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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

四章 トゥーラの近衛兵入隊

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64話

 日付が変わった瞬間が、活動の始まりだ。
 闇夜の中、ソレは音もなく動き出す。

 かがり火に照らされた巨大な宮殿。
 王族の過ごす警備のあついその場所に、ソレはなんなく侵入を果たす。

 気配の殺し方はよく知っていた。
 ソレは選ばれた者だった。
 幾人もの同胞が死んでいった訓練で、唯一残った生き物だ。

 だからソレは、命のはかなさを知っていた。
 尊さを知っていた。
 同胞たちの死に、心を痛めた。



 ――もったいない。
 その貴重な命を、なぜ修業なんかで散らしてしまったのか。

 俺に任せてくれれば。
 もっともっと、綺麗に、苦しめて、殺してあげられたのに。



 ソレは人殺しが好きだった。
 命とははかなく、尊く、誰かが死ぬとは、心の痛むことだ。
 その痛みが好きだった。
 喪失感と、その命が将来経験するはずだった幸福を想像するのが好きだった。

 そんな大事なものを。
 あっさりと奪うことができる、自分の強さが、大好きだった。


 けれどソレは、禁欲的だ。
 自らの意思で殺しはしない。
 命じられた命だけを奪うのが、ソレが自分に課したルールだ。

 我慢すればするほど、快楽は大きくなる。
 大きな獲物を与えられた時などは、失禁しそうなほど興奮する。


 今回の獲物は。
 女王。


 ソレは今から興奮がおさまらない。
 どう殺そうか。
 どう奪おうか。
 たった一つしかない貴重な命だからこそ、ソレは真摯に向き合う。
 そして、最高に楽しめる遊び方を、絶え間なく想像する。

 彼の『命』に対する姿勢は並ぶ者のないほどひたむきだった。
 一方で、彼の『殺害』に対する姿勢は、やや不真面目なものだった。

 殺そうと思って殺したことなんか、ない。
 むしろ、命を奪う時、いつだって強く惜しんでいる。

 大事なのは、『どう』殺すかだ。
 結果として人が死んでしまう行為が大好きで。
 いつまでも結果がおとずれなければいい。
 彼は、そのように作り上げられていた。


 ほどなく、ソレは目的の部屋にたどりつく。
 屋内だというのにドアノッカーのついた、重厚な扉。
 女王の寝室。

 完全に気配を殺しての潜入。
 実際に、今まで近くを通った警備兵には見つかっていない。
 その無能さを彼は笑いながら、扉の前に立つ。

 出入り口はここしかない。
 さすがにこの大きな扉を開けば、発見されるだろう。
 師が出してしまった予告状のせいで警戒されているはずだ。

 警備兵も、いるだろう。
 何人ぐらいいるだろうか。
 女王の近衛兵はみな、年若く有能な女性ばかりだと聞いている。

 何人ぐらい、いてくれるだろうか。
 抵抗はしてくれるだろうか。
 ソレは仕事以外の殺しはしないよう、固く己を戒めていた。
 しかし、仕事上で対立してしまった相手は例外だ。
 その女性たちの将来を奪うのは、いったいどんな喪失感をもたらしてくれるだろうか。

 ソレはよだれをぬぐう。
 そして――堂々と、扉を開けて。



「かかれ!」



 待ち構えていたかのような。
 近衛兵たちの、突撃を受けた。
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