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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

十章 カグヤの語る英雄譚

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147話

「悪いが、わらわは『カグヤ』とかいう存在ではないぞ。ただまあ、同じ肉体で、同じ知識のもと、同じような言葉をしゃべるというだけの者じゃな」


 ソイツははっきりと断言した。
 では何者なのかという質問に対して、ソイツはこう答える。


「何者かは知らんな。たった今生まれたばかりの意識じゃ。だから、貴様らがわらわを『カグヤ』と呼称したくなければ、わらわに名前をつけるがよい。さて、貴様らはわらわになにを望む? 死した少女の代わりか? それとも空いた肉体に憑依した空気を読まぬ悪役か? なんでもいいぞ。なにぶん生まれたばかりで目的がないでな。好きなものになってやろう」


 望みを叶えるだけのモノだと、ソイツは己を定義する。
 ならば、とアレクサンダーは問いかけた。


「なんでカグヤは、あんな無茶をしたんだ」
「それはもちろん貴様に惚れておったからじゃろ」
「……」
「気付かんものか? こんな不器用な恋心。ああ、思考も思い出も共有しておるでな、つまりわらわにとっても貴様が初恋ということになるのかのう」
「…………ひょっとして、俺をかばおうとしたのか? 死なない、俺を?」
「うむ。アレクサンダーはこの城で死ぬという予言があったからのう」
「なんでカグヤは、その予言を言わなかった?」
「そりゃあ周囲を己よりはるかに有能な者に囲まれ、その中で活躍できん状況が続けば、活躍したいと思うのは道理じゃろう。力なく、技能なく、知識なく、経験のないこの肉体の元の主が活躍するには、予言を独占するしかないからのう」
「……そんなことに、命なんか、懸けなくたって……!」
「役立たずの末路は暗い穴蔵じゃからな」
「……」
「貴様らの知る『カグヤ』は、思いの外、あの穴蔵を恐れておったようじゃな。だからイーリィとかいうのよりも活躍したかったと」
「……なんで」
「そりゃあもちろん、嫉妬じゃろう。少女らしい、淡い感情――」


 そこまで言った段階で。
 ズガン! となにかが床にたたきつけられた。

 それはダヴィッドの持っていた鎚だ。
 彼女は憤怒の形相で、述べる。


「黙れ。それ以上言うな。アレクサンダーも、質問するな。テメェらは死者の想いを暴いて、なにが楽しい。カグヤの気持ちを考えやがれ」


 重い沈黙が降りた。
 ただ一人、カグヤの中に入った何者かが、よくわかっていないように首をかしげる。


「それで、わらわはどうすればよいのじゃ? 貴様らはわらわになにを望む?」


 無垢な問いかけだった。
 アレクサンダーとイーリィは悲痛な顔をしていた。
 ダヴィッドは嫌悪を隠そうともしない。
 サロモンは無表情だったが、小さく舌打ちをした。
 ウー・フーはおろおろするばかりだ。
 ただ一人、『真白なる夜』がいつもの調子で微笑んでいた。


「あの、僕、今から空気読まない発言しますけど……さっさとモンスターを掃討して人を呼び込みませんか? 僕らが立ち止まっているあいだにも、世間ではモンスターに殺されている人たちがいますし。先陣を切る者として、さっさと拠点確保をするのは勤めかと」


 ダヴィッドは一瞬『真白なる夜』をにらんだが、口を開きかけてやめた。
 たぶん、彼の意図がわかったのだろう。

 だから、再びの沈黙のあと――
 アレクサンダーが、立ち上がり、『真白なる夜』に告げた。


「……嫌な提案をさせちまったな。悪い。……俺が言うべきことだった」
「いえいえ。我が偉大なるアレクサンダーのためならば、この体も心も、傷つくこと厭いませんよ。……なーんちゃって」
「……最後におどけるんじゃねーよ」


 ようやくアレクサンダーは笑う。
 傍目にも無理がわかる笑顔だった。
 でも、そのことを指摘する者はいない。

 彼はカグヤに視線を戻す。
 それから、告げた。


「俺はお前になにも望まない」
「ほう」
「……お前のことを受け入れるのは、正直まだ難しい。でも……とりあえず、生まれたなら、それはいいことだ。お前みたいなヤツもいる。俺の世界はまた広がった。……そして俺は、広がった自分の世界に、初めて戸惑いを覚えてるよ」
「ならばわらわはどうすればいい?」
「お前はカグヤじゃない」
「そうでもあり、そうでもない」
「俺はお前をカグヤだと思いたくない」
「なぜじゃ? カグヤが死して、貴様らは悲しんでおるではないか。記憶も思い出も容姿もカグヤと共有しておるわらわが、カグヤとして復活してやってもいいのじゃぞ?」
「お前にカグヤを塗りつぶす資格はない」
「……うむ? ようわからんのう」
「だからお前は、お前として生きろ。名前が必要なら、『カグヤ』以外を名乗れ」
「そうは言われてものう。カグヤという名前も貴様がつけたものじゃろ? わらわにもなんぞ名付けてくれんか?」
「……あの日見た光が、どうしてもちらつくな」
「うん?」
「『月光』」
「……カグヤの知識を参照するに、人名ではなさそうじゃが」
「悪いけど、俺はお前を、人と思うことができない。……でも、カグヤじゃないと割り切ることもできない」
「ほう。なるほど、それもよい。曖昧な者と望むのであれば、わらわは『月光』と名乗ろう」


 ……こうして、『月光』、現在では『輝き』と名乗る者が誕生した。
 ――ようやく本題に入ることができそうだ。

 なんのために、『月光』が五百年も生きたのか。
 ここまでの旅路を知ってもらったうえで、その理由をかいつまんで話そう。
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