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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

二章 モリーンの『屋敷』侵入

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32話

 翌朝。
 モリーンがヨミに買い物へ連れて行かれたのを見届けてから、アレクは出発した。
 店は双子に任せてある。
 いつかきっと継がせることになるので、いい経験になるだろう。



 目指す先は王城だった。
 南門から城へ向けて真っ直ぐに伸びる目抜き通り。
 買い物客で賑わう市場のあたりを抜けつつ、そこかしこに警備兵が立つ高級住宅街へ。

 厚手のシャツにエプロンという格好のアレクだが、警備兵に呼び止められることはない。
 彼らはアレクを認識できていないのか、視界を通っても、反応さえしなかった。


 王城へ。
 城門には当然、兵士が立っている。
 用事のない者は入れず、身なりが明らかに怪しいアレクも、当然、呼び止められる。

 そのはずが。
 アレクは衛兵の真横を通り過ぎ、王城へ入った。

 視線を向けられさえしない。
 どうやら気付いていない様子だった。

 慣れた足取りで城内を進む。
 高級な調度品。
 足元を柔らかく包む絨毯。
 よくわからない絵画や壺。

 通り過ぎて、アレクはようやく目的の場所へたどりつく。
 王城の四階――最上階の、一番奥。
 表札もなにもない、大きな扉。
 城内のはずが、どこぞの屋敷の玄関のように、ドアノッカーがついている。

 アレクはノブについているドアノッカーで扉を叩く。
 それから、少し待って、自ら扉を開いて中へ踏み入った。


 内部はきらびやかで、どこか退廃的な空間だった。
 きっと、金や銀で装飾され、宝石のはまった高級なものが、乱雑に、部屋中に散らばっているせいだろう。


 この部屋でまともに人が生活できるスペースは、部屋の中央と、ドアからそこへ続く道だけだ。
 中央。
 そこには、豪奢なソファに寝そべり、果実をほおばる女性がいた。

 ほとんど裸に近いような服装。
 シルエットだけならば、くるぶしまで覆うワンピース。
 けれど実態は、その大部分が半透明な素材でできており、下着のようなものが見えている。

 この部屋は、彼女の私室なのだから、どのような服装でも責められるいわれはない。
 また、部屋でだらしない格好でくつろいでいても、なおその女性は美しかった。

 アレクは部屋の中央へ歩いて行く。
 女性はソファに寝転がったまま、とろんとした、垂れた目でアレクを追う。
 口元には、果実と、笑み。
 ソファの上に広がった薄い桃色の髪を撫でて、彼女は、言う。



「あらあ、いらっしゃい。あなたはいつも突然ねえ」



 ゆったりしたしゃべり方。
 アレクは普段通りの笑みを浮かべ、女性の前にひざまずいた。


「はい。突然の来訪、失礼します。ルクレチア女王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく……」
「つまんない挨拶はいいわ。あなたから過度な敬意は不要だって、あたくし、言わなかった?」
「そうでしたね」


 アレクは立ち上がる。
 ルクレチアはかすかに笑った。


「それで、あたくしの寝室にどのようなご用件かしらあ?」
「アンロージーという憲兵について、質問させていただきたく」
「あたくし、あのおばさん嫌いなんだけどお」
「やはりご存じでしたか」
「王立憲兵団第二大隊長。憲兵は第一から第四まであって、第二は主に盗賊団などの集団犯罪を取り締まる部署で、その隊長なのよねえ」
「警察組織で言えば本庁の偉い人みたいな感じかな」
「……アレクってば相変わらずミステリアスねえ」


 好きよ、とルクレチアが笑う。
 アレクは笑い返した。


「それで、その方が『狐』の捜査をしているというような話を聞いたので、真偽をご存じないかと思い、参内いたしました」
「『狐』ぇ? 動物じゃなくて、十年前に滅んだ、盗賊団だか強盗団だか犯罪者集団の方よねえ。なんで今さらそんなもの調べるのかしら?」
「さあ? 俺も今さら掘り返されるとは思っていなかったので、どういうことかなと」
「なるほどねえ。『はいいろ』も『狐』も、とにかくあのクランにまつわる犯罪者は、十年前にまとめて死んだことになってるはずだけど……」
「その節はどうも」
「……『はいいろ』は未だ、偽物が出るぐらい大人気らしいじゃない? 聞いたわよお? オルブライト家のいざこざ」
「ああ、そこで『はいいろ』を名乗った偽物は、もう大丈夫です」
「あらあ、やっぱりどうにかしたのね?」
「はい。ギルドマスターに捜していただき、俺が本人を説得したところ、これからは真面目に生きていくことにしたようですから。バイロン氏の悪事を暴く際に、証人として名乗り出たのでは?」
「そうねえ。バイロン本人も、あなたからいただいた狐面をかぶると、すらすら話してくれるからとっても楽よお」
「反省の色が見られないようでしたらご一報ください」
「適宜そうさせていただくわねえ。まったく、危ない男ねえ、アレクってば。好きよ」
「冒険者をやめてから、俺はなにも危ないことはしていません。最近は、穏やかなものですよ」
「あなたのそういうところ、すごくゾクゾクするわあ」


 ルクレチアは頬を赤らめて体を抱く。
 アレクは最初のままの笑顔で続けた。


「本題に戻させていただきますが、アンロージーさんの『狐』捜査の噂の真偽、それとなく確かめていただけませんか? あとは……その方の、人間以外の人種への扱いなどもよければ」
「あらあ、女王様をあごで使うの?」
「見返りが必要であれば、おっしゃってください」
「そうねえ。今度やる……あなたの元いた世界にあった、なんだったかしら? 『女子会』? があるんだけどお。大きなお風呂がほしいのよねえ」
「わかりました。準備はお任せを」
「助かるわあ。それじゃあ、噂の真偽をたしかめてあげるわねえ。って言っても? 実際に動くのはあなたの鍛えた近衛騎士だけどねえ」
「みんなは元気でやっていますか?」
「そうねえ。強くて、忠実で、いい兵士たちよお。でも、あたくしより、あなたに忠誠を誓っている感じがたまらないわあ」
「そうなんですか? まあ、一応教官みたいなことはしましたから、彼女たちの訓練はもうしていませんけど、当時の名残で俺の言うことをつい聞いてしまうなんていうのは、あるかもですが」
「あなたの訓練は、心をバラバラにして造り替えるみたいなところ、あるからねえ」
「人のプレイしたデータを渡されてもうまくできないから、最初から始めただけですよ」
「……ミステリアスねえ」


 ルクレチアは果実を口にする。
 アレクは言う。


「それでは、お願いした件、どうぞよろしくお願いいたします」
「あらあ? もう帰っちゃうの? 近衛兵のみんなも会いたがってると思うけどお?」
「彼女たちはもう卒業しましたからね。今さら、どんな顔をして会えばいいのかわかりませんよ」
「ミステリアスで、危険で、でも繊細な人ねえ。ま、そういうことなら、引き留めないわ。でもまたいらしてねえ、あたくしの勇者様」
「……勇者らしいことは、できませんでしたけどね」
「魔王、だったかしらあ? あなたの世界で、一般的に勇者が倒すとされてるの? そういうのがいればよかったんだけどねえ」
「……女子会の日程は、追っての連絡を待てばよろしいので?」
「そうねえ。手紙を出すわ。あなたとヨミちゃんも参加できるようにしておこうかしらあ?」
「俺も、妻も、王宮でのパーティーなんて性に合いませんよ。だいたい、なんで女子会に俺が参加するんですか」
「あらあ? 若い子ばっかりのお風呂パーティーに興味ないのかしらあ?」
「俺には妻がいますので」
「一途ねえ。そういうの、好きよ」


 ルクレチアが笑う。
 アレクは最後に一礼をして、その場をあとにした。
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