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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

三章 ホーの借金返済

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40話

「おうおう、ここが『銀の狐亭』か! ボロい宿だな! 泊まってやるから宿帳出せよ!」


 三ヶ月前。
 ある日の昼下がり。
 ドライアドの少女は、そのような第一声を挙げながら『銀の狐亭』に踏み入った。

 ほんの小さな子供のような体躯。
 褐色の肌。
 長すぎる白の髪には、ごちゃごちゃとアクセサリーがついていた。

 武器だ。
 髪の毛を手足のように操るドライアドは、髪に武器をつける。
 それにしても、彼女の髪には武器がつきすぎではあったが。

 細い体を覆う鎧も、また無骨なものだ。
 顔以外の全身を隙間なく覆うフルプレイトメイル。

 防御力は高いが、動きにくい。
 実際、彼女は鎧と武器の重量に負け、体を引きずるように歩いていた。


 宿屋の受付には、一人の男性が座っていた。
 年齢不詳な男。
 エプロンに丈夫そうなシャツという、労働者の格好。



「いらっしゃいませ。ご利用ありがとうございます。『銀の狐亭』にようこそ」



 男は微笑み、あらかじめ決まっていたのだろう文言を言う。
 そんなやりとりはまだるっこしいとばかりに、少女はカウンターに詰め寄る。


「ここは宿代後払いってー話だが、本当か?」
「そうですね。冒険初心者の支援を基本業務の一つにしておりますので、そのように」
「いいじゃねーか。気に入った」


 ドライアドの少女は、今、金銭に窮していた。
 ダンジョンでした怪我の治療費。
 強くなるため装備に注ぎ込んだ金銭。

 ……だから。
 祖母からはなんだか色々言われていたような気もするが……
 かすかに記憶に引っかかっていた、この宿屋に来ることにしたのだ。

 なぜって。
 彼女は、この宿屋の情報を『料金後払い』しか覚えていなかったから。


 宿帳がカウンターに置かれる。
 彼女はペンを片手に、ページをめくった。
 そして、悪態をつく。


「ハッ! なんだよこれ! 全然客が泊まってねーじゃねーか!」
「そうですねえ。場所が悪いのか、宣伝が悪いのか、あまりご利用いただけてはおりません」
「サービスが悪いんじゃねーの?」
「そうですね。努力の余地はあるかもしれません」
「おいおいいいのかよこんなとこ泊まって。ベッドが固くて眠れたもんじゃねーとか、すきま風が吹きすぎて表同然だとか、メシがまずいとか、そういうこと、あるんじゃねーの?」
「そんなことはないですよ」
「ほんとかあ?」
「はい。それは実際にご利用いただければ、わかるかと」
「そこまで言うなら泊まってやるけどな。悪い点が見つかったら宿代はまけてもらうぜ」
「かまいません」
「言質はとったぞ」


 なにかてきとうに文句をつけて宿代を割り引こうと、彼女は思っていた。
 金がないのだ。
 あるいは、この情けなさそうな男が相手なら、踏み倒しも可能だろう。
 そんなことを考えながら宿帳に名前を記す。

 男は。
 宿帳を見て、首をかしげた。


「ホーさん、ですか?」
「なんだよあたしの名前に文句でもあんのか?」
「いえ。ひょっとしてあなたは、ギルド長のお孫さんでは?」
「…………だからなんだよ。文句あんのか?」
「なるほど。申し遅れました。俺は、アレクサンダーという者です。アレクとよく呼ばれますが、聞き覚えは?」
「なんでたかが廃れてる宿屋受付の名前を、あたしが知ってなきゃいけねーんだ」
「そうですか。あと、一点、間違いが」
「ああ?」
「俺は受付ではなく、主人です。『銀の狐亭』主人の、アレクと申します」
「……」


 たぶん、聞き覚えはあるのだろう。
 ホーはそのように判断した。

 この宿の話は、祖母から聞いていたのだ。
 ということは宿屋主人と祖母が知り合いでも不思議はない。
 だから、祖母が彼のことを話題に出していたとしたら、名前も言っていたと思う。

 ただ、ホーは祖母の話に関心がなかった。
 くどくどうるさいだけのババアだ。
 話をされても九割方聞き流すような癖がついている。
 だから。


「知らねーな。それに、なんだよ、ババアと知り合いだからなんなんだ? あたしの態度が悪いってチクろうってか? ハッ、お客様を脅そうってんなら、ずいぶんな宿屋だな」
「そういう意図はございません。ただ、『修行』のことも知っておいでなのかと思いまして」
「修行?」
「この宿は冒険者支援業務の一環として、初心者の方に修行をおつけしているのです。ステータスを拝見したところ、まだレベル二十そこそこのようですので、修行をご希望かなと思いまして」
「ステータス? なんだ、難しい単語であたしを煙にまこうってか?」
「……いえ、お気になさらず。とにかく、修行が目当てていらしたのですか?」


 ホーは考える。
 修行。
 いかにも宿屋らしからぬ業務だ。

 ならば受けてやろうと思った。
 駄目な点を見つければ、それだけ宿屋に対するクレームも増える。
 そうすれば、踏み倒さずとも宿代をゼロにできるかもしれない。

 だが。
 その前に一つ、妙案を思いつく。


「いいだろう。修行、受けてやるぜ」
「ご利用ありがとうございます」
「おおっと待ちな! ただし、あたしは自分より弱いヤツに鍛えてもらおうだなんて思わねーぞ。あたしに修行をつけようってんなら、あたしと勝負して負かしてみな!」


 修行前の実力検査――
 そういった大義名分で、このひょろい男をボコボコにしようと、ホーは考えた。

 だいたい、ケンカでも、こてんぱんにやられた記憶は残るものだ。
 一度メッタメタに負けさせれば、宿代減額の一助になるかもしれない。

 こちらに修行をつけようという者が、弱いはずがないと思う者もいるだろう。
 しかし、だいたい世間で『師匠』だの『教官』だの呼ばれている者は、『育成方法を知っているだけの弱者』であることが多い。

 剣の腕は一流だが実戦では三流だとか。
 試合形式には強いがケンカでは勝てないだとか。
 訓練を卒業しただけで、別に強者ではないだとか。
 そういう者も、多いのだ。


 だから相手が承諾した瞬間、攻撃をしかけよう。
 奇襲でも勝ちは勝ちだ。
 そう思いつつ、ホーはアレクがうなずくのを待って。


「勝負をする前に、こちらから一つ条件を出しても?」


 微妙に機先を制されるかたち。
 ホーは苛立って応じる。


「なんだよ」
「戦う前に、セーブをしてください」
「……はあ?」

 思いっきりいぶかしげな視線を向ける。
 アレクは気にした様子もなく、手を横にかざした。

 すると、彼の手の方向に、謎の物体が出現する。
 ほのかに発光する球体。
 宙に浮き、落ちてこない未確認物体。


「このセーブポイントに向けて『セーブする』と宣言してください。俺から出す条件はそれです。セーブさえしていただけたならば、どのような形式でも、何回でも、勝負をお受けしますよ」


 怪しい儀式を持ち掛けられた。
 呪いでもかけるつもりだろうか?
 ホーは警戒するが……

 ここまで来て、引き下がるのも格好がつかない。
 渋々承諾することにした。


「わかったわかった。テメーがそれで満足するならやってやる」
「ご協力ありがとうございます」
「その代わり、そっちも、今言ったことを守れよ? どのような形式でも、何回でも……たしかに聞いたからな」
「はい」
「ふん。じゃあ、行くぞ。『セーブする』――ってなあ!」


 いきなりの攻撃。
 武器のない場所を選んで使っているとはいえ、髪による強烈な横殴り。

 ドライアドは髪で戦う。
 そして、絶対数が少ない。
 なので手足による奇襲を警戒する者はいても、髪にいきなり殴られると予想できる者は少ない。

 絶対の確信。
 たしかな手応え。

 ……ただしそれは。
 設置されたカウンターテーブルを吹き飛ばしただけで。



「言い忘れましたが、備品の損傷についても、お気になさらず。まあ、言うまでもなかったようではありますが」



 ――真後ろから。
 そんな声と。
 頭を、ぽん、と優しく叩く感触があって。


「……へ? え?」


 ホーは振り返る暇さえ無く。
 頭上からのしかかるすさまじい重圧に、ぺしゃんこにされた。
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