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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

四章 トゥーラの近衛兵入隊

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68話

 夜。
 様々な業務を終えた『銀の狐亭』は、眠りに入る。

 宿泊客はとうに睡眠をとっているだろう。
 アレクは、すべての仕事を終えて、自室に戻っていた。

 大きなベッドがあるだけの、粗末な部屋。
 すでに娘二人と、妻が寝ている。

 アレクは、そのベッドに入る。
 まだ起きていたヨミが、出迎えてくれた。


「お疲れ様」
「ああ、そっちも。ブランとノワは、もう寝たみたいだな」


 彼は、ヨミと自分のあいだで眠る、二人の少女を見た。
 幸福そうな寝顔。
 ……いつのまにか、ベッドも狭くなったものだと笑う。

 ヨミが笑って。
 なんとなしに口を開いた。


「二人が成人したらどうする?」
「……どうする、どうする、か。考えたこともなかった」
「がむしゃらにやってきたもんねえ」
「そうだな。……なあ、昨日の夜、ようやく、『輝き』の……足取り、というか。足跡ぐらいは、つかんだよ」
「まだ捜してるの?」
「そりゃあ、捜すさ。しかも、今回、生きてることが確定したんだ。これまでの努力は無駄じゃなかった」
「……」
「女王陛下と知り合って、公権力の網を張った。犯罪者ならば、どこかで絶対に引っかかる」
「……」
「ギルドマスターの伝手で、ギルドの網を張った。冒険者稼業をしているならば、ここに引っかかる」
「……」
「宿屋経営をして、市井の網を張った。王都で暮らしているなら、いつか引っかかる」
「……」
「新生『銀の狐団』の活動で、職人ギルドも、網を張っている。仮に『輝き』が職人に偽装して暮らしていたとしても、絶対に引っかかる」
「でも、引っかからなかったねえ。そのあいだに、情報網のために広めた商売の方が、本筋になっちゃったんじゃない?」
「……そうなんだよなあ。これだけ念入りに情報網を広げて、それでもなお、引っかからなかったんだ。それが、ようやく、生存だけは確定した」
「…………今のアレクの一番の目的は?」
「え?」
「十年以上経つわけじゃない? 最初は『クラン壊滅の原因になった犯人を捜す』っていう目的だっただろうけど、生活ができて、娘ができて……まあ、ぼくは生んでないけど……色々な人とのつながりもできたじゃない。もう今の暮らしでいいとかは、思わないの?」
「思わない」
「頑固だねえ」
「そりゃあ、思わないさ。だって、お前との正式な結婚がまだだ」
「……」
「お前の父親は、『はいいろ』だ」
「……そうみたいだねえ」
「でも、お前の母親は、『輝き』か『狐』か、わからない」
「そうだねえ」
「そして、俺を、この世界で生んだ親は、『輝き』だ」
「……」
「母親が一緒だったら、父親が違っても、さすがに結婚できない。だから、確かめないと」
「ぼくとしては、うやむやでもいいと思うんだけどね」
「まあ、それに、最近『銀の狐団』を思い起こす事件が多い。たぶん『輝き』の方も、俺に見つけてもらいたがってるんだと思う。……だから、その願いを叶えてやらないと。あの人は俺を捨てたりもしたけれど、それでも母親なんだから」
「本当に見つけてほしいなら、素直に出てくればいいのに」
「素直に出てこれないよ。あの人は素直じゃないんだから。あるいは、出たくても出られずに、チラチラと存在をうかがわせる程度しかできない、事情があるか。……どのみち、見つけたら一発殴るけどな」
「死んじゃう死んじゃう……」
「セーブはさせる」


 真面目な顔で言う。
 ヨミは、笑ってから。


「じゃあ、あと四年にしない?」
「なにがだ?」
「期限。『輝き』を捜すのも、昔の『銀の狐団』が滅んだ原因を探すのも。ぼくとアレクが同じお母さんから生まれたかどうか確かめようとするのも。この子たちが成人するまでの四年間っていう期限を設けない?」
「……」
「だってぼくは、今の暮らしが好きだし――昔のことは、ぜんぜん、覚えてないし」
「……まあ、そうだな。永遠に遊べるゲームはない。四年も遊び尽くせば――あとはそろそろ、現実に帰ってもいいころだろう」
「今までと合わせたら十年を超えるんだけど」
「そうだったな。……じゃあ、約束する。四年だ。あと四年、探し続けて、ノワとブランが十五歳になったら、俺たちの人生を始めようか。今までのことは全部、なかったことにして」
「いいね。また出会うの」
「そうだな。最初から。『はいいろ』も『狐』も『輝き』も、『銀の狐団』も関係なく」
「ぼくたちはなにも知らない他人同士として」
「よく見知った初対面になりそうだ」
「お友達から、始めようね」
「……俺はお前を攻略しないといけないのか。難易度高そうだ」
「そんなことないよ。だってたぶん、ひと目見て好きになるもの」
「…………ああ、まずいな。格好いい切り返しが、思いつかない」
「いいよ。本当は格好よくないの、知ってるから」
「俺も、お前が案外頑固なところ知ってる」
「じゃあ、四年後、出会おうね」
「ああ。それまでは、もう少しだけ、自由にやらせてくれ」
「いいよ。アレクを支えるのが、ぼくの望みだからね」


 会話して。
 笑って。
 それから、目を閉じる。

 今はまだ、夢の途中。
 幸福なゆらぎの中、ただまどろむだけ。
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