24:隠れ家
ライドさんの元へ向かう前に、まず宿屋に戻り色々と荷物を取ってきた。その際にカードも引いておいた。
No158C:裁之審判 対象か術者の生命力が半減される。確率は7:3 生命量は0にはならない。
No213C:金属歯車 認識阻害の段ボールを作り出す。それを被って静止している場合、周りから認識されなくなる。移動している最中は認識される可能性が高まる。段ボールが損傷すると認識阻害効果は無くなる。
No221C:巨虫召喚 巨大な虫達を召喚して範囲内の対象を襲わせる。虫は対象以外襲わない。召喚される虫はランダム。
No231C:超当身投 一定時間、自身に物理攻撃してきた相手を投げ飛ばすことができる。どんなに相手が離れていても投げられる。
No240C:空中分解 指定した範囲内にいる生物は地面から浮いている場合に現在の生命力の半分のダメージを受ける。指定範囲内にいる間、浮いていると判断されるたびに効果対象となる。※肉体、及び身につけている物も含めて地面から完全に離れた場合に浮いていると判断される。
No264C:結界支参 結界の支点その3。その4と接続される。複数ある場合は先にセットした方と接続される。起動済みの結界とは接続できない。
色々とツッコミ所のあるやつが出てしまった……と、いうかもうツッコム所しか無いよ!? なんだこの伝説のスニーキングスーツは。カードの名前すらそのまんまじゃねえか! やばいよそこに喧嘩売ったら……
それと、もう一つのツッコミ所! まさかの男のロマン、当て身投げ!? しかも距離関係無しとか初代のラスボスじゃないですか……むしろ別ゲームにあったバグ技の真空投げか? どこのしゃがみ待ち軍人だよ!
しかし他にも結界支が気になる。なんだよその3て……いくつまであるんだろう……まさか複数そろえないと効果がでないカードなんてあるとは思わなかった。これは揃うまで役に立たなそうだな。何か色々と疲れてしまった俺はカードをしまい、宿を後にした。
その後、食料を買い漁ってから隠れ家へと向かう。周りを警戒したがデブは見あたらなかった。デブの私兵は走り回ってデブを探しているようだった。そちらに気を取られて俺の方は全く気にも止めていないようだ。慎重に路地を進んでいくと奥から手だけがでてこちらを呼んでいるのが見えた。
「こっちだ」
情報屋のなんとかさんが迎えに来てくれたようだ。えーと、なんだっけ…… サピール? たしかそんな名前だった気がする。
「おかえりニャ!」
隠れ家に付くとマオちゃんが気づいて飛びついてきた。なんでこんなに懐いてるんだろう。確かに昔から猫によく懐かれてたが、一応この娘虎なんだよね……
「アマンテは!?」
ライドさんが心配そうに聞いてくる。
「大丈夫ですよ。今ギルドで貴方の弟達と一緒に匿って貰ってます」
マオちゃんを抱っこして頭を撫でながらそう言うとライドさんは、ほっとしたように息を吐いて胸をなで下ろした。
「ありがとう、キッド。このお礼はいずれ必ず」
「気にしなくていいですよ。それよりこっちは何かありましたか?」
「特に何もないな」
「いや、さっきから、なんか慌ただしいぞ。何か探してるようだ。俺達のことを探してるのかもしれん」
そういって隠れて外を見ながらサピールが呟いた。
「あー、それたぶん伯爵を捜してるんだと思う」
「伯爵? 何かあったのか?」
「なんか呪いにかかったらしくて、どっか行っちゃったらしいよ」
みんな首を捻って考えている。訳が分からないのだろう。その現場にでもいない限りこんな説明で分かるわけがない。
「116セット」
No116C:燃犀之明 対象の嘘を見抜くことができる。
「それよりライドさん、少しお聞きしたいことがあるんですが」
「なんだ?」
「これから聞く質問に全て、はいと答えて下さい」
「わかった」
「貴方は男ですか?」
「はい」
するとライドさんの頭上に丸いマークが現れた。
「貴方は女ですか?」
「はい」
今度は×印が現れた。どうやらこれで真偽を表現するらしい。非常にわかりやすい。
「AFは伯爵から盗んだ物ですか?」
するとライドさんはピクリと少し反応した後に、はいと答えた。頭上には×印が付いている。どうやら盗んだ物ではないようだ。
「AFは山から発掘した物ですか?」
「はい」
今度は一瞬の躊躇いもなく答えた。頭上には丸印が付いている。どうやら言っていたことは事実だったようだ。
「分かりました。もう結構です。AFの話は真実のようですね」
「今ので分かるのか?」
「はい、人は嘘を付くときに無意識に何かしらの仕草が出るものなんですよ」
「ほう、詳しく聞きたいな」
「それは秘密ということで」
一応事実だけど、機械も使わずにやって正確な結果がでるとは限らないしな。俺はそのままマオちゃんを下に降ろしつつ荷物を取り出した。
「焼き鳥買ってきたけど食べる?」
そう言った焼き鳥を取り出すと、マオちゃんと犬耳妹の目がランランと輝きだし、よだれが垂れだした。
「たくさん買ってきたから慌てなくてもいいよ」
そう言いながら袋から焼き鳥を取り出すと、2人が飛びつくように焼き鳥を奪って食べ始めた。
「こらっ! リムもマオちゃんもお行儀が悪いですよ!」
そう言って犬耳姉が叱るが、2人は全く聞いていない。
「フェリアもライドさんもどうぞ」
そう言って俺は別の袋を取り出す。1袋10本を3袋買ってきたので合計30本だ。
「すみません。いただきます」
「ありがたく、いただこう」
そう、お礼を言いつつ2人も食べ出した。
「俺にもくれよ! ここ保存食料が無くて昨日からなんにも食べてないんだ」
サピールも参戦して、小さい2人に負けじと食べ出した。いい大人が子供と張り合うなよ…… 犬耳姉のほうが大人に見えるぞ。そうしてる間にあっという間に5人で30本平らげてしまった。30本も買えば俺の分もあるだろうと思ったらまさか食べられないとは想定外だった。
「美味しかった?」
「うまかったニャ!」
マオちゃんは満足そうに舌なめずりしている。1人で7本も食べれば満足だろう。俺は鞄からコンビニから持ってきた紙コップとペットボトルを取り出し、コップに注いだ。色からするとオレンジジュースっぽいな。そう思いながら一口飲んでみると微炭酸なオレンジジュースだった。
コップに注いでマオちゃんに渡すと、一口飲んだとたんに耳と髭がピンと張り、目を見開いた。ちなみにマオちゃんには猫っぽい細長い髭が左右に3本づつ生えている。マオちゃんはそのまま一息に全部飲み干すと
「もっとほしいニャ!」
と、興奮しながらコップを差し出してきた。
「ダ~メ。他の子が飲んでからね」
そういうと絶望したような表情で落ち込み、耳と髭が下に垂れ下がった。俺はコップを取り出し、犬耳姉妹にもジュースを渡した。まだ少し残っていたのでそれをマオちゃんに注いであげた。とたんに耳がピンと立ち上がり美味しそうに飲み出した。
「おいしい……こんな美味しい物飲んだの、生まれて初めてです」
「おいしい」
犬耳姉妹にも好評のようだ。
「そんなに旨いなら俺にもくれよ」
「お前はこれでも飲んでろ」
そう言って俺は鞄から水の入った袋を取り出して、サピールに投げつけた。
「水じゃねーかよ!」
「男なんて水で十分だ」
そう言うとぶつぶつと文句を言いながらも、サピールは水を飲み出した。
「とりあえず3日くらいは、みんなここで大人しくしといてくれ。たぶん大丈夫だと思うけど念の為にな。それくらいでたぶん終わるから」
「終わるって何が?」
「伯爵の命が」
そういうと、みんな目を見開いて驚き、こちらを見てくる。
「殺れるのか?」
サピールが恐る恐る聞いてくる。
「まるで俺が殺すみたいに言わないでくれよ。呪いで死ぬんだよ……たぶん」
「たぶんて……」
「3日も部屋に籠もってると暇だろうから、これを置いていってやろう」
そう言って俺は鞄から折りたたみの携帯式リバーシを取り出した。以前コンビニにあった物だ。ちなみにオセロという名前は登録商標だった気がする。たしか現在では6×6の升目だとお互い最善手をうちあった場合、後手が必勝になるところまでは研究されてるんだったかな。でもこの8×8の場合はパターンが多すぎて未だにその辺りは分かっていないとかなんとか。しかしチェスといいリバーシといい、将棋のように持ち駒を打つ、というパターンがないゲームは現在ではコンピュータが、世界チャンピオンより強いんだよねたしか。自由度が低くなる後半になるほど強くなるんだからどうしようもないよね。将棋だって段持ちとかじゃないと勝てない強さになってきてるようだし……コンピューターが発達するのはいいんだけど、その辺はなんか寂しい気もする。それは人が作り出したものが、やがて人を超えてしまうことへの嫉妬や嫌悪にも似た感情なのだろうか。
「なんだこれは?」
しまった。ついついまた余計なことで考え込んでしまった。時間としてはほんの数秒だがとても長く考え込んでいた気がする。気を取り直して俺はリバーシを見せる。
「これはな、こうやって白と黒の石をお互い交互に置いていって同じ色で挟むと間の石が引っ繰り返って自分の色になるんだ。最終的に色が多い方が勝ち」
俺はリバーシの簡単な説明をする。
「おもしろそうだな。こんな物は見たことがない」
「こういうゲームって無いのか?」
「この国には特にそう言った物はないな。他の国はどうか知らんが」
ここはあまり娯楽のない国のようだ。まぁ命がけのハンターの国だから仕方ないのか。命が、かかったものほど燃える物はないからな。
「そうか。とりあえず3日分の食料と水を置いて行くから。後のことは任せる」
「わかった。お前も気をつけろよ」
「俺には襲われる理由がないから大丈夫だよ。……たぶん」
面は割れているが直接何かをしたという確証なんてないし、ライドさん達とのつながりだって全く見つかってないはずだ。だって特につながりなんてないからな。助けたのだってほんの気まぐれだし。
「おじちゃんどっかいくニャ?」
「ちょっとお仕事にいってくるよ。また焼き鳥買ってくるからいい子で待ってるんだよ」
「いい子で待ってるニャ!」
焼き鳥の単語がでたとたんに、マオちゃんはいい子になったようだ。
「お気を付けて」
「いってらっしゃい」
犬耳姉妹とマオちゃんの見送りを受けながら俺は隠れ家を後にした。
ちょっと短いです。後で修正するかもしれないです。