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竜王様は(元)嫁をなにがなんでも手放さない 作者:沙布らぶ
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3.生徒会長時々王子

「リコル・プラウルティです」
「プラウルティ?」

 リコルの方に視線を向けていた二人の青年が、ほとんど同時に声を上げた。

「元四貴家筆頭……祭司のプラウルティか」
「は、はい……。そうやって呼ばれてたのは、もうずっと前のことですけど」

 紅い制服の青年が、わずかに眉を上げた。
 確かに、リコルの実家であるプラウルティ家は、かつて権勢を誇っていた。王の傍らで祭司を司ってきたプラウルティ家は、マルディグランツ王国の中でももっとも古い歴史を持つ家の一つだ。

「となれば、アレイストにも因縁浅からぬというわけか」
「因縁じゃないでしょ、イクセル」

 黒い制服の青年が、そう言ってうっすらと笑みを浮かべた、恐らく、彼がアレイストという名前なのだろう。

「リコルちゃんだっけ? まずはマーティシア魔術学院へようこそ」

 優しげな微笑みを浮かべたまま、彼はゆっくりと左手を前に出した。
 柔らかな琴の音を思わせるその声に、周囲にいた女生徒たちがうっとりとした息を吐く。

「アレイスト・マルディグランツ。等級は一等生で、ここの生徒会長をやってる。君たちより三年ほど先輩になるから、なにかあったら是非頼ってほしいな」
「マルディグランツ……?」

 その名前に、リコルは大きく目を見開いた。国と同じ名を名乗ることができる人間は限られている。マルディグランツというその名と、柔らかな金髪には覚えがあった。この国の国王であるオズウェル・マルディグランツと同じ――アレイストは、その弟だった。

「お、王子殿下……? しかもアレイスト様って、だ、第3王子の」

 それは、二人の兄を置いて最も美しいと呼ばれている少年王族の名前でもあった。いくら没落貴族といえど、兄が出仕している以上その名を聞かなかったことはない。

「なんだ、貴様王族か」
「いかにも。この学院を卒業するまではという期限付きではあるけれどね」

 ジオリスの不遜な物言いにも怒ることはなく、アレイストは朗らかな笑顔を浮かべたままだった。リコルはおずおずとその手を握り返したものの、背中に流れる冷や汗を止められないまま必死に口を動かす。

「失礼いたしました! アレイスト第3王子とはつゆ知らず……その、ろくなご挨拶もせずに……」
「いやいや、気にしないでくれよ! 名乗らなかった僕も悪いし、それに君は――ちょっと特殊な事情があるようだ。まずはここを離れよう。イクセルも人混みが苦手だし」

 ちらりと背後を振り返ったアレイストは、相変わらずゲホゲホと咳き込んでいるイクセルに目配せをした。それからリコルの後ろに控えているジオリスを見つめて、こてんと首を傾げる。

「学生棟なら今は人もいない。ひとまずそこに向かおうか、リコルと……えぇとあなたは」
「ジオリスだ。というか貴様、いつまでリコルの手を握っているつもりだ!」
「お、っと」

 ジオリスはそう言うと、リコルの手を掴んでアレイストから引きはがした。その反動でアレイストがわずかに体勢を崩したが、傲岸不遜な自称リコルの夫はそれに対して目もくれない。

「ちょっと、なにするの!」
「そこの王族が、不躾にも人の妻の手をいつまでも握っているからだ」

 むっとした表情でアレイストを睨みつけるジオリスだったが、当のアレイスト本人はジオリスに対しても優しげな微笑みを向けるだけだった。
 そっとリコルの手を離すと、投降するように両手を顔の前に上げる。

「それは申し訳ない。リコルがあなたの奥さんだなんて知らなかったんだ。許してくれないか、ジオリス」

 そもそも自分がジオリスの妻あると認めたことはない。否定しようにも、誰もリコルの話を聞いてはいないのだ。
 そう思うと妙な脱力感が蘇ってきて、リコルはふらりと体を傾けた。

「リコルッ」
「う……なんか、一気に疲れが……」
「疲れ、だと? さ、寒くはないか。鼓動が弱まってはいないな? 吐き気や頭痛は?」
「な、い……です。ていうか近い……」

 妙に慌てたジオリスが、リコルの体を抱え上げた。言われてみれば少し寒いような気もするが、それ以前に距離が近い。兄以外の異性との交流なんてまずなかったリコルは、全力で顔を背けようとした。
 インクの香りがする兄とは違って、ジオリスはどこか甘いような香りさえする。

「な、なに――」

 ジオリスの腕の中で体を縮ませたリコルに向かって、イクセルが溜息を吐いた。

「ヒト型の召喚獣を喚び出したんだ。体に負荷がかかるのは当たり前だろう。さっさと学生棟に向かうぞ。――悪いな、アレイスト。オレもあまりここには長居したくはない」
「部屋に戻るかい?」
「すまない、そうさせてもらう。新入生……先に自己紹介だけ済ませておく。イクセル・クリンゲンバリ。一等生で、生徒会副会長と紅のクラスの寮長を兼任している。機会があれば、また後日」

 あまり顔色の良くない彼は、何度か咳き込むと先に後者と思われる建物の方へと向かっていた。

「やっぱり、あなたって私が喚び出したの?」
「そうだと最初から言っているだろう。俺はお前の呼び声に応えたんだからな」
「でも……」

 信じられないというのが、リコルの本音だ。
 ヒト型の召喚獣を喚び出すには、莫大な魔力を必要とする。人間と意思の疎通を図ることができるほどの知能を持つ者となればなおさらだ。必然的に、そういったものを喚び出すことができる人間は魔力係数が高い者に限られる。

「信じられないのも無理はないけれどね。まあ、話は学生棟についてからにしよう。ハイネ、そこにいるかい?」
「はい、アレイスト様」

 コポ……と水音が聞こえたのは、アレイストが誰もいない空中に話しかけたときだった。ちょうど彼が見つめていた場所に、どこからか湧き出た水泡が人の形を作っていく。
 泡が形取ったのは、背の高い女性の姿だった。禁欲的な秘書官を彷彿とさせる、硬い面持ちの女性がそこに立っている。

「イクセルと僕の話は聞いていたね? 彼女たちを学生棟に連れていきたいから、先生たちには話をつけてきてくれないか。あと、二等生用のバッヂを一つと……そうだな、蒼のクラスに部屋を用意しておいてくれ」
「かしこまりました、アレイスト様」

 深く頭を下げたハイネは、リコルとジオリスの方を振り向いて今一度頭を下げた。

「まさかあなた様にお目にかかれるとは、思いもよりませんでした。西海竜王――まさしく噂の通り、勇壮なお姿でいらっしゃる」
「噂ということは、貴様は西海領の者ではないということだな? ならば臣の礼は取らずともいい。今の貴様の主はその優男だろう」

 リコルを抱え治したジオリスは、浅く息を吐くとひらりと手を振った。ハイネもそれを見てから姿を消すが、残ったリコルには今しがた彼女が言った言葉が妙に引っかかる。

「さいかい……?」
「西海竜王。我が世界では俺をそう呼ぶ者もいる。あくまでこの国の王族どもと同じ、立ち位置を刺すだけの話だ。今は――俺はお前だけの (しもべ)だしな」

 それは先ほど、ジオリスが自ら名乗った肩書きでもあった。その名にどれほどの価値が会るのかはリコルにも分からないところだが、最上級の一等生であるアレイストが使役している以上、ハイネは高位の召喚獣なのだろう。

(でも、今の彼女の喋り方……)

 あるいは、その慇懃な口調はアレイストの召喚獣の性格的な者だったのかもしれない。ともあれ、三人は学園棟へと向かう。

 学園の中央にある学生棟――実験棟や職員棟など、多くの建物外並ぶ学園都市においてももっとも大きな建物だ。主に学生寮や日常的な生活を行うための場所という側面もあり、談話室の他にも簡単な調理室や遊戯台など、学業以外の趣味を楽しむ場所でもある。

「生徒会室は学生棟の最上階でね、そこに行くまでに学生寮がある。主に学年で分けてあるのと……そうだな、ここには紅のクラスと蒼のクラスという二つの寮があるんだ」
「紅と蒼、ですか?」
「そう。さっき会ったイクセルが言ってた通り、彼は紅のクラスの寮長だ。それで僕は蒼のクラスの寮長。君は蒼のクラスになるだろうが……まあ、その説明も追々ね」

 そう言うと、アレイストは適当な壁をこつこつと指で叩いた。一見してなにない場所を叩いているようだが、しばらくするとその壁がぽっかりと口を開ける。

「あ、穴!?」
「違うぞリコル、これは昇降機だ……随分古いものだな」
「貯蔵した魔力を流して動かすんだ。だから多少形が古くても、まあなんとかなってるかな? 魔力が足りなくなったら先生たちが補充してくれるんだけど、結構忘れられてることがあるから注意して」

 仕組みとしては、鉄の箱の中にいくつか魔力を流すための装置が埋め込まれているらしい。そこに任意的に魔力を流すが、その方向によって昇るか降りるかを決めるのだとという
 そんな魔力の応用方法があることすら知らなかったリコルは、相変わらず自分を抱えたまま興味深げに昇降機を確認するジオリスを見て溜息を吐いた。
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