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ワールドオーダー  作者: 河和時久
旅立ち編
23/70

23:伯爵

 翌朝、いつもより遅い時間に目が覚めるとすでにギルドは騒がしくなっていた。そいえば今日から山が解禁だったな。


「おはようございます」


そういって挨拶してきたのはアマンテさんだった。


「おはようございます。昨日は大丈夫だったようですね」


「はい、おかげさまで」


「恐らく今日から本格的に狙われる可能性が高いので、決して一人で行動しないようにして下さい」


「わかりました。それで着替えを取りに一度家に戻りたいのですが……」


「了解、付いていきますよ」


「ありがとうございます」


「支部長はまだ来てないんですか?」


「支部長が来るのはいつも、もう少し後ですね」


 重役出勤か。まぁ支店長みたいなもんだからな。


「それじゃいきますか」


「はい」


 そういって俺達2人はアマンテさんの家へと向かった。警戒していたが特に襲われることもなく無事に到着し、ギルドへの帰り道も特に襲われることはなかった。朝早いせいだろうか。しかし、朝早くだが街はすでに目覚めているようで非常に活気がある。人目が多いから避けているのか?


 ギルドへ戻ると[栄光の道]のメンバーが勢揃いしていた。


「おはよう」


「うっす、お前も山か?」


 フォルサが眠そうな顔で聞いてくる。


「俺は護衛とゴミ掃除かな」


 ゴミはゴミでも糞貴族っていうゴミだけどな。


「なんか依頼的にあり得ない組み合わせな気がするが……」


「シェルム、昨日はありがとな」


「別にいいわよあれくらい」


「ちょっとみんなに聞きたいんだけど、パトリアに行ったことある?」


 そう質問して見渡すがみんな首を振っていた。誰もいったことがないらしい。


「パトリアになんかあんの?」


「いや、ちょっと行ってみたいなと」


「何しに行くのか知らないけどあそこは今危ないわよ」


「危ない?」


「なんか最近亜人の誘拐が頻発してて、亜人達が殺気立ってるって話よ」



 パトリアはこの国の北に位置する国で豊かな自然溢れる国だ。まぁ聞こえがいいが大半を森と山に囲まれたいわゆる田舎だ。それと北部の大半を雪に覆われているため国土だけでみればシグザレストに匹敵する程だが、それほど国力があるわけではない。国民の3分の1は亜人と呼ばれる人以外の種族で、その大半はパトリア東部に住んでいるが、年々その数を減らしている。

 その主な原因は人族に比べ寿命が短い、もしくは繁殖力が低いというのと、パトリアという国が亜人に対して身分の保障をしていないことに起因する。いわゆる基本的人権という物がない。そのためことある毎に迫害され、容姿のいい者は奴隷にされるケースが多い。

 シグザレストでは犯罪者を奴隷にすることはあるが、それ以外での奴隷は存在していない。そのようないわゆる性奴隷等は所持しているだけで厳罰が下される。しかしパトリアにはそのようなものは存在しないため、容姿の優れた亜人は奴隷商人の格好の標的になっている。なぜ亜人達がそこまでしてパトリアに固執するのかは謎である。ちなみに全部マギサから聞いた話だ。


「そろそろ我慢の限界ってやつかね」


 人権もない国にいるよりは、俺ならシグザレストに移住する。移住しないのは何か宗教的な理由でもあるんだろうか。しかし、それもそろそろ限界なんだろう。むしろ今までよく持った方なんじゃないか。といっても、どれだけ国の歴史があるか知らんのでその辺はなんとも言えないか。しかし亜人達で革命したとして勝算はあるんだろうか。「戦いは数だよ兄貴」って某中将もいってたけど、広範囲殺傷の近代兵器でも使わなけりゃその言はあながち間違ってないんだよな。その辺りは魔法で代用できるのかな?


 そんなことを考えているとギルドの入り口が開き、派手な格好をした太った男とその取り巻きらしきガラの悪い男達が入ってきた。

 

「ここにライドという男が来ているだろう? 匿うと為にならんぞ」


 派手な金髪のデブが尊大な態度で尋ねてくる。こんな時にライドさんを尋ねてくる時点でこいつが伯爵とやらだろう。


「来ておりませんが」


 アマンテさんが答える。


「本当か?」


 イヤらしい視線でアマンテさんの体をなめ回すように見ながらデブが言う。


「すみません。そのライドさんとやらをよく知らないのですが、何か御用ですか?」


 俺は素知らぬ顔でデブに尋ねてみる。


「ライドという賊が、昨夜我が屋敷に忍び入り、我が家に代々伝わるAFを盗んだのだ」


「な、なんですって!? ライドがそんなことをするはずがありません!」


 アマンテさんが必死になって答える。そうか、ライドさんがAFを盗んだっていうセンも考えられるのか。それはさすがに考慮していなかったな。万が一AFが盗んだ物だとしたら伯爵の行為には正当性が出てくる。まぁ亜人を殺しまくってるだけで俺に殺される運命は変わらないけどな。

 

「ほう、その方やつを庇うと申すか? 共犯という可能性も考えられるな」


「伯爵様」


 恐らく無理矢理イチャモンつけて、連れて行こうとしているであろう伯爵に最後まで言わせずに間に割って入った。


「なんだ貴様は?」


「私はしがないハンターです。それより先ほどの論理は無茶すぎます。彼をよく知っている者なら、庇うくらいは人として当然の反応でしょう。それだけで共犯者と決めつけるのはいくらなんでも道理が通りません」


「貴様、私に逆らうというのか?」


 デブと俺は互いににらみ合う。臭いなこいつ。もうこの場で殺すか…… いや、まだだ。すぐ殺したんじゃ今まで死んでいった亜人達の恨みを晴らせない。少しは長く生きて貰わないとな。


「朝っぱらから騒々しいのう、何をしとるのかね」


 そういってギルドに入ってきたのは支部長だった。


「これはこれはギルドマスター、朝早くからご苦労なことです」


 そういってデブがおどけて言う。


「伯爵様がこんな朝っぱらからギルドに何の御用ですかな?」


「うむ、実は昨晩、我が屋敷に賊が侵入してな。それがこちらのギルド職員のライドという男であることがわかったのだ」


「ほほう、しかしライドは先日の職務中より行方不明になっておっての、現在ギルドでも捜索中なんじゃが、どうしてライドが賊だと判断されたのじゃ?」


「現場にこの剣が落ちていたのだ」


 デブはそういって手下から、一振りの剣を受け取りこちらに見せた。支部長はじっくりとその剣を見定めた。


「たしかにライドの物じゃ」


「そうであろう」


 そういってデブはイヤらしく笑う。

 

「なるほど、それがライドさんの物に間違いないとして、どうして伯爵様がそれがライドさんの物であると判断できたのですか? 名前でも書いてあるんですか?」


 俺から見るにどこに出もあるような剣にしか見えない。支部長がどうやって判断したのかも俺には全く分からない。


「たしかにのう。職員ならば見分けることも可能じゃろうが、普通はそう簡単に判断できる物ではないのう」


 支部長がそう言うと、うぐっという声を出してデブが焦りだした。あからさま過ぎる。


「そ、それは…… い、以前、本人に見せてもらったことがあったのだ!」


「つまり伯爵様とライドさんは、直にお会いしたことがあると?」


「そうだ」


「そんな接点があるのに盗みに入ったと?」


「そうだ、私としては裏切られた気分だよ」


「そのAFとやらはお屋敷のどこにしまわれていたのですか?」


「宝物庫だ」


「なるほど、つまりライドさんは伯爵様のお屋敷に1人で忍び込んで、なぜか場所を知っている宝物庫まで忍び込んだあげくに、剣だけわざわざ置いて逃げたと?」


「い、いや、剣は戦闘になった際に落としたんだ!」


「伯爵様のお屋敷の警備は、たった1人に潜入された挙げ句に、宝を盗まれて無事に逃げられる程度の物なのですか?」


「ぐっ…… 兵も油断していたんだろう。それに賊は一人ではない可能性もある」


 あの情報屋のことだろうか。あいつ素性までは、ばれてないのかな。


「では、盗まれたAFというのはどういった物なのですか? ライドさんが盗んだとしてどこかに隠しているかも知れません。探す際に形や大きさ等が分かった方が探す方もはかどると思うのですが」


「え、いや、私も長い間放置していたせいで、形はよく覚えていないのだが、大きさはそんなに大きくはなかったはずだ」


 はずか…… 明確な大きさや形を言えない時点でかなり妖しいが、本当に覚えていないという可能性も0%とは言い切れないのもたしかだ。わざわざ伯爵の屋敷に忍び込んでAFを盗んで恋人にプレゼントするっていう無謀を通り越して意味が分からないことをする理由が何かあるのかもしれない。一応ライドさんに聞いてみるか。

 

「なるほど、わかりました。しかし、先ほど支部長がおっしゃったように、ライドさんという方は現在行方不明となっているようです。私は昨晩からずっとギルドに居りましたが、そのような方はいらっしゃいませんでした。その際こちらのお嬢さんもずっと受付に居りましたので、共犯という可能性はあり得ませんよ?」


「しかし、賊と恋仲であるという噂ではないか。何か知っておるやもしれん」


「剣が落ちていたというだけではまだ、彼が賊とは決まったわけではないのでは?」


「戦って傷を負わせたといっておろう」


「それを証明できる者が、伯爵様とそのお仲間以外の第三者でいますか? いなければあなた方の狂言である可能性が否定できません」


「貴様……私が嘘を申しておると?」


 デブがこちらをにらんでくる。俺は鞄から昨日の牢屋の見張りが被っていた兜を取り出した。


「こちらをご覧下さい。これは昨晩、私が賊に襲われた時に賊が被っていた物です。これは伯爵様の私兵の方が被られている物と同じ物ですが、これは伯爵様の指示の元に、私兵に私を襲わせたと言うことでしょうか?」


 そういって俺は兜をデブに見せる。


「そんなわけがなかろう! だいたい貴様を襲う理由がないわ!」


「例え理由がなくともこうして襲われた証拠があります。本当はただ拾った物かもしれませんが、証人がいない以上、私が襲ったと言えばそれは襲ったということになります。伯爵様がライドさんに対しておっしゃっていることと同じですが?」


「ぐっこちらは多くの者が見ているのだぞ?」


「でも全員貴方の部下なのでしょう? 貴方が白といえば黒い物でも白くなるような方達では証人にはなり得ません」


デブが悔しそうな顔をする。


「第三者の意見が無い情報の、信頼度の無さをおわかり頂けましたか?」


「貴様の顔は覚えておくぞ」


「それはありがとうございます。私は人の顔をすぐ忘れてしまいますので、もしかしたら次に会ったときはオークと間違えて襲ってしまうかも知れませんのでお気をつけ下さい」


「ぶっ」


 シェルムやアマンテさん等、ギルド内の人達が口に手を当てて笑いを堪えている。つい本音が出てしまった。


「貴様…… どうやらすぐに死にたいようだな」


「では死ぬ前に一つ貴方にお聞きしたいことがあります」


「なんだ? 言ってみろ」


「貴方は人が死ぬとどうなるかご存じですか?」


「死んだらそれまでだ。どうにもならん」


「いえ、人は死んだら生まれ変わります。来世も人であったり、又は動物であったりと様々ですが、生まれ変わることができない者もいます。それは強い恨みを持って殺された者です」


 デブがぴくりと眉を動かした。


「強い恨みを持って殺された者は殺した本人に取り憑きます。そしてその恨みが強ければ強い程、呪いと同じような症状をもたらします。そして私はその怨念を視覚的に見ることができるのですが……私には貴方の姿がぼやけてみえるのです。怨念の籠もった魂が貴方の周りに集まりすぎていて……」


 そう言いながらおれは先ほどの兜を落とす。


「おっと」


 ガランガランという音と共に俺は周りに聞こえないように小さく呟いた。


「214セット」


「恨みだと? 私には他人に恨まれるような覚えはないな」


 自信満々にデブがほざいた。どの口で言ってるんだろうか。するとデブはとたんに苦しそうな顔をして喉を押さえてもだえ苦しみだした。

 



No214C:呼吸困難 対象は息を吐くことはできるが、吸うことができなくなる。窒息死寸前に解除される。





 どんなに息が長く続く人でも、それは前もって息を深く吸う等の準備を行った上での場合だ。それも無しにいきなり息を止めろといわれてもそうそう長く止められるような人なんてまずいない。

 デブは苦しそうに喉を押さえたまま地面をのたうち回っている。だいじょうぶ。死にはしない。すぐに殺したりしないから安心しろ。

 

「伯爵様! きさま一体何をした!」


 デブの私兵らしきやつが、こちらに向かって怒鳴ってくる。

 

「何かしたように見えましたか? 恐らくこれは呪いでしょう。多数の恨みを買っているのを自覚してしまったせいで、今まで蓄積された呪いが一気に溢れ出してしまったのでしょう」


 しれっと嘘を言う。しかし、あながち嘘でもないのかもしれない。俺が呪いを代行しているだけで実際恨まれてるからな。

デブは泡吹いて苦しそうに喉を押さえながら手を伸ばしている。そろそろ死ぬかな?


「ガハっ!」


 と、そこでデブは急激に咳き込んだ。どうやらカードの効果が切れたようだ。ゼーハーゼーハーとまるでマラソン後のようにもの凄い勢いで呼吸を繰り返している。みんながそちらに気を取られている隙を付いて俺は小声でカードを起動させた。

 

「173セット」

 



No173C:天涯孤独 対象は周りから認識されなくなる。地面以外に触れることができなくなり、魔法もスキルも使用できない。術者のみ認識できる。






 するとデブの姿がその場からうっすらと消えていく。最後には完全に消え去り、その衣服のみがその場に残された。


「伯爵様!」


 取り巻きらしき者達があわてている。


「呪いによりどこかに飛ばされたのかもしれません。そんなに遠くに飛ばされたとは考えにくいので、どこかこの街の近くにいるでしょう」


 実際はここにいるんだけどな。裸の王様ならぬ裸の貴族様が。何故これを使ったかというと、伯爵をるには些か今のカードは合わない気がしたからだ。もっとふさわしい殺し方があるはずだ。本当なら永遠に苦しめて殺さないのが一番なんだろうが……

 とりあえず何日か孤独を体験して貰うことにした。精神がおかしくなっては意味がないので、じっくりと弱らせるには、ある程度自由に動けるこのカードが最適だろう。最初は楽しいかもしれないが、俺の予想が正しければこのカードの恐ろしさは時間が経つ毎に分かるだろう。


『ごほっごほっ、一体なにが起こったのだ…… む? 何故、私は裸なのだ?』


 デブが咳き込んでいるが俺を除いて誰も気づいていない。デブが居なくなってしまったため、取り巻きの私兵達はデブの衣服を持ち、そのままギルドから出て行った。恐らく伯爵を捜しにいったのだろう。単に屋敷に戻ったのかもしれないが。


『おい! 何故、私の服を持って行く!? おい! 待て!!』


 誰にも認識されていないために、その声は俺以外に届かない。しかし俺も気づかないフリをしているのでデブからすれば全員から無視されている状態だ。


『待てと言っている!』


 そういって、デブの服を持つ側近らしき者の肩に手を掛ける。しかし、その手はするりと肩どころか体を擦り抜けて、うあっという声と共にデブはそのまま豪快に転んだ。ドスンという大きな音がしたが誰も気づかない。


『ぐう…… 何なのだ一体……』


デブは自分の体を不思議そうに触っている。そしてギルドの壁を触ろうとしたが手はそのまま壁を擦り抜けてしまった。


『これは一体なんだ!? 触れない!?』


デブはそのまま壁を擦り抜けて外に行ってしまった。


「あんた、よく伯爵相手にあんな口聞けるわね」


シェルムが笑い疲れたような顔で聞いてきた。


「ああ言っておけば俺が狙われる可能性が高いからな。そうなればアマンテさんが狙われる可能性が少しは減るかもしれないだろ」


AFの行方が分からない以上、本命はAFを持っているとされるライドさんなんだろうが。まあ、しばらくは安全だな。


「それにしたって無茶にも程があるわよ。殺されるかも知れないのよ?」


「俺があんなのに負けると?」


「……思わないけど、貴族を敵に回すと色々とまずいことになるわよ?」


「そうなったら敵対する貴族を全滅させるまでだ」


 真顔で答える俺にシェルム達の顔が青ざめた。


「いくら強いっていっても1人でそれは無理じゃないか?」


フォルカがツッコミを入れてきた。脳筋のくせに!


「まあ、皆殺しは難しいかもしれないけど、対処だけならなんとかなるもんだよ」


「どうすんの?」


「俺のいた所には殺一警百シャーイージンパイという言葉があってな。これは1人を殺して100人に警告するという意味だ。要は俺が絶対に敵に回しちゃいけない存在だと知らしめればいいんだ。誰も手が出せなくなるくらいに」


 そういって微笑むとシェルム達が一斉に顔を青ざめさせた。


「私、あの伯爵が初めて気の毒に思えてきたわ」


 シェルムがそう言うと[栄光の道]のメンバーがみんな頷いた。酷いなみんな。俺ほど優しい男がこの世界のどこにいるというのだ。


「もちろん冗談に決まってるよ。新人の俺一人でそんなことができるわけがないじゃないか!」


 なぜかみんながジト目でこちらを見てくる。くっ! 味方は居ないのか!


「ああっそういえば支部長、ちょっとお話があるんですけどよろしいですか?」


 居た堪れなくなった俺は話を変えた。


「ああ、かまわんよ。ワシの部屋に行こう」


 そして呆れた顔をするメンバーと別れて、俺はアマンテさんと2人、支部長室へと向かった。デブはその間もギルドに現れることはなかった。


「アマンテもいっしょか。話というのはライドのことじゃな?」


「はい。ライドさんは昨日の時点で伯爵に誘拐されていました」


「なんじゃと!?」


「なんとか無事救出に成功して、今はとある安全な場所にて匿っています」


 ふう、と息を吐き、支部長は胸をなで下ろした。


「そうか……無事でなによりじゃ。と、すると先ほど伯爵がいっていたAFの盗難というのは嘘か?」


「その可能性は高いですが、全く無いというわけではありません」


 そう言うとアマンテさんが驚いたようにこちらを振り向いた。


「ライドがそんなことするはずがありません!


「でも、貴方の為に盗んだのかもしれませんよ? それを伯爵に知られて監禁されていた、という可能性が全く無い訳じゃない」


「でも……」


「その辺はこれから本人に確認してきます。盗難が本当だったらAFは返して貰いますよ。まあ、その可能性は低いと思いますが」


 実際に盗難だったとしたら、誘拐なんてマネをしないでギルドに堂々と報告して調査すればいいだけだからな。それをしていない時点でなにかやましいことがあるって言っているようなものだ。


「しかし、ライドさんの足取りが掴めないとなると、伯爵は次にその家族とアマンテさんを狙うと思われます。支部長にはしばらくギルドで、その人達を匿って貰いたいのですが」


「いいじゃろう。ギルドには常時待機のハンター職員がいる。その者達に護衛をさせよう」


「ありがとうございます」


 俺より先にアマンテさんが答える。


「すでにライドさんの家族はここにきていますので、後はアマンテさんお願いしますね」


「はい、わかりました」


「あっそういえば、アマンテさん寝てないでしょう? 少し休んだほうがよくないですか?」


 恋人の無事が確認され、自分も安全な場所にいるせいか少し眠そうだ。


「では、少し休ませて貰います。子供達には外にでないように言っておきますね」


 とはいっても、あのデブが行方不明なんじゃ、あのデブの私兵達もこちらをどうこうするどころじゃないだろうけどな。


「お休みなさいアマンテさん。私はもうすこし支部長とお話がありますので」


「そうですか、それではお先に失礼します」


そういってアマンテさんは出て行った。


「話というのは?」


「支部長は伯爵のことをどれくらい知ってます?」


「……いい評判は聞いたことがないのう。気に入った領内の女を強引に連れ去っては妾にする。そしてすぐに飽きて捨てると聞く。妊娠した女は屋敷に監禁して、その子供が女だった場合は親子共々屋敷を裸一貫で追い出す。この辺りは確証も取れておる。それと最近は亜人の奴隷を買っては殺しているとの噂も聞く。しかしこれはあくまでも噂で確証がないがの」


 ギルドを持ってしても確証が取れないのか。貴族相手だとなかなか調査が難しいということか。


「伯爵が死んだらどうなります?」


 支部長はわずかに眉を上げて反応した。


「そうじゃのう、まず治めている領地は、誰かが賜るまでは国の管轄になるじゃろう。領民の生活の方じゃが、元々好き勝手やっておる領主が、今更かわったところでこれ以上悪くなることはまずないじゃろう」


 じゃあ、あのデブは死んでも何の問題もないな。


「じゃが、どんな屑でもおおっぴらに殺せば罪に問われるぞ?」


「証拠が何も無ければいいでしょう?」


「たしかにそうじゃが……できるのか?」


「人聞きの悪いことを仰る。その言い分では、まるで私が殺しに行くようではないですか」


「それはすまんの、つい早とちりしてしまったようじゃな」


 分かっていても言質は取らせない。なんともいやらしい大人の会話である。


「それじゃライドさんのところにいってきますね」


「その前にこちらも一つ聞きたいことがある」


「なんでしょう?」


「伯爵が消えたのはお主の仕業か?」


「さっきも言った通り、きっと呪いですよ」


「そうか」


 支部長は何かわかったような顔をして、それ以上の追求をやめた。俺はそのままギルドを出てライドさんの元へと向かった。


トラップカード発動!


No999C:逆転仕様 効果:仕様が一から引っ繰り返る。


そのせいで締切が伸びて逆に時間が若干空いたのでその時間を使って30分程で書いてみました。


推敲なんてしない!

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