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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第二十一話

ガリシア平原上空

インペリウム教皇国軍 第一翼竜騎兵団



 太陽が地平線から姿を現し、東の空が徐々に明るくなっている中で、インペリウム教皇国遠征軍陣地の上空に数十騎の翼竜が編隊を組んで飛行していた。


「はぁ、朝っぱらからの警戒飛行とはついてないよな……」


 ガリシア平原で敵の陣地と対峙している味方陣地の上空を敵翼竜騎兵から守るために後方陣地から出撃した第一翼竜騎兵団所属のレオン・ザール翼竜騎士は、一個翼竜騎兵団二十四騎の翼竜騎兵を見ながら早朝からの陣地警戒任務に選ばれた事に不満を漏らしていた。


「おいレオン、そんな不満を漏らすな。兵団長に聞かれたら交代後の自由時間まで無くなっちまうぞ」


 そんな彼の呟きを隣で聞いていた同期のユリウス・ディールスが、呆れた表情でレオンに声を掛けた。


「知るかよ。大体、こっちに来てもう一週間になるが、敵の翼竜騎兵を見た事が無い。敵に翼竜騎兵がいない証拠じゃないか」

「確かにそうだな。これなら、俺達が敵陣地に強襲を仕掛けた方が早く終わる気がするな」

「おい、そこの二人!軽口を言う暇があったら警戒しろ!」


 軽口を叩いている二人は、彼らの上官である竜兵長の叱責を受けて基本装備である四メートルある竜槍を構え直すと、周囲に視線を巡らせた。


「今のところ異常な―――っ!?竜兵長、東方上空!敵発見!」

「やっと、敵のお出ましか!伝令、直ぐに屯所に戻り敵襲来を伝えろ!敵発見のラッパを吹け!」


 東の方向から近づく敵の姿を捉えたレオンの言葉によって、竜兵長が素早く指示を出し、先頭を飛んでいる兵団長の編隊にラッパを吹き、敵が近づいている事を知らせると、兵団の士気を上げるために兵団旗を掲げた兵団長直属の編隊が前に躍り出た。


「第一翼竜騎兵団、我に続け!」

「敵に我が翼竜騎兵団の精強さを思い知らせてや―――」


 味方を鼓舞しながら編隊の先頭を飛ぶ兵団長に従いながら敵に近づくにつれて、シミのようだった敵の翼竜の姿が次第にはっきりとしてきたと思ったら、敵の翼竜から数本の噴煙を吐く何かが撃ち出され、警告の声を発する間もなく兵団長を含む先頭集団付近で一斉に爆発した。


「兵団長!?」


 爆発した方向に目を向けると、先頭を飛んでいた兵団長を含む三騎の翼竜騎兵が翼竜もろとも全身を引き千切られて地面へと堕ちていった。


「全員、散開しろ!密集していたら同じ様に殺られるぞ!散開だ!散開しろ!」


 兵団長を含めた第一翼竜騎兵団の幕僚が戦死するというこれまで一度も無かった状況に混乱する兵士達だったが、立ち直りが早かったレオンの上官である竜兵長が編隊を解くように命令し、混乱しながらも落ち着きを取り戻した各編隊は竜兵長の命令通り散開して敵の翼竜に向かった。


「畜生、あの攻撃は何だ!?」

「俺が知るかよ!それよりも、あの翼竜の騎手に竜槍を突き立てる事だけを考えろ!」


 混乱しながらも竜槍をしっかりと構えて敵に突撃する生き残った翼竜騎兵達だったが、彼らが考えていたよりも速く、あっという間に彼らの視界から消え去り、自分達の後ろに回られると光り輝く雨が翼竜に降り注ぎ、騎乗する翼竜騎兵だけではなく硬い鱗を持つ翼竜の体も引き裂いて地上へと堕とされ、第一翼竜騎兵団は敵に打撃を加える事無く全滅した。




蒼龍国空軍 第五〇三飛行隊



「全機、損害は無いか?各小隊長は報告せよ」

『こちら第二小隊、全機損害なし』

『第三小隊も損害なし』

『同じく第四小隊も損害なし』


 敵陣地上空を飛行していた翼竜騎兵との空中戦を終えたF-15Cを擁する第五〇三飛行隊の隊長、長嶋宗谷三佐が無線で各機の状況を確認すると、各小隊長から損害なしとの報告が入り、長嶋は胸を撫で下ろした。


「残弾の状況はどうか……?」

『対空誘導弾に余裕はありますが、機銃弾が心許無いです』

『第三小隊も同じくです』

『第四小隊も同様です』


 各小隊長からの報告を受け、長嶋自身も自分の搭乗する機体の残弾を確認すると、機銃弾の残弾数が心許無いものになっていた。


「確かに、機銃弾が心許無いな……」

『第五〇三飛行隊に通達。敵陣地上空の敵機は一掃された。後五分で第二〇一制空飛行隊が上空に到着する。それまで、現空域を確保せよ。両飛空隊が到着した後は、基地に戻り弾薬を補給せよ』

「了解。五分間、現空域の警戒飛行を行う。全機、聞いたな?飛行隊が到着するまで警戒を厳とせよ」

『第二小隊了解』

『第三小隊了解』

『第四小隊了解』


 基地からの通信を終えた第五〇三飛行隊は、F-22を擁する第二〇一飛行隊が到着するまで警戒飛行を行い、第二〇一飛行隊が到着すると警戒飛行を第二〇一飛行隊に任せ、弾薬を補給するためにダルティア基地へと向かった。




 夜が明け始めた薄暮に覆われた空を、OH-1の三機編隊を先頭にしてAH-64D、UH-60Aの大集団がインペリウム教皇国軍陣地を目指して飛行していた。


「黒崎一佐、目標空域到着まであと五分です!」

「目標空域の状況は?」

「空軍の第二〇一飛行隊が制空権を確保しています」


 指揮官機仕様になっているUH-60Aに搭乗している黒崎は、彼女の副官である藤堂朱里二等陸佐から詳しい情報の報告に頷いた。


「我々は攻撃目標を神の使いし軍団、敵宿舎、対空兵器と魔道兵器待機所に絞り、敵に対して波状攻撃を仕掛けます」

「各ヘリとの連携は密にするようにと伝えなさい。後は二佐に任せるわ。さぁ、パーティーの始まりよ。太陽を背に突撃、音楽を鳴らしなさい!」

「はっ!」


 藤堂二佐から攻撃の詳細を受けた黒崎は頷いてそう告げると、藤堂は短く返事を返してボリュームが最大に設定されたコンポのスイッチを入れると、管弦の音色が辺り一帯に響き始めるのと同時に、眼下に見えてきていた敵陣地から一斉に黒煙が上がった。それは、作戦通り味方陣地の砲兵部隊から一斉射撃が開始された事を示していた。


「砲兵の攻撃も始まったわね……ワルキューレリーダーから全機、突撃せよ!」


 黒崎の命令によって、OH-1の後方を飛んでいたAH-64Dアパッチ・ロングボウが一斉にロケット弾を発射すると、それに続いて多くのUH-60A三機編隊が敵陣地の中でも敵兵士達が多くいると考えられる宿舎に銃撃を行い、最後に手榴弾を投げ落として通り過ぎる。


「ワルキューレリーダーからアパッチ1、2、3敵対空兵器の掃討へと向かえ。効果は少ないと思うが、絶対に撃たせるな」

『アパッチ1了解』

『アパッチ2了解』

『アパッチ3了解』


 藤堂の命令を受けて、宿舎に対して三十ミリチェーンガンで銃撃を加えていた三機のAH-64Dがその場を離れると、敵の翼竜騎兵用に設置されていた対空用バリスタや神の使いし軍団が設置した対空機銃をロケット弾によって吹き飛ばし始めた。


「敵に反撃の隙を与えるな。一方的に蹂躙せよ!」


 蒼龍国軍陣地から撃ち込まれる榴弾砲の雨と第一空中戦闘団電撃的な強襲によって、インペリウム教皇国軍の指揮系統は完全に混乱しており、そんな右往左往している敵兵士に対して銃撃を加える。中には気丈な兵士が弓を引いて矢を射かけるが、届かずに落ちるか、届いたとしても威力の無いものだった。


『こちらアパッチ4、魔道兵器パイロットと思われる集団を攻撃中。増援を送られたし』

「スワロー5、6、7はアパッチ4の増援に向かえ。敵を魔道兵器に絶対に近づけさせるな」

「アパッチ1、そちらの情報を送れ」

『こちらアパッチ1、敵の対空兵器と思しき兵器はあらかた撃破しました。これより、敵兵の掃討へと移行します』

『バトラー1よりアパッチ8、9、南側に敵砲台と火薬庫と思しき施設を確認。これを攻撃せよ」

『アパッチ8了解』

『アパッチ9了解』


 第一空中戦闘団による強襲が開始されてから三十分が経過しようとしていたが、インペリウム教皇国遠征軍の陣地は至る所が黒煙に包まれ、テントの間や各陣地にはUH-60AやAH-64Dによる銃撃を受けた兵士達の死体が無数に転がっていた。




インペリウム教皇国遠征軍



「た、助けてくれ!死にたくない!」

「も、もう駄目だ!」

「逃げるな!態勢を立て直して戦え!バリスタ兵はあの飛び回っている鉄のトンボを狙え!伝令、神の使いし軍団に増援を送ってもらうように伝えに行け!」


 電撃的な強襲を受けたインペリウム教皇国遠征軍では、テントで就寝していた将軍の大半が敵の攻撃によって戦死してしまい、さらに空飛ぶ箱から流れる荘厳な音楽によって指揮官を失った各軍団の兵士達はあちらこちらで恐慌状態となり逃げる兵士達が続出していたが、生き残った将軍達が必死でこの状況を打開しようと策を巡らせていた。


「報告します!陣地に配置されていたバリスタの全てが鉄のトンボによって破壊されています!」

「報告!神の使いし軍団も同じ様に攻撃を受けており、増援は不可能とのこと!」

「くっそ!魔道兵器はどうなっている!?搭乗兵はまだ起動できないのか!?」

「魔道兵器に向かった搭乗兵は全員が移動途中に攻撃され、全滅しました。魔道兵器を動かす事は不可能です……」

「威張り散らしていた司教将校共も昨日のうちに後方へ帰りやがったからな…どうにかして立て直さなければ……」


 生き残った将軍達はどうにかして戦況を立て直そうとするが、敵はこちらの布陣を知っているかのように的確に攻撃によって指揮系統が破壊されていくので、思うように兵士達の態勢を立て直す事が出来ず、一方的な出血を強いられていた。


「神の使いし軍団の戦況はどうだ?」

「駄目です。あちらも寝込みを襲われる形になってしまったようで、指揮系統の復旧に時間が掛かっております」

「そうか……伝令を出した翼竜騎兵団はどうした?翼竜さへ来てくれれば、この一方的な戦況を覆せるかもしれん」


 空を我が物顔で縦横無尽に飛んでいる敵の空飛ぶ箱や鉄トンボを忌々し気に睨みながら将軍の一人がそう呟いたとき、腹の底から突き上げる思い地響きにも似た爆発音が周囲に轟いた。


「な、何事だ!?」

「何が起こった!?」

「しょ、将軍、あれを!」


 突然起こった爆発音に混乱する将軍達だったが、一人の副官が指差す方向を見れば、自分達のいる陣地よりも後方で黒煙が上がっているのが見えた。


「あの方向……もしや、翼竜騎兵団陣地がやられたのか!?」


 一人の将軍が言った通り、翼竜騎兵団陣地はダルティア基地を発進した第一混成飛行隊によるJDAMを装着したMk.83の爆撃によって兵舎や竜舎が吹き飛ばされ、基地にいた翼竜騎兵団は全滅した。


「報告します!敵陣地から大軍が出現!こちらへの進撃を開始しています!」

「防御陣形の構築を急がせろ!生き残っているバリスタや使える兵器は何でも持ってこい!」


 将軍の言葉を受け慌ただしく戦闘準備を整える兵士達を尻目に、敵陣地から将軍達は近づく敵の軍団をじっと見つめ、厳しい戦いになる事を感じていた。


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