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ワールドオーダー  作者: 河和時久
旅立ち編
14/70

14:栄光の道

 その夜、その時間、夜番をしているのはフェルカとシェルムのはずだったがなぜか[栄光の道]の4人が揃っていた。


「あの新人のことどう思う?」


 火に枯れ枝を焼べながらフェルカが切り出す。


「黒髪黒目って見た目もめずらしいが中身はそれ以上におかしいな」


 黒髪黒目はこの国ではまず見ないほどめずらしい。だがこの世界でいないわけではない。遥か北にあるパトリア王国に極少数だが黒髪、黒目の人間は存在する。そこからこの国へ流れくる人が極稀にいるために、存在自体は確認だけされているという状況だ。


「新人がオーガに怯えるどころか単独で立ち向かうなんてできると思うか?なにかおかしい。それだけの強さがありながら銅1なんてなにかの冗談のようにしか思えない」


 本人も薬草採取しかしたことがないと言っていた。それがどこまで本当なのかはわからないが。


「俺はそんなに警戒する必要もないとおもうがね」


「その根拠は?」


「勘だ」


「あんたにきいた私が馬鹿だった」


 シェルムがグッタリと脱力する。


「俺はたとえ相手が金ランクだったとしても戦える自信がある。勝てるかどうかはともかくな。でもあの新人には全く勝てる気がしない。勝てるどころかまともに戦える自信がない。あれは絶対敵に回しちゃいけないやつだ。それだけはわかる」


 オーガとの戦闘を見て感じたのだろう。脳筋といっても無謀すぎる戦いを好んで行うわけではない。自分と相手の強さを計り、実際に戦った場合にどうなるのかを想定するのは戦う者にとっては基本的なことだろう。故に相手の強さを計り間違えるとそれは死に直結することとなる。そのため強さに対しては非常に敏感でなくてはならない。特に実力を見せていない、力を隠しているような相手の場合は尚更だ。


 そしてフォルサがキッドに感じたのは〈戦ってはならない〉である。見えない速度、すべての攻撃を回避する反応速度、オーガの防御フィールドを容易く突き破る攻撃力。そしてオーガと一対一で全く気負うことなく向かい合う精神力。もし新人と紹介されないであの戦いだけみたら間違いなく金ランクと思っていただろう。それほど圧倒的かつ凄まじい闘いだった。


 あれと戦った場合どうなるか。無理だ。何をどうやっても勝てる気がしない。ナイフ1本持たれただけで瞬きする間に心臓を刺されて絶命するだろう。あれならまだオーガと一対一で戦ったほうが生き残る可能性がある。オーガは生命力と腕力は凄まじいが動きはそれほど早いということはない。慎重に戦えばそれなりに善戦はできるだろう。すくなくとも瞬きしてる間に死んでいるなんていうことにはならないはずだ。そうしてフォルサはあれとだけは絶対に戦う道を選んではならいと結論づけた。


「たしかにあれをみたらね……私のスキル知ってるでしょ?実は私、新人がオーガと戦ってる時に新人を狙ってみたのよ……」


「おまえ味方狙ってたのかよ……」


 シェルムのスキルは風の道。狙った的に対して命中した結果が見える。そしてそこに至る道筋がみえる。故に道が見えるときは邪魔さえ入らなければほぼ100%命中する。スキルの性能で言えばロキを遥かに超える性能である。


「もちろんただ狙いをつけただけで、ほんとに撃つつもりなんてなかったよ。でもさ……見えなかったんだ……命中するって言うイメージが…全く……」


 これはもちろんそのとき発動していたスキルの影響である。未来予知と高速移動という2つのチートコンボが発動していたため、シェルムのスキルでは捉えることができなかったのである。普段であれば問題なく命中した映像が見えていたであろう。


「おまえのスキル使ってもか!? あれって必中なんじゃないのか?」


「そう思ってたわ……今日までは。今までこんな事一回もなかった……とりあえず信頼できるできないは置いて置くとしても強さという1点については私達より遙かに上だということだけはたしかだわ。それに私たちを殺すつもりならオーガに殺されたことにしてとっくに殺してると思う。あの力でたたきつぶされればオーガにやられたのと区別はつかないだろうし」


「そう言われてみればたしかにそうだな」


 オーガの足を素手で容易く陥没させたのである。その威力で潰されればまずオーガにやられたと判断されるだろう。


「私は直接戦ってる所を見た訳じゃありませんが、そのような強さなのに特に威張ってるわけでもありませんし、私達に対しても敬語で話されてますしそこまで警戒する必要は無いかと思います」


「それに依頼人の話じゃそもそもギルドに依頼を出す前にロキさん達に話があったみたいじゃん。私達がこの依頼を受けたからどうこうってわけじゃないでしょ」


「そうか。それでも警戒だけは怠るなよ」


「全くリーダーは心配性なんだから……」


「得体が知れない者を警戒するのは当然だ」



 クラン[栄光の道]

 そのメンバーは誰もが居場所を無くした者達だ。


 リーダーのフェルカ・フォルティス。リグザールの剣の名門フォルティス家の次男。しかしフォルティス家の代々の継承スキルである剣の理を持っていなかった。そのため欠陥品として扱われ家に居場所がなかった。16の時家を出てハンターになる。元々次男のため家を継ぐこともできなかったのでこれはこれで良かったと思っている。ハンターは決して楽な道のりではなかったがそれでも充実した日々だった。そこで出会った仲間達とクランを作った。そこは居心地がいい場所だった。欠陥品と言われた自分を認めてくれる。ここが自分の居場所だ。フェルカはついに自分の居場所を見つけた。




 フォルサは平民でありながらその強さでリグザール王国の近衛にまで上り詰めた。スキル豪腕はユニークではないがかなりのレアスキルで王国としても是が非にでも手に持っておきたい人材だった。しかし直接の戦い等ないに等しい王国宮殿内では持ち前の豪腕も発揮することなどできるわけもなく、貴族至上主義の周りの兵士から平民出身というだけで蔑まれていた。そしてある時、貴族が侍女を脅し、自分の物にしようとしていたところを目撃、全力でなぐった。その侍女が王女付きの侍女であったために処刑は免れたがそのまま近衛を辞することになる。


 その後ハンターとなり強い敵と戦う日々に明け暮れる。そこで出会ったフェルカと意気投合し行動を共にすることになる。




 ソフィア・メディウム。[栄光の道]唯一の魔導師。しかしその魔法は弱い。かろうじて水を扱えるという程度だ。ソフィアの家もフェルカと同じくリグザールの名門だ。ただしこちらは魔法だが。


 代々メディウム家は魔法使いの家系で赤い髪が特徴。より強い程赤くなる。そして継承スキルは炎獄。ソフィアは双子の姉と共にその炎獄を持って生まれた。双子の姉は真っ赤な髪とメディウム始まって以来の天才と言われる才能があったにも関わらず、妹ソフィアは火の魔法を全く使うことができなかった。しかも火を司るメディウム家にありながら水の加護という水属性のダブルスキル持ちだった。そして髪の色は青色だったためオチこぼれの出来損ないとして扱われていた。しかしスキルはしっかりと継承していたために政略結婚の道具としてくらいは使える。その程度に思われていた。道具として生きる道をなんとかして抜け出したい。ソフィアは両親に頼み込んで魔法学校へ入学した。そこでもオチこぼれの出来損ないの扱いは変わらなかったが家にはない自由があった。そして魔法学校ではハンター実習が存在する。これは理論のみで実戦が全くできない学校卒業生が多かったために近年新たに取り入れられた物だ。そしてソフィアはそれによりハンターとしての生き方に未来を見出す。


 学校卒業後、すぐに結婚が決められていたがそれを拒否。家を飛び出しハンターになる。ハンター生活は大変だったが生きている実感があった。その後シェルムと出会い行動を共にすることになる。


 




 シェルム・ソルアー。先の2人と同じようにリグザールの名門ソルアー家の長女。しかし継承スキルである風の真理を継承していなかった。弟がいてとても仲が良かったが、その弟に風の真理が発現したために関係が気まずくなった。家族も使用人も今まで自分にやさしく接してくれた全ての人達の態度が明らかにかわったからだ。全てが常に弟を優先するようになった。自分は空気のような存在。いてもいなくてもいいのか。そう思い、政略結婚の道具にされる前に家を捨てハンターになる。しばらくソロで続けていたがある時、いっしょに依頼を受けたソフィアとお互いの境遇が似ていることで意気投合。その後2人で行動を共にすることになる。時をして同じく2人で行動していたフェルカ達と出会い、クランに参加する。





 どこにも居場所がなかった彼らは出会った。居場所がなかった自分達でも栄光への道がどこかにあるはずだ。そうしてクラン[栄光の道]はできた。


 未だにフェルカ以外に対しては追っ手がくることがあった。ある時は誘拐、ある時は暗殺。様々な形で現れる追っ手を今まではなんとかやり過ごすことができた。しかし油断はできない。いつくるかも分からないといって油断して仲間を危険にさらすわけにはいかない。


 このクランはフェルカにとっては自分の帰るべき場所であり唯一の居場所でもある。その仲間はいわば家族とも呼べる者達だ。それを危険にさらすことなどできない。たとえ敵がどんなに強い相手だろうが自分のするべきことは一つだけだ。フェルカは心と剣にそう誓う。









 3日目の昼、俺達はやっと村に到着した。しかし村の様子がなにやらおかしい。


「ロキ!大変だ、ミリーちゃんが!!」


 そう聴くや否やもの凄い勢いでおっちゃんは家に向かって走っていった。


「なにがあったんです?」


 俺はとりあえず何があったのかを聴いてみた。どうやら薬草を採りに行った際にゴブリンに襲われたそうだ。村の人曰く今までこの辺りでゴブリンなんて見たことがないらしいが、今日に限ってなぜか現れたらしい。偶々その場を通りかかかったハンターが助けてくれたそうだが毒矢で撃たれていたらしくそのまま村までハンターが運んできたそうだ。ちなみにそのハンターは俺達が出発する際にいなかった人達らしい。


 偶々ねぇ……偶然森の中を歩いていたらゴブリンに襲われているかわいい女の子がいたので助けましたとい

うことか……小説の主人公じゃあるまいしそんなことがあるんだろうか。


 話を聞いた後、俺も急いでおっちゃんの家へ向かった。1階にはだれもいなかったので2階のミリーの部屋に向かった。

 そこにいたのは苦しそうに呻いているミリーとそれを心配そうに見ているおくさんとおっちゃん、そして誰だか知らないおばあちゃんだった。


「できる手当はしたけど、血を流しすぎてる…それに毒矢を受けてるみたいだ、一応毒消しは飲ませたけどなんの毒かわからないから後は女神様に祈るしかないねぇ」


 そういっておばあちゃんは落ち込んだ風に降りていった。ミリーを見ると全身が傷だらけだった。顔には切られたような後があり、足は矢が刺さったような後がある。そしてお腹に包帯代わりであろう布のような物が巻き付けられているが血がにじんでいる。恐らく切られたか刺されたかしたのだろう。


「ミリー! がんばってミリー! お父さん帰ってきたよ!」


「ミリー死ぬな!! がんばれ!! ……ちくしょう、なんでミリーがこんな目に……ミリーが一体何をしたって言うんだ……」


「お……と……さん」


 なにか手はないか……毒の回復、状態異常回復、手持ちにはなかったはずだ……体力回復や傷の回復はあるが毒には効かないだろう。それにここまでの怪我だと回復するかどうかわからない……どうする……


 あっ!? 1つだけ直る可能性のあるカードがあった…しかし今効くのかどうかわからない……他のカードのテストをしている暇もない……だがやらないよりはマシだ。


「お……かぁ……さ」


 そうしておっちゃん達が握りしめているミリーの手が落ちようとした。


「「ミリー!!」」


 おっちゃんと奥さんの絶叫が木霊する。レアだとかとっておきだとか言ってる場合じゃねえ!ここで使わなきゃいつ使うんだよ! 見せてやるぜ正真正銘最後のとっておき! 1枚しかないレアカードの威力をみせてやらあ!


展開オープン


 そして俺は一枚のカードを取り出す。


「おっちゃんどけ! ナンバー15セット!」


No015R:起死回生 死にかけの状態を完全回復させる。生命力が最大値の10%以下の場合のみ使用可能。


 ミリーの生命力がいったいどれくらいかは分からないが調べている暇はない。使えなかったらまだ大丈夫だということだろう。ミリーの体を眩しい光が包んだ。すさまじい閃光が収まるとそこには傷もなにもない、顔色が良くなったミリーがいた。


「ん……あれ……おかあさん? 私いったい……」


「傷が治ってる……」


 一瞬二人は何が起こったのかわからない顔をして惚けていた。ワンテンポ遅れて


「「ミリー!!」」


 おっちゃんと奥さんが同時にミリーを抱きしめる。ミリーは若干苦しそうだ。


「ちょ、ちょっと苦しいよ! もう! お父さんもお母さんも!」


「良かった……本当に良かった……」


 おっちゃんは人目もはばからずに泣いていた。


「キッドさん本当にありがとうございます。なんとお礼をいってよいやら」


「キッドすまねえな。またお前に助けられた」


「おっちゃんこういうときはすまねえじゃないだろ?」


「あぁ、そうだな。キッドありがとう。おまえはミリーの命の恩人だ」


「おっちゃんの家族は俺にとっても家族同然だからな。家族を助けるのは当たり前だろ? 恩人とかいってんなよ水くさい」


「そうか……家族か……はっ!? ミリーは嫁にはやらんぞ!!」


「どこをどうしてそういう結論になった!?」


 家に笑い声が木霊する。家族が幸せに笑っていられる。これ以上の幸せはないだろう。しかし最後のとっておきが無くなってしまった。カードがなくてもなんとかなるようにしばらく修行でもしよう。


 しかしちょっと遠出しただけで熊が襲ってきたり鬼が襲ってきたりこの世界おっかねえにも程がある!あんまり遠くにいかないようにしよう。


「それよりミリーちゃん、連れてきてくれたハンターのこと覚えてる?」


「え?えーっとたしか赤い髪の綺麗な女の人をみたくらいしか……」


 女か……それならミリーを襲った後に証拠隠滅のために消そうとしたって訳じゃなさそうだな。ただ消すだけじゃなく助けたっていう印象操作のために連れてきたのかと思ったが……


「なにかあるのか?」


「なんかタイミングが良すぎると思ってさ。この村の周りにゴブリンなんていないんだろ? それが偶々ミリーちゃんが出た時に襲ってきて、偶々ハンターが通りがかって助けるってどんな確率だよ」


「たしかにできすぎてるとは思うが……偶然じゃないか?」


「たしかに本当に偶然という可能性もあるけど一応警戒はしといたほうがいい」


「わかった。それとなく調べておこう」


「あからさまに疑うなよ?ほんとに偶然だったときには助けてもらった命の恩人てことなんだから」


「わかってるよ」


「それじゃミリーちゃん。もう大丈夫だとは思うけど流した血まで回復したかどうかわからないから一応安静にね。おっちゃんランドさんほったらかしてるだろ?一応報告にいこうか」


「あぁそうだな。ミリー、ちゃんと寝てるんだぞ」


「わかったわよ、もう2人とも心配性なんだから」


「あーっと2人とも、一応このことは秘密にしといてね。スキルのことはあんまりバレたくないんだ」


「さっきのはやっぱりキッドさんのスキルだったのね……わかったわ」


「私もいわないわ」


 しかしそれだとどうやって治したのかが問題になってくる。


「偶々おっちゃんが王都から持って帰ってきた薬が効いたとかにしてくれるか?」


「わかった。王都で偶々見つけた秘薬が効いたことにしておくか」


「どこで手に入れたかは言わないでおけばいい。手に入れるための条件が手に入れた場所を言わないこととでも言えば納得せざるを得ないだろう」


 そうして俺達は色々打ち合わせをしながらランドさんの元へと向かった。


「ああっロキさん! ミリーちゃんの具合はどうです?」


 ランドさんが心配そうに尋ねてくる。


「あぁ、なんとか王都で買ってきた秘薬のおかげて持ち直したよ」


「それはよかった! しかし、秘薬ですか……それほどすごい物でしたらできればどこで手に入れたか教えていただきたいですな」


「すまんがそれはいえないことになっててな」


「なぜです?」


「効果がばれると人が押し寄せるからって流通元を明かさないのが買う条件だったんだ」


「そうですか。たしかにそんなすごい効果なら納得できます。残念ですがあきらめましょう」


「悪いな。所であの嬢ちゃん達は?」


「あぁ彼らなら宿屋に向かいましたよ」


「そうか。ありがとよ」


 そういって俺達は宿へ向かった。この村には宿は1つしかないので複数軒回って探す必要もない。


「おっちゃんオーガの魔石どうする?俺は別にいらないんだが」


「まぁあんだけ金もってりゃな。これはあの嬢ちゃん達に譲るか。素直に受け取るかはわからんが」


「条件を付ければいいさ。オーガはあの人達が倒した事にして俺は一切関わっていないって事にする。その口止め料として渡すってことで」


「それで納得するかね」


「スキルを秘密にしたいからとでもいうさ。それよりおっちゃんはいいのか?金もオーガ倒したって名声もあって困らんだろ?」


「名声なんざ引退した俺にとっちゃ邪魔になることはあってもいいことなんざないさ。金だって困ってるわけじゃないしな」


「そういうもんか」


「ああ」


 そのまま宿へと向かう。途中、村の人達が心配そうに声を掛けてくるがなんとか助かったというとみんなほっとしたような表情になる。

 村全体が家族みたいなものなのだろう。いい村だな。そう思いながら歩いていると宿についた。扉を開けると1階は酒場のようになっている。

そこにハンターらしき人達が4人いた。[栄光の道]の人達ではなかった。その中にとんでもなく美人の女性がいた。

 長く垂らした赤い髪にうっすらと日に焼けている肌。すらりとした肢体にでるところはでている魅力的なスタイル。やや目つきは鋭いものの地球なら100人にきいたら100人は美人というであろうすぐれた容姿。世の中こんな美人っているんだなぁと思いつつ先ほどのミリーの話を思い出す。赤毛の女の人といっていたな。


「失礼ですがそこの赤い髪の美しいお嬢さん。少々おたずねしたいことがありますが今よろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「先ほど女の子を助けて村まで運んでくださった方で間違いありませんか?」


「あぁそうだ。しかし助けに入るのが遅かった……見つけたときにはもう……」


 そういって女性は目をそらした。雰囲気からするに嘘はいってないように見える。嘘を見抜くカードを使っておけばよかったと後悔しながらおっちゃんの方を見る。


「ありがとうございます。あなた方は娘の命の恩人です」


「えっ? 恩人? と、いうことはあの娘は助かったのか?」


「はい」


「まさか……どうみてもアレは致命傷だった! ナキですら無理だったのに一体どうやったのだ!?」


 どうやらだれかがすでに回復をしてくれていたらしい。無理だったそうだが。回復してくれている以上この人達は白か。ナキというのは恐らく赤毛の女性の後ろにいる白と青のシスターっぽい服をきた女の人のことだろう。こっちも金髪でおっとりした感じのすんごい美人だ。


「実は……」


 おっちゃんは王都で秘薬を買ってきたこと。出所は漏らさないという条件なのでいえないこと等を話した。


「むう、そこまですさまじい効果をもつ秘薬等聞いたこともないな……お前達は何か知っているか?」


 赤毛のお嬢さんは後ろを振り返り仲間とおぼしき3人に聞いている。


「少なくとも俺は知らないな」


 金髪のおちゃらけてそうな騎士っぽい雰囲気の男がいう。


「私も存じませんわ」


 さっきのシスターっぽい女性も同意する。なんだこの世界は美男美女しかいないのか!?


「そいえば……以前リグザールの図書館で何かで読んだような……たしかパトリアの迷宮に死者すら蘇る秘薬があるとか」


 マジで!? そんなのあんの!? 思いがけないところで嘘が真になっていた。答えたのは背も胸も小さい女の子だ。地球じゃありえない青い髪のショートヘアで顔は美人というよりかわいいといった感じだ。


「本当か!? そうか……そんなもの凄い秘薬があったのか……しかしそんな秘薬だ、高かったのだろう?」


「金貨1枚はしたがこの効果ならかなり安かったと思うぜ。まぁ向こうも本物だと思ってなかったんだろうがな」


 くる途中に打ち合わせていた通りの設定でおっちゃんは話す。しかし丁寧語だったのは最初だけですぐにおっちゃんは普通の言葉に戻っていた。


「よくそんな大金を出して薬を買ったもんだ。何か使うようなことでもあるのか?」


 赤毛が不審そうに聞いてくる。


「娘は薬師を目指してるんでそれの参考にでもなればいいとおもってね」


「なるほどな。しかしそのために何だかわからんものに金貨を出すなんて……しかもそれで助かるなんてあの娘は幸せ者だな」


 後ろの人達も一様に頷く。


「あんたも娘を持つようになればわかるさ」


 おっちゃんはそういって笑う。


「む、むすめだと!?」


 赤毛は顔を真っ赤にしている。照れているのだろうか。


「はははっいったいいつになることや……って嘘ですすみませんだから剣をおろして!」


 一瞬のうちに金髪は赤毛に剣を突きつけられていた。これは嫁のもらい手がないということだろうか。こんな美人なんだから騙されるやつは結構いると思うんだがなぁ。


「そういえば自己紹介がまだだったな。私はフィーリア。これでも金3のハンターだ」


「金3!? まさか炎姫!?」


「そう呼ばれることもあるな」


 そういって赤毛は笑う。なんか有名人らしいぞ。そりゃこれだけの美人で金ランクとか有名じゃなかったらおかしいしな。今は適当に話を合わせて後でおっちゃんに聞いておこう。


「俺はサーデク。護る対象の方が強いって意味があるのかわからんが一応護衛だ。これでも近衛の副隊長なんだぜ」


 金髪のおちゃらけた騎士っぽいやつはどうやら本当に騎士らしい。


「私はナキと申します。姫様付きの治癒術師をやっております」


 シスターっぽい人は名前からするとどうやらRPGでいう僧侶とか回復系の魔法使いっぽい。


「マギサ」


 一言だけで終わらせたのはさっきの小さい女の子だ。


「おまえもうちょっとなんかいえよ」


 金髪が文句をいう。


「マギサは人見知りするがこれでも金2のハンターだ。シグザレスト最強の魔導師なんだぞ」


 かなりすごいらしい。しかし金が2人もいるってなんだこのPT。そうなると気になるのが……


「そんなすごい人達がいったいなんでこの村に?」


 そうなのだ。そんなランクの人達が受ける依頼なんて大抵普通じゃないもののはずだ。しかも俺達が王都へ向かう前にきたのだから結構な期間いることになる。


「ふむ、実はな、この辺りでオーガを見かけたという情報があったのだ」


 ドキっとするが俺は平静を装う。オーガってアレだよなぁ……つまりこの人達はスルーもしくは入れ違いになったのか。これはまずい。早く[栄光の道]の人達と話を付けないと…


「オ、オーガですか!?」


 なるべく驚いたように言ってみる。


「驚くのも無理はない。この辺りはゴブリンさえ稀だというからな」


 むしろ俺はゴブリンの方にあったことがないよ!そう突っ込みたかったが我慢した。


「だが私ならゴブリンだろうがオーガだろうが1人で蹴散らしてくれる!そう思って来たのだが……」


「姫様1人で行かせる訳ないでしょうが。っていうかその思いつきの行動につきあわされるこっちの身にもなって下さいよ」


 サーデクが心底落ち込んだようにいう。話を聞くにおてんば姫に毎回つきあわされているのだろう。


「ゴブリンは見かけたがオーガはついに見つからなかったのだ」


 それはそうでしょう。あいつはもうこの世にいないからねぇ。


「オーガ?」

 部屋の奥から声がした。シェルムだった。まずい!話す前に来るとは!まずいまずいまずい、どうするどうする……


「オーガならあたし達が倒しちゃったよ!!」


 終わった。俺はその場に項垂れた。


「倒しただと!?それは本当か!?」


「うん。私の華麗な弓捌き見せてやりたかったなぁ」


「調子にのるな」


 ゴンという音が聞こえてきそうな拳骨がシェルムの頭に振り下ろされた。


「っっっっって痛いでしょフォル!」


「お前1人で倒したみたいにいうんじゃねえよ」


 シェルムは怪力のフォルサに拳骨くらって涙目だ。


「お前達が倒したというのか?」


「正確にはそこの2人と4人だがな。もっと正確に言うと今そこで逃げようとしてるやつがほとんど1人で倒した」


 あああああなにいってんだ糞脳筋野郎!! 瞬時に俺は肩を叩かれた。振り向くと赤毛がにっこりと笑いながら肩に手を置いていた。


「どういうことか聞きたいなぁ。ん?」


 とても美人で恐ろしい笑顔の悪魔がいた。


「な、なにもいうことはないですよお嬢さん。ああいってるだけで倒したのはそこの3人なんですよ。だいたい銅1の私が1人でオーガを倒せる訳がないでしょう?そこのやつがからかってるだけですよ」


「ならなぜ逃げようとした」


「いや先ほど助けていただいた子の様子を見に行こうと思いまして」


 なんとか話をそらして逃げたい。この赤毛は姫様とか呼ばれてたしスキルがばれたら絶対ろくな事にならない。


「なにいってんのよ、1人でオーガをぶちのめしたくせに。しかも素手で」


 うん、よし、あの馬鹿女後でしばく。っていうかもう魔石やらん!


「といっているが?」


 ここまでか……俺は観念してなるべく嘘を混ぜながら話すことにした。


「はぁ……たしかにオーガの足止めはしました。スキルについてはいえません。そしてここで使って見せろといってもできません」


「なぜいえないんだ?」


「じゃあ一つ聞きます。貴方は戦いにおいて一番重要な物はなんだと思いますか?」


 赤毛は考え込む。


「力や技もそうだがなにより重要なのはどんな相手にも立ち向かう心だ!」


「ずいぶんと真っ直ぐな方ですね。でも俺はそうは思いません」


「ではなんだというのだ?」


「戦いでもなんでも一番重要なのは情報だと思っています」


「情報だと?」


「相手の弱点、癖、使用できるスキルや魔法など事前から分かっていたらどんなに強い相手でも対処できないことはないんですよ。よっぽど反則なスキルでも持ってない限りはね。その情報を無駄に明け渡すなんて自殺行為以外の何者でもないんですよ」


 俺の場合、無敵なスキルに見えるが実際は全然そうではない。まだ検証は必要だが現時点で弱点がいくつもある。俺が自分を相手にしたらまず最初に喉を潰すだろう。後は水中に引きずり込むとか。セットがいえない時点で詰みだからだ。後はカードを持たせないように両手を切り落とす。寝込みを襲う等現状考えられるだけでもいくつもでてくる。情報が漏れると言うことはそれらの弱点が漏れると言うことでもある。自分の命を無駄に縮めるようなことを自殺行為といわずになんというのか。俺はちょっとでも情報漏洩は避けたい。できれば長く生きたいからだ。まぁ生きる目的があるわけでもないんだけど…


「なるほど……たしかにお前の言うことは一理ある。しかしその考え方……お前本当に銅1なのか?」


「依頼を1度しか受けたことのない正真正銘の銅1の新人ですよ」


「そうなのよ! こいつ全然新人らしくないのよ!」


「あなた方ずいぶんと親しそうに話してますが知り合いですか?」


「ん、いや全然。初対面だよ?」


 その図太さにあきれるわ!


「金ランクの方たちですよこちらの方々」


「え?」


 そうしてじっと赤毛達を見回す。


「真っ赤な髪に赤い剣……炎姫!? すすすすみません」


 シェルムは慌てて頭を下げた。


「気にしなくていい。城にいない私はただの一介のハンターだ」


 城とかいってるし……城、姫ときたらもうアレだよなぁ……うん、なるべく関わらないように逃げよう。そして俺はそっとその場を去ろうとした。


「まぁ待て」


 また捕まった。いいかげん逃げたい……


「オーガを倒せるというその強さ。ぜひ見て「いやです」」


 かぶる速度で即答した。


「なぜ「全くこちらにメリットがないからです」」


 全部言う前に答える。


「私に勝「いりません」」


 どうせ勝てたら金をよこすとか城に取り立てるとかだろう。


「なぜそこまで頑なに拒む?」


「むしろそちらがなぜ私にこだわるかがわかりません。銅1ですよ私?」


「ランクなど関係ない。その強さを見てみたいんだ」


「強さとは他人に誇示するものではありませんよ。そんなのは本当の強さではありません」


「では本当の強さとはなんだ?」


「それがわかったら戦ってあげますよ」


 そんなの俺も知らねえよ。強さなんて人それぞれ、立場や考え方で変わるだろ。むううと赤毛は唸っている。せいぜい考え込むがいい。その隙に俺は逃げさせてもらう。赤毛が唸っている間に俺は宿を出た。そのままおっちゃんの家に向かう。


 おっちゃんはなかなか帰ってこなかったがどうやら魔石を渡していたようだった。しまった。やらなくていいっていうの忘れてた。まぁしょうがないか。あいつらがギルドで言いふらさないとも限らないし口止め料は払っといても問題ないだろう。でもなぜだろう。あの口軽女が普通に言いふらしそうな気がするのは……



長いので分けました。仕事が忙しすぎて頭がおかしくなって死ぬ。

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