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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

一章 ロレッタの『花園』制覇

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3話

「先に攻撃してください。俺から攻めると、不意打ちみたいになっちゃうので」



 宿屋裏手の、そう広くはない空き地だ。
 井戸があって、栽培しているらしき薬草があった。

 周囲を家屋に囲まれていて、外からは見えない場所だ。
 そのせいで圧迫感があるものの、そこまで狭いというほどではない。
 むしろ、周囲から見えないというのは、街中で戦うことを思えば、ちょうどいいとも言える。


 実際に、剣を持って向かい合う。
 ロレッタは二つの点におどろき、あきれた。

 一つは、アレクの大口が、こうして向かい合っても今まで通りであることだ。
 実際に戦いになれば、ひるみやおびえがあるかと思っていたのだが……
 少なくとも、度胸だけは本物らしい。
 実力が本物かは、これからわかるだろう。

 そしてもう一つ。
 さすがにロレッタはたずねた。


「武器はいいのか?」


 アレクは素手だった。
 指摘すると、彼は困ったように笑う。


「今の俺の腕力に耐えられる武器が存在しないんですよ」
「……大口もそこまでいくと、見事なものだ。いくら強い冒険者でも、そんな者が存在するわけがないだろう。それとも、腕力に見合う武器を作成する金がないという意味なのか?」
「いえ、武器は色々試しました。素材もそうですし、ドワーフ族の鍛冶屋に作成も依頼したんですけど、一回振ったら壊れるものしかできなくって。それもあって冒険者を引退したんですけどね。素手で殴りたくない、気持ち悪いモンスターもいるんで」


 ロレッタは不思議なことに気付く。
 先ほどから、大口を叩く彼だが……

 一度も。
 嘘をついているように、見えないのだ。

 こうして向かい合っていても、まるで強いと感じられない。
 その彼が、すべての大口で、気負ったり、嘘を言ったりしている雰囲気がない。


「……まあ、素手で戦う者も、いないではない。あなたがいいなら、行くぞ」
「ああ、はい。俺に不意打ちをするのは不可能なんで、いつ来ていただいても」
「……そういうことならば」


 ロレッタは剣を抜く。
 そして、分析を開始した。

 彼我の距離はおおよそ五歩ぶん。
 普通ならば剣の間合いまで詰めるのに二動作は必要だろう。
 しかし。


「言っておくが、私は――冒険者としては短いが、剣士としては、長い」


 五歩分の距離を詰める一歩。
 左足で全身を放つ、矢のような挙動。
 予備動作なし。
 構えた相手にも不意打ち同然に命中する、ロレッタ必殺の初撃。
 踏みこみの速度はそのまま突きとなって相手に襲いかかる。
 だが。


「あの、殺す気でいいですよ」


 アレクは、眉間を狙って放たれた剣先を、指でつまんだ。
 ロレッタは呼吸を忘れる。

 たしかに、殺す気はなかった。
 寸止めのつもりはあった。
 当たり前だ。ただの宿屋の受付を殺してしまうわけにはいかない。

 でも。
 その『ただの宿屋の受付』に、軽く受け止められる程度では、なかったはずだ。

 突かれたあとで相手はこちらの動きに気付く。
 そういった速度と挙動の一撃だったはずなのに。

 ……いや、それ以前に。
 眉間に放たれた真剣による突きを、人差し指と親指だけでつまんで止めるということが、そもそも異常事態だ。
 そんな程度で止まるほど、真剣の突きは軽くない。


 アレクは。
 困ったように頭を掻いた。


「参ったな。いや、実力を示すことになる機会は多いんですけど、だいたいみなさん、殺さないつもりで来るんですよね。……俺、そんなに弱く見えますか?」


 彼は、悩んでいるようだった。
 まったくのんきな男だった。
 そのくせ、彼につままれた剣は、力をこめてもピクリとも動かない。

 ロレッタは呼吸を再開し、力一杯、剣を引っぱった。
 だが抜けない。
 彼は、それでようやく気付いたようで。


「ああ、申し訳ない。俺が放さなきゃ動けないですよね」


 うっかりしていたという調子で、言う。
 人差し指と親指を開く。
 それだけで、今まで大地に埋まっていたかと思うほど動かなかった剣が抜けた。
 そして。


「やり直しましょう。どこを狙ってくれてもいいです。万が一当たっても、俺、丈夫なんで。セーブもしてありますし。遠慮無く、どーんとやっちゃってください。その方が納得するでしょ?」


 納得。
 納得というのなら、ロレッタはとっくに納得していた。

 ただの宿屋受付ではない。
 少なくとも、腕力にまつわる逸話――彼の力に耐えうる武器がないという話については、納得しかけている。

 だから、ロレッタの目的は変わる。
 どうしたらこの男に、一撃を与えられるか。
 真剣に検討して。
 彼女は、剣を鞘に納めた。


「……ところで質問をいいかな?」
「はい? まあ、いいですけど」
「今からでも遅くない。鎧をつけたりはしないのか?」
「並みの鎧より、俺の皮膚の方が丈夫なんで」
「そうか。その言葉、信じる……いや、おかしいが、まあ、そう言うなら、行くぞ」


 納めた剣。
 柄に手を添える。

 鞘越しに魔力をこめる。
 ――剣技を使う。

 冒険者には二種類いる。
 魔法の力により、大自然に働きかけ、炎や風を操る者。
 そして、魔法の力を肉体にこめて体を強化して戦う者。

 ロレッタは後者だった。
 特に、剣術の適性が高い。
 中でも得意とするのが、速度を上げる技術だった。


「予告する。斜め下から、右の脇腹を通って、左の肩まで斬り抜ける。備えてくれ」
「あー、なるほど。この世界にも居合いってあるんだな……わかりました。でもいいんですか? 軌道を明かしたら、相手が誰だって受け止められると思いますけど」
「問題ない」


 彼女は呼吸を整える。
 そして。



「軌道を明かした程度で普通の者に受け止められる技を、奥の手にはしない」



 瞬間。
 鞘から光がほとばしった。

 魔力をこめた剣の軌道。
 その、残光だ。

 剣自体は放たれた瞬間に終着点にたどり着いている。
 目に映るのは光の軌跡のみ。
 すべての敵は、斬られたあとで自分の中をほとばしる光の筋に気付く。


 神速を誇るはずの剣技。
 それを。


「意外と速くてびっくりしました」


 アレクは、こともなげに、腕で受けていた。
 神速の剣を受ける――
 いや、それ以上におかしい点がある。
 どうして真剣を、生身の腕で受けられるのか。

 ロレッタは自分の剣の切れ味が急に落ちたのかと、不安になった。
 けれど、たしかに、彼の袖は斬れている。

 ……あきれた男だ。
 単純に、今までの大言壮語は、大言壮語でもなんでもなかったということになる。

 彼の腕力に耐えられる武器は、真実、この世になく。
 彼の皮膚は、真実、鎧よりも丈夫で。


「今のはいい攻撃だったと思います。じゃあ、反撃しますね」


 ……彼は、真実。
 手加減が苦手なのだと。

 腹部をなにか拳大のもので――いや、拳で撃ち抜かれる感覚を覚えつつ、ロレッタは笑った。
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