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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

三章 ホーの借金返済

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47話

 翌昼。
『銀の狐亭』食堂で、ホーは不満そうな顔で食事をしていた。
 食事の手もあまり進んでいない。

 アレクはさすがに気にしたようだった。
 声をかける。


「ホーさん、どうしました?」
「……どうもこうもねーよ」
「お食事、口に合いませんでしたか?」
「いやそうじゃねーけどさ。……さっき、昨日ダンジョンを制覇した賞金で、借金を返しに行ったんだよ」
「はい。そのようにお聞きしております」
「そしたら、借金増やされた」
「……はい?」
「どうにも向こうは、あたしをギルドマスターの孫だって知ったうえで、ずるずる延々と金を払わせるつもりだったみてーでな。いきなり借金全額返すってなったら、いきなり借金上乗せされた」
「それで、どうされたんですか?」
「ぶっ飛ばしてきた」
「あなたの今の攻撃力ですと、相手の胴体がちぎれていてもなんら不思議はありませんが」
「手加減したよ。昨日ダンジョンマスターぶっとばした時に、自分の強さはだいたいわかってたからな」
「その手の悪徳金融は背後にマフィアがいそうなものですが、大丈夫ですか?」
「知るかよ。じゃあどうすりゃいいんだ」
「とりあえず、憲兵に訴えておきましょう」
「そうだな。付き合ってくれ。憲兵への訴え方なんて知らねーからな」
「わかりました」


 アレクがうなずく。
 ホーは、ため息をついた。


「……よく考えれば、あたしはなんにも知らねーな」
「あなたが人間ならとっくに大人と呼べる年齢でしょうが、ドライアドですからね。まだまだ、子供ですよ」
「子供扱いするんじゃねーよ」
「申し訳ありません。ですが、赤ん坊のころを知っていると、どうしても……」
「……そうだったな。……な、なあ。ちょっと聞きてーんだが」
「なんでしょう」
「あんたのこと、『おじさん』って呼んだ方がいいのか?」
「そこはご随意に。あなたを姪のように思ってはいても、血縁はありませんからね。『アレク』でも『アレクさん』でも『おじさん』でも『店主』でも『おい』でも『コラ』でもお好きに」
「アレクさん、でいいな。あんたはおじさんって見た目じゃねーし……あとなんつーか、ちょっと距離遠い感じに呼んでおきたい」
「やはりあなたの主観ですと、最近急に会った人でしかありませんか」
「そうじゃなくて、人として共感できる部分が少ないから親しみがもちにくい」
「ドライアドと人間だと、習慣も寿命も違いますからね」
「そういう意味じゃねーが、まあ、そう思ってくれててもいいよ……」


 げんなりする。
 アレクは笑顔のままだった。


「いよいよですね」
「……」
「ギルドに出向くのが。早ければ、すぐに制覇賞金の残り半分も受け取れるでしょう」
「…………なあ、その、本当に行くのか?」
「なにか問題でも?」
「……やっぱりその、今さらババアに会ってどうすんだっていう思いもあるっていうか……やっぱりやめにしてもいいんじゃねーかな?」
「なるほど」
「わかってくれるか」
「怖いんですね」
「…………怖くは……ある、な」
「では、精神を鍛える修行をしますか? 実はですね、精神を鍛えるための特別なプランがございまして、なんと今なら色々とお得な――」
「いきます。いくよ。ホーはがんばれるよ」
「はあ、そうですか。……みなさん、精神修行だけはやたらと回避したがるんですよね」
「今までの修行は精神修行じゃねーのかよ」
「ははは。今までの修行のどこに、精神が鍛えられる要素があったんですか。伸ばしたのは、VITとHPとSTRとDEXですよ」
「わかんないよお……ホーは、アレクさんがなにいってるのか、まったくわかんないよお……」
「ああ、失礼。俺の世界の言葉です」
「そうだけどそうじゃないよお……」
「説明だけでも聞きませんか? 精神修行だけは、妻もやってくれなかったので。誰かにつけてみたいんですよね。まずですね、目隠しをして、次にナイフで――」
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ……」
「そんなに拒絶しなくても……わかりましたよ」


 アレクは残念そうだった。
 ホーは震えが収まらない。


「は、はやくいこう? ホーは、はやく、おばあちゃんにあいたいよ?」
「おや、急に前向きになりましたね? わかりました。少々お待ちください。食器をお下げしますので」
「あ、ああ……あたしも部屋で準備してくる」
「では、後ほど、宿の入口で」
「わかった」


 ホーはぎこちなく立ち上がる。
 会話するだけで、かなり精神修行だ。
 アレクという人物のプレッシャーに比べれば、しばらく会っていない祖母に会いに行くことの重圧など、吹けば飛ぶほど軽かった。
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