挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

十七章 アレクサンダーの生誕

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

234/249

234話

「まあ僕の紹介なんかどうでもいいでしょう。君にはすべきことがある。あ、今鎧持ってきますね。デザインは気に入ってもらえるかなあ?」


 いそいそと――
 そう表現するのがふさわしい動作で、自己紹介だけ済ませた『真白なる夜』――シロは洞窟の奥へと引っ込んでいった。

 アレクサンダーはヨミと二人で取り残される。
 思わず、問いかけた。


「……あれ、五百年前の英雄パーティーの一人だよね?」
「…………まあその、いい人そうでしょ?」


 ヨミもコメントに困っているようだった。
 たしかに悪い人ではなさそうだが――


「予想より軽そう……明るそうな人でびっくりしたよ」
「まあね。ただ――最初はだいぶ沈んでたみたいだよ。英雄に顔向けできないと思ってたみたいで」
「顔向けできない?」
「ほら、殺すつもりで『憑依術』を開発したのに、それが不老不死を生み出す結果になっちゃったから」
「……不老不死」
「そうだよ。英雄アレクサンダーの『病状』を拡散させる手段。苦しむ人を増やすかもしれない可能性。そして――少しあとの、あなたの姿だよ」
「……」
「ぼくはアレクに帰って来てほしいけど――それでも、もう一度問うよ。あなたは本当に、いいの?」


 念押し。
 どうやらヨミの方針は、本当に変わったらしい。

 嘘をつかず、隠し事をせず、念まで押す。
 こちらからの信頼に応える――ということだろうか。

 だから、アレクサンダーは言う。
 記憶で『不老不死』のなんたるかを知りつつも――


「俺はそれでも、やっぱり、自分の体を手に入れる」


 もっと未来を想うべきなのかもしれない、とアレクサンダーは思った。
 不老不死――それがどういうことなのかは、わかっているつもりだ。

 英雄の嘆きを知っている。
 ……母の苦しみを知っている。

 でも――
 彼は、ヨミを見て、言う。


「俺はアレクさんに問いたださなきゃいけないことがある」
「……穏やかじゃないね」
「穏やかになれる自信はないよ。だから――最悪、戦うことになるかもしれない」
「なにを問いただすの?」


 その質問に答えるには、勇気が必要だった。
 だからアレクサンダーは口ごもり――

 都合よく。
 シロが鎧を肩にかついで、奥から現れた。


「お待たせ」


 よく見れば、担がれ運ばれてきたそれは、鎧のようで鎧ではない。
 シロは鎧の腹部あたりを肩に乗せているのだけれど、兜や籠手やすね当てなどが外れて落下する様子がない。

 鎧のような、一つなぎのヒトガタ。
 金属製の人形という表現が正しいのだろう。

 まさしく――乗り移るためのあつらえられた、物体。
 鍛冶神ダヴィッド作だという、鋼の器だった。


「僕と対みたいで申し訳ないんですが、これが一番、まともでした。まあ――もっとずんぐりむっくりした『ダヴィッド好みの』かたちはあるんだけれど、細身の方が動きやすいからね。僕としてはこれをおすすめしておきますよ」


 地面に寝かせられたのは、漆黒の鎧だった。
 本当に、シロとは対象的なデザインだ――色もそうだが、シロの姿は角のない曲面のみの構成なのに対し、その漆黒の鎧は、角の多い鋭角なデザインなのだ。


「これが君の新しい体――で、いいのかな?」


 シロがたずねてくる。
 その声音は明るく、穏やかで――不老不死による苦しみは見られない。
 だけれど――聞いてみようと思った。


「不老不死は、どんな感じなんだ?」


 意味のない問いかけだ。
 どう言われたところでやることに変わりはないのだから。

 ……アレクサンダーは思う。
 自分は、色々なことを知りたがりすぎではないか、と。

 まるで子供だ。
 昔の――少し前までの、ブランだ。

 答えをいつでも求めている。
 気になることが多くてたまらない。

 それはきっと、自分がまだ、本当に子供だからだろう。
 この体で産まれたばかりの意識――大人の体でも、心はまだ子供。それが自分なのだ。

 シロは顎を掻くような動作をする。
 そして、


「恥ずかしい、ですかね」
「……つらいとか、苦しいとかじゃないのか」
「いえもう、この姿はそのまま恥そのものですよ。ほら、知ってます? 僕は我が主――英雄アレクサンダーを殺して差し上げたくって、『憑依術』を開発したんです。月光さんができるアレを見本にね」
「それは聞いた」
「その結果が――この姿ですよ」
「……」
「恥ずかしくて顔向けできません。不老不死たる我が主を救って差し上げるはずが、僕が彼よりも人ならざる者になってしまった。当然ながら、失敗です。ですからせめて、さらに研究を進めて、きちんと寿命で死ぬぐらいはできるようにしようとしていたんですが――」
「……」
「僕の研究が実を結ぶ前に、月光さんが見事に目標を達成されたようで」
「まあ……」
「恥の上塗りですよ。恥ずかしくて引きこもっていたら、先を越されてしまい、まったくもってお恥ずかしい話です。――そもそも、僕の努力は間違いだったんじゃないでしょうかね?」
「……」
「僕は英雄を殺す努力をするよりも、英雄のお側に仕えているべきだった――まあ、当時、僕はすでに五十を超えていましたから、どんなにがんばってもせいぜいあと二十年ぐらいしか英雄にお仕えすることはできなかったのでしょうが、それでも、側にいるべきだったのではないかと、今では思いますよ」
「後悔してるのか?」
「僕は後悔ばっかりしていますよ。なんなら英雄アレクサンダーと旅をしたことさえ、後悔したことがあります」
「……」
「僕なんかがなんのお役に立てているのか、それがずっと疑問でした。『憑依術』をいちおう完成させた時は、不老不死の技法を生み出してしまい、それが他者に利用される可能性を考えて、後悔しました。それに――まあ、色々悔やんでます」


 シロは、なぜだかヨミの方を見ていた。
 その視線の――目のない顔が彼女を向いた意味が、アレクサンダーにはわからなかったが。

 シロは笑う。
 おどけたように。


「あっはっは。……そういうわけでして、色々ままならない感じです。恥辱のあまり煩悶し、身もだえする夜も一度や二度ではありません。こんな醜い姿が、不老不死というもので、この恥は永遠に消えないと、僕は思っています」
「……」
「こんな全裸より恥ずかしい姿をさらしているもので、本当は誰ともかかわるつもりがありませんでした。ただ一心に術の完成を目指し、完成次第英雄を殺して差し上げようと思っていました。そういう意味では生きる目標はもうないようなものですけれど、まあ――最近、明るい女性に出会いましてね。少しは救われています。それに」
「……」
「英雄が無事に死ねたことを、教えていただきました。生きていたかいは、あったというわけですね」
「……でも、あなたは、なにもできなかった」
「おや、手厳しい。いじけちゃいますよ? ……なんてね。――おっしゃる通り、僕はなにもできませんでした。だからこそ、英雄に代わって、英雄を殺してくださった方々にお礼ができるというわけです」
「……」
「不老不死は悪いことばかりですよ。でも、たまにいいこともある。少なくとも僕は、寿命通りに死んでいれば聞けなかったであろう、『英雄の死』というニュースを聞けたんです。それだけで僕は、もう全部報われた気分ですよ」
「そんなものか」
「そんなものです。英雄の死を望めぬまま、後悔の中死ぬよりよほどいい人生でした」
「……そっか」
「なーんて、まだまだ僕の人生は終わらないんですけどね。ただまあ、そのうち『死ねる』ようにはするつもりですよ。優れた助手もいますし、研究の結実はそう遠くないでしょう。もっとも光明があるだけで確証はないので、そこらへんお間違いなく」


 朗らかに笑う。
 アレクサンダーは、うなずいて――


「あなたの話を聞けてよかった。……俺もようやく、踏ん切りがついた感じがするよ」


 変えるはずのなかった予定だ。
 でも――たしかに、恐怖はあった。

 まだこの精神は産まれたばかりだ。
 情動に身を任せて不老不死になったら、一生かけて――永遠かけて後悔するのではないかと、そういう恐怖も、もちろんあった。

 話して、恐怖が真実だということはわかった。
 きっと後悔はする。
 でも――後悔以上に得るものもあるのだと、理解できた。


「やろう。アレクさんを表に出して――俺は、アレクさんを問い詰める」
「『問いただす』が『問い詰める』になってるんだけど」


 ヨミが苦笑していた。
 アレクサンダーはうなずく。


「ああ、詰問するんだ。……気になることが多すぎる。だから彼に全部答えてもらう。そのために俺は、不老不死にだってなんだってなろう」
「わかったよ。じゃあ――手順通りに」


 ヨミが下がる。
 シロもまた、漆黒の鎧とアレクサンダーから、距離を置いた。
 アレクサンダーは精神を集中する。

 今一度、自問した。
 自分とアレクは別人なのか?

 たしかに、別人だ――それはもう、誰にどう言われようが、揺るがない。
 そしてもう、消えてもいいなどとは思わない。

 不老不死になろうが。
 体が鋼となろうが。

 自分の体を手に入れる。
 そうして――彼に問いかける。

 決意を抱き、目を閉じる。
 視界が暗くなって、意識が遠のいて、世界が変わるような心地がして――
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ