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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

十四章 ネイの都市伝説取材

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200話

「………………………………えっと、ウチは本当にダンジョンを制覇したんでしょうか?」


 翌日――
 どの翌日か、わからない。
 ネイ的に言えば、つい先ほど『風鳴りの塔』に入ったばかりで――

 今。
 なぜか『銀の狐亭』の客室にいる。

 だから今が翌日と言われると少々混乱するのだが――
 なんでも、ネイが『風鳴りの塔』を制覇した翌日、らしいのだ。

 ネイは客室のベッドに寝ていた。
 上体だけ起こして、扉のところに立つアレクの話を聞いているかたちだ。


「はい。たしかにあなたが、ダンジョンマスターを倒されましたよ。ギルドマスターへの報告は勝手ながら俺が代わりにしておきましたので、もう少しゆっくりお休みいただいても大丈夫です」


 そういうことらしい。
 ……なんか色々附に落ちないというか、記憶の抜けがすさまじくて、話についていけない。
 ダンジョン内部の様子が一切記憶にないのだから、『制覇しました』と言われて『はいそうですか』とは納得できないのだが……


「あの、それで、どうだったんでしょうか? ウチは『風鳴りの塔』で、モンスター化した父を見つけたんですか?」
「そんなものはなかったようです」
「……そうですか。あ、でも、アレクさんもモンスター化しかけてる人を知ってるって言ってませんでしたか!?」
「ああ、それはウチの妻です。最近、娘に対して過保護でね。俺の世界だと、過保護すぎる親を『モンスターペアレント』と称するんですよ」
「……つまり、ウチを信じるって言ったのは、リップサービスなんじゃないですか!?」
「まあ客商売ですので」


 彼は笑う。
 色々腑に落ちない。


「……あの、また『風鳴りの塔』を探索に行きたいんですけど」
「そうですねえ。まあ、今はダンジョン制覇の事後調査をしていて入れないかとは思います。それに古いダンジョンのようで、あちこち崩れかけているようですから、しばらく立ち入り禁止になるかなと思いますが、そのあとなら、探索に行けるでしょうね」
「いつになるんですか、それ……」
「何年後でしょうかねえ。その時に俺がまだ死んでいなければ、またセーブポイントを貸し出しましょう」


 俺が死んでいなければ――
 というのは、たぶん、寿命だろう。

 つまり早くとも数十年先のこと、ということになる。
 ネイはガックリと肩を落とした。


「……けっきょく、真実はわからずじまいですね」
「まあ、真実なんて知らなくても人は生きていけますから」
「それはそうなんですがっ! しかしウチは記者ですので!」
「あなたは運命を信じますか?」
「は!?」
「俺は、最近、結構信じます。なので――今知ることができなかったならば、運命が今知るべきではないとあなたに示しているのだと、そういう解釈は、どうでしょうか?」
「……」
「納得できないならば――運命に抗ってください。そのためには、強くならねば。今よりも、もっとずっと。現実に負けないぐらいに、強く」


 ……アレクは絶対になにか知っている。
 ネイは思う。けれど――問い詰めたって、無意味だろう。

 きっと彼の知る真実は、今のネイには受け止められないようなものなのだ。
 だから強くなれと――『運命』の名を借りて、彼はネイに、そう言っているのだろう。


「……わかりました。父のモンスター化の真相は、もうちょっと強くなったらまた調べます」
「それがいいでしょう」
「でもっ! ダンジョンを制覇したのがウチなら、記事の掲載許可は下りるんですよね!?」
「そうですねえ。今、制覇後調査が行われているはずですから、その結果、本当に制覇されていれば、許可は下りるでしょう。ギルドマスターは嘘はつきませんし」
「やっほう! だったら記事を書かないと!」
「喜んでくださったなら、よかったですよ」
「……まあ、けっきょく、できることしか、できませんし」
「……」
「ウチはウチの信じる方法で、信用を集めて、真実を追い求めます。……どんなに時間がかかる方法でも、ウチにできるのはこの方法ですし、それに――」
「……それに?」
「ウチがやりたいのも、この方法――『記事を書く』っていう方法ですからね」


 最初は苦し紛れでやっていた、世界の真実を記事にして貼り出すという方法。
 今では、趣味であり、生業であり、生き様のように、変質していた。

 己を記せ、と誰かが言った。
 いや、言ったかどうか、定かではない――けれど、大事なフレーズとして、ネイの中に、いつの間にかその言葉は宿っている。

 ならば、己を記していこう。
 記事というかたちで――そこに己の信念をこめて、見失いようのない、強固な自分を、記していこうと、そう思う。

 ……まあ、そんな強く自分を記していくというのは、それはそれで修行が必要だ。
 そしてセーブしようがロードしようがあんまり関係のないこの修行は、長い時間がかかるだろう。
 だからこそライフワークで、だからこそ――


「書き続けていれば、いつか、真実にたどり着くでしょう。一生を懸ければね」
「……そうですね」
「ある意味で命懸けです。でもいつかモノにしてみせますから。いつかウチの記事が王都で一番読まれる文章になった時には、宿帳に書いたウチのサインを引っ張り出して、額にでも飾ってください」
「宿帳を切り貼りし、人目に触れるところにさらすというのは、ちょっと宿屋として論外なのですが……」
「じゃあじゃあ、部屋にサイン書いておきますから!」
「やめてください。……ともあれ、記事執筆のお邪魔にならないよう、俺はこれで。チェックアウトはそちらのタイミングにお任せしますので。どうせ――都市伝説の宿です。お客様も、あまり来ませんからね」


 アレクはそう言って笑う。
 ネイも笑い、「はい」とうなずいて、


「……お気遣いに感謝します」


 ……薄く、誰かの声が記憶に残っている。
 とても怖ろしい、自分じゃない自分の声。

 ……体を、心を、なにかに塗りつぶされるような恐怖を覚えている。
 まあ、覚えているのは本当にそんな、よくわからない恐怖と印象だけで、実際になにがあったのかはわからないのだけれど――

 声を、覚えている。
 ロードしましょうか、という声。
 なんだか本当になんにもよくわからないし、全然なにも覚えてはいないのだけれど――


「……アレクさんが、ウチを怖いものから救ってくれたんですよね? ありがとうございました」


 なにかに助けられた気がして。
 ……助ける際に『ロード』とか口走るのは、目の前のこの人しかいないだろうとネイは思うのだ。
 しかし――アレクは首をかしげる。


「なんだかよくわかりませんが、どういたしまして」


 彼は言う。
 情報のとぼしい、受け手によっていかようにも見える――都市伝説みたいな、笑顔を浮かべて。







「なんじゃ、お優しいことじゃのう、貴様」


 ネイの部屋をあとにして、一階へ――
 その通路たる階段の途中で、アレクを待ち受ける人物がいた。

 九尾――いや、十尾を持つ狐獣人。
 銀色の毛並みの、奇妙な衣装をまとった、まだまだ子供という風体のその女性は。


「……母さん、聞いてたのか」
「気付いておったくせに、ぬけぬけと」
「……それで、優しいって?」
「真実を告げてやらんのか、ということじゃな。あの娘が――あの娘のもう一つの人格が両親を殺したのじゃと、教えてやらんのかと、そういうことじゃ」
「それはあくまでも俺の推測に過ぎないから」


 証拠はなかった。
 もう数年経つ。本当にネイが両親を殺していたとして、指紋採取もできないこの世界では、物的証拠など回収できないだろう。

 それに――もう一つの人格。
 これについて、アレクからは『そのように見えた』というだけだ。

 しかし、母は――『月光』は笑う。
 小馬鹿にしたように。


「推測のう。貴様が推測程度で、己に課した縛りを破り、人が攻略中のダンジョンに突入するなど、ありうるのか?」
「……ステータスがあからさまに変わってた。だから、きっと、彼女じゃない彼女が、彼女の中にいるとは、思う。――ステータスが人格によって結構変わるのは、すでに知ってるし」


 アレクが『そのように見えた』というのは、ただの印象ではない。
 ステータス。
 数字と文字からなるその羅列を、アレクの目は捉えている。

『風鳴りの塔』に入る以前とダンジョンマスターの部屋にいたネイとでは、あきらかにステータスが違っていた。
 気配さえ、別物だった。

 一度認識した気配ならば、個人まで特定できる――そのアレクにとって、ネイの気配は無視できない変化を遂げていたのだ。
 だからこそ、ダンジョンマスターの部屋まで様子を見に行ったのだけれど。


「……もう少し詳しく調べてみる必要がありそうだ。ネイさんの様子は尋常じゃなかった。調べれば、彼女の両親が『風鳴りの塔』に挑んだ本当の理由もわかるはずだ」
「あの娘は『カグヤの呪い』とつぶやいておったそうじゃな」
「……そうだな。無意識にだろうけど、そうつぶやいてたようにも、聞こえた。だからあんたにも、伝えた。カグヤの名が出たなら伝えるべきだろうって思ったから」
「気に入らんのう。建国の英雄どもは、まだわらわの人生に影を落とすか。……とはいえ、カグヤが人を呪うとは思えんがな。おそらく『カグヤの呪い』はカグヤとは無関係じゃぞ。それどころか――カグヤが生まれる以前からあったものだと、わらわには思える」
「……まあ、あなたなら、そう思うだろうな」
「ふん。なにせわらわ自身が、カグヤの別人格である可能性はありそうじゃからな。わらわの正体なんぞ、わらわ自身にもわからんが――一つの可能性として『別人格』というのは、そう悪くない推測じゃ。なににせよ謎は残るがのう」
「……まあ、真実を知らなくても、人は生きていけるから」
「うむ。しかし暇じゃからな、『カグヤの呪い』についてはわらわが調べよう」
「……大丈夫なのか? 弱いのに」
「貴様と比べれば弱いじゃろうが、今のわらわはそこそこのもんじゃぞ。……というか貴様、わらわがいったい何年黒幕をやっとったと思っとるんじゃ。クックック……あとで吠えヅラかくでないぞ。わらわは暗躍させたら右に出る者はおらんでな」
「表舞台に引きずり出すと弱いけどな……」
「ああ、そうそう、人を貸せ。わらわは暗躍させれば右に出る者はおらんが、自ら行動すると簡単にボロを出すでな。貴様にもそのせいで捕獲された」
「……わかった。オッタさんと協力して臨んでくれ」
「あの娘か……あの娘はなあ、気付けばわらわの尻尾に埋まっておるゆえ、あんましそばに起きたくないんじゃが……」
「……人事はブリジットに任せてるから、文句があるなら『翡翠のゆりかご亭』に」
「あの娘怖いからやじゃ。会いとうない」
「……」
「まあ、てきとうにやるでな。貴様の名前を出せばどんな命令もだいたい通るじゃろ」
「……ほどほどに。過ぎたことをしたらお仕置きするからな」
「脅迫するでない。最近だんだん貴様に『お仕置き』と言われるとゾクゾクするようになってきたでな」
「……」
「どうじゃ、母親に興奮されると気持ちが萎えるであろう」
「……やっぱり殺すべきだったかなあ」
「殺す――か。『はいいろ』にもたまに言われたのう。『愛している』という意味じゃな?」
「……とにかく、変なことはしないように」
「クックック……任せい」


 普通の会話のはずなのに、なぜだか悪巧みでもしているような気分になる。
 母の黒幕癖は抜けそうもないなとアレクは思った。

 ともあれ話はまとまった。
『月光』は階段をくだっていく――その途中。


「そういえば――ヨミの調子はどうじゃ?」
「……今日も元気に働いてたろ?」
「文脈を読まんのは貴様のいいところであり、悪いところじゃな。それとも、わざとか……まあいい。貴様がそういう態度なら、わらわはわらわで暗躍するだけじゃ。安心せい。悪いようにはせんわ」


 ハーッハッハッハ!
 そんな高笑いをしながら、『月光』が去って行く――どうしてだろう、味方につけたはずが会話をするたびに裏切られるんじゃないかという不安がつのっていく。

 黒幕癖。
 人から信頼を得るのは難しい――ということなのだろう。
 それにしても――


「……そうか、どうにかする方法は、あるんだな」


 今までなかった発想を、アレクは得た。
 ならば――行動を起こすだけだ。

 一人つぶやき、業務に戻ることにする。
 階段を降りれば『銀の狐亭』エントランスがある。
 受付には――


「アレク、ネイさんのあれこれは終わったの?」


 ――ヨミがいて。
 だからアレクは首を縦に振る。

 終わったよ、と。
 そんなささやかな嘘をついて、仕事に戻った。
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