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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

四章 トゥーラの近衛兵入隊

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66話

「おかえりなさい。お待ちしていましたよ。いや、調査通りの場所だ。さすがだなあ」



 ソレがねぐらに帰ると、男が一人、いた。

 つぶれた酒場だ。
 木製のテーブルが乱雑に並び、あちこちに空の酒瓶が落ちている。
 男は、テーブルの上に片膝を立てて腰かけていた。
 あたりは暗いが、二階部分の小窓から夜の光が男のもとへ差しこんでいた。


 妙な男だ。
 銀色の毛皮のマント。
 顔を隠す意思のうかがえないかぶり方をした、仮面。
 仮面には不気味な意匠がほどこされている。
 細長い目の獣。
 狐か、犬か。

 男の年齢は不詳。
 若いような、若くないような。
 歳をとっているような、とっていないような。
 かぶった仮面とよく似た、人間味のない笑顔がどことなく不気味だった。


 でも、そんなことより。
 ソレは傷心していた。
 初めての任務失敗なのだ。
 次は失敗しないよう、検討を重ねなければいけない。
 その前に一眠りしたかった。

 だというのに――
 偶然にも、その男は、ソレが寝床としているテーブルに乗っていた。
 許せることではない。


「誰だアンタ。なんでここにいる。いや、いい。どけ。さもないと、解体するぞ」
「アレクサンダー」
「……あ?」
「俺の名前はアレクサンダーと申します。アレク、アレックス、好きなようにお呼びください」
「…………」
「ところで質問なのですが、あなたの名前も、ひょっとしてアレクサンダーでは?」
「………………何者だ、アンタ」


 ソレは。
 アレクサンダーは、名前を言い当てられて、警戒心を強める。

 対して笑顔の男――アレクは、笑ったままだ。
 なにかを押し殺すような笑顔のまま。



「ようやく『当たり』を引けた」



 ゾッとするような。
 冷たい声で、つぶやいた。

 アレクサンダーは自分の足が一歩下がるのを感じた。
 ――怯えている?
 その疑いは、ソレにとって我慢ならないものだった。


「なんで俺の名前を知ってる。そもそも、なんで俺と、同じ名前なんだ。偶然じゃねえよなあ?」
「彼女は、息子や弟子に必ず『アレクサンダー』とつけますからね」
「……」
「あなたにとって、師匠なのか、母親なのか、それはわかりませんが……彼女、『輝き』は元気でしょうか?」
「…………」
「ああ、答えたくないなら、答えないでも結構ですよ。その反応でだいたいわかります。やっぱり彼女は生きていたんですね。ようやく確信にいたる情報だ。よかった。簡単に死ぬような人ではないと、信じていたんですよ」
「あんたは、なんなんだ」
「俺は、彼女の実の息子です」
「……はあ?」
「この世界での生みの親が彼女、という話ですけれどね」
「バッ……馬鹿な。テメェみたいなでかい息子がいるかよ。俺の師匠は、どう見たって、まだ」
「幼い子供、せいぜい十代の少女に見える、ですか?」
「……」
「あの妖怪、まだ歳をとらないのか。ああ、でも、容姿まで知っているなら、盤石ですね。実は長いあいだ、俺は『輝き』を捜していたんです。十年以上前に死んだとされていましたけれど、あの人がそう簡単に死ぬわけがないと思っていましてね。いやあ、よかった。質問は山ほどあるんですよ。さあ、『輝き』のもとに俺を案内してもらえますか?」
「…………」
「そこで黙るのは、忠義ですかね? それとも恐怖? あるいは情? ……申し訳ありませんが、本日は義侠心だけでなく私怨もふくまれた行動ですから、あなたがだんまりを続けるのならば、相応の対応をせざるを得ないのですけれど」
「ハッ……テメェは俺に勝てる気でいるのかよ」
「そうですねえ。勝てる勝てない以前に、勝負になるかどうか。あなたは少々、弱すぎます」
「大した自信だ。でもなあ――一対一で戦えるとでも思ってんのか!?」


 ソレは叫ぶ。
 すると――

 酒場の、床。
 そこにあったらしい、蓋が開く。

 ぞろぞろと現れたのは、瞳に光のない集団だ。
 人種は、様々。
 男女もまた、様々だ。

 共通しているのは、その集団に『意思』が感じられないということだけ。
 まるで人形を並べたかのような、生気のない集団。
 そいつらが。


「やれ! 失敗作ども! 成功作の俺を守れ!」


 アレクサンダーの号令に従って。
 アレクへと攻撃を開始した。


 アレクは、笑っている。
 迫り来る無数の刃。
 それを見て、応じることさえせず。


 いや。
 応じる必要さえ、感じず。


 座ったまま、成り行きを見守る。
 すると――
 アレクに迫っていた『失敗作ども』が、次々と、糸が切れたように倒れていく。

 あるいは空中で気を失い。
 あるいは地面に倒れ伏し。
 あるいは、その場で膝から崩れ落ちる。

 アレクはよく見知った演劇の演目をながめるように、その様子を見ていた。
 混乱をあらわにしたのは、もう一人のアレクサンダーの方だ。


「な、な……なにをした!?」
「なにも」
「……」
「俺は、なにも。ねえ、アレクサンダーさん。『はいいろ』を名乗るのなら、俺は、俺が継いだ名を守るために一人でうかがいましょう。『狐』を名乗られても、同じことです」
「…………」
「でも、『銀の狐団』を名乗られてしまったら、俺たちは黙っていられない」
「……どういう」


 口にしかけた言葉が止まる。
 ソレは、ようやく発見してしまった。


 ――ゆらり。
 酒場の暗闇からしみ出す、銀色の影。

 そいつらは、そろいの毛皮のマントに、そろいの仮面をかぶった集団だった。
 いつのまに、そしてどこに潜んでいたのか。
 次々に現れた仮面の集団が、二人のアレクサンダーを取り囲む。

 集団と同じ格好をした、アレクサンダー。
 アレクが、笑顔のまま言う。


「かつて犯罪者クランとして一部界隈で有名だった『銀の狐団』は――その前身となった『輝く灰色の狐団』は、十年前のとある事件の影響で解散をしました」
「……」
「しかし、『輝く灰色の狐団』は行き場のない孤児や元奴隷、逃亡奴隷を受け入れていた。……ただ解散するだけではメンバーが路頭に迷う可能性もあった。全員が冒険者として独り立ちできるわけでもありませんでしたからね」
「…………」
「そこで、創設者三名の名を継いだ俺は、『銀の狐団』を新設することになった。冒険者クランの皮をかぶった犯罪者クラン――ではなく、制作クラフト系クランにね」
「………………」
「今ではみんな、犯罪行為もせず、日夜、醤油や米などを作ったり、それら俺の故郷の食材、道具などを商いで取り扱ったりして、平和に、まっとうに暮らしています」
「……は」
「だから、困るんですよね。――クランメンバーの将来のためにも、すでに名をゆずった、しかも死んだことになっている創設者の一人が、趣味で色々引っかき回しているという現状は」
「…………はは」
「あまり汚い言葉は使わないように、普段から気をつけているのですが。俺の内心を忌憚なく述べさせていただきますと――『今さら出しゃばるな。殺すぞ』というところでしょうか」


 集団と違う格好をしたアレクサンダー。
 ソレが、引きつった笑顔を浮かべる。


「ははは…………なんだ、ようするに、俺も、失敗作なのか」
「はい?」
「俺たちは、みんな、あんたに近付くために、『輝き』に、使い潰されてたのか」
「…………あなたの境遇はよく存じ上げませんが、素直に俺を『輝き』のもとへ案内し、あなたの知っているすべての情報を教えていただけるのであれば、配慮しますよ」
「……配慮?」
「人格を変えるだけで終わらせる、という意味です」


 仮面の集団から、一人が歩み出る。
 金髪の、おそらく、女。
 そいつがうやうやしくアレクの横にひざまずき、なにかを差し出した。


 それは。
 アレクサンダーも与えられている、武器。
 ナイフの長さの、無骨すぎる金属のカタマリ。
 おおよそ刃物には思えない、物体。
 ――折れた聖剣の、おそらく、本物。


 アレクはそれを受け取って。
 もう自分ではないアレクサンダーに、語りかける。


「では、セーブをしていただくための、説得に入ります」


 出現する、ほのかに発光する球体。
 ふよふよと宙を漂う不思議な物体。


 二人のアレクサンダーは笑う。


 片方は、乾いた笑い。
 己の優秀さを信じ続けてきて。
 数多の失敗作の上に立った成功作品だと、自分を思ってきて。
 命を踏みにじるのが大好きな、アレクサンダーは、迫り来る『師匠が作りたかった完成品』を見て笑う。


 もう片方は、優しげな微笑。
 仮面じみた無機質な笑顔。
 ただ顔に張り付いているだけの、無感情な表情。


 同じ名前を持ち、同じ『親』に育てられ。
 なのにどうしてここまで違うのか。
 ソレは振り上げられる刃を見る。
 どうやら師匠は、『こう』なることを目指して、自分を鍛えていたようだけれど。



「……人はさ、普通、アンタほどぶっ壊れられねえよ」



 アレクサンダーは、笑いながら、泣く。
 この感情は初めてで。
 たぶんこれが、命をもてあそばれる者たちが感じてきた『恐怖』というものなのだと。

 理解して。
 目前にまで迫る、自分と同じ名前のナニカの狂気に、屈服した。
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