10:ギルド長
翌朝。日が登り明るくなると俺は朝食の準備を始めた。 鍋に魔道具で水をはり、袋から粉をとりだして入れる。どうやって作ってるのかはしらないがこの世界にもスープの元みたいなものがある。ハンター御用達のアイテムでとりあえずお湯にぶっこんでしまえば簡単なスープのできあがりだ。めんどくさいので具はなにもいれない。これで味の薄いコンソメスープっぽいものが完成だ。おっちゃんを起こし2人で朝食をとる。朝食はこのスープもどきと固めのパンだけだ。
「おまえ手抜きにも程があるだろ……せめて野菜くらい入れろよ」
「俺野菜きらいだし」
「お前の偏食に俺を巻き込むんじゃねえ! だいたい昨日のスープは普通に食ってたじゃねえか」
「他人に用意されたものは食べる。自分で用意までして食べたくはない」
「ほんとにめんどくさいなおまえ!」
そんなこんなで朝食を終え、俺たちは帰路についた。昨日できてしまった道を辿って。
「しっかしこれはギルドでも問題になるかもしれんな」
「なんで?」
「いきなりこんな道ができちまったら何が起こったか普通調査するだろ」
「内緒にしといてよおっちゃん」
「いっても誰が信じるんだよ……魔法一発でできましたって……」
「こんな魔法使える人はいないの?」
「あー1人だけ使えそうなのは、聞いたことがあるけど実際みたことはないな」
「じゃあその人がやったことにしよう!」
「リグザールの人間がいきなりやってきて、隣国の森消し飛ばすとか誰が信じるんだよ」
「あっリグザールの人なんだ?」
「あぁハンター唯一の魔導士の金ランクにして、リグザール唯一の金ランクでもある。あったことはないがまだ20前の女だって話だ」
「へー若いのにすごいんだなぁ」
「俺からすりゃお前の方が遥かに化け物じみてるきがするけどな」
「失礼な! こんな人畜無害の三十路のおっさんを化け物とか!」
「人畜無害なやつは森消し飛ばしたり熊殺したりしねえよ……」
そんなことを話しつつ俺たちは昨日の火の玉でできた道を歩いていった。
「まさか森の外まで繋がってるとはな…ほんとに池のところまで馬車で移動できちまうなこれ」
「便利になったね!」
「森を突き抜けてるならまだしもあんな中途半端な場所までの道、だれが馬車でいくんだよ」
「えっと泳ぎに?」
「王都の近くに川があるのにわざわざ魔物のいる森まで泳ぎにくるやつがいると思うか?」
「いない?」
「いるわけねぇだろが!魚をとる依頼でもないかぎり泳ぐことなんてまずないだろ」
どうやら海水浴とか水で泳いで遊ぶという文化がそのものがないらしい。
「魚とるのにわざわざ泳ぐの?」
「それ以外どうやって魚とるんだ?」
「釣るんだよ」
「釣る?」
「あー釣りっていう文化そのものがないのか。釣りってのは木の棒とかの先端に糸をつけてその糸の先に針と餌をつけて魚を釣り上げるんだ」
「なんだかよくわからんな」
「釣り道具がリュックに入ってたから今度見せてやるよ」
「色々もってきてんだな」
引越しの買出しだったはずなのになぜか特売してたキャンプ用品買って来ちゃったんだよねぇ。特売とか限定とかいう単語の魔性の誘惑度は異常。
「しかし熊を売るにしてもどうやって倒したっていうか」
「おっちゃんが魔法の矢で倒したとか」
「さすがに魔法の矢っていってもそれだけで倒せるやつじゃないからな」
「なんかいい言い訳はないものか……」
「ギルド長のじじいには多少なりともおまえのこと話さざるを得ないかもな」
「信頼できる人なの?」
「あぁ、昔っからの付き合いでな。その辺は信頼できる」
「じゃあどういったスキルかまでは言わないけど俺のなんらかのスキルで倒したってことくらいならいいか」
「まぁ後で色々調べられるかもしれんがな」
「まぁそれはしょうがないね。少なくとも危険かどうかは判断しないとね。組織の長としては」
「ほう、意外と頭は回るんだな」
「意外は余計だ!中間管理職なめんな!」
そのまま半日程歩いて夕方に王都についた。ちなみに王都へ続く街道と削れてできた道はほぼ垂直に交わっているためどこまで削れているのかは確認できなかった。王都到着後、さっそくギルドに報告にいく。
「あっロキさんキッドさんお帰りなさい」
ツインテールの受付嬢が元気に出迎えてくれた。
「これ依頼の品。確認お願いします」
「はい、少々お待ちください」
そういって草を丁寧に確認していく。
「たしかにトリコネ草とリアリク草です。数は両方とも依頼より5本づつ多いので銅貨50枚が報酬に追加されます。よって報酬は銀貨1枚と銅貨50枚になります。ご確認下さい」
貨幣は白金、金、銀、銅とあり価値は銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚の価値らしい。
銅貨1枚で100円くらいか? 物価価値がよくわからないが銀貨5枚あれば一般的な家庭が一ヶ月暮らせるんだとか。まぁ家族構成と暮らし方にもよるだろうが。
「嬢ちゃんじじいいるかい?」
「ギルド長ですか? 奥にいると思いますよ。呼んできますか?」
「頼む」
「わかりました」
そういってツインテールさんは奥へといってしまった。5分ほどしてツインテールさんは戻ってきた。
「ロキさんギルド長がお呼びです。奥の部屋までお越しください」
「わかった」
そういっておっちゃんはツインテールさんについて行った。俺はその場に突っ立ったままだ。奥の扉を開けて2人は行ってしまった。しばらくしたらおっちゃんが戻ってきた。
「おまえも来るんだよ!」
「えー」
「えーじゃない!そもそもおまえがいないと話が始まらないだろうが!」
やっぱりおっちゃんのツッコミはすばらしい。わざとボケてるのにちゃんと真面目に突っ込んでくれる。そうしておっちゃんと2人でギルド奥へ向かっていく。一番奥にある部屋の前でツインテールさんが待っていた。俺達がきたことを確認すると部屋のドアをノックした。コンコン。
そいえば最近になって急にノック2回はトイレとかノックの回数についての知識が広まり出した気がする。実際ノックの回数とかそんな常識とかあるんだろうか。あるならもっと昔から話題になってたと思うんだが。だってノック4回とかノックしてる間に向こうが何かいってくる可能性が高いじゃん! ノック2回の段階でどうぞとかいわれても叩き続けなきゃいけないのか? 相手が返事する前に叩き終わるように高速で叩かないといけないのか? 全くわけがわからないよ!
「入れ」
「失礼します。ギルド長、ロキ様とキッド様をお連れしました」
おっと、急に偉い人に会うことになってちょっと現実逃避をしていたようだ。
「ずいぶんと久しぶりだなロキ。現役復帰したのか?」
「一時的にな。じじいは相変わらず元気そうだな」
「おまえの口の悪さも相変わらずだの」
ギルドのトップに普通にタメ口きいていいのかおっちゃん。
「ところでそっちの坊主はだれだ?」
「あぁ新人のキッドだ。坊主っていうが見た目こんなだけどこいつ30だぜ?」
「30!?」
もうそのやりとりは飽きた。そんなに若く見えるんだろうか。
「はじめまして。キッドです」
「ハンターギルドの長をしているソフォスじゃ」
「で、その新人を連れてきたってことはなんかあるんじゃろ?」
「ああ、実はアルクダを倒してきたんだが目立たないように買取できないか?」
「アルクダ!?たった2人で倒したのか?」
アルクダっていうのはあの熊のことらしい。
「2人っていうかこいつ1人だな」
「なんじゃと!?」
「おいおいおっちゃんがいなきゃ俺も死んでただろ。俺一人じゃ無理だよ」
実際おっちゃんが気を引いてくれなければあの時俺は死んでた可能性が高い。
「でも実際倒したのはお前だろ?」
「闘いってのは止めを刺したやつが偉いんじゃないだろ? 倒したのはあくまで結果であってそれにたどり着くまでの道が1人じゃなければそれは全員の勝利だよ」
「ほう、新人という割りに狩りというものをよくわかっておる……最近それがわからん奴が多くてのう……」
「どうしたんだ!? お前がそんなまともなことをいうなんて……なんか悪いもんでも食ったか?」
「たまにいいこと言ったらこれだよ!」
「所でそのアルクダはどこにあるんじゃ?」
「あーどこか目立たない広い場所はあるか?」
「裏の訓練場なら空いてると思うが」
「誰にも見られないところがいいんだが」
「この時間なら誰もおらんじゃろ。いてもしばらくでていってもらえばええ」
そういって俺達はギルドの裏手にある訓練場へと向かった。訓練場は結構広く木造っぽい人形なんかが置いてある。人は誰もいなかった。
「人を狩るわけじゃないのに人型の人形相手に訓練するのか?」
「盗賊とかを相手にする場合もあるからな」
あーなるほどそういう奴らもいるのか。そういうことも想定して覚悟を決めておかないとな…人をためらわずに殺す覚悟を……
「じゃこのへんでいいかな。ナンバー98セット!」
すると黒い穴が現れる。どうやって取り出すかわからなかったのでとりあえず熊と念じてみる。すると光が集まって巨大な熊が現れた。ズズン。
「な、なんじゃ今のは!?」
「詳しいことは内緒ですが私のスキルです」
ギルド長はあまりのことに目を丸くしている。
「ま、まぁええわい。深くは追求しないでおこう。しかしこのアルクダは一体どうやって倒したんじゃ? 心臓を捌いた後しかな…む、わし、目がおかしくなったようじゃ。腕が4本に見えるんじゃが……」
「ああ、4本腕だ」
「!?」
ギルド長は絶句しているようだ。
「新人が4本腕を倒したじゃと……」
「私が倒したことは内緒にしておいてほしいんですが」
「なぜじゃ?」
「こういうのは目立ってもろくなことがないからですよ」
「ハンターにしては珍しく謙虚じゃのう。最近は虚栄心にはやるやつばかりじゃというのに……わかった。この件については内密にしておこう」
「ありがとうございます」
「しかしこれを買い取るのはかまわんのじゃが物が物だけにすぐには無理じゃ。明日の昼にでもまた来てくれ」
「わかりました」
「おっとそういえば魔石だけ取り出してたんだ。いっしょに渡しておくぜ」
そういっておっちゃんは鞄から赤い大きな魔石を取り出した。
「おお、こんなに大きくて質のいい魔石は久しぶりじゃ。わかったこれも預かっておこう」
そうして俺達はギルドを後にした。宿について1日ぶりのベッドでやっと安心して寝ることができた。
しかし枕がなくて寝つきが非常に悪かったのは相変わらずだった。