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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

六章 ヨミの回想録作成

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89話

『はいいろ』に加えて『狐』の修業まで始めて、幾日か経ちました。
 この時のアレクの成長ぶりは、かなりの驚嘆を覚える速度だったと、私は『狐』からこっそり聞いています。
 つい、楽しくなって普段より無茶をした、とも言われました。

 現在、アレクの修業が容赦なく見えるのは、この時の『狐』や『はいいろ』がした無茶が、アレクの中で基準になってしまっているからだと思えてなりません。
 アレクの師匠は無茶しかしない人たちでした。

 色々試した結果、『足音を立てたら死ぬような状況だと、一番身についている』という発見があったらしく、このころから、アレクに課される修行は死亡前提のものになっていきます。
 実は今までは死亡前提ではなかったというのが、記憶を振り返ってみて一番のおどろきのように思います。
 思えば、私の父と母たちは、いわゆる天才だったのかもしれません。
 彼らの基準は凡人にはあんまりにも高いんじゃないかなと、今では思います。


 他のクランメンバーのあいだでも、いよいよアレクは有名になっていきました。
 最初は、『はいいろ』に直々に修業をつけてもらっている幸運なヤツ、という、嫉妬などのこもった見られ方が多かったように思います。
 次第に、なにか奇妙な儀式によって動いている死人、という疑いをもたれるようになっていきました。
 そこからさらに怪談めいたいくつかの話題を経て、最終的に、『輝く灰色の狐団』におけるアレクの立ち位置は、『クランマスターの後継者』というようになっていきます。

 それはもちろん、『はいいろ』たちの修業により、アレクが強くなっていったからです。
 けれどアレクは強さの独占をよしとしませんでした。

 アレクは、周囲の人にも『セーブ&ロード』を用いての修業をすすめたのです。
 でも、みんな怖がってやりません。
 話に聞くだけでも、身の毛がよだつような修業ばかりでしたから、周囲の反応は当然だったのでしょう。

 それに、修業をしないでも糊口をしのぐことはできていたのです。
 食べていけるのに、無茶してまで強くなる必要はない。
 そういった考えが『輝く灰色の狐団』では一般的でした。
 もっともそれは、うちのクランだけではなく、世間一般が、そうなのかなとも思います。

 ともあれ、アレクはみんなから尊敬と畏怖を集める存在になろうとしていました。
 その結果、なぜか、私といる時間が増えました。

 これは『はいいろ』や『狐』などにも言えることですが、ある程度尊敬を集めている立場の人は、遠巻きに見られがちなのです。
 入ってまだひと月経っていないのに、みんなから『アレクさん』と『さん』をつけて呼ばれていたあたりに、そこはかとない距離感があった気がします。


 私とアレクはよく、二人きりで酒場跡の厨房にいました。
 というのも、私たちが長々話す時は、決まってアレクのいた世界の料理について教えてもらう時だったのです。


「なあヨミ、そういえばさ、俺のもう一人の師匠、『輝き』だっけ? そいつはどこに行ってるんだ?」


 たしか、肉じゃがの作り方を教えてもらっていた時だと思います。
 当時の私は醤油というものの味のイメージがつかめずに、色々試しては、『シチューだよこれじゃあ』とあきれられていたことを覚えています。

 さて、『輝き』の居所についてですが、私には答えられませんでした。
 というよりも、私は今でも、当時の『輝き』がどのような活動をしていたのか、よく知らないままでいます。

『はいいろ』が暗殺によって金銭を得ていることは、知っていました。
『狐』は泥棒です。

 ですが、『輝き』の具体的な活動を、私はさっぱり知りませんでした。
 このクランの創設メンバーなのだから、なにかの分野で有名な犯罪者ではあるのでしょう。
 でも、具体的にどのような犯罪行為を行っているのかは、わからない。
『輝き』はそんなような存在でした。

 思えば、あまり私は彼女と会話をした記憶がありません。
 いつもどこかにいて、あまりクランの根城にいなかったようには思います。

 だから、アレクの質問に答えようがなく、戸惑ったのを覚えています。
 アレクは私の戸惑いを察してくれたようでした。
 当時、無表情な私の感情をどうやって読んでいるのか、不思議に思ったものです。


「悪かった。わからないこともあるよな」
「……そう」
「じゃあ、『輝き』っていうのはどういうヤツなんだ? 居場所じゃなくて、人柄とか、人種とかな。お前の母親候補の一人っぽいし、女性であることはわかるんだけど」
「…………」
「これも答えにくい質問なのか」
「……狐獣人のはず」
「はず? 種族があいまいなのか? ひょっとしてハーフとか? この世界でハーフは見たことないけど……」
「たぶん、狐獣人。ぼくのママだから」
「……直接見た方が早そうだな」
「そうだと思う。ところでアレクお兄ちゃん」
「なんだ」
「持ち上げて」


 当時、私は高い場所にある物を取りたい時など、アレクに持ち上げてもらっていました。
 今だから白状しますが、私は、彼に抱きあげられるのが好きだったように思います。
 視点が高くなるのと、力強い腕に支えられるのが気に入っていたのでしょう。


「ほらよ。なにを取りたいんだ?」
「鍋」
「……俺がとった方が早いような気がするんだけど」
「だめ」
「自分の道具に人が触るのはイヤなのか。お前は職人だなあ」
「職人」
「そう、職人。将来は料理人にでもなるのか?」
「暗殺者」
「……それは、俺が継ぐことになっただろ。それとも、実は暗殺者になりたかったり?」
「べつに」
「お前はなりたいものとか、やりたいこととかないの? 将来はライオンになるとか」
「ライオン?」
「いや、動物だけどさ。子供ってそういう『なれるはずねーだろ!』ってものも平気で目指すイメージっていうか。概念を目指す子なんかも昔はいたっぽいな。あと一時期『神』とか将来の夢で書く子がいたとかニュースで見た気が。……とにかく、子供なんだから夢持てよ」
「アレクお兄ちゃんはなにになりたいの?」
「俺? 俺は……別に、ないかな」
「自分がないのに、人に夢を持てと言うのは、おかしい」
「はい……その、おっしゃる通りです」
「ぼくは、今のままでいい。ずっと『輝く灰色の狐団』で料理番をやる」
「……この空間が、お前の夢なのか」
「夢じゃない。現実」
「……」
「『はいいろ』が情けないから、ぼくがしっかりしないと」
「お前はあんまり子供らしくないなあ……体はこんなにちっこいのに」
「……とれた。おろしていいよ」
「はいよ」
「ゆっくりね」
「はいはい」


 なんでもない日常の会話でした。
 でも、このやりとりは、なぜか私の記憶に強く残っています。
 それは、この直後に起こったできごとのせいかもしれません。

 私とアレクが料理をしていると、誰かが厨房に入ってきました。
 別に珍しいことでもないので、普段ならば、一瞥して、料理に戻るでしょう。

 でも、その人は目立つ容姿をしていました。
 銀色の体毛の狐獣人でした。
 見た目の年齢は、まだまだ子供です。あの当時も、きっと、現在も。
 見たことのないような、ローブみたいなものを好んで着ていました。
 アレクに曰く、『和服』に似ているそうです。
 そしてなにより、その人には、尻尾が九本ありました。

 こんな人が視界の端を通ったら、誰だって二度見するでしょう。
 初見で奇異の視線を向けないでいられる人は、いないと思います。
 地味に人からの視線に弱い『狐』なんかだったら、萎縮してしまうでしょう。
 でも、彼女はいつも誇らしげというか、周囲全部を見下すような、不思議な笑みを浮かべていたように思います。



「『はいいろ』が言っていた、アレクサンダーというのは貴様か?」



 その、偉そうというか、時代がかったしゃべり方を、今もはっきり覚えています。
 普通の人がやればしゃべるたびに笑ってしまいそうなのですが、その人は妙にしっくりしているというか、その人にとって普通の口調だったように思います。

 私はすぐそばのアレクが、表情をこわばらせたのに気付きました。
 その時の表情には、殺意というか、なにか鋭くおそろしい感情が見えたので、私は思わず、アレクから離れました。


「……あんたが、『輝き』なのか」
「なんじゃ、妙な目をしおって。わらわが『輝き』で、なんぞ問題でもあるか?」
「いや、どう言ったらいいのか……」
「ふむ? なんぞ事情でもありそうじゃの。言うてみ」
「俺の母親も九尾の狐獣人なんだ」
「ほう」
「でも、そいつが俺を捨てて出て行ったのは、もう十年以上も前だ。あんたが俺の母親だとしたら、いくらなんでも変わってなさすぎる。一瞬、母親かと思ったが、まあだから、普通に考えたら別人だろう」
「しかし貴様、アレクサンダーなのであろ?」
「そうだ」
「ならば、わらわの息子やもしれんな。わらわは、息子と弟子には必ずアレクサンダーを名乗らせる。……少し待て」


『輝き』は大きな袖口から、なにかを取り出しました。
 一冊の、小さな本だったと思います。


「人間族、少年……うむ。ちなみに父親の名前は覚えておるか?」
「……フィリップス。種族は人間で、貴族だ。十年以上前に死んだ」
「なるほどなるほど。ふむ…………よし」
「どうした」
「…………息子よ! 会いたかったぞ!」


『輝き』は、唐突にアレクに抱きつきました。
 その過剰演出みたいな、浮いた感じのする行動は、今でも強い違和感とともに私の中に残っています。
 ともあれ、どうやら二人は親子関係で間違いがなさそうでした。
 再会を望んでいたかどうかは、今となっても、わかりませんけれど。
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