挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

五章 ソフィの『おばけ大樹』探索

69/249

69話

『銀の狐亭』客間。
 化粧台の前に座り、ソフィは鏡を見ている。

 映っているのはエルフの女性だ。
 金髪。
 碧眼。
 長く、とがった耳。
 いかにもエルフらしい特徴。

 首より下。
 いかにもエルフらしくない、大きな胸。
 大きな葉っぱで編まれたワンピースをいびつにふくらませている。

 ソフィは自分の体が嫌いだった。
 エルフという種族は、男女であまり体格差がない。
 ようするに、誰も彼も、スレンダーだ。

 その中にあって、この豊満な体は、目立つ。
『エルフの森』においてみんなが着ているこの服も、自分のだけ別物のようになってしまう。
 しかも、人間の街において、痴漢にあったりもした。

 この宿でも、風呂をのぞかれたことがある。
 その『のぞき男』は、宿屋主人がどうにかしてくれた。

 宿屋主人、アレクサンダー。
 ソフィは、昨日聞いた彼の言葉を思い出す。



『修業を次の段階に移しましょう』



 今日、いつものように修業を終えて、宿に帰ってきた。
 そうしたら、夕食のついでとばかりに、そんなことを告げられてしまった。

 だから、今。
 ソフィは、遺書を書いている。



『それは、第二段階というわけですから、第一段階よりは、難易度が上がると思いますよ』



 彼の修業は、死なない。
 でも、心は死んでしまうかもしれない。

 第一段階ですら、毎日心を追い詰めるようなものばかり。
 生きるとは。
 死ぬとは。
 死に続けたこの身は、生きているのか。
 自分がまだ生きていると思いこんでいるだけで、本当は死んでいるのではないか。

 だんだん、死生観が変わっていくのが、自分でもわかった。
 自分の変化が恐ろしい。
 だから、変わりきってしまう前に、遺書を書こうと思って。
 ペンをとり、インク壺を借り、羊皮紙の前で、こうして座っている。


 でも。
 誰に遺せばいいのだろうか?


 故郷である『エルフの森』の人たちに?
 それとも、両親の墓前に?
 あるいは。
 ……仲のよかった妹宛てに、遺すべきだろうか?

 ソフィは、遺書を向けるべき人を思い描けないでいた。
 あるいは死んでまで言葉をかけたくない人ばかりだし。
 あるいは、死んだあとに会えばすむ人ばかりで。

 そこまで考えて。
 ようやく、ソフィは誰に向けて遺書を書くか、決まった。

 信頼できる人。
 死後をたくすべき人。
 その相手とは、すなわち。



「アレク様へ」



 ソフィは、口を動かしながら、ペンで文字をつむいでいく。
 目を閉じればありありと思い出せる修業の日々。
 たしか最初に死んだのは、ひと月前。
 この宿に来た日のことだった――
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ