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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

十二章 テオドラの『神殺し』粛清

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170話

「そういえば、今回は修業先に先客がいらっしゃるかもしれません」


 などという無気味なつぶやきを聞きつつ、テオドラは本日の修行場に向かう。
 場所は王都からやや南西方向に歩いた場所だ。

 このあたりは荒れ野と草原が半々、といったところか。
 王都から西側に向かうほど草地が多く、南へ行くほど荒れ野が広がる。

 これは南にある絶壁が大地のエネルギー……地脈なる正体不明の力を『下』に落としているからだというような説もあるが、真偽は不明だ。
 そもそも、絶壁の『下』があるかなどたしかめた人類は、一人を除いて存在しない。

 その『一人』だって、聖典に記されているだけで、実在は疑わしいのだ。
 ……道中、そこまで考えてテオドラは首を何度も横に振る。

 ――聖典の内容は正しい。
 邪神は巨大化するし、今は守護神アレクサンダーの軍勢対邪神とその使徒の、世界の命運を懸けた聖戦が始まろうとしているところなのだ。

 それを疑うなどと。
 ……邪神の使徒に長くかかわりすぎた。このままでは堕落の一途をたどるのみだ。


「私は負けない……負けないぞ……」
「どうされました、いきなり」
「なんでもない。それより――」


 目的地はまだか?
 いい加減、草地と荒れ野の狭間を進むのにも飽きた。

 ……そんなようなことを言おうとしたのだと思う。
 しかし、あるものを目撃した瞬間、それまで頭で考えていた文言が吹き飛んだ。

 テオドラの視線の先には、歪なかたちの洞窟がある。
 あれこそが今から挑む修行場(ダンジョン)だろうことは、想像にかたくない。

 そのダンジョンの入口と思われる、なんとも筆舌に尽くしがたい、見ているだけで不安に襲われるような歪んだ円形の穴――
 横には、セーブポイントがすでに設置してあった。

 ……セーブポイントを見ると、色々こみ上げるものがある。
 しかし今回、テオドラが言葉を止めた理由はそんなものではない。

 問題なのはセーブポントのそばに立つ人物だ。
 そいつは――

 白銀の体毛。
 子供のような矮躯。
 そして、十本の尻尾を持つ、狐獣人――
 テオドラの信じる教えに出てくる、守護神アレクサンダーの敵対者、邪神だ。


「邪神! 覚悟!」


 テオドラは叫び、腰の後ろから剣を抜く。
 そして魔力を編んで刃を伸ばし、邪神に向けて駆けだした。

 体は妙に軽い。
 邪神の使徒アレクの相手をしているとあまり実感がなかったが、速度も、力も、少し前と比べると格段に上がっているのが、ようやくわかる。

 これなら、邪神の命脈を絶つことができるかもしれない。
 体の軽さに起因する勝利への確信を抱きながら、テオドラは剣を握って突進し――


「なんじゃいきなり。礼儀がなっとらんな」


 そんな声とともに、いきなり邪神の方向から突風が吹いてきて。
 テオドラは、ごろごろと真後ろに吹き飛ばされた。

 おそらく魔法だと思う。
 だが、詠唱も予備動作もなくて、はっきりとはわからない。

 転がったテオドラは、アレクの足にぶつかって止まる。
 ……いくら細身の少女とはいえ、テオドラが結構な勢いで吹き飛ばされてぶつかったのに、アレクはびくともしなかった。

 ぶつかったの感触は人体よりも建造物に近い。
 もちろん、人にも骨や筋肉があるから、鍛えた者は触った感触が硬かったりする時もあるのだが、そういうレベルじゃない。なにか構成物質から違うような、違和感のある人体。

 テオドラは触れていることに恐怖を感じて、慌てて立ち上がる。
 そして左右を見た。

 右にアレク。
 左に邪神。
 ひどい挟み撃ちだった。


「おのれ! 私をおびき寄せてついに殺そうという算段だな!? 望むところだ! 本当に!」


 剣を持って左右を順番に見る。
 すると、左側にいた邪神が、肩をすくめて苦笑した。


「のう、アレク。貴様、わらわになんぞ恨みでもあるのか? 今日は特にそのようなものばかりこちらに遣わされるようじゃが」


 邪神はため息まじりに言う。
 アレクは頬を掻いた。


「セーブポイントの見張り、ご苦労様。……で、恨みがないとでも?」
「……まあ、そうじゃったな。それで、どういう意図で、わらわは発見されるなり『邪神』などと言われねばならんのじゃ?」
「宗教上の理由かな。というか、あんたを長年追ってた宗教団体っぽいんだけど、本当に心当たりないのか?」
「追われ慣れておるでな。どの組織かわからん」
「……つまり、まだまだあんたを追ってる組織はありそうなのか」
「大部分は『はいいろ』がどうにかしてくれたと思うんじゃがのう。わらわも寄る年波には勝てぬということか。どんな組織がわらわを追っておったか、五十から先は覚えておらんわ」
「それは年齢のせいじゃないと思うけど……」
「で? そやつはどうすればよい? お仲間と同じようにすればいいのか?」


 その発言にテオドラは瞠目する。
 お仲間。

 それはきっと、ともに邪神およびその使徒を襲撃した、同じ教団の仲間だろう。
 守護神アレクサンダーを直接守護するための部隊。
 敬虔なる精鋭たち。

 ……みな、教理のために殉ずることなど、怖れない。
 だからきっと殺されたものと考えていたが――


「我らの仲間は、まだ生きているのか!?」


 テオドラは邪神に問いかける。
 邪神は肩をすくめた。


「わらわは、殺すより生かす方が得意でな」
「どこにいる!?」
「ああ、それは――」


 そこまで言いかけて。
 邪神は、意地悪い笑みを浮かべる。


「――教えてほしいか?」
「……交換条件でも持ちかけてきそうな顔になったな」
「話がわかるではないか。なに、難しいことではないぞ。そして、貴様にしかできんことでもある」
「……なんだ?」
「貴様、いい体しとるのう」
「…………」


 テオドラは自分の体を抱きしめる。
 いい体している――そんなふうに言われるのは、初めてだ。

 しかも、見た目は幼い邪神に言われるとなると、人生どころか人類史初かもしれない。
 テオドラは警戒しながら、問いかける。


「……私の体が、なんだ」
「若く健康そうな、いい体じゃ。しかも、貴様、早死にしそうな性格しとる」
「……」
「そこでじゃ、貴様が死したのち、その体、わらわがもらおぶっ!?」


 唐突に邪神がうめいて言葉を切る。
 なにかと思えば、いつの間にか、アレクが邪神の背後に立っていた。

 アレクが邪神の後ろにいることと、邪神がぐったりして動かなくなったことの因果関係は不明だが……
 たぶんアレクが目にも止まらぬ速さでなにかしたのだろうと、テオドラは解釈した。


「……今の肉体が朽ちたら終わりにするんじゃなかったのか」
「きちんと交渉しておったじゃろ!? 貴様に口出しされることではないわ!」


 邪神はアレクに抱えられながらも元気だった。
 さすが邪神だ。


「……母さん、あんた、まだ生きる気か」
「生きて悪いか!? ――いや、待て、落ち着け。話せばわかる。ほれ、先ほど、わらわには敵が多いという話をしておったじゃろ? そこで予備の体がある方がなにかと安全かなと」
「今のあんたを殺せる人材は、俺の知る限り…………まあ百人はいない気がするから、大丈夫だろう」
「どのへんが『大丈夫』じゃ! 多いわ! 貴様の『大丈夫』は本当にアテにならんな!」
「なににせよ、今のは交渉じゃない。脅迫だ」
「……交渉と脅迫、なにが違う? どちらも『自分の目的を果たすため相手とする話し合い』じゃろう?」


 邪神は心底不思議そうな顔で首をかしげた。
 さすが邪神だ。

 これには邪神の使徒もついていけなくなったらしい。
 肩をすくめて、視線をテオドラに戻す。


「というわけで、次の修行はここで行ないます」
「待て! 私の仲間の情報は!?」
「無事ですよ。信じてください。大丈夫」
「信じられるか!」
「では、修行を中断してお仲間の様子を見に行きますか?」
「は?」
「かまいませんよ、それでも」


 アレクはいつもと変わらぬ、感情の読めない笑顔で語る。
 意図がわからない。
 仲間と会わせることで、なにか邪神側にメリットがあるということなのだろうか?

 テオドラは混乱する。
 仲間の無事を確認することは、自分にとって得があるだろうか?
 確認しないことで、自分にとって損はあるだろうか?

 状況が不可解すぎて、混乱してきた。
 ……しかし、一つだけ思い当たったこともある。

 アレクは、テオドラの目の前で仲間を殺していない。
 いや、もちろん、それはいっぱい殺したのだが、結果的に死んだ仲間はいなかったように思う。

 ……なぜ生かすのだろう?
 さらなる絶望のため?

 いや、そもそも、『なぜ』を挙げていけばキリがない。
 この男の行動はいちいち不可解だ。
 テオドラを鍛える意味だって、わからない。


「……貴様は、なんなのだ? なにが目的だ?」


 困り果てたテオドラは、それだけたずねた。
 相手が正直に、そして簡潔に答える保証はどこにもない。
 こんなのは占いのようなもので、問いかけに対する答えから、相手の心理を少しでもうかがい知ろうという、悪あがきにすぎない。

 アレクは少しだけ悩む素振りを見せる。
 そして。


「色々あって、もう一度正義の味方を目指すことにしました」


 わかりやすいようでちっともわからない――
 そして、テオドラにとってはとうてい受け入れられない答えを述べた。
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