ザザーン
ザザザーン
音が聞こえる
一定の間隔で、音が聞こえる。
それは寄せては返す波の音だ。
月の引力で波は出来ているんだって聞いた事がある。
じゃあ、もし月がなくなったら
この波の音を聞く事は出来なくなっちゃうのかなぁ・・・・・・
そんな私の心配をよそに
お月様はお空の真ん中にどっしりと腰を下ろしている。
夜の海は好きだ
夜の砂浜も好きだ
好きだから私はいまここにいる。
砂浜に体育座りをする。
お尻に砂の感触がこそばゆい。
静かだ
波の音しか聞こえない
いつしか私の五感は自然と波の音だけに集中し、研ぎ澄まされていく
「ざざーん、ざざざーん、ざざーん」
知らず知らずのうちに、私の口が波の音を奏でる。
いつしかそれは歌のように
そして、まるで合奏するかのように、私の心臓の鼓動がドラムを叩く
ドックン ドックン
ざざーん ざざざーん
頭上には綺麗なお空
目の前には綺麗な海
そして砂浜には綺麗な私
ふふふっ
それはちょっと自分を美化しすぎだね
じゃ言い直そう
砂浜には綺麗に・・・・・・なりたい私?
これくらいならオッケーだよね?
私は物言わぬお月様に訪ねた。
返事はしてくれなかったけれど
それでも別にいい
海
とっても大きな海
そういえば人間の身体も小さな海なんだって聞いた事がある。
大きな海と
私の中の小さな海
どちらも同じだ
どちらも
けがれている
毒に満ち満ちている。
みんな知ってる?
世界って言うのがあったんだって
でも今は無いの。
イッパイ イッパイ 毒のロケットを打ち上げて
お空に毒をばら撒いたの。
毒は大地に沈み
地下水を流れ
いつしか海に注ぎ込んだの
そして海はけがされちゃったの
そして私も同じなの
私の身体にも毒がしみこんで
私の中の海はけがされちゃった
だからもうすぐ死ぬの
死んでしまうの。
最後に大好きなこの場所で
死にたかったの。
この波の音と
イッパイのお星様と
私と同じけがれた海に見守られて
私は死ぬの・・・・・・
夜風が私の身体にまとわりついた
寒い
そう思った。
それは私の身体から熱が消えてしまいかけているからなのかもしれない
命が消えかけているからなのかもしれない
突風が吹いた
私は上着を風で飛ばされてしまう
拾いに行こうと慌てて立ち上がろうとして
倒れた
倒れこんだ私の横に、私の右足があった
ううん、正確には私の義足があった
立ち上がろうとした拍子に義足が外れてしまったのだ。
なんだかとっても悔しかった
口の中に砂が入ってジャリジャリした
私はよろめきながらも起き上がり義足を拾うと
おもいきり海に投げ込んだ。
波は私の足を遠い海の彼方へと運んでくれるだろう。
口の中はまだジャリジャリしたままだった。
不意に意識が遠くなりかけた
あっ
私はもうすぐ死ぬんだ
そう思った。
このまま目を閉じて
そしてそのまま消えてしまおう
波の音だけに耳を澄まそう
閉じた目にかすかに映る月の明かりだけを感じよう
口の中はまだジャリジャリしてたままだった。
ジャリジャリしていた。
ジャリジャリ
ジャリジャリ
ジャリジャリ
い・・・・・・・や・・・・・・・
「いやだああああ いやだよおおお」
なんで私が死ななきゃならないの
私が何をしたって言うの?
悪いことなんて何もしてない
いや、いや、いや
このまま目を閉じて
そのまま意識が
私の心が
私の人生が
全部消えてしまうなんて
絶対に嫌
いやなの、いやなの
神様!
いるんでしょ!
私を見ているんでしょ!
わたしをたすけて
わたしをたすけてよ
奇跡を起こしてよ
起こしてくれないなら何のためにあなたはいるの
返事をしなさいよ!
なに黙ってるのよ!
「ばかっ!」
私は砂をつかみ投げつけた
居る筈の無い神様に向かって投げつけた。
さらに砂を投げつけた
この砂浜の砂が全部無くなるくらい投げつけた。
神様が『ごめんなさい』って謝るまで投げつけていたかったのだけれど
血を吐いてしまったので
腕が動かなくなってしまったので
やめてしまった。
私はそのまま前のめりに倒れた
ねぇお月様は
私を助けてくれるよね
ねぇお空のお星様は
私を助けてくれるよね
力を振り絞り
私は空を見上げる。
そこに空は無かった
あるのは闇だった。
私の視力は無くなっていた。
そうだ!
そうよ!
これは夢
悪い夢なのよ
私はベッドで眠っているの
そして悪夢にうなされている
「さぁ! 早く目を覚ましなさい私!
そして、暖かいシャワーを浴びるの
それからお気に入りの洋服に着替えて、外に出かけるの
大好きなあの人と、遊園地にでかけるの」
私は動かなくなった腕に最後の力をこめ
ほっぺたを強く引っ張った
でも、この悪夢は醒めてくれない
たりないんだ
もっと強くじゃなきゃ
頬を引っかいた
血が流れた
なのにまだ悪夢は終わらない
頬を引っかいた
爪に肉がついた
なのにまだ悪夢は終わらない
手首に噛み付いた
血があふれ出した
なのにまだ悪夢は終わらない
絶対にこれは夢なの
だって、これだけ頬の肉がはがれても
血があふれ出しても
何も感じないんだもの
ねっ?
そうでしょ?
はがれた肉は波にさらわれる
あふれた血は海に注がれる
私は、私自身で海をけがす
最後には私の身体も流されるだろう
でも
でも
死ぬのはいや
たのしいのがすき
うれしいのがすき
あたたかいのがすき
だいすきなひとのむねのなかがすき
キスがすき
死ぬのはいや・・・・・・
そうだ
一秒で一生分の夢を見よう
そうしよう
私は眠る
そして夢を見る
これから生きる一生分の夢を見る
それはきっと楽しい夢
そうに違いない。
そこにはきっと美しい海がある
そうに違いない。
ザザーン
ザザザーン
波の音が聞こえる。
ドックン ドッ・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・
・
おしまい ☆
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