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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

一章 ロレッタの『花園』制覇

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20話

 ロレッタが『花園』へ挑んでいるころ――
 アレクは冒険者ギルドに来ていた。
 昨日、『花園』依頼を受ける際に頼んでおいた用事を済ませるためだ。


 冒険者ギルドと呼ばれる建物は、街の中央部にあった。
 正式名称を『冒険者支援寄合王都本部』というが、もっぱら『ギルド』と呼ばれている。


 大きな建物だ。
 石造りの二階建て。
 入口は常に大きく開け放たれており、どんな冒険者でも拒まない。


 一階は酒場を兼ねたスペースになっている。
 昼ともなると百人以上の冒険者でごった返していた。
 ちょっと通るだけでも、人と人の隙間を縫うように歩かなければならないほどだ。


 アレクの目的はどうやら二階にあるらしい。
 一階の人混みを抜け、そこかしこで交わされるケンカじみた『いつものやりとり』を聞き流し、誰に見とがめられることなく目的の場所に向かっていく。


 二階にあるのは、依頼窓口だった。
 依頼する方もされる方も、この窓口を利用することになる。

 昼夜を問わず常に受付が待機していて、一日中、いつの時間も利用可能だ。
 ただ、今の時間は五つある受付すべてに人がぎっしりと並んでいる。
 この時間帯に待たずに依頼をしたり受けたりすることは、不可能のようだ。

 アレクは依頼窓口を横目に、さらに奧へ進む。
 その先にはもう、小さな木製の扉が一つしかない。


『ギルドマスターの部屋 関係者以外立ち入り禁止』


 扉には、そんなプレートが打ち付けてあった。
 アレクはかまわず扉を開き、中へ入る。

 内部はソファと机、それに大量の羊皮紙のある空間だった。
 常に煙がただよっており、独特な甘い香りがする。
 これはギルドマスターの吸うパイプの煙だと、アレクは知っていた。

 煙と書類の奧。
 丈夫で立派な、大きい文机。
 そこに座っているのは、おおよそ調度品とサイズの見合っていない、小柄な少女だった。


 浅黒い肌に、緑色の髪。
 特に目につくのが、頭髪の長さだ。
 少女は大きな調度品と、長すぎる髪に埋もれているようだった。

 髪の隙間からのぞく眼光は鋭い。
 倒すべき敵を見る冒険者のような目。
 当然だ。彼女にとって、ノックもせずに入って来たアレクは侵入者に過ぎない。
 ご丁寧に『関係者以外立ち入り禁止』のプレートまで打ち付けてある彼女の仕事場に侵入したアレクを、彼女はこのように出迎えた。


「おう、よく来たな。適当なところに座りな」


 ぶっきらぼうではあるが、歓迎している様子だった。
 しかしその声――容姿は幼い少女なのに、しわがれた声はまるで老人だ。
 初めて聞いたのならば、ぎょっとしてしまうだろう。

 アレクはおどろいた様子もなかった。
 慣れた所作で、近場に積んである紙の上に腰かける。
 それから、柔らかい笑顔を浮かべ、椅子に根を張る少女へ呼びかけた。


「クーさん。昨日依頼した件、どうですか?」


 アレクの言葉に、クーは目を細める。
 幼い容姿に似合わず妙に迫力がある表情だ。


「『はいいろ』の件か。一晩でできる調査は終わったよ」
「どうでした?」
「あんたの追っかけてる方で間違いねえな」


 パイプを吸って、ぷかり、と煙を吐き出す。
 瞳には厭世的な光があった。

 アレクは。
 追いかけているという者の手がかりを得て、それでもまったく表情を変えない。
 わずかな動揺も、喜びも、なにもなく。
 柔らかい笑顔を浮かべたまま、続きをたずねる。


「そいつの所在などは?」
「さすがに一晩で調べ上げられる情報じゃねえな。ま、本気で探せば二日か三日というところだろうが……」
「お願いします。追加で依頼料が必要であれば、言ってください」
「……しかしなあ。あんたも変わり者だよ。確かに『はいいろ』は有名な暗殺者だ。その道だと知らないやつはいねえし、危険なのも間違いねえ。……本物だろうが、模倣犯だろうがな。それでもわざわざ私財をなげうってそんな危険人物を成敗しようだなんて、普通はやらねえよ」
「暗殺者、ですか」
「違うのか?」
「『はいいろ』は暗殺者ではないと、俺は思いますけど……まあ、その方面の人物にカテゴライズされるのも仕方ないのかな。『はいいろ』を正しく分類する職業は、きっとこの世界にはないんでしょうし」
「あんたの元いた世界ならあるのか?」
「そうですねえ。強いて分類するとすれば、『カウンセラー』かな?」
「よっぽどえげつない職業なんだろうな、それ」
「……ともかく、見つかりそうならよかった。いるとわかっていつまでも放置しておくのは、精神衛生上よろしくないですからね」
「害虫みたいに言うねえ……」
「違います。中二ノートみたいなものです」
「わけわかんねーよ。なんだそれは」
「人知れず葬りたいものですよ」


 アレクは立ち上がる。
 クーはジロリと視線を動かして、彼を見上げた。


「新人育成、うまくいってるかい?」
「……それなりには。なるべく厳しくない修行を選んでいるつもりですけど、どうにも感覚が違うみたいで」
「あんたの『厳しくない』は普通の人には『拷問』だからな」
「そんなに厳しいかなあ……効率よく耐久力上げるのも、三日三晩ダンジョンにこもるのも、ゲーマーだったら当然のはずなんだけど」
「あんたはたしか、元の世界じゃその『ゲーマー』だったんだっけか」
「そうですね。割と廃人でした」
「……廃人になるような職業なのか」
「職業じゃないですけど……趣味で廃人やってたっていうか」
「趣味で廃人とか頭おかしいだろ」
「……今考えるとそうかもしれませんね。まあ、でもね。セーブもない状況で死ぬような訓練やらせたりはしませんよ。すべてセーブがあるから、ゲームみたいなことを修行にできるんです」
「あんたの発言は相変わらずわけわかんねーな。……まあいい。引き留めて悪かった。そっちはそっちで仕事がんばれ。こっちはこっちでやっておく」
「はい。それでは」


 雑談を終えて、アレクはペコリと頭をさげる。
 クーは、追い払うように手を振って応えた。
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