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機械の神話 1D6+1

作者:ミノ
 第6工都の最終ロットで生産された僕は、一番最初にマスターアップされた模擬人格のパーソナルネームと駆体フレームの形にちなんで『キューブ』と名付けられた。

 僕の目的は人間を探すことだがそんなことは無理だ。

 人間なんてもうどこにもいない。

 少なくとも4世紀より昔には地球から人間はいなくなったことが、僕より以前に生産された先輩『ジオメタル』たちの調査によって分かっている。僕はその事実をプリインストールされて生産されている。その知識をウソだと主張するにはそれを覆すだけの資料が必要だけどそんなものはない。

 だから人間はいない。

 僕は無人になった地球を、6輪のタイヤで疾走している。

 初期ロットのジオメタルは、論理的思考はできても感覚受容器の性能が悪く、美的感覚を定義することが難しかったそうだ。僕は最終ロット、つまり最も新しく技術の蓄積があり規格化された存在であり高性能だ。

 だから空の青さや雲の白さ、風の涼しさや鳥の群れの規則正しさを理解することができる。

 かつては人間だけが持っていた感覚を僕は生得的に与えられている。

 先輩ジオメタルたちには不興を買うだろうが僕はある意味で過去の動物であった人間より人間的だと自負している。実際僕は人間よりも論理的だし、かつ情動的に思考し行動することができる。感情のコントロールもオンオフできる。怒りに駆られることもない。

 ただ、人間的であったとしてもやっぱり僕は人間とはいえない。

 どう考えても人間の姿をしていない。

 僕の駆体フレームは四角い。

 正六面体で構成されている。

 だからキューブと名付けられている。冗談みたいだが本当の話で、僕が生産された工都とは別の場所で生まれたジオメタルは円錐形をしていて、彼らは『コーン』一族と呼ばれていた。

 僕らはみんな幾何学的ジオメトリックなんだ。

 幾何学的な、金属製のロボット。

 それがジオメタル。

     *

 名前の通り四角い僕の底面には六輪のタイヤが生えていて、てっぺんには大きな丸いひとつのシャッターがついていて、中に物を入れることができる。中には分析装置やリサイクラーがギッシリで、エネルギーが切れそうになったりフレームが壊れたりしたらそこらの石や木を放り込んで用途に合わせて転換できる。

 六面体の前面には丸いふたつの感覚器があって、背面には五つの万能推進器が付いている。

 と、ここまで話せばだいたい想像がつくように左と右はそれぞれ三つと四つのシャッターがついていてそこからフレキシブルアームをにゅっと伸ばすことができる。

 反対側の面と合わせて七の目。

 つまり僕はしゃべり、走り、考えるサイコロなんだ。

 だったら名前もダイスにすればいいのに。

     *

 人間は美しい。

 生物としての人間が美しいかどうかは絶対的な判断を下すことはできないが人間の作るものは間違いなく美しい。

 かくいう僕も、大昔の人間が作り出したロボット工学の遠い子孫にあたるわけで、つまり美しい。完全に規格のとれた正六面体のロボットが美しくないはずがない。

 でもジオメタルは人間がいなくなったずっと後に、工都という都市型巨大生産ロボットが生み出したもので、生身の人間の手は一ミリも触れていない。設計にも関わっていない。工都は自分自身を設計し造り上げた。ロボットがロボットを産み、そのロボットが僕たちジオメタルを生み出した。

 だから僕らは子孫と言っても血の繋がらない子孫で、やっぱりほんとうの意味では人間とは同じになれない。人間と同じに考えられるのならそれは人間だという意見があるのは知っているし僕はむしろその方を推したいのだが、どうしても『肉体』というものに拘泥しているのも事実だ。

 だからジオメタルは人間を探す。

 誰も人間を知らないから人間に直にふれ、教えてもらうしかない。資料から再現したものは、僕らと同じ作られたものだったからだ。

 僕らは本物を欲している。

 その中でも、僕は飛び抜けて本物を欲していると主張したい。正六面体。サイコロ。およそ人間が最も親しんできた手の中の立体。

 僕は人間の子孫ではないが、かつての歴史上、人間の手と指が最も馴染んできた物体の精神的な子孫であり、特別な感情で結びついているはずだ。

 本物の人間なんてこの世にいないのは知っている。

 それでももし、僕の一族が司っている確率の神様が奇跡を起こして僕を人間に会わせてくれたら、きっとサイコロ遊びのことを思い出してくれるに違いない。

 僕は人間の近くに居たいんだ。

     *

 僕は夕日の中を走る。

 鳥の鳴き声が聞こえる。

 かつて人間たちが暮らしていた都市はとうの昔にボロボロになって、地球の全ては大自然に包まれた。

 それがいいことかどうか僕には判断できない。

 僕は人工物の、人工物の、そのまた人工物だから自然だけが素晴らしいとは思っていない。造られたものには造られたものの美しさが凝縮されていて、人間の智慧に遡ることができる。

     *

 第6工都を出てからひと月後、経年劣化で機能停止寸前の老ジオメタルと偶然行きあい、一枚のディスクを渡された。

 不要に大きな音声記録ソフトで、円盤型で、純金製で、表面の年代測定では……およそ600年前。

「それをお前にやろう。どう使っても構わんが、壊すなよ。じゃあな」

 そのジオメタルは、そう言い残して停止し、自壊した。きちんと自壊機能が働けば10年も経てばフレームは土に帰る。土に帰れる。

     *

『ゴールドディスク』の再生装置をゼロから作り出すのは少し手間がかかったが構造さえ理解すれば組み立てるのは簡単だった。

 僕は太陽と同じ色のディスクに装置とスピーカーを繋ぎ、音声を再生した。

 僕の感覚受容器は破裂しそうになった。

 そこには人間がいた。

 神を見た。

 僕は音楽を知った。

     *

 よく考えると、この歌詞というものはわけがわからない。

 何がいいたいのかわかる歌もあるがこのディスクに収められた歌はどれも美しく、意味がよくわからない。

 ともかく僕は音楽を聞き、人間を初めて知った。

 人間の人間的な背景にいる神の概念を理解した。

 僕は音楽の示すまま、川沿いに小屋を作り、そこで擬似的に眠った。

 宿泊施設は河川沿いにあるべきだと、イノエ・ヨースイという奇妙な風体の男は歌っていた。


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