22:救出
ギルドへ付くと夜中にもかかわらず開いていた。24時間営業なのか? ギルドに入ると件の受付嬢が居た。何時間労働だよ! 今晩ではなく明日にしたのは、今晩の仕事を急に休ませたりしたら怪しまれると判断したのだろうか。
「こんばんは」
「こんばんは。あっ貴方は昼間の……たしかキッドさん」
「そうです。私がキッドです」
なんか変なおじさんみたいな言い方になってしまった。
「こんな夜中に何かご用ですか?」
「貴方にお聞きしたいことがあったんです」
「なんでしょう?」
「貴方恋人はいますか?」
受付嬢はビクっと反応して、すぐ平静を保つように言った。
「あら、ナンパですか? 申し訳ありませんが、ギルドでのそのような行為は禁止されています」
「山の見張りにいった職員が行方不明って話は聞いてます?」
受付嬢はさらにビクっと反応して顔が青ざめ始めた。
「何が目的なんです?」
どうやら俺を緑服の仲間と勘違いしているようだ。
「その職員の方のその後と、名前を知りたいんですが」
「っ!? 白々しい! よくもそんなことをヌケヌケと言えたものね!」
奥にいる職員がこちらを見る。とりあえずその職員と俺達以外、人がいなかったことが幸いか。
「何を勘違いしているのか知りませんがその人、貴方の恋人か何か、関係者じゃないですか?」
受付嬢は訝しげにこちらを見てくる。
「貴方はあいつの仲間じゃないのですか?」
「あいつが誰か知りませんが質問に答えてくれませんか。いい加減もう面倒なので助けるのやめますよ」
受付嬢は青ざめた顔をしたがすぐに
「恋人です」
俯いたままぼそっと絞りだすような声で呟いた。
「ひょっとしてその人を殺されたくなければ言うことを聞けとか言われてませんか?」
「なぜそれを!?」
受付嬢はびっくりしたような表情で大きな瞳でこちらを見てくる。
「これまでに起こった事象を考えた上での推測です。結論からいうと、貴方がやつらの言いなりになった所でその人は殺されます」
「そ、そんな!」
受付嬢は焦ったような顔でこちらに詰め寄ってくる。
「しかし、私の勘が当たっていれば明日までは生きてます」
あの緑の男はいい趣味してるといっていた。恐らく伯爵は恋人の目の前で受付嬢を犯そうとしているのだろう。そういう外道な趣味のやつは良くいるしな。まぁどっちにしろ生きてないと言うことを聞かせられない可能性があるから、まず明日までは保険として生かしておくだろう。
「誰かに相談は?」
「誰にも言うなと言われて……」
俺の場合は、自分からいった訳じゃないからな。
「私がなんとかしますので、その恋人の名前を教えてくれませんか?」
「あなたはいったい……」
「ただのお節介ですよ」
「……ライドです。お願いします。彼を助けてください!」
「こう見えても依頼成功率100%なんですよ私」
俺は決め顔でそう言いいながらギルドを出た。さてこれからの行動だが、救出はいいとしてその後どうするか。
1:伯爵抹殺
2:伯爵と関係者皆殺し
3:伯爵だけ殺さないで、じっくりたっぷりと痛めつけた後で抹殺。
どれ選んでも伯爵死んじゃうじゃん! 伯爵殺しちゃうと今まで孕ませた女性がどうなるかだな。そもそも現在、その伯爵の庇護の元で暮らしているのか、それともすでに捨てられて地獄なのか。みんな捨てられてるとは限らないしなぁ。その辺りを調べないと問答無用で全殺しはまずいかな。まずはライドさんとやらを救出してから考えるか。あんな綺麗な恋人がいるリア充だけど……やっぱ見捨てるか……いや、リア充がどうよりもまずは外道を許せないからな。やっぱり助けよう。
俺は路地裏の細い隙間に入る。
「203セット」
No203C:人物検索 対象の現在位置を検索する。対象の名前が分かっていなければならない。同名が複数いる場合は全て検索される。
すると頭にマップが表示され、『名称?』と表示されている。ライドと思い浮かべるとある地点に赤い点が付く。恐らくここにいるということだろう。町はずれの屋敷、つまり伯爵の家ってことか。よく見ると前方になんか赤い矢印が浮いている。そして街のはずれの方向を指し示している。そこにいるってことか。わかりやすいなこれ。
俺は矢印の方向に向かって全力で走った。全然疲れなかったので10分も掛からずに矢印が向く屋敷に到着した。かなりでかい。木の陰から様子を伺うと門の前には兵士らしき格好の見張りが2人いる。番犬とかいるのかな。塀の周りには特に人影はない。巡回しているやつとかいるかも知れない。今のうちに塀を跳び越えて中に入るか。しかし中がどうなってるかわからんし、飛び越えた先にいっぱい兵士が居るかもしれない。さて、どうするか……
俺は屋敷の横側に回りこんだ。そこから塀の上に石を投げてみた。……特に反応はなかった。バリアっぽい何かあったらどうしようかと思ったが特になかったようだ。塀の外には見張りが居ないようなので、塀そのものにセキュリティがあるかと思ったんだが……
まぁこんな3m以上高さのありそうな塀なんて誰も上れないとでも思ってるんだろう。普通なら無理だが今の俺なら余裕で飛び越えられる。
俺は塀をひとっ飛びで上ると塀の中を確認した。真っ暗だが木が生えていて身を隠すのには良さそうだ。巡回も居ないようなので俺はそっと飛び降りた。ドスっという思いの外大きな着地音に辺りを警戒したが、見つからなかったようだ。周りが静かだから余計に音が目立つな。
先に見える小さな小屋まで走り中の様子を伺ったが真っ暗で中は何も見えなかった。大きさからすると物置小屋だろう。小屋に身を隠しながら屋敷までの道のりを確認する。さすがに屋敷の周りには巡回の兵が居るようだ。
「62セット」
No062UC:光学迷彩 対象を透明化する。攻撃を行うと効果は解除される。
俺は姿を隠しそのまま屋敷へと向かった。音が消えていないので歩き方は慎重だ。屋敷にたどり着くと屋敷の横に勝手口のような扉があった。さすがに正面から乗り込むのは難しそうなのでここから入ることにした。扉を触ると普通に開けることができた。鍵が掛かっていないとか不用心にも程があるだろ。と、思ったらまだ人が起きて料理をしているようだ。夜食か?
気づかれなかったので俺は普通に中に入っていった。厨房を通り抜けると廊下に出た。矢印は廊下の先を指している。矢印に従って廊下を進む。巡回の兵士と何度かすれ違ったがそのたびに止まって息を殺していた。
やがて廊下の突き当たりにつくと矢印が真横よりの下を指した。今までは斜め前方の下を指していたのでどうやらX軸はここらしい。つまりこの古ぼけた扉が地下牢への入り口なんだろう。俺は周りに人がいないのを確認して扉をそっと開けた。
扉の中には石で出来た階段が続いていた。所々にランプのようなものがある。火よりは明るいがライトよりは暗いので何かしらの魔道具なんだろう。
俺は石段を慎重に下りた。一番下までくると右手から明かりが漏れている。扉なんかはない。覗くと見張りらしき兵士2人が机で向かい合って酒を飲んでいた。その奥には牢屋がいくつかあるようだ。
見張りの横を通り過ぎ、俺は牢屋を1つ1つ確認していった。牢にはボロボロになった男が1人、猫耳の少女が1人、犬耳の姉妹らしき少女が2人、そしてチャラそうな男が一人いた。
牢は見張りのいる場所からは結構離れている。俺は奥まで行きチャラそうな男の牢の前に立った。こちらの姿が見えていないにも関わらずチャラ男はこちらを見た。
「誰だい?」
見張りに聞こえないような小さな声でチャラ男は言った。気配か何かでこちらのことを察知しているようだ。見た目にかかわらずなかなか鋭いようだ。
「お前こそ誰だ? 何で捕まってるんだ?」
俺も小さい声で会話する。隣の牢で寝ているようだった猫耳少女と犬耳少女の小さい方が耳をピクピクさせている。そして顔だけ起こしてこちらを伺いだした。
「俺は仕事でドジっちまってな。捕まってこの通りさ」
「仕事?」
「情報屋さ。伯爵についてきな臭い噂があるってんで色々と調べてたが、捕まってこの有様だ。全く憑いてないぜ」
「噂ってなんだ?」
「伯爵はパトリアの亜人を捕まえて、狩りと称して殺しまくってるって話だ。牢を見る限りどうやら本当のようだな」
外道が。ただ殺すのは生温いな。生まれてきたことを後悔させてやらないとな。
「そっちのボロボロの男は?」
「さぁな。ここに運ばれてきた時にはもうそんな状態だったからな」
「お前らを逃がしたとして、しばらく身を隠せる場所はあるか?」
「出してくれんのか!?」
「しっ!」
急に大きな声を出したため、見張りのやつらがこっちを見る。そして1人が歩いてくる。
「なに騒いでんだ」
「いや、ただの独り言さ」
「けっ伯爵様を調べようなんてするからこんな目に遭うんだ。精々一人で後悔するんだな。どうせ明日までの命だ」
そういって見張りの1人は酒臭い息でチャラ男に話し掛ける。
「それにしてももったいねえ。亜人といえど女なら使い道はあるってのに。そっちのガキは無理にしてもそっちの女は十分犯やれるんだがなぁ」
そういって犬耳の姉っぽい方をじろじろと見つめる。
「どうせこいつも死ぬんだし、その前に楽しんでもいいよな……その首輪が有る限りどこにも逃げられんしな」
そういって犬娘達の入っている牢を持っていた鍵で開け始めた。鍵を開けて中に入ったその瞬間、俺は背後から見張りの首を両手で持ち一回転させた。――ゴキンっ
声にならない声を出して見張りは絶命した。音を立てずにゆっくりと遺体を牢の中に入れてからおろし、鎧と帽子のような兜を脱がせ自身で着込んだ。その間、驚いたような顔で犬耳姉妹と猫耳少女、そしてチャラ男はこちらを見ている。ここはもう1人の見張りのいる位置から死角になっているので見えない。
「おいおい、またかよ。ったくしょうがねえな。亜人のどこがいいんだか」
向こうから声が聞こえてきた。どうやら常習犯らしい。もっと苦しめて殺した方が良かったな。俺は鍵をチャラ男に投げ渡し、もう1人の見張りの方へと歩いた。
「なんだ? 早いな。やっぱりやめたのか?」
「ちょっと趣味じゃなくてな」
俺は薄暗い中深く兜を被って小さい声でそう答えた。そのまま自然にそいつの背後に回り込んだ。
「ああ?どうし……」――ゴキンっ 物言わぬ体がもう一つ出来た。
「あんた一体何者なんだ?」
チャラ男はすでに牢から出てきていた。
「通りすがりのハンターだ」
「こんな所を通りすがるって普段どこ歩いてんだよ」
「それよりその子の首輪って何か分かる?」
「そっちの大きい子のは行動封じの首輪だな。これをはめられると呪いで手足が動かなくなるんだ。そっちの2人のは逃亡封じだな。対象から一定距離以上離れると首が絞まるんだ。たぶん対象はその行動封じの首輪付けてる嬢ちゃんになってる」
なるほど。1人足を封じて他はそれにつなげてる感じか。でもこれってその2人で行動封じの首輪の対象を担げば逃げれるんじゃね? まぁ子供2人だからそうしたのかもしれんが。
「ところでさっきの質問だが、逃げた後の隠れ家はあるのか?」
「ああ、これでも情報ギルドの一員なんでな、やさはいくらでもあるぜ」
「そこの倒れた人も一緒に連れて行く。お前はそこの女の子を背負ってくれ。そしたらみんなこっちに集まってくれ」
「そんなの連れて逃げられるのか?」
「いいからみんな俺に掴まって」
動けない男とチャラ男が運んできた犬耳姉に触れる。猫耳と犬耳妹が恐る恐る俺の服の裾を掴んでくる。そしてチャラ男が俺に触れた。
「126セット」
No126C:三十六計 対象とそれに触れている者をその場から転移させる。現在地より3km離れた位置に転移される。移動場所は地上でランダム。
すると一瞬で街の中へ出た。どうやらうまくいったようだ。しかし36なのに126とか混乱するわ! そこは36にしとけよ!
「な、なんだ今のは……」
みんな驚いているようだ。猫耳がにゃーとかいって目を見開いている。やっぱり語尾はにゃーだよな。かわいい、持って帰りたい。
「俺はこの男を背負っていくから、お前はそこの犬っこを背負っていってくれ」
「わ、わかった。こっちだ付いてきてくれ」
そして俺達はチャラ男のいう隠れ家へと移動した。この時間はさすがに人がほとんどいないため特に見つかるようなことはなかった。案内されたのは民家と民家の間の路地。かなり入り組んでおり複雑な地形だ。そこにある扉の一つに入った。
「ここは情報ギルドの隠れ家の1つだ。まず滅多な事じゃ見つからない」
そういって建物の中に入ると壁を押す。すると壁が一回転し中に上へと続く階段が現れた。忍者屋敷のようだ。そこには小さな部屋があり、俺はそこに男を降ろした。まだ目を覚まさないようだ。見たところかなりボロボロのようでなんとか生きているのがやっとという感じだ。チャラ男も同じように犬耳姉を床にゆっくりと降ろした。よく見ると犬耳姉はかなりスタイルがいい。こいつあのダイナマイトの感触が背中に当たっていたのか……うらやましくなんか無いんだからな! ……力のある俺の方が重いやつを持った方が早く移動できると思ったから男の方を背負ったが失敗だったか……
「そいえばまだ名乗って無かったな。俺はサピール。自慢じゃないが王都で一番の情報屋だ! なんでも聞いてくれ」
「一番がそう簡単につかまんなよ」
人の気も知らないで陽気に言ってくるのでとりあえず突っ込んでおいた。
「ぐうっ……あ、あれはそう、その偶々なんだよ! いつもはこんな事はないんだ!」
なんかよくある酷い言い訳だな。まぁこんなのが一番な訳はないだろう。
「偶々で死ぬとこだったのかお前」
チャラ男は蹲って項垂れた。
「くっそんな事よりあんたは何者なんだ? 俺達を移動させたあの魔法はなんなんだ!? あの姿を消す魔法だって聞いたこともないぞ?」
落ち込んだと思ったらすぐに立ち直ったようだ。開き直っただけなのかもしれんが。
「俺はキッド。ハンターだ。アレらについては内緒。代価はお前の命だ」
「ぐっ……そう言われるとさすがに聞けないな。命の恩人だしな。それよりあんたハンターだったのか。全然ハンターらしくないな」
「成り立てだしな。それよりこれから起こることも秘密にしてくれよ。俺の情報を売ったらどこに逃げようと必ず見つけ出して殺すから」
そういうと俺は寝ている男の前に座った。
「31セット」
No031UC:自然治癒 対象の体力、怪我を徐々に回復する。応急手当より効果は高いが時間がかかる。
すると寝ている男の体が光り、徐々に修復されていく。
「こ、これは一体……」
チャラ男も女の子達もみんな驚いているようだ。
「お嬢ちゃん達こっちに集まって」
俺は女の子達を動けない犬耳姉の所に集めた。
「この子達の首輪って魔道具だよな?」
「あ、ああ」
ならいけるかな。
「206セット」
No206C:封具之間 対象を中心としたの半径2m以内にある魔道具の効果を打ち消す。
すると女の子達全員の首輪がパキンと音を立てて外れた。どうやら無効にできたようだ。
「えっ!? 首輪が……一体これは!?」
「お姉ちゃん!」
犬耳妹が姉に飛びつく。猫耳娘も外れたにゃーとか言って喜んでいるようだ。
「な、なんで首輪がはずせるんだ……契約者以外はずせないのに!?」
チャラ男は驚きすぎて狼狽している。
「助けてくれてありがとうございます。私は銀狼族のフェリアといいます。こっちの子は妹のファリムです。この御恩は一生忘れません」
「マオだにゃ。ありがとにゃ」
「どういたしまして。かわいい女の子を助けるのは、いい男の義務だから気にしないでいいよ」
さりげなく俺は自分がいい男なんだとアピールした。実際こんなことをいう男がいたら俺なら殴っているだろう。
「うぅ、ここは……」
そうしてると倒れていた男が目を覚ました。
「やっと気づいたか。あんた牢屋で死にかけてたんだぜ。この人が助けてくれなかったら今頃墓の下だったな。まぁ俺もすぐ入ることになってただろうけど」
「あなた達は一体……それにこの体は……折られたはずの腕も足も治ってる……」
「私はキッド。ハンターです。貴方はライドさんで間違いないですか?」
「そうですが、どうして私の名前を?」
「ギルドの美人の受付嬢に頼まれたんですよ。貴方を助け出してくれとね」
「アマンテが!? そういえばアマンテは!?」
あの受付嬢アマンテっていうのか。名前初めて聞いたよ。
「さぁ? ギルドにいるんじゃないですか。それより先に聞きたいことがあります。貴方どうして捕まっていたんですか?」
「伯爵だ……あいつが俺が手に入れたAFを手に入れるために……」
「AF?」
「ああ、少し前に鉱山で見つけたんだ。鑑定の結果、魔法の威力を上げる効果があるってわかった」
「へー、まぁどのくらいの効果があるかわかりませんがAFっていうくらいですから相当効果があるんでしょうね」
「俺は魔法がほとんどつかえないから詳しくは分からない。どうせ俺は使わないし、綺麗なんで婚約の証にしようとアマンテにプレゼントしたんだ」
「で、アマンテさんはそれを今も持っていると?」
「ああ、そのはずだ」
「それは誰かにいいましたか?」
「いや、誰にも言ってない」
「伯爵は今アマンテさんを脅してますよ。貴方の命を助けたければってね」
「なんだって!?」
「そうか、伯爵はアマンテさんを襲うためじゃなく、貴方の口を割らせるため、もしくはAFをアマンテさんが持っていることを知って、それを手に入れるためにアマンテさんを脅迫しているんですね」
「伯爵め!!」
「今から助けたことをアマンテさんに連絡に行きますから貴方はここを動かないでください。この中で顔が割れてないのは私だけだと思いますから」
「色々とすまない。助けてもらって感謝する」
あいつらが強攻策にでないとも限らないから急いだほうがいいな。問題はこの場所が分かりづらすぎて戻れないかも知れないってことだな。
「とりあえず今日はギルドでアマンテさんの護衛をしておきます。とりあえずライドさんはこれにアマンテさん宛に手紙でも書いて下さい。俺が助けたっていっても信用されないかもしれないので」
そういって、俺は鞄からメモ帳とボールペンを取り出した。
「ああ、わかった。ん? ずいぶんと変わったペンだな? インクはどこだ?」
「それはインクを付けなくても書けるペンなんですよ」
「それはすごいな。魔道具か?」
「そんなもんです」
そしてライドさんはさらさらと手紙を書いていく。
「そんな物聞いたこともないぞ……あんたほんとに何者なんだ……」
チャラ男が横から口を挟む。
「気にするな。それに謎が多い方がかっこいいだろ?」
「気になるに決まっとるわ!」
「それよりいくら貴族とはいえパトリア人を誘拐して虐殺とかそれ国際問題にならないか?」
「普通なら間違いなく国際問題だ。とっくに戦争になっててもおかしくないくらいだ」
「なんでならない?」
「まぁ対象が亜人ってのも影響してるな。パトリアじゃ亜人はかなり立場が低いんだ。それを戦争のきっかけにするにしても、パトリアはそこまで国力があるわけじゃないし難しいだろうな」
まぁ日本の腐った政治家なら遺憾の意で終わりだろうけどな。実際、誘拐されてるわ、資源盗まれてるわ、領土侵犯されてるわ、アメリカ相手に同じ事したら核ミサイル撃たれかねないようなことされてるのに日本は何にもしないし。普通ならとっくに戦争してるっつーの。
「それにしたって誘拐して虐殺とかいくらなんでも無茶苦茶すぎだろ。国として謝罪どころじゃすまねえだろ」
「公にばれてないから罪には問えないんだよ。それでそんな噂があるってことで、俺に調査依頼が来たって訳だ。ま、依頼主は言えないがな。しかし今まで伯爵調べて、生きて帰ってきたやついないって聞いてたけど、本当だなこれ…… そんな大げさなって思ってたけど、お前居なきゃ間違いなく俺も殺されてたよ」
そういってチャラ男は体を震わせる。あんなザルな警備なのにか? まぁ姿消せるとかじゃないと厳しいのか。変装して潜入とか賄賂使ってしゃべらせるとか色々できそうなもんだけど。
「証拠集めれば伯爵は殺せるのか?」
「まぁ証拠が掴めても伯爵家断絶は難しいだろうな」
「ユニークスキルだからか?」
「それだけ貴族の権力ってのは高いのさ」
「そんなゴミ居るだけで100害あって1利も無いだろ。再利用出来る分ゴミのほうがまだマシだな」
「それは同意見だけど間違っても外で言うんじゃないぞ。伯爵の耳に入ったら間違いなく殺されるぞ」
貴族なんてのは民あってのものだろが。それをないがしろにして何が特権階級だよ。
「伯爵に家族はいるのか?」
「いないな。妾は大量にいるが身ごもったら屋敷に監禁されるって話だ。生んだら継承スキル持ちじゃない限り親子共々そのまま捨てられる」
じゃあ監禁されてるやつと屋敷の使用人を外に出してから、屋敷のやつは皆殺しにするか。
「お嬢ちゃん達はどうやって捕まったの?」
俺は犬耳姉妹と猫耳少女に尋ねてみた。犬耳姉妹は森で採取中に捕まったそうだ。普通なら人間の臭いに反応して逃げられるのに、その時に限って全く臭いを感じなく、複数の男に囲まれて捕まってしまったらしい。猫耳少女は普通にラピで遊んでいたらいつの間にかかなり村から離れた所までいってしまったらしく、迷子の所を人間に捕まったんだと。どうやらなにか食べ物をあげるといって釣られたらしい。しかしラピで遊ぶってあれかなり危なかった気がするんだが……
「ごはんくれなかったニャ」
ひょっとしたら誘拐されたということすら認識がないかもしれない。
「フェリア達とマオちゃんは同じ村に住んでたの?」
「いえ、違う村です。マオちゃんのような金虎族は普通は他の種族とは一緒に暮らしませんから」
銀の狼に金の虎か。なんかかっこいいな。マオちゃんの毛は確かに金色がかかっててとても綺麗だ。猫耳をモフモフしたい。というか猫じゃなかったのか。
「両親は健在?」
「はい。たぶん今頃心配してると思います」
「?」
「お父さんとお母さんはいる?」
マオちゃんが分からなそうな顔をしていたので聞き直す。
「いるニャ。お父にゃんおっきくて強いニャ」
両親が健在なら早く送り届けた方がいいだろう。しかしどうやって送り届けるか。
「書けたぞ。アマンテのことよろしく頼む」
そんなことを考えているとどうやら手紙を書き終わったらしいライドさんが手紙を渡してきた。
「了解。でもここの場所がわからなくて戻れないかもしれないけど」
「それなら明日から俺が隠れて外の様子みとくんで、近くに来たら迎えにいくよ。今日はもう色々疲れたんで寝かしてもらうわ。おやすみ」
そういうとチャラ男は隣の部屋へと移動した。
「ライドさん体の方はもう大丈夫ですか?」
「ああ、全く問題ないようだ」
「ここは任せます。この子達を護ってやってください」
「わかった」
俺はすぐに隠れ家を出て、朝買ったオニギリを食べながらギルドへと足を向けた。中身はこんぶと鮭だった。嫌いな明太子とか高菜とかじゃなくて良かった。
すでに日を跨いでいるがギルドは普通に営業中のようだ。中に入るとアマンテさんが酷く狼狽した様子で座っていた。そしてこちらを見つけると
「キッドさん! あの人は!?」
「しっ。夜中なんですから静かにしたほうがいいですよ」
そういって人差し指を唇の前に当てると、アマンテさんもすぐ手を口に当てて声を抑えた。
「ライドさんは無事助けました。しかし貴方はそれを知らないはずなのでそのまま脅迫にくるかもしれない。その場合はそのまま突っぱねて下さい。そして支部長に相談したほうがいいでしょう。もう殺される心配はないですから」
そういって俺は手紙を渡す。手紙を受け取ったアマンテさんは手紙を読み終わり、
「あぁ、ライド……無事だったのね、よかった……キッドさんありがとうございます。なんとお礼を言っていいか」
そういって綺麗な雫が目からこぼれ落ちた。
「暫くは会わない方がいいでしょう。また狙われる可能性が高い。貴方も十分気をつけて下さい。できればしばらくはギルドに住むとかしたほうがいいかもしれないですね」
「分かりました。しばらくは会うのは我慢します。でもライドには弟達がいるんですがだいじょうぶでしょうか……手紙にも確認してほしいと書いてありました。いつもライドが居ないときは私が面倒を見ているんですが……」
家族だと……なんでそっちを誘拐しないんだ? 色ボケの伯爵だから女のほうがいいと思ったんだろうか、それとも自分が家族というものを分かっていないから家族では人質にならないと思ったのか。
「その子達もしばらくギルドで一緒に保護できませんかね?」
「わかりました。支部長に頼んでみます」
「できれば今からでも迎えに行きたいんですが」
「今からですか?」
「急がないとまずい事になるかも知れませんから。ここって泊まれる場所ありますよね?」
本当なら隠れ家に連れて行きたいが、ここが見張られている可能性もある。つけられるとまずい。俺だけで連れて行くにしても、まず場所を聞いても家が分からないだろう。そうなるとアマンテさんと一緒に移動するしかないわけだ。そうなると見張りがいた場合に付いてくる可能性も高い。だがギルドに連れて来る分には問題ないだろう。たとえ連れてきたことがばれてもギルドから子供を誘拐なんてすればさすがに貴族といえど言い訳も何もできないだろうし。余計な考えかもしれないが念には念を入れておいたほうがいい。
「え、ええ、職員用の仮眠室がいくつかあります」
「では子供達は今日はそこで寝て貰いましょう。後、ライドさんから何か預かってませんか? 婚約の証とかで」
「ええ、確かに貰いましたけど」
「ライドさんが誘拐されたのはそれが原因です」
「えっ!?」
「伯爵がどこからかライドさんがそれを手に入れたことを知って、今回の誘拐を企てたようです」
「そ、そんな……」
「見つからないように隠しておいて下さいね」
「わかりました。それじゃ他の職員に受付をお願いしてきますね」
そういってアマンテさんは奥へと向かった。しばらくして
「では行きましょうか」
「急ぎましょう」
そうして2人でライドさん宅へと向かった。来るときに一応周りを伺ったがつけられたり見張られたりしている様子はなかった。カードを使っていない俺では恐らくプロが相手だと発見等できないだろうから油断は禁物だ。
ライドさん宅は普通の一軒家だった。アマンテさんは合鍵を持っているようで普通に鍵を開けて中へと入った。2階へと上るとそこには兄妹らしき2人の子供が眠っていた。
「アソオスくん、フィリアちゃん、起きて」
アマンテさんは2人を揺さぶって起こす。2人は目を擦りながら上半身を起こした。
「ん……お姉ちゃん?」
「そうよ。2人ともちょっとお出かけするから。起きてね」
「おでかけ?」
「ちょっとの間ね」
そういってアマンテさんは妹のフィリアちゃんを抱っこして連れて行く。俺は兄の方を抱っこして連れて行く。ギルドに付くと受付には厳ついおっさんが居た。こんな受付がいたらそこには誰も行かないだろう。
「子連れで一体どうしたんだアマンテ?」
「すみません。この子達に今日仮眠室を使わせて貰います」
「そりゃかまわんが」
そういって2人を仮眠室に連れて行った。するとやっと目が覚めたのか兄のほうが俺に向かって
「あっ焼き鳥のおじさん!」
と叫んだ。そういえば昼に焼き鳥やった子供がいたな。
「あれ旨かったか?」
「うん!」
さっきまで眠そうだったのが、目が冴えたのか一瞬で元気になったようだ。
「今日はここで寝るんだ。もうちょっとしたらお兄ちゃん帰ってくるからな」
「ほんと!?」
「ああ、だからいい子にしてるんだぞ」
「わかった!」
そういって2人をベッドに降ろし寝かせた。これで何とか一安心だ。後は俺がギルドで寝ればアマンテさんのほうもなんとかなるか。
「アマンテさんは仕事はいつまでですか? 確か今日の昼も居ましたよね?」
「ええ、本当は今日の夜からだったんですが、ライドが帰ってこなかったのでギルドで情報を待っていたんです」
「じゃあ寝てないんですか?」
「寝てもあまり眠れなかったでしょうから……でも今日からはぐっすり眠れそうです。キッドさんのおかげです。ありがとうございます」
「言ったでしょ。依頼成功率100%だって」
そういうとアマンテさんは今まで見られなかった健やかな笑顔で笑ってくれた。
「それじゃギルドの椅子で寝てますから、何かあったら起こして下さい」
「そんなところで寝るんですか?」
「ライドさんとその家族の足取りが掴めないとしたら次に狙われるのは貴方ですからね」
「ご迷惑おかけして申し訳ありません」
「迷惑なんかじゃないですよ。それじゃお休み」
そういって俺は椅子をつなげて横になった。
トラップカードなら仕方ない。
次回から更新が遅くなる可能性が高いです。