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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

十一章   『月光』の英雄殺し

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162話

「アレク、お義母さんの眠る場所、客間でいいの?」


 夜。
『銀の狐亭』従業員室に入るなり、ヨミはそのようにたずねた。

 案の定、大きなベッドが一つきりの部屋にアレクはいた。
 彼はベッドに腰かけ、夢中になってなにかを読んでいる。

 こちらに気付いた様子はない。
 ……珍しい。
 というか、異常を疑う事態だ。
 まさかアレクが、同じ部屋に入ってきた相手の気配に気付かないなんて。


「アレク?」


 ヨミは彼に近付き、その顔をのぞきこむ。
 そこで、アレクは初めてヨミの存在に気付いたようだった。


「あ、ああ……ごめん。なんだ?」
「なんだじゃなくって、お義母さんの眠る場所。空いてる客間でいいのかなって」
「うん、そうだな。しかし……」
「?」
「家族も増えたし、娘たちも大きくなる。そろそろ増築の必要があるかもしれない」
「増築ねえ……土地はあるけど、これ以上大きくされると掃除が大変かも」
「近場に別館を作ってブランとノワに経営を任せてみるのも手かな」
「まだ早いような……」
「トゥーラさんだってまだ成人前なのに立派に近衛兵としてやってるんだ。早すぎることはないと思う」
「トゥーラさんはブランとノワよりは年上じゃない……それにすごく疲れてるよ……」
「……ともあれ、色々考えないとな。常連さんも増えたし」
「これからは宿屋業務に集中できるの?」
「いや」


 アレクは苦笑する。
 ヨミはため息をつき、肩をすくめた。


「……またなにか新しい『ゲーム』を見つけちゃったんだ」
「そうだな」
「今度はなにを探すの? ヘンリエッタさん?」
「『世界の真実』」
「………………ぼくも時々、アレクにはついていけなくなるよ。えっと、それはなに?」
「過去の英雄アレクサンダーの消え際が気になった」
「消え際?」
「俺には彼の最期が、分解されていくプログラムのように感じた。普通の生き様ではなかったし、普通の死に様でもなかったのはたしかだろうけど、少なくとも『十割殺し』で死ぬ人が全員ああなるわけじゃない。実際、お前はパタンと死んだ」
「そうだねえ」
「彼はこの世界を『スローライフ系ゲーム』と表現した。そして、彼との会話で、俺たち転生者が駆逐するべき『バグ』は『人』だという印象も受けた。でも、たしかに、自ら考え、行動するのは人として普通だ」
「うん」
「思うに、この世界はもう神様の手を離れてる」
「……」
「勝手に活動を始めた世界においては、転生者(おれたち)こそが『バグ』であり『排除されるべき異物』なのかもしれない」
「言ってることが散漫でよくわからないんだけど……つまり?」
「今、列挙したような疑問がいっぱいできた。解消したい」
「……はあ、ほんと。アレクの数ある『どうかと思うところ』の中で、そういうのが一番どうかと思うよ」
「そういうの?」
「探究心」
「…………反省はしてるよ」
「で、なにを読んでたの?」
「『カグヤの書』だよ」
「今さらなんで? 著者が同じ建物の中にいるんだから、聞けばいいのに」
「それはあとで。今はちょっと、違和感を洗い出しておきたい」
「……またわけのわからない思考フェイズに入ったんだねえ……つまり、今後の『ゲーム』はどういうものになるの?」


 あきれたような、ヨミの声。
 アレクは考えこむ素振りをみせてから答える。


「五百年前の英雄たちの足跡を追う。彼らのスキルがなぜあたえられたのかがわかれば、世界の真実に一歩近づけると思うから」


 どこか遠くを見る瞳。
 ヨミはもう一度ため息をついた。


「……アレクはいつまで経っても成長しないねえ。遊びを見つけると、すぐに夢中になる」
「そうかな?」
「でも――遊びは遊びだよ?」
「わかってるってば。ゲームに人生は懸けない。廃人は卒業したんだ。まあ、宿屋業務をしつつ、機会があれば積極的にやっていこうと、そういうことだよ」
「でもさあ、ロレッタさんのお風呂修行放り出してお義母さんを捕まえに行ったよね?」
「ゲームに人生は懸けていなくても、イベントがあったら会社を早退したりするだろ?」
「…………まあ、好きにやんなよ。おうちはぼくが守るから」
「ああ、助かる。いつもありがとう」
「いいよ。ぼくもなんだかんだ、そういうの好きだし。ま、とりあえず――目標達成お疲れ様。定めた期間よりだいぶ早く終わったね」
「早期終了ボーナスはあるか?」
「明日の夕食は好きな物作ってあげるよ」
「充分だ」


 二人は笑う。
 そして、アレクは読んでいた本にしおりをはさんでベッドに置き、立ち上がった。

 音もなく部屋を出る、男性と女性。
 残されたのは一冊の書物。

 物語はまだ途中。
 だからきっと、そう遠くない未来――
 しおりをはさまれたその位置から、再び本は、開かれるのだろう。
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