17:魔女
半日程歩き続けて無事に村にたどり着いた。結構適当に歩いてもなんとかなるものだ。むろん途中誰にも会わなかった。
しかし、俺一人だけ帰るとなるとなにか理由が必要になる。なんて言おうか。そう考えていると村の入り口に付いた。最初の日にここであった青年が今日も入り口に立っていた。
「おう、キッドじゃねえか、ロキや姫さん達はどうした?」
「後からくるよ。姫さん達は大回りしてゴブリンの残党がいないか、確認しながら帰ってくるそうだ。俺はそのまま真っ直ぐ帰ってきた」
「そうか、無事に巣は潰せたようだな。村長に報告してくる!」
「まて、それは姫さんが帰ってきてからにしたほうがいい。まだ残党がいるかもしれないからな」
「そうか、わかった。お前もご苦労だったな」
ほんとに苦労したよ! なんか俺のボスクラスのエンカウント率が高すぎる! カードが全然たまんないよ! 一張羅の革鎧もボロボロだし、もうなんていうか疲れた。早く寝たい。帰り際いろんな人に声を掛けられたが、適当に返して俺はおっちゃんの家に戻った。
扉を開けると奥さんが出迎えてくれた。食事も取らずに俺は部屋に戻り、カードをドローしてまたポケットにすぐしまい、そのまま眠りにつく。ドローだけに泥のように! そんなくだらないことを考えながら俺はすぐに意識を失った。
「――――ろ」
なんだ?
「――きろ」
なんか聞こえる。
「いい加減起きろ!」
うるさい声に目を開けるとそこには赤毛の姫さんがいた。
「おはようございます」
「おはようじゃない! もう夕方だ!……じゃない、そんなことよりお前無事だったのか!」
姫さんが一気に捲し立てる。
「あー、あいつ逃げちゃったんですよ。痛いのが苦手みたいで、ちょっと強く叩いたら逃げちゃいました。恐らくもう2度と人前には現れないと思いますよ」
さらっと息をするように嘘をつく。逃げたという部分以外は全て本当だが。
「逃げただと!? それは本当か?」
「俺が叩いたときに、あいつが怯えるの見てたでしょ?」
「たしかに、怯えたような表情はしていたが……」
「まぁあいつのことは気にしないで安心しといて下さい。それよりゴブリンはどうでした?」
「見つからなかった。こちらには逃げてきていないようだし、やはりあの崖崩れで全部死んだのだろう」
うん、知ってる。原因は崖崩れじゃないけどね。
「ところでザウバアの話は誰かにしました?」
「いや、まだ誰にもしていないが」
「しないで下さいね」
「何故だ? 都市墜としを追い払ったなぞ、世界中の歴史を紐解いても、並ぶのは恐らく我が国の初代国王くらいの凄まじい戦果だぞ?」
「でもそいつは逃げてまだ生きて居るんですよ? そんなやつがこの国にいるとわかって尚かつまだ生き
てるなんて知れたらどうなると思います?」
「それは……」
「無駄に何も知らない国民を脅かすようなことはやめた方がいいです。貴方も国に携わる人間ならそれくらい判断して下さい」
「ぐっ……爺と同じようなことを……」
爺とかいうのが誰か知らんがもっとちゃんと教育しといてくれ。まぁでも実際はライオンさんは死んでるけどな。でも1匹とは限らないから油断は禁物だ。
それに問題はそれを一人で追い払う人間がいるということだ。人からみれば人の形をしているが要は同じような化け物だ。ばれたらまず間違いなく人間扱いはされないだろう。安全なのはこの姫さんのパーティーを消すことだが……折角助けたのに殺すのは忍びない。そして……美人は世界の財産だ! 性格が悪いなら問答無用で消してもいいが、若干問題はあるにせよ、みんないい子なんだよねぇこの子達。信用はできないけど口止めだけはしておこう。
「他の人達もいいですね?」
そういって俺は姫さんの仲間にも確認を取る。全員の了承はとれた。しかし……
「ちょっと聞きたいんですが」
「なんだ?」
「この子はなんで俺にくっついてるんですか?」
俺はベッドに腰掛けて話をしていたが、いつのまにかロリな魔女っ娘が隣に来てくっついて座っていた。
「私に聞かれても困る」
ちょっと不貞腐れたように姫さんがいう。ならばと俺はロリのほうをみる。ロリはこちらを見つめたまま
「恩人」
と、一言だけ呟いた。そいえばライオンから1度助けたな。それだけで懐かれたのか!? 吊り橋効果とかそんなもんじゃねえ! チョロすぎるだろ! もうロリじゃなくて名前がチョロいさんになっちまうぞ!?
「そんなことで一々恩に感じることはないよ。別に助けたのはただの気まぐれで偶然だ。深い意味があったわけじゃない」
「関係ない。恩は返す」
なんだろう。俺にどうしろと。
「どうやって返すの?」
「体で返す」
ブフォッ 俺は思わず吹き出した。見ると副長とおっちゃんも同じように吹き出していた。姫さんは絶句しているようだ。シスターはまぁと手を合わせて微笑んでいる。どうしようこれ。
「それどういう意味か知ってるの?」
「わからない。教えてほしい」
この世界なら児ポ法で捕まるようなことはないだろうが、こんなことで女の子に手を出すほど俺は落ちぶれていない。伊達に俺は魔法使いではない!
YESロリータ! NOタッチ!
「そういうのは好きになった人に言いなさい。少なくとも全く信用のない、あやしい俺みたいなおじさんに言ってはいけません」
俺はやさしくロリを諭す。
「好き……よくわからない」
正確に何歳かはしらないけど、この歳で金ランクなんてそれこそ恋愛どころか、人間関係すらまともに築けないまま、魔法に打ち込んできたのだろう。
そのせいか、感情を上手く表せないようだ。この子にはまず同年代の気軽に話せる友達を作った方がいいんじゃないか? 今一番身近にいるのはミリーちゃんだが、王都に戻ればすぐにあえなくなってしまうから難しいか。
「それじゃあロ、じゃなかった、名前なんだっけ?」
「マギサ」
「マギサちゃんは魔法が得意なんだよね?」
ロリはこくんと頷いた。
「暇な時でいいから俺に魔法を教えてくれないかな?」
そう、スキルが強力でもやはり手札は多ければ多いほどいい。使えるかどうかは分からないが。
「わかった」
ロリは了承してくれたようだ。まぁ習うのはいつになるか分からないが。
「マギちゃんが会って間もない人に、こんなに懐くなんて初めてですね」
シスターがおっとりとした感じで話す。
「マギサが年上好きだったとはな」
副長もなにやら考え込んだ感じで呟く。姫さんは何か「ぐぬぬ」とか唸ってる。
「どうかしたんですか?」
思わず聞いてみた。
「その口調」
「え?」
「何故またそんな畏まった口調に戻っているのだ! やつと戦っていたときのように普通に話せ!」
なんか敬語が気にくわないらしい。俺は相手が年上なら基本的にどうでもいい赤の他人には敬語で話す。後は人妻とか他人の恋人とかいわゆる人の物には一定距離を置くために敬語だ。それ以外の信頼を置いている相手や年下にだけ敬語を使っていない。後、どうでもいい屑とは極力話すらしない。どうやら姫さんは俺が一定距離を置いているのを気にしているようだ。
「後で不敬罪とかで捕まえたりしませんか?」
「するか!」
「まぁあんたらならいいか。何度もいうようだけどザウバアの件もオーガの件も黙っといてくれよ」
「なぜそこまで強さを隠すんだ?」
「碌なことにならないからだよ。後は自分で考えろ」
「くっ」
なんでなんでと聞かれる前に自分で考えるように釘を刺しておく。
「しかし、オーガどころか都市墜としを素手で撃退とか、これで銅1の新人ていうんだから悪い夢でも見てるみたいだぜ」
副長が戯けるような仕草で言う。
「俺が怖いか?」
姫さん達全員がピクッとわずかに反応した。
「正直に言うとたしかにお前の力は恐ろしい。その力がこちらに向けられた時のことを考えるとな」
姫さんだけでなく全員が真剣な表情でこちらを見ている。
「でもわずかな時間ではあるが、一緒に行動していてわかったことがある。おまえはその力を使って、無闇に他人を傷つけるような真似はしないだろう」
「なんでそんなことがいいきれる?」
「お前は頑なに自分の力のことを隠そうとしている。その力があれば私達を消すことなど簡単にできたはずだ。にもかかわらず森に行ったときに私達を消すどころか、都市墜としから庇うような真似までした。つまりお前は自分のために、他人を犠牲にするような真似はできない、もしくは非情になりきれないと判断した」
ぐっ痛いところを付いてくる。赤の他人なんてどうでもいいと思いつつも、どこか見捨てられない甘さ。そして一番の問題。人をこの手で殺したことがないということ。現代日本人でそんなこと経験してるやつがいったいどれだけいると。
そんなの経験してる時点で真っ当な社会人になってるわけがない。どうでもいい屑なら殺すことにためらいなどないだろう。しかし、別にこちらに敵意を持ってるわけでもない他人を、情報が漏れるからといって簡単に殺せるか? 今の俺では無理だと言わざるを得ない。 まぁ女の子じゃないなら殺せてしまうかも知れないが。
この隣にくっついてる小さな女の子を殺せと言われても俺には無理だ。消そうと考えたことはある。
だがそれを実際に実行に移せるかと言われると、正直なところできる自信がない。甘ちゃんといわれてもしょうがない。
それが俺という人間だからだ。まぁこの子が俺を殺すつもりで襲ってくるってのなら話は別だが。
いつかこの甘さが命取りになるかもしれない。それでも俺は俺自身を貫いて生きる。それで死んだら俺はそこまでということだ。
「一国の王女を消した場合のデメリットを考えて、手を出さなかっただけかもしれんだろ?」
「それはないな。それなら命がけで助ける理由もないはずだ」
くっならば仕方ない方針転換だ。
「確かに俺は女は滅多な事じゃ殺さない。なぜなら……かわいい女の子は全世界共通の財産だと思っているからだ!」
俺は拳を握りしめて熱く語った。人を殺したことがないという事実がばれないように。
「はっ? え、いやっ、かわいいだなんて、そんな……」
姫さんは手を頬に当て顔を真っ赤にして体をくねらせてモジモジしている。そいえば1回この子も助けたっけな。全く姫さんのことはかわいいの対象に入ってなかったんだが、それを言ったら俺の首は、体とおさらばすることになりかねないので言わない。恐らく綺麗だとか美人だとかは言われ慣れてるが、かわいいとは言われたことがないんだろう。相当嬉しそうだ。シスターさんも「まぁ」なんていって嬉しそうだ。となりのロリを見ると首をかしげてなにやらよくわかっていないようだ。これがかわいいってことだと姫さんにいってやりたい。
「と、いう訳でかわいい3人には俺のことは黙っていて貰いたい。男は言ったら殺す」
「俺だけ扱い酷くね!?」
副長が文句を言うが知らない。男、しかもイケメンに対しては非情に扱っても問題はない。
しかし簡単に撃退したようにいうが、実際の所、今回はかなりやばかった。かなり慎重にカードを節約して戦ったがそれでも結構な数の手札を失った。SRが無駄になったのが一番痛い! 思い出したら泣きそうになるくらい。やめよう。命があっただけでもめっけもんだ。都市墜としときたら次は国墜としか? もうやだ帰るー!
「所であんたらはこれからどうするんだ?」
「私達は元々城へ帰る途中だったからな。明日の朝にでも帰るつもりだ」
「おう、そいえばキッド、ランドは明日王都へ戻るっていってたぞ。一応お前も行くと伝えておいた」
「おっありがとおっちゃん。じゃあしばらくは王都でがんばるか」
「王都で活動するのか? なら城に来い。助けて貰ったお礼をしたい」
「そうか、お礼か……だが断る!」
何言っちゃってんのこの赤毛。
「何故だ!?」
「目立ちたくないっていってんのに、城に来いとか馬鹿なの? 馬鹿って宛先で手紙書いたら、貴方に届くくらい馬鹿なの?」
「ぐっ……そこまでいうか……」
「本当なら1000の言葉を用いて君がいかに馬鹿なのかを語って説明してあげたい。しかし俺にはそんな語彙も時間もないんだ。くやしいよ。できるなら君が納得できるまでずっと語ってあげたいのに。自分の力のなさが悔しいよ。本当にすまない」
姫は項垂れて落ち込んでしまった。
「お前は相手が王女でも容赦ないな」
おっちゃんが呆れたように言う。全く、俺をなんだと思って居るんだ。女の子には優しいところも見せてやらないとな。俺はがっくりと項垂れている姫さんの肩を叩いた。
「姫さん。上が切れすぎるとそれを邪魔に思うやつに消される可能性が高いんだ。その点、姫さんなら消される心配もなく安心じゃないか!」
姫さんはますます落ち込んだ。どうやらトドメになったようだ。
「それ全然フォローになってないだろ」
姫さんが落ち込んだまま、姫さんパーティーは宿へと帰っていった。
「で、本当にやつを逃がしたのか?」
みんなが帰った後、おっちゃんがどうせ嘘なんだろ?と言わんばかりに聞いてきた。
「ちゃんと仕留めたよ。魔石も取らずに遺体はそのまま収納してある。ボロボロだけど」
「ほんとに都市墜としを仕留めちまったのかお前……どこまで規格外なんだよ」
「遺体いる?」
「いらねえよ!」
「まぁ前例もないから魔石以外は売れるかどうかわからんけど、魔石は高く売れると思うんだけどなぁ。
まだ見てないけど」
「お前が俺に預けた金だけでも、この村が丸ごと何個も買えちまうってのに、それ以上どうしろってんだよ。城でも建てさせる気か?」
「いいかもなぁ、マルクート城塞都市みたいな」
「がっはっはっ、ここが城塞都市か! 悪かねえな!」
まぁそうなるには何か人が集まるものが無いといけないが。ここはそもそも3方を森に囲まれているため、流通経路が限られてくる。まぁ西の森は少し離れているが。故に流通都市としては機能しないし、何か、もの凄い特産でもないかぎり都市になるくらい人が集まるなんて無理だろう。
「まぁ俺はこの村は今のままのが好きだけどな」
「俺もだよ」
2人して笑いあった。最初に会えたのがおっちゃんで良かった。最初にこれたのがこの村で良かった。唐突にこの世界に飛ばされたことを考えると、到底、運がいいとはいえないが、それでも俺は運がいいのだろう。
夕食時、家族には隠す必要がないのでザウバアとの戦いの話をした。みんな興味津々で聞いていた。まるでおとぎ話でも聞いているように。
「あのでかい穴はそれでできたのか」
どうやらおっちゃん達は一度現場に戻って確認したらしい。でかい穴は空いてるし、周りの木々は切断されて、もはや森とは思えない状態になってるしで、とても生きているとは思ってなかったそうだ。姫さん達は。おっちゃんは普通にもう倒して帰ったのかって思ってたそうだ。さすがだ。
「どんなに強力なスキルを持ってても、それに胡座を掻いてると、いつかは足下を掬われるってことさ」
それは自分にも当てはまる。俺は自分自身に言い聞かせるようにそういった。
「そりゃ、違えねえ」
「こっちを見下してて、油断している金ランクと、自分の力を過信もしなければ、決して油断もしない銅ランクなら俺は後者のほうが遙かに怖いね」
「お前は本当に考え方が新人らしくないよな」
「まぁたぶん暫くは、王都にいると思うんで何か用があったら、いつも泊まってたあの宿に連絡してくれ」
「わかったよ。でもお前まだ彼処に泊まる気か? もう家建てても一生遊んで暮らせるくらい稼いでるだろうに」
そいえばそうだった。結構金持ちになってたのすっかり忘れてた。
「家を建てるにしても、家なんてすぐには建たないだろうし、どっちにしろ暫くは宿になるだろうな」
「そうか」
その日は夜が更けるまで話をした。
翌朝、いつもどおり4:30に起きた俺は日課のドローを行った。
昨日のと合わせると
No126C:三十六計 対象とそれに触れている者をその場から転移させる。現在地より3km離れた位置に転移される。移動場所は地上でランダム。
No150C:一目瞭然 対象の情報を得ることができる。
No156C:貧乳美人 対象は胸が小さくなる。対象は女性限定。デリートしないかぎり効果は永続する。
No157C:歪度歯痛 対象は歯が痛くなる。
No160C:四肢不良 対象の手足のどれか1つが動かなくなる。どれになるかはランダム。
No165C:無味無臭 対象は何を食べても味がしなくなる。
No168C:快適温度 対象の周りの一定範囲を快適な温度に保つ。
No186C:爆破音響 対象を中心に凄まじい爆音を響かせる。音のみで爆発はしない。
No191C:迷宮之森 対象は起動時の座標から3m以上移動した場合に、起動時の座標に戻される。
No193C:人身光膜 対象はうっすらと体の周りが光る。
No195C:打上花火 巨大な花火が6発上がる。
No200C:変身人形 対象の身代わりになる人型を作る。攻撃を1度だけ無効にできる。攻撃を受けると人形は消滅する。人形は対象から1m以上離れると自動で消滅する。
うん、UCすらでなかった。しかし結構使えそうなものがあるな。おっぱいのことじゃないよ!
特に191番は爆弾とのコンボは回避できないんじゃないか? まぁ体が光るとかよくわからんのもあるが……
まぁすぐ使えそうなのだけ出しておくか。そして俺は朝食後、ランドさんの元へと向かった。お別れを言いにおっちゃん達も付いてきた。
「おはようございます」
「おおっキッドさんおはようございます。昨日はご活躍されたそうで」
そいえばゴブリン退治にいったことになってたっけ。
「いえ、私はたいしたことはしていませんよ」
都市墜としを倒したくらいです。とはいえない。そうこうしてると[栄光の道]の人達がきた。どうやら一緒に行くようだ。
「げっ!? あんたも来んの?」
「ずいぶんと失礼な反応ですね。ぶち殺しますよ?」
「ヒィッ」
脅かすとシェルムはフォルサの背中に隠れた。
「冗談ですよ。約束を守っている限り手はだしません」
「お前の冗談は、本気でおっかねえんだよ!」
シェルムをからかっているとフォルサから非難の声が上がる。失礼な。
「遅くなってすまない」
どうやら姫さんパーティーが到着したようだ。するとてくてく歩いて俺の横にピタッとくっついてきた。ロリが。
「ずいぶんと懐かれたな」
副長が笑いながら言ってくる。くっついて歩いてくる姿はなんか、かわいいワンコに懐かれたみたいだ。思わず頭を撫でてしまうと、目を細めて気持ちよさそうにしている。かわいい。持って帰りたい。
「では、そろそろ出発しましょう」
ランドさんがそういうとみんな馬車に移動した。
「それじゃおっちゃん、奥さん、ミリーちゃん、元気で。また遊びに来るよ」
「絶対だよ? 絶対また来てね!」
「是非またいらしてくださいね」
「おう、がんばれよ。あんまりやり過ぎんなよ。いろいろと」
「わかってるよ。やるときは証拠は残さないよ!」
「何する気だよ!」
このツッコミが無くなると寂しくなるな。そう思いながら馬車の中から手を振って、俺は家族に別れを告げた。
今回、俺の担当は最後尾の馬車になった。それなりに強い人間を配置するとのことで、俺、姫さん、ロリ、ソフィアの4人になった。
途中馬車の中で、ロリに魔法について教えてもらった。ちなみにロリは得意系統は氷と風で、炎や水も使えるとのこと。普通は多くても2属性使えればいい方らしいので相当な天才なのだろう。魔法は特に詠唱等は必要ないらしいが、明確なイメージがあるほど精度や威力が高まるため、魔法学校では詠唱することを基本として教えられるらしい。その詠唱も自分のイメージを高めるためのもののため、個人個人で好き勝手に作って問題ないそうだが、学校で基礎的に教えられるものをそのまま使う人が多いんだとか。そう言いながらロリは手の上に水の玉を作り出して浮かしていた。次の瞬間、その水の玉は一瞬で氷の塊になった。俺はそれを真似して自分の手の上に水の玉をイメージするが全くそんなものは出来なかった。
魔法は自分の中の魔力を操り、それを各属性に変質させて使用するのだが、俺は操作はできても変質させることが全く出来ていないと言われた。普通は得意な系統があり、その属性に対しては容易に変質させることができるらしいのだが、俺は全属性に対して試してみたが全く変質されない。
「あなたには属性がない」
ロリにそう宣告された。でもカードだと魔法使えてたよな……あれは魔法じゃないのか、それともカードで全属性が使えるせいで、魔法が使えないのか……謎だ。
ならば、と身体強化的な魔法はないのかと聞いたらそれは風属性だと言われた。電気的な信号という意味なのか、風を使って速度をあげるのかはわからない。つまり今のところ俺の魔力は気配探知くらいにしか使えないということか。一応操れるならオーラのようにまとって拳の威力をあげるとかできそうな気がするんだけどなぁ……それほど魔力が強いやつは、普通に魔導士になるので、そんなことはしないといわれた。
しかし、ロリに教えてもらっている途中、
「魔法なら私だって使えるぞ」
と、姫さんが割って入ってきた。別にロリいるから用もないんだけど、一応教えてくれるらしいので話を聞いてみたが
「そこでグアーっと力を込めてギューっとするんだ」
とか、擬音が多すぎて訳が分からなかった。なんでも感覚でやってしまう天才はこれだから困る。まぁロリも天才なんだろうが、こっちは理論もあるのでわかりやすい。一応、ロリは魔法学校主席卒だそうだ。普通は15で入学して18で卒業するのにロリは12で入って14で卒業したんだとか。そこでふと、おっちゃんの話を思い出す。
「マギサは魔導士の金ランクなんだよね?」
「そう」
「以前、おっちゃんがリグザール唯一の金ランクが、金ランク唯一の魔導士だとか言ってた気がするんだけど」
たしかそんなことを言ってた気がする。
「私はリグザールの出身」
「へー」
リグザール出身だけどこっちに来ているということか。
「マギサは元々リグザールでハンターをしていたところを私が連れてきたのだ」
姫さんがなんか威張った感じでドヤ顔で言う。なんでもロリは学校卒業時にずいぶんと王宮の勧誘が来たらしいが、それらを全て断ってハンターになったらしい。それでも優秀な魔導士がほしい貴族達からのちょっかいが多く、それがだんだんとエスカレートしてきて、金ランクになった時には、かなりの大事になりかけたそうだ。このままじゃ一緒に行動している仲間に迷惑がかかる。そう思いリグザールを出ようとした時に姫さんにあってスカウトされたんだそうだ。その時一緒にいた仲間が2人いたそうだがそのうちの1人が副長なんだとか。
「今では私直属の部隊の魔導士だ。普段は私付きの女官としてついてもらっている」
「あれ? じゃあリグザールにはもう金ランクいないってことか?」
「いや、いるぞ。つい先日、6人目として金ランクになったものがいる。まだあったことはないが、マギサと同じく魔導士らしい」
おっちゃんの情報が遅れていただけか。まぁ一般の情報伝達の手段なんてそうそうないだろうし仕方ないだろう。おっちゃん引退してるし。しかし気になることがある。
「他国の金ランクを王家が引っこ抜いちゃって問題にならないのか?」
「別にマギサ達は王宮に属していたわけじゃないしな。私はただ、優秀なハンターを勧誘したに過ぎん。それがたまたま他国だっただけだ」
それで向こうが納得するのかどうかは疑問だが、ルール上は問題ないってことなんだろう。逆にリグザールに引き抜かれ捲る可能性だってあるのか。
「しかし、マギサはなんで誘いに乗ったんだ? 城に属するならリグザールだって同じじゃないの?」
同じ公務員なら自分の母国の方がいいんじゃないのか?
「姫様に興味があった」
「……それだけ?」
「誘いに来た貴族が……気持ち悪かった」
どうもリグザールで勧誘にきたやつが、とてもいやらしい目付きで高圧的な態度をとってきたのが嫌だったらしい。そしてリグザールを出たとしても、ハンターを続けてたら同じようにちょっかいをかけられるかもしれない。他国の王宮に行けばそれもできないだろうとの判断だそうだ。こっちにも同じような貴族がいたらどうするつもりだったんだろう。
それから王都につくまで、俺はずっと魔法の練習をしていたが全く使うことができなかった。ただ魔力を使った気配探知はできるようになった。ちなみにカードは自分1人が見張りの時に、こっそり人に見つからないように引いてある。
「みなさん、王都が見えてきましたよ」
御者をしているソフィアの声が聞こえてきた。外を見ると見覚えのある景色が見えてきた。今回は何事もなく無事に王都へと到着したようだ。いつも行きだけは安全なんだよな。帰りだけ怖いってどこのとおりゃんせだ。
「おまえはどこの宿に泊まるんだ?」
この3日で姫さん達とはずいぶんとうち解けた感じだ。単に馴れ馴れしくなっただけの気もするが……
「押しかけられるといやなんで教えない」
「ぐっ」
この姫さんなら普通に城を抜け出して押しかけてきかねない。
「結局使えなかったけど、魔法教えてくれてありがとな、マギサ」
そういってロリの頭を撫でる。
「これからどうするつもりだ?」
「しばらくはここを拠点に依頼を受けるつもりだけど」
「そうか、ならギルドにくれば会えるな」
「目立つんで見つけても絶対声掛けないでくれ。そもそも目立ちたくないっていうのが、一番の理由での口止めなんだからな」
せっかく都市堕としやオーガの件についてだまっていてもらっても、結局目立ってしまっては意味がない。
「わかった。残念だが約束なら仕方ない。連絡する時はギルドを通すことにしよう」
「その連絡そのものをしないでほしいんだが……」
「何を言う。私達の仲ではないか」
「どんな仲だよ」
「一つ屋根の下でともに過ごした仲だな」
「それ馬車での移動のことだよね!?」
王女様と一つ屋根の下とか、これだけ聞くといかにもって単語なのになんで実際はこんなに残念なんだろう……
「俺は人に利用されるのが好きじゃないんだ。そして何より一番嫌いなのが無理やり命令されるとか脅迫されるとか、そういった類のものだ。そうした場合、相手がお前だろうが、国そのものだろうが容赦なく叩き潰すから」
姫さんは息を飲んで真剣な表情になった。まぁ今の俺の力じゃ無理だろうけどな。
「わかった。なら対価を支払う依頼という形なら問題はないか?」
「対価にもよるが金銭なら間に合ってるぞ」
「ふむ、そうか。ならお前が欲しがりそうなものを考えておこう」
「依頼そのものをしてくれないのが一番の望みなんだが」
「では、また会おう」
「聞いちゃいねえ!?」
そういって姫さんパーティーは去っていった。ロリは名残惜しそうにこっちを何度も振り返りながら。なんであんなに懐いちゃったかな。可愛いからいいが。
そして俺はランドさんに別れを告げ宿へと向かった。
「いらっしゃい。おや、あんたはロキといっしょにいた……」
「キッドです。またしばらくご厄介になります。今回は一人ですが」
「あいよ、前と同じ部屋が空いてるよ」
宿の女将さんに鍵をもらうと、俺はすぐ部屋に向かった。
部屋で俺はベッドにカードを全て並べる。カードのNoと効果を全て暗記するため、俺は空いた時間は常にカードのことを考えている。こういったことを覚えるのは大得意だし、何より好きなので全く苦にならない。むしろ楽しい。しかも地球にいた頃はカードはゲームに必要だから覚えてたが、こちらでは自分の命に直結するため、覚えるのも真剣だ。何しろ命懸けだから。ちなみに地球でやっていたカードゲームは実際のトレカではなく、いわゆるTVゲームでカードを集める類のものだ。
後はカードの効果を使ったコンボを考えるのも好きだ。定番なところでは相手を動けなくしてからの攻撃や、相手を弱体してからのこちらの強化等。まだ手持ちは少ないがそういったことを想定しながら、カードの運用は考えている。しかし、使うのにもったいないとか躊躇はしない。死んだらどんなレアを持っていてもそれまでだからだ。カードはまた引けばいいが、自分の命まではドローできない。
俺は熊との戦いでそれを学んだ。無駄に使うつもりもないが、やばい時に出し惜しみをすることもないだろう。
カードをしまい、明日からどんな依頼を受けようか、そんなことを考えながら俺は眠りについた。
No999C 海原○山:どんな料理にも満足できなくなる。
「このあらいを作ったのは誰だ!」
カードを考えてるうちにこんな妄想しかでてこなくなる病気発病中