることができない。人だけでなく、食べ物にも水にも触れることができなかった。このままでは餓死確実だろう。そして、スカートを覗こうとしていて気づいたことがある。地面に触れることはできるので地面に指で文字を書くことはできる。街中で書いたところで誰にも見られず気にもとめられないだろうが、屋敷にいけば部下が気づいてくれるやもしれない。日も落ちかけだがが、まだ明るい。急いで屋敷に向かうことにした。そして屋敷に到着して言葉を失った。
「な、なんだこれは……」
屋敷の庭に広がる惨状は、まるで戦場跡のようだった。夥しい数の部下達の死体。しかし、敵と思われる者達の遺体はどこにも見あたらない。この数を一方的にだと…… 一体何が起こったというのだ!?
「ラドロ! ラドロはいるか!?」
自分の声がまわりに聞こえないことも忘れて叫ぶ。戦場は屋敷の建物の中にまで広がっているようだ。中に入るとそこも庭と同じように酷い有様だった。素通りしてしまうせいで階段が上れず、2階を確認することができなかった。これは万が一地下に落ちたら上れずに助からないな。しかしこの惨状は一体どういうことだ。戦ったのなら少なくとも相手の鎧なり、体なりがあるはずだ。しかし、ここにあるのは部下達とおぼわしき体と装備だけだ。なんの痕跡も残さずに一方的にやられたというのか!? 銀クラスハンターが20人はいたはずなのにそんな馬鹿な……
しかし、使用人の姿が1人もないのはどういうことか? 遺体の1つはあってもいいものだが、装備を見る限り遺体は全て兵士の物だ。どこかに避難したのか? それなら何が起きたのか事情を聞くことができるのだが。そう考えているとお腹がぐぅぐぅと鳴り響く。朝から歩き通しのわりにそういえば朝食以後何も飲まず食わずだった。
兵は全滅、自分は他人に気づかれることも触れることもできない。どうしてこうなった!? 後から後からわき出る疑問を無理矢理考えないように意識の外に押し込めつつ、少なくともここにいるよりはいいだろうと、夜の街へと足を向けた。
次回ようやく伯爵様が!
今回一度も見直して無いのでおかしいかもしれません。