挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

四章 トゥーラの近衛兵入隊

65/249

65話

 ソレは混乱していた。
 扉を開いたのだ。
 見つかるのは、仕方がない。

 けれど、ここは王宮だ。
 警備も多く、女王の部屋までたどり着ける侵入者など、そうそういない。

 だから、近衛兵たちはきっと、自分の来訪に戸惑い、おどろくだろうと思っていた。
 しかも予告状まで出ているという話なのだ。
 きっと、演説会の時の襲撃を予想して、日付が変わったばかりの今は油断しているはずだった。
 だというのに――見事としか言い様のない、迎撃を受けた。

 ソレは己が優れた存在であると疑っていなかった。
 くぐり抜けた、いつ死んでもおかしくないような修羅場が、ソレの自信の源だった。


 だから、ソレは知らない。
 近衛兵たちはみな、『いつ死んでもおかしくないような修羅場』どころではなく、『必ず死ぬような修業』を終えた猛者たちだったのだと。


 予定外の出来事に、ソレはおどろく。
 けれど、すぐさま冷静な思考を取り戻した。

 近衛兵は、要人警護が仕事だ。
 つまり、要人が狙われれば、身を挺して守る。

 ソレはおどろきながらも、本来のターゲットに目を向けた。
 金銀財宝で散らかった部屋の中央。
 高級そうなソファに横たわる、うまそうな肉のカタマリ。
 女としても、きっと美味だろう。
 けれど、その命の味わい、失った時国民の心に開く空洞といったら――
 想像しただけで、たまらない。


 ソレは無骨なナイフを握る。
 おおよそ、刃物としての用途を為していない、分厚い金属のカタマリ。


 毛皮のマントをたなびかせ、ソファに寝そべったまま微笑を浮かべる女王へ攻撃を開始――
 する、と見せかけて。
 本当の狙いは、女王を守るため飛び出してくる近衛兵だ。

 狙い通り、近衛兵は女王を守ろうと動く。
 黒髪。
 小柄。
 きっとまだ、成人してもいない。
 ――その将来を想像する。
 明るく幸福な未来を思い描くことができた。
 だからソレは、女王と自分のあいだに割りこんだ近衛兵の首筋に、万感の思いをこめて、ナイフを突き立てようとする。
 しかし。


「お見通しであります!」


 美しい、紋様の刻まれた剣で、ナイフを阻まれる。
 まるで最初から、自分が狙われるとわかっていたかのような対応。

 ソレは混乱を強める。
 目の前の、まだ幼い近衛兵。
 彼女の動きは要人を守る者のそれではない。

 周囲から満遍なく迫る敵意を、敏感に察知する者。
 狙いが自分なのか、それとも他の誰かなのを、鋭敏に感じ取る者。
 まるで。
 ダンジョンに挑む冒険者のような。


 二つの予想外。
 襲撃を予測されたこと。
 狙いを察知されたこと。
 そして。

 そして――三つ目の、予想外。
 近衛兵が。
 異常に、強い。


「……チッ」


 ソレは、襲撃前に立てたプランがなに一つ役に立たないと判断した。
 素早く撤退を開始する。

 近衛兵たちは、追ってこない。
 当然だろう。
 向こうは襲撃者が一人きりだとは考えていないはずだ。
 そして、主な任務は要人の警護である。

 だから女王の警備を薄くしてまでおいかけてはこないだろう。
 ソレはそこまで判断し、一目散に逃亡した。

 城内を通り。
 城を抜け。
 ねぐらへ帰るべく、走り続ける。

 自分を追う気配はない。
 今日の襲撃が失敗した理由は、あとでじっくり考えればいい。
 だから――帰ろう。

 勝手に予告状を出した師に、文句の一つも言ってやりたい。
 そう思いながら、ソレは駆ける。


 その後ろ姿を。
 音もなく、狐面をかぶった者が、追っていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ