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蒼龍国奮戦記  作者: こうすけ
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第二十話

ガリシア平原

蒼龍国派遣軍前線陣地 野戦司令部



 インペリウム教皇国軍の夜襲を撃退してから一週間、インペリウム教皇国軍からの攻撃は行われていなかった。夜襲された翌朝からUAVや偵察衛星を使用して敵の損害を計測した結果、投入した十二個軍団うち少なくとも五個軍団以上の兵士が戦死し、神の使いし軍団も二個歩兵師団と一個機甲師団規模の兵士が戦死したものと考えられていた。


「―――全員、総帥からの命令書が送られて来た。内容は言わずとも分かるだろうが、遂に我々は攻勢を開始する」


 真田から告げられたこの言葉に、野戦司令部に集められた各師団の師団長達は待ちに待った命令に色めき立つが、冷静に真田の次の言葉を待つ。


「―――しかし、命令書と同封して送られた執行部からの報告書によると、敵もこの一週間の間に増援が到着したとの事だ」

「……増援の規模を聞いてもよろしいでしょうか?」


 真田の言葉に第二擲弾兵師団師団長、松沢安成少将が手を上げて発言すると、真田もその言葉に頷き、全員に数枚綴りのプリントを配布した。


「敵の増援は八個軍団相当のだと思われる。また、これの他に敵側に魔道兵器と呼ばれている人型兵器が五十体と敵の航空戦力である翼竜騎兵が元々いた数と合わせておよそ五百騎が確認されている」

「神の使いし軍団と呼ばれている部隊の増援は……?」

「執行部の報告によれば、神の使いし軍団は確認されていない。しかし、一週間前の夜襲で敵も被害を受けていると言っても、未だその戦力は存在している。各師団は警戒を怠る事無く今回の侵攻作戦を完遂してもらいたい」


 一通り真田がそう言って各師団長の顔を見渡すと、各師団長も油断する事無く真剣な顔で真田の言葉に頷いた。


「―――では、今回の作戦計画について説明を開始する。作戦開始は〇四三〇。日の出と同時に開始する。敵への攻撃は、砲兵部隊による砲撃と、増援として派遣された第一空中戦闘団による空襲で開始される」


 この説明に各師団長の視線は、野戦司令部の後ろで作戦の説明を聞いていた肩に一佐の階級章を付け、妖艶な雰囲気を身に纏う一人の女性―――第一空中戦闘団団長、黒崎真琴一佐に集中した。


「黒崎一佐、空襲の用意はどうなっているかしら……?」

「ご安心下さい、真田大将。しっかりと大音量スピーカーとコンポとワーグナーのCDを用意して待機させています」

「そこは完璧ね……じゃあ、一番大事な事を聞くとしましょう…楽団はどこかしら?」

「もちろん、ワルシャワ・フィルです」

「パーフェクトよ。黒崎一佐」


 自分の求めていた通りの答えを言った黒崎に真田は笑みを浮かべ、黒崎も自分の答えが真田を満足させた事に真田に対して妖艶な笑みを浮かべ、そのやり取りを聞いていた各師団長達も笑みを浮かべた。


「―――話が横道に逸れてしまったわね。敵陣地への砲撃と空襲を行うと同時に、敵陣地から五キロ離れた地点に存在している敵の防空拠点である翼竜騎兵駐屯所に、ダルティア基地から派遣される第一混成飛行隊が精密爆撃を行い、制空権を確保する。我々は砲撃の終了を待って、敵陣地への進攻を開始する」


 真田の説明と同時進行で、広瀬が作戦台に置かれている各師団を示す番号と記号が書かれている駒を動かしていく。


「―――侵攻に呼応して、第二空中戦闘団が敵陣地後方に存在している砦に強襲を行う。これによって、敵は退路を断たれた形になる。なお、この砦は我々の新たな拠点になる予定だ。以上が作戦の概要となるが、何か質問がある者はいるか?」


 真田がそう言って各師団長を見回すと、第六装甲擲弾兵師団師団長、山瀬正義少将が手を上げて発言の許可を求めた。


「敵の捕虜に対する扱いを伺いたい……」

「敵の捕虜に関しては今まで通りに扱う。降伏する者は丁重に扱い、刃向う者には容赦はするな」

「了解しました」

「他に質問はあるか?……無いなら、これで終了とする。以上、解散!」


 会議を解散し、師団長達も副官と共に野戦司令部を後にした事で広くなった野戦司令部に残った真田は、一言も喋る事無く作戦台を見つめていた。


「何か心配事でも……?」


 一言も発さず、ただ作戦台に視線を落としている真田に対して傍らに控えていた広瀬は声を掛けた。


「えっ?あぁ…敵に新たに配備された魔道兵器が気になっていただけよ。執行部によれば、魔道兵器が保有する砲の破壊力は私達の戦車砲と同等かもしれないと報告が上がってきていたから、ね」

「確かに…現在の敵軍が保有している兵器で我が軍の戦車の装甲を貫通する事は不可能ですが、魔道兵器なら戦車は無理でも装甲車程度の装甲なら……」

「まぁ、そのために総帥に具申して、第一、第二空中戦闘団をここに派遣してもらったのだから、我々も総帥のご期待に応えなくてはならないわ」

「ですね…この攻勢、絶対に成功させましょう」


 真田の言葉に広瀬も頷き、再び作戦計画書を見直してから、明日の作戦が無事に成功する事を願った。




インペリウム教皇国 首都:ワグルード

教皇庁 教皇室


「まだガリシア平原を占領出来ないのか!?」


 執務を行う教皇室で、インペリウム教皇国教皇、レオナルト・ディ・ゼーヴァルト三世は報告に来た将軍の一人に怒号を飛ばした。


「は、はっ。予想以上に敵軍の防衛線が強固に構築されており、防衛線を突破するのに時間が掛かっているようでして……」

「その事は貴様からもう何十回も報告を受けておる!あれだけの大軍を動員しておりながら敵の防衛線の一個も突破する事が出来ぬとは、一体どういう事だ!?」

「そ、それが、防衛線を構築しているのはアクリシア王国軍ではなく、ソウリュウ国軍だという報告が入ってきております……」


 レオナルトの怒号に首をすくめながら報告する将軍に対して、レオナルトは将軍が告げた一度だけ聞いた事のある国名に興味を示した。


「ソウリュウ国……確か、諜報部が報告した新興国だったか?」

「その通りです。現在の防衛線はソウリュウ国軍が展開しており、敵の兵器に我が軍の将兵は苦戦しているようです」

「そうか…ならば、ガリシア平原にアクリシア王国軍はいないのか?」

「はい。どうやら、ソウリュウ国の国王がアクリシア王国女王に交渉して兵を撤退させたと報告が入ってきております」

「成程……よし、諜報部に言って密偵をアクリシア王国軍に潜入させよ」

「アクリシア王国軍に、ですか……?」


 レオナルトから受けた命令の意味を理解出来なかった将軍は、疑問が混じった声でレオナルトに返事した。


「そうだ。ソウリュウ国軍が全面で戦っている事に不満を感じている将兵が少なからずいるはずだ。そんな将兵の心の隙に付け込むのだ」

「教皇様のお考えには感服いたしました。早速、諜報部と協力して密偵を派遣いたします」

「うむ。吉報を待っておるぞ」

「はっ」

「ソウリュウ国を滅ぼし、奴等が使っている兵器を手に入れられれば、世界統一はさらに早まる……」



 将軍の言葉に満足そうに頷いたレオナルトは、自分に対して一礼する将軍を見送ると壁に掛けている勢力図が書かれている地図を見て獰猛な笑みを浮かべた。




蒼龍国 首都:蒼龍府

蒼龍国軍統合本部 総帥執務室



「―――以上が、ガリシア平原における反攻作戦になります」

「そうか。報告ご苦労」


 蒼龍国本土にある執務室の椅子に座りながら、刹那から手渡されたガリシア平原における反攻作戦の報告書に目を通し、刹那の説明を聞いた祐樹は、目を通していた報告書を机の上に置いた。


「真田からの意見具申で派遣した第一、第二空中戦闘団が存分に力を振るって役に立ってくれればいいが……」

「第一、第二空中戦闘団は虎の子の精鋭部隊ですから、必ずマスターのご期待に応える働きをしてくれるでしょう」

「そうだな。それよりも、アクリシア王国首都の状況はどうなっている?」


 反攻作戦について一通りの事を話し合った祐樹は、刹那に蒼龍国軍が撤退した後のアクリシア王国首都の状況について尋ねた。


「はっ。現在、アクリシア王国首都エレスティアには、治安維持を請け負っていた陸軍と入れ替わりで憲兵隊がアクリシア王国の治安組織や近衛騎士団と協力して治安維持を行っています」

「万が一、再びクーデターや襲撃でエレスティアが攻撃された場合の計画は?」

「エレスティアで緊急事態が発生した場合は、直ぐに王城の中庭に待機させているブラックホークを使用し、アクリシア王国女王、ヒルデガード陛下をダルティア基地に護送する事になっています」


 祐樹達は、小夜率いる執行部を使いアクリシア王国の危険分子を葬っていたが、それも完全に葬り去ったとは言えず、万が一に備えて中庭にブラックホーク四機と護衛のアパッチ・ロングボウ二機が待機しており、待機している中庭に通じる廊下と中庭だけは、特別に蒼龍国陸軍一個小隊が警備していた。


「何もなければいいが……そうだ。刹那、この前の夜襲で捕虜にした敵の夜襲部隊の状況はどうなっている?この前受けた報告では、全員が素直に答えているという事だったが……」

「はい。捕虜の尋問は親衛軍が行っていますが、全員が素直に質問に答えています。最初は欺瞞情報かと思われましたが、執行部が入手した情報と照らし合わせた結果、供述の全てが事実であることが確認されました」

「捕虜とは言え、ここまで機密情報を話すのが怪しい気もするが……刹那、今日は尋問の予定は入っているか?」


 祐樹に尋ねられた刹那は、自身の机の上に置いていたタブレット端末を手に取ると数回操作し、今日の尋問の予定を確認した。


「今日は…夜襲部隊指揮官の尋問が予定されています」

「そうか…刹那、その指揮官の尋問は俺が行いたいが、構わないか?」

「ま、マスター自らですか……?少々、お待ち下さい。―――私だ。今日の尋問を総帥自ら行いたいという事だが、構わないか?―――あぁ、それで頼む。マスター、捕虜収容所の了解も取りました」

「急な事で苦労をかけてしまったな」

「いえ、マスターのためですから。―――身辺警護隊に通達。今から総帥がお出かけになられる。警護隊員は、五分以内に準備を整えて統合本部前に集合せよ。繰り返す、警護隊員は五分以内に統合本部前に集合せよ」

「じゃあ、行くとしようか」

「はい、マスター」


 二人は手早く準備を整えて執務室を後にすると、刹那に召集を掛けられた警護隊員達によって準備された車輛に乗って第一空軍基地に移動し、MV-22オスプレイで要塞化された二十ある島の中でも捕虜収容所が建てられている「第十三管理島」へと向かった。




 第十三管理島の捕虜収容所屋上にあるヘリポートに祐樹達が乗ったオスプレイが着陸すると、ヘリポートの隅で待機していた数人の兵士達が機体に近づいた。


「総帥閣下、ようこそお出で下さいました。私が、捕虜収容所所長、広瀬伊織少将です」

「出迎えご苦労、広瀬少将。短い時間だが、世話になるぞ」

「はっ。では、尋問室までご案内します」


 島自体を収容所としているため、十万人以上を収容する事が可能な収容所の真新しさの残る収容所施設内の廊下を歩いていると、オレンジ色の囚人服を着て作業を行っている神の使いし軍団の兵士の姿を確認する事が出来た。


「捕虜に対する扱いは大丈夫か?」

「はい。捕虜には暴行も加えておりません。捕虜達も聞き分けが良くて、我々も助かっています」


 収容所施設内を見渡して気になった点を広瀬少将に聞きながら歩き続けていると、尋問室へと到着し、刹那と黒川を伴って尋問室の中へと入った。


「あら?私の尋問官はいつもの尋問官と違うのね……後ろに立っている二人もこの収容所の兵士でも普通の兵士でもない相当な手練れね…さて、あなたは何者かしら?」

「―――素晴らしい観察眼だな。俺は、蒼龍国総帥の霧風祐樹だ。あなたの所属と名前を教えてもらいましょうか」


 尋問室の椅子に余裕の表情で座っているブラウン色の髪を腰まで伸ばしている女性に対して祐樹は尋ねた。


「ふ~ん…あなたがこの国の代表か……ねぇ、あなた転生者でしょう?」

「っ!?……なぜ、そう思った?」

「顔を強張らせたって言う事は、転生者なのね。あなたがあの男と同じ転生者ね……」


 女性の言葉に警戒感を露わにする祐樹に対して、女性は余裕の表情を崩さず値踏みするような視線で、祐樹を見つめていた。


「貴様、さっさとマスターの質問に答えろ」


 祐樹の後ろに立ちながら女性の様子を伺っていた刹那が、これ以上は危険と判断したのか、余裕の表情で座っている女性に対して殺気を放つのと同時に、黒川と共にホルスターに収められているUSPに手を掛けた。


「そっちの二人が怖い表情をしているから、名乗らせてもらうわ。神の使いし軍団特務部隊指揮官、オットー・スコルツェニー大尉」

「えっ……?す、すまないが、もう一度言ってくれないか?」

「いいわよ。私の名前は、オットー・スコルツェニーよ。私の名前で疑問に思うって言う事は、私の事を知っているのかしら?」

「もちろんです。『ヨーロッパで最も危険な男』と呼ばれたあなたを知らないはずはありません」


 祐樹の言葉にずっと余裕の表情を保っていたスコルツェニーが、自分の事を知っていた祐樹に驚きの表情を向けた。


「敵に聞くのも失礼だが、我々に情報を話しているのはどうしてだ?我々としては、有益な情報で助かっているが、さすがに怪しく思えてくる」

「あっちの転生者に愛想が尽きたからよ。あいつ、何にも知らない癖に私たちを無能、無能って罵ってくるのよ」

「それは大変だな……早速だが、そっちの転生者の情報を聞いても構わないか?」

「えぇ、私達の総司令官の名前は高木治人。自分の思い通りにいかなければ、癇癪を起すガキみたいな性格の男よ」


 スコルツェニーはそう言うと、これまで高木に言われた罵倒や暴力を振るわれた事を思い出し、顔を顰めた。


「私達の軍と違って、ここの兵士達は生き生きとした表情をしているわね。あなたが特別だからかしら?」

「そんな事は無い。ここにいる皆は、俺を支えてくれる家族みたいな存在だ。家族を大切に思わなくてどうする」

「ふふっ、本当にあなたは面白い人だわ。ねぇ、私達もその家族の中に入れさせてくれないかしら?」

「何……?」


 祐樹の言葉に笑みを溢したスコルツェニーがそう告げると、祐樹は驚きの表情を見せ、後ろで話を聞いていた刹那は眉を顰めた。


「何を考えている……?」

「別に。ただ、あなたの考えに魅かれたから。じゃ、駄目かしら?部下の説得は私がするけど、心配ならあなたの軍の兵士を同伴させてもいいわよ」

「……刹那、どう思う?」

「不安要素もありますが、しっかりと教育をし直せば戦力になると思います。この部隊の教育は親衛軍が受け持ちます」

「なら決まったな。蒼龍国軍へようこそ、オットー・スコルツェニー大尉」

「えぇ、これからお世話になるわ」


 祐樹の差し出した手をスコルツェニーも笑顔で握り返した。その後、スコルツェニー大尉による説得によって、捕虜として収容されていた特務部隊百名の蒼龍国軍編入が決定し、教育プログラムが行われることになった。

更新が遅れて申し訳ありません。


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