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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

十一章   『月光』の英雄殺し

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159話

「……お前はなんだ? 『月光』からなんも聞いてねーのか? 俺はな、死にたいんだよ。今日まで生きさらばえてきた。いい加減、死んで――褒めてやらなきゃいけないやつが、いるんだ」


 回答するアレクサンダーは、冷静だった。
『月光』から見れば意外な対応だ。
 もっと苛立つか、無視するか、あるいは怒り狂うなんていう反応を想定していた。

 アレクは首をかしげる。
 今の回答ではなにも納得できていない様子だった。


「はあ、つまり、死後の世界があり、あなたがその死後の世界で、仲間と再会できるとして、再会したお仲間を褒めてさしあげるために死にたいと、そういうことですか?」
「……そうだよ。悪いか」
「いえ。人にはそれぞれ信仰や事情がありますからね。悪いということはありません。ただ、少し違和感がありまして」
「お前は俺のなにを知ってる? 俺とともに生きたわけでもないお前らが、俺のなにから違和感を覚えるんだ?」
「……なるほど。たしかに検証が必要だ。いやあ、よかった。やっぱりこういうことになる」
「?」
「どうぞ」


 そう言って、アレクは腰の後ろからなにかを取り出し、投げつける。
 アレクサンダーは投げられたものを造作もなく受け取り、ながめる。
 それは折れた剣だった。


「……俺の使ってた剣じゃねーか」
「『月光』さんがレプリカ含めて色々なところにばらまいていましたよ」
「いいんだよ。俺を殺すやつにくれてやれって言ってるんだから。殺されるためだけに生きてる俺に、もう剣は必要ない」
「しかし、今は必要だ」
「…………なにをさせる気だ?」
「戦ってみませんか?」


 アレクは腰の剣を抜き放つ。
 青い輝きを発する、不思議な剣だ。

 新しい聖剣。
 アレクに少しでも戦力を与えるため、『月光』が見込みある刀剣鍛冶を焚きつけ、打たせようとした剣。

 アレクの表情は変わらず、口調はいつもの通りだ。
 戸惑いの色を見せたのは過去の英雄アレクサンダーのようだった。


「……なんでそうなる」
「あなたが不死の理由について、いくつか推測があります。それの検証ですね」
「……」
「あとは、『月光』さんがあなたを殺すための下準備というところでしょうか」
「…………手順が必要か。いいぜ、付き合う。ただし――手加減は苦手だ」
「問題ありませんよ。俺のステータスはごらんになられましたか?」
「…………はあ!?」


 アレクサンダーがここ数百年で一番大きな声を出した。
 それから、目をこする。


「……おいおい、マジかよ。なんだそれ」
「どうでしょう? サロモンさんや『真白なる夜』さんと比べて、俺の能力は見劣りするものでしょうか?」
「悪いが……サロモンには悪いが、比べものにならねーな。どうなってんだ。なにが楽しくてそこまで鍛える? それとも『月光』が言わないだけで、外では戦争でも起きてんのか?」
「いえ、趣味です」
「……」
「ステータスはカンストまで。スキルはめいっぱい。俺はそういう楽しみ方をします。――ゲームではね」
「…………お前、まさか」
「異世界から転生してまいりました」
「……なるほど。いや、『月光』がここに人を連れてくるなんて、今までなかったんだが……これは、可能性が高そうだ」
「ご理解いただけましたか。本日は城から人払いもしておりますので、存分に暴れることができると思いますよ」
「……マジかよ。まずいな……」
「?」
「楽しくなってきた。こんな気持ちは、久しぶりだ。俺は、死にたい。でも、楽しすぎて、お前を殺しちまうかもしれねー」
「大丈夫ですよ。セーブしますから」


 そう言って、アレクは手を横にかざす。
『セーブポイント』を出現させて。


「『セーブします』。これで、殺されても死にません。ああ、母さんもセーブをしておいてください」
「…………つくづく、すげーな。お前みたいなのもいるのか。俺の世界はまた広がった」
「そうですか。広がったばかりで申し訳ありませんが、今日閉じます」
「はっ……そうだな。楽しい勝負ができる。世界が今日閉じる。至れり尽くせりとはこのことだ。じゃあ――俺の世界を閉ざしてみろ、アレクサンダー!」


 手にした剣を伸ばし、アレクサンダーが突撃する。
 すさまじい勢い。

 対するアレクは落ち着いたものだった。
 半身になって切っ先を相手に向けるようにかまえると、アレクサンダーの突撃を止める。

 そうして。
 足を止めた両者は、剣による打ち合いを始めた。

 火花が散る。
 衝撃。
 それから、風圧。

 音と音と音が重なり、一つのけたたましい音に変化する。一瞬のうちにあの二人は何度剣を打ち付けあったのか。視界に映ってはいるものの数えることはできない。だって、そんなことに意識を割けば、たちまちに二人の巻き添えで死ぬ。

 そうだ、だからセーブを勧められたのだ。
 この戦いは見ているだけで死にかねない。
『月光』は慌てて「セーブする」と宣言した。


「おいおいおいおい! まともに俺と打ち合うやつなんて、五百年前にもいなかったぞ!」
「みなさんSTRが低かったのでしょう」
「あとDEXもな!」
「サロモンさんはどうだったので?」
「あいつは強かった! 俺と互角だ! ただ、あいつは剣士じゃなかった!」
「ふむ、サロモンさんとあなたは互角ですか」
「……?」
「ちょっと速度を上げましょう」


 和やかな会話。
 しかし、反対にだんだん上がっていく戦闘速度。

 足を止めているから姿が消えることはないが、もう剣は『月光』の動体視力で捉えることはできなくなっていた。
 どころか、腕も消えている。
 ただ、音と風圧と衝撃だけが、二人のあいだで起こっていることを想像させる。

 時間的にはわずか、しかし、きっととんでもない合数、剣が重ねられたあと――
 一瞬だけ、二人が剣を大きく振りかぶる様子が『月光』にも見えた。

 そして。
 打ち付けあった。

 明らかにそれまでと力の込め方の違う一撃だ。
 風圧や衝撃だけではなく、床が、一瞬波打った。

 あのつばぜり合いにこめられる力がいかほどのものなのか、想像がつかない。
 英雄アレクサンダーは、楽しげに歯を食いしばる。
 一方でアレクも珍しく笑顔を消し、集中していた。

 二人が、同時に吹き飛ぶ。

 アレクサンダー二名はほぼ同時、対面する壁に背中を打ち付けた。
 復帰し、剣を構えなおすのも同時だ。

 ……見ているのに『月光』にはまったく、戦いの質が想像できない。
 あの二人は、生き物として遠すぎるのだ。
 むしろ、二人の戦いに耐えている剣の見事さや、この部屋のおどろくべき強度の方が、驚嘆を覚える対象としてわかりやすい。


「いいじゃねーか」


 アレクサンダーが笑う。
 それから、手にした古き聖剣の刃を、長く長く伸ばす。

 アレクサンダーは、体を思い切りひねる。
 力をためるような動作。


「久々の娯楽だ。もっと色々見せてくれ!」


 ためた力を一気に解放するように――
 剣をなぎ払った。

 それは『月光』の頭上を通過してアレクの首へ迫る一撃だ。
 驚嘆すべきは精妙なる間合いの把握力。部屋の壁を傷つけない――部屋の壁によりわずかたりとも速度を鈍らせないよう調整された長さの刃が、全速でアレクへ迫る。

 対するアレクは「ふむ」と声を漏らした。
 もらえば絶命はまぬがれない一閃を前にしているとは思えないほど冷静な様子で言う。


「いえ、こちらはもう結構です」


 言葉と同時に、青い軌跡が描かれる。
 手にした青い剣で、アレクサンダーの刃を斬ったのだ。

 斬られた刃はスッと消失する。
 実体ではなく魔力により編まれた刃だ。消滅するのは当然と言える。

 そもそも魔力の刃だからこそ斬られるわけがないと、『月光』は思うのだが……
 アレクサンダーはおどろいていなかった。


「……斬られたか」
「魔力の刃が斬られるという発想はあったようですね」
「サロモンの魔力の矢をぶち折ったことがある。魔力で編まれてるからって破壊不可能ってわけじゃねーさ。……ま、俺の魔力が斬られたのは初めてだがな」
「なるほど。だいたいわかりました。ご協力ありがとうございます」


 アレクが一礼する。
 アレクサンダーは、不満げに舌打ちした。


「お互いに死なないんだったら、死ぬほどやってもいいんだがな」
「ははは。まあ、それもいいんですが、俺は負けるとわかっている戦いはしない主義なので」
「…………」
「あなたはサロモンさんと互角だと言った。そして、俺がサロモンさんよりはるかに強いとも言いました。そこから判断すれば、あなたは俺に勝てない」
「……はっ」
「しかし、俺はきっと、あなたに勝てないでしょう。だってあなたが自分の敗北を想定していないから」
「どういう、意味だ」
「違和感」


 アレクが笑顔で述べる。
 剣は腰の鞘に納められ、本当にもう、戦う気はないようだ。


「あなたのお話を『月光』さんからうかがいました。それで俺は、いくつか違和感を覚えた。たとえば、サロモンさんとの戦いのお話です。戦いの最後、あなたの剣は折れましたが、剣とはそもそも、話にあったような折れ方をするでしょうか?」
「…………それは」
「思い切り振った剣が、サロモンさんに当たる前に、半ばから折れた。刃は前方向へ吹き飛んで、サロモンさんの集落の壁を壊した。……これ、どう思います?」
「………………」
「あなたはサロモンさんを殺したくなかったんでしょう。まあ、イーリィさんがいたから殺すほどのケガを負わせても大丈夫だという打算で戦いを始めたんでしょうが、それにしたって即死してしまえばどうにもならないという不安はあったはずだ。その不安がそんな結末を生み出した」
「……どういう意味だ」
「たずねておきながら、すでに答えはあなたの中にあるのでは?」


 アレクサンダーは黙りこむ。
 その態度は、肯定のようにも見えた。

 アレクは変わらない。
 笑顔で淡々と言葉を紡いでいく。


「あなたのステータスもスキルも、俺には見えません」


 それはおどろくべき発言だ。
 というか、むしろ、『月光』やアレクサンダーよりも、アレク自身がおどろくべき事実なのではないだろうか。

 だって、彼は色々な人の『ステータス』を見て修行をつけてきたはずなのだ。
 普段見えるものが見えなかったら、普通、混乱する。

 けれど微動だにしない。
 精神力ではなく、精神性が尋常ではないのだろう。


「でも、あなたの『チートスキル』がなんなのかは、なんとなくわかりました」


 アレクサンダーは言葉を発しない。
 ただ、怖れるようにアレクを見ている。

 アレクはそんな視線をまったく気にした素振りもなく語る。
 不死の英雄アレクサンダーの力の正体、それは――


「『ご都合主義』」


 耳を疑うような発言は、ここに来て二度目だ。
 その言葉自体は、一般にも耳にすることがあるものだった。
 ようするに、その言葉の意味するところとは。


「なんだかんだ望み通りの結末にする力。殺したくない相手を殺さないことができる。負けたくない勝負で負けないことができる。その代わり『望みそこねたこと』『発想できなかったこと』は叶わない力。あなたの能力はそんなところで――」


 ほんの刹那、間があった。
 その間は、アレクがなにを思ったゆえにできたものだろう。

 わからないけれど。
 けっきょく。


「あなたの死なない理由も、それだと俺は思います。つまり、あなたは『望み通り』生きていると俺は考えている、ということです」


 アレクは言う。
『お前は死にたがっていないのだ』と。
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