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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

十六章 ブランの『始まり』の物語

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224話

「たまたま偶然通りがかりました。いや本当に、とんでもない場面に偶然出くわしてしまったものです。決して娘が心配であとをつけていたわけではないんですよ」


 完全に言い訳にしか聞こえないことを、彼――アレクは聞かれてもいないのに言い出した。
 つまり――偶然ではなく、尾行していたのだ。
 娘が心配で、あとをつけていたのだ。

 ブラン的にアレクが今白状したも同然の行為はギリギリだったけれど――
 それでも黙って見ていようとしていてくれたことは、ありがたかった。

 きっと助けを求めなければ、知らないフリをしてくれたのだろう。
 いや、知らないフリならば、今までもしてくれていたのだろう――ブランの自覚できない子供っぽさとか、そういうものを黙って見ていてくれたのだ。


「そんなことはどうでもいい」


 と、追手を代表しているであろう、中年の猫獣人が言った。
 彼が乗る動物はまだ動揺しているようだったけれど、手綱を引いてなだめながら、


「我らは祟りを終わらせる。その双子を生贄に捧げ――悲しみを終わらせる。今を逃せば二度と巡り会えぬかもしれない。邪魔するならば、よそものだろうと容赦はしないぞ」
「ああ、なにかおっしゃっていましたねえ。双子を生んだ娘がどうとか、祟り神がどうとか、たった二人の犠牲で救われるだとか、うんぬんかんぬん」
「……そうだ。だから――」
「申し訳ないのですが、俺には関係ありません」
「……」
「そんなことはどうでもいい――あなたが俺にそうおっしゃったように、俺もまた、あなた方の事情はどうでもいいのです。娘が困っていて、助けを求めているから、助ける。ここに立つことにそれ以上の理由はありません」
「……娘……義理の父親か? つまり、この双子の母親は生きていたのか?」
「その方は知りませんし、この二人の娘とは、俺も、俺の妻も一切の血縁関係はありません。ついでに申し上げれば、この二人の身分は奴隷です。俺は彼女らが赤ん坊の時に、代償を払って彼女らを購入した者であり、戸籍上父親でさえありません」
「……金なら払う。我らの悲しみを終わらせるためならば、奴隷二人分ぐらい安いものだ」
「そうですか。では、王城が買えるぐらいの金額を用意してください」
「……馬鹿にしているのか」
「うーんと、俺は丁寧な言葉遣いが苦手でして、未だ言葉遣いの修行中の身なので、こういう時どう申し上げていいかわからないのですが……」
「……なんだ」
「馬鹿にしてるのはテメーの方だよ」


 ビリビリと、毛先が震えるのをブランは感じた。
 空気が途端に重苦しくなり、アレクの足元の草原が、まるでアレクを怖れるようになびき、倒れ始めた。

 見たことがない――感情の飛沫。
 背中を見ているだけで呼吸さえできなくなるほどのなにかが、アレクから発せられていた。


「あんたは、あんたの娘の命を金で差し出すのか?」
「……買った奴隷を娘と呼ぶ貴様に言われたくはない」
「授かった手段が違うだけだ。どんな出会い方でも、俺は二人に愛情をもって接してきたし、育ててきた。拾おうが買おうが関係ない。自分が育てた子供を、金で売るわけねーだろ」
「……」
「……ああ、違うんだよ。あんたの事情をどうこう言うつもりはない。それに、こうやって立ちはだかる理由だって、本当はない。娘二人とじいさん一人ぐらい、抱えて逃げることはできるんだ。逃げて、見失うまで匿えば、それで済んだ話なんだ」
「…………」
「ただ――いらついたんだ」
「……なんだと?」
「正統な理由があるみたいな顔して、子供を殺そうとするあんたらが、たまらなく嫌いで、なにか言ってやりたくなっただけなんだよ」
「貴様になにがわかる」
「わからねーよ。『自分たちには特別な事情があります』みたいな顔してる連中の気持ちなんかわかるはずねーだろ」
「特別な事情はある」
「一言で言ってみろ」
「……一言では、語り尽くせぬ、複雑な事情が、あるのだ」
「一言で言えないのは、言い訳が積み重なってるからだ。装飾だらけで本質を見失ってるから一言で言えないし、言うのが怖いだけだ」
「……」
「祟り神とか、生贄だとか、運命だとか――余計なものばっかり言ってないで、一言で言ってみろ。子供を殺すに足る事情があると胸を張るなら、俺を納得させてみろ」
「……貴様こそ、なぜただの奴隷を守ろうとするんだ」
「愛してるからだよ」
「……」
「親が子供を守ろうとするのに、これ以上の理由がいるか」
「…………私だって、娘を愛していた」
「じゃあなんで――いや、違うな。だから、あんたの事情に興味はないんだ。あんたがこの子たちを殺す理由を一言で言えようがやっぱり俺の行動は変わらないし、一言で言えないからって正しくないってわけでもない」
「……」
「ただ、あんたの行動は俺にとって不正解っていうだけで――不正解で、なにか言ってやりたいぐらいに、むかつくってだけだ」
「それでも引き下がれない」
「つまり、俺の行動も主張も、あんたにとって不正解っていうわけだ」
「……そうだ」
「逃げようかどうしようか迷ったけど、これで決心がついた。――俺はあんたに八つ当たりする」


 アレクを中心に風が吹き始める。
 それは魔力の奔流だった――まだ魔法というかたちを与えられてさえいない魔力が、感情に乗って渦巻き、風を起こしているだけ。

 だというのに、耳をろうする豪風が吹き荒れる。
 それは感情の激しさをそのまま表しているかのようだ。


「悪いな。本当に、ただの八つ当たりだ。俺は、俺の過去のせいで、あんたらみたいなのを許せない。――俺の人生には子供を捨てる親が多すぎた」
「……」
「もちろん、みんな、特別な事情があったんだろう。そうせざるを得ないだけの理由はあったんだろう。でも、それでも――子供にとって、捨てられた事実には変わりがない。俺はそういう親連中に色々言いたいんだけど、みんな、もう言える場所にいない」
「…………」
「だからあんたを代理にする。……自分でもどうかしてると思う。あんたの罪じゃないもので、俺はあんたを責め立てる。でも大丈夫だ。絶対に殺さないし、死なせない」


 アレクが手を横にかざす。
 出現するのは、青く発光する球体――セーブポイント。


「あれに『セーブする』と言ってくれ。あんたが意思を変えて、うちの子とか、同じような白黒の双子とかに手を出さないって誓うまで、俺はあんたをへこませる。その過程で死ぬかもしれないけれど、俺はあんたを殺したくないんだ」
「……」
「殺したくないっていうか――死なせてやらない」
「……」
「理不尽に感じるだろうけど、我慢してくれ。――ウチの娘にあんたがしようとしていたことも、娘からすれば充分に理不尽だ」


 風が渦巻く。
 黒雲が大地を陰らせる。

 ――それはかつての大嵐。
 祟り神を生み出した大災害を連想させる――たった一人の男。


「さて、理不尽な暴力を始めようか。あんたらの言う祟り神と、子供を守ろうとする父親と、どっちが怖いか比べてみろ」


 迫り来るのはただの人為。
 しかしその人為は災害にもせまる迫力をもって、蹂躙を開始した。







 双子を捧げるのはあきらめざるを得なかった。
 救われない。なにも――変わらない。

 また誰かがみごもるたびに双子ではないかという心配をしなければいけないのか。
 また――娘のような、犠牲者が出るのか。


「解決法はありますよ」


 猫球旅団のメンバー十人をあしらった男は、倒れ伏す猫獣人に提案する。
 それは――おおよそ現実的とは思えない意見であった。


「あなたがたのお話をうかがう限り、祟り神っていうのは『ものすごい災害』を引き起こすわけでしょう? だったら――災害より強くなればいいのです。双子が生まれ、それが原因で大災害が来たって、それに抵抗できる物理的な力があれば、問題はないはずだ。弱いなら強くなればいい。誰でもわかる、簡単なことでしょう?」


 神を超えろ、と男は言う。
 無茶な注文だ。しかし――


「俺が自分を鍛えた方法で、あなた方を鍛えましょう」
「……」
「これもなにかの縁です。事情を知ってしまった以上、双子というだけで犠牲になる母子が出ないよう協力しましょう。八つ当たりのお詫びに、無料で引き受けますよ」


 その人体は神より強い。
 ……実際に戦わせてみたらどうかはわからないが、脅威度で言えば、あの日の大嵐と同じかそれ以上だった。

 人だと思えない。
 ただの、手足の生えた脅威。

 なるほどそのぐらいまで強くなれるのであれば、祟り神など恐るるに足らないだろう。
 しかし――


「信仰は、もう根付いている」
「……」
「今さら取り返しがつかない。双子は不幸をもたらすと――たとえ双子がもたらす不幸を超えることができたとして、それ以上の不幸が来ると、みな思うだけだろう」
「それこそ俺の得意分野ですよ」
「……?」
「説得しましょう。みなさんを。これは説得っていうか――カウンセリングですね」


 彼は笑う。
 ……かくして猫球旅団は、極めて不幸で力尽くで理不尽なハッピーエンドを押しつけられることとなった。

 ようするに――これは不幸なお話だ。
 理不尽に理不尽が重なって、それに上乗せされるような理不尽により解決した、強引で不幸で答えのない――とあるキャラバンの、物語。
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