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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

七章 コリーの聖剣修理

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99話

 衝撃。
 全身を叩くのは、痛くもなく、重くもない、そんな衝撃だ。

 ただし、受けたあと、ひどく体が重い。
 まるで生命力そのものを持って行かれているような。
 傷を負うよりも根源的な部分に手を触れられているような。

 痛みよりもなお恐ろしい衝撃。
 それがどうやら、アレクが独自開発した『九割殺し』という魔法らしかった。


「回復を」


 異様な虚脱感におどろいていると、アレクから指示が飛ぶ。
 そうだ、回復をしなければならない。
 今やっているのは、『二秒で瀕死状態から回復する』修業だ。

 ……もっとも、ただ回復するだけでは不充分だ。
 二秒で『元気に』ならなければいけない。

 そのためには、毎回毎回、かなりの気合いを入れて回復をしなければ。
 それこそ、必死で。

 コリーは、へそのあたりに魔力を集中する。
 魔力による自己回復。

 これは、いわゆるところの『回復魔法』とは少々違う。
 分類的には『自己強化』に入るだろう。

 ドワーフは魔法が苦手な種族とされている。
 反面、自分の体や、装備の強化は得意だ。
 難しい言い方だと、『外界への干渉能力が弱く、内界の把握力が高い』とされるらしい。

 まあ、『瀕死状態から二秒で元気になれ』というのが無茶なことに変わりはない。
 けれどコリーはどうにかやってのける。

 体の虚脱感が消え失せた。
 荒くなりかけていた呼吸を持ち直す。

 回復にはかなりの集中が必要だった。
 一回行っただけで、しばらく休憩をしたくなるほどのコンセントレイション。

 だが。
 時間は止まってくれない。
 アレクは正確に時を刻み、次のサイクルへと移行する。


「攻撃します」


 宣言と同時に来るのは、また、先ほどと同じ衝撃だ。
『九割殺し』。
 軽い衝撃からは想像もつかないほど、ごっそりと生命力を削る恐怖の魔法。


「回復を」


 ……しかし、集中力は切れていない。
 コリーはすぐさま体力を回復する。

 集中さえできていれば、技能的に難しいことは要求されていないのではないか?
 そのような疑問というか、余裕が、生まれる。


「攻撃します」


 三度目の攻撃。
 コリーは早くも身に訪れる虚脱感に慣れ始めていた。

 思考する余裕が生まれる。
 そういえば、彼はなぜ『九割殺し』なんていうものを編み出したのだろう?

 アレクの魔法コントロールはかなりのものだ。
 普段、見もせずに魔法で風呂を維持していることからも明らかだ。
 また、彼は『HP』と呼ばれる、人の体力を示すものを数値として認識できるらしい。
 その気になれば、わざわざ『九割殺す魔法』なんか編み出さなくとも、魔法コントロールと体力の可視化能力によって、九割殺すことができるのではないだろうか?


「回復を」


 三度目の回復。
 思考は逸れていても、集中力は維持できている。
 この修業は本当に、意外と簡単に終わるかもしれない。

 コリーは『九割殺し』が生まれた背景に思いを馳せる。
 修業のために編み出した、と彼は言った。
 ならば修業ならではの状況が関係しているのだろう。
 となると、思いつく可能性があった。

 ロードしても壊れた装備は戻らない。
 つまり、燃やされたり破壊されたりした、鎧や武器、衣服なんかは、戻らないのだ。

 となると、何度も失敗すること前提の修業を行えば、どうなるか。
 修業終了時には、全裸になってしまう。

 ……まあ、全裸のあたりを彼がわざわざ想定していないとしても。
 普通に、修業により壊れた装備をいちいち保証してもいられないだろう。
 そういった金銭的な配慮から、この『九割殺し』は生まれたのかもしれない。
 そんなふうにコリーは妄想する。


「攻撃します」


 四度目の攻撃。
 もはや親しみさえ覚える虚脱感。

 集中力は高い状態をキープできている。
 あと二回、このまま回復をするだけで修業はほぼ終わる。
 けれど。


「回復を」


 四度目の回復を要求されて。
 ようやく、コリーは違和感に気付いた。

 回復、できない。
 集中力は依然として高いままだ。
 だというのに、さっぱり魔力を練ることができない。

 気付く。
 魔力自体が、尽きかけているのだ。

 あまりに迂闊だった。
『瀕死から元気になる』という難行にばかり目を奪われていた。

 それを、五回行わなければならなかったのに。
 ……体力を回復するのには、魔力を使う。
 回復量が多ければ多いほど必要な魔力も多くなるなんて、考えるまでもないことだ。

 歯を食いしばる。
 限界の限界まで魔力を振り絞る。

 それでどうにか、体力を工面できた。
 でも。


「魔力管理を、意識していませんでしたね。なにか別なことでも考えていたのでしょうか」


 アレクが、すべて見抜いているように言う。
 実際に見抜いているのだろう。
 彼は体力と同じように、魔力総量と現在の魔力量だって、可視化できるのだから。

 見抜いていながら、容赦はない。
 コリーの全身を軽い衝撃が叩く。
 全身から生命力が抜けていく。
 ――九割、殺された。

 もう余力なんてない。
 体力が減ったせいで体はふらつき、意識がかすむ。
 魔力がもうほとんど残っていないせいか、呼吸がうまくできず、意識が落ちそうになる。

 五度の攻撃を耐えた。
 でも、耐えただけだった。
 反撃に移る余力なんて、残っていない。

 もし、殴って、それで彼に有効打を与えられなければ?
 最初からやり直し。

 また、九割、殺される。
 もうすでに九割殺された状態で、また九割。

 つまり。
 死。


「継続戦闘能力を鍛える修業だと、申し上げたはずですが。一回一回きちんと回復できるだけでは不十分ですよ。五回、回復し、反撃する余力がないと」
「ま、待って、待ってほしいッス……次に攻撃されたら、確実に死ぬッス」
「そうですね」
「修業じゃないんスか……? 次に攻撃したら、それはもう、ただの殺人ッスよ……?」
「魔力管理に意識を割かないだけの、余力があった様子ですね」
「……」
「修業は、必死にやらないと、いけません。必死さが、能力を大きく上昇させ、スキルの習熟を早くします」
「でも……!」
「あなたは現在、体力を九割減らされ、魔力もほぼ底を尽きかけており、回復もできない状況だ。次に攻撃を受けたら死ぬというのは、まったくもって見立ての通りでしょう」
「そうッスよね!?」
「ですが、あきらめるのはまだ早い」
「……いやいやいやいや」
「『絶対死ぬ』という状況で、思わぬ力を発揮するというケースは、充分ありえます。俺もそれで何度か、師匠をおどろかせることがありました」
「でも、普通に死ぬ場合だって少なくないッスよ!」
「そうですねえ。俺が『思わぬ力を発揮した』ケースは、確率的に言うと、千分の一回程度でしょうか。一日百回死ねば、十日に一回はおとずれる計算ですね」
「千回のうち九百九十九回は普通に死んでるってことじゃないッスか!」
「しかし、今回があなたの『千回目』でない保証はない」
「……そうッスけど! そうッスけど!」
「さあ、必死になりましょう」
「……」
「さもなくば、ただ死ぬだけですよ」
「だからそれは、殺人ッスよ!」
「なにを言ってるんですか。セーブしたでしょう?」
「したッスけど……!」
「だったら、大丈夫。生き返りますからね。生きてる人が、殺されたわけがないでしょう?」


 彼は。
 にこり、と笑う。

 コリーは思い出した。
 なんで過去の夢を見るほど自分が追い詰められたのか。

 生き返るから殺してもいい。
 効率がいいから死ぬほどのことをやる。

 ……理屈のうえでは正しいのだろう。
 けれど、普通、わかっていても心が否定する行為。

 それを笑顔で行うこの人が、おとずれる死よりも怖い。
 だからつい、現実逃避なんかしてしまったのだと、コリーは死の淵でようやく思い出した。

 ちなみに。
 今回は『千回目』ではなかった。
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