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セーブ&ロードのできる宿屋さん ~カンスト転生者が宿屋で新人育成を始めたようです~ 作者:稲荷竜

八章 オッタの『奴隷』購入

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117話

「おや、ホーとも仲良くしていただいているようですね」


 オッタが食事を終えたころ、アレクも『銀の狐亭』に帰って来た。
 まだ食堂にいる。

 四人がけのテーブル席で、アレクは座らず、横に立っていた。
 オッタの正面には、現在この宿唯一の宿泊客がいた。

 ホーという名前の少女だ。
 ドライアドという種族らしい。

 彼女は、つい先日、アレクの修行を終えたということだった。
 ようするに、今日から修行を始めたオッタにとって、先輩にあたる。

 それにしても珍しい容姿だった。
 小さいのに、なんだか静かな力強さを感じる。
 褐色の肌はつい触ってみたくなる不思議な魅力があった。

 そもそも数の少ない種族らしく、オッタはこの宿で初めて見た。
 子供のような体格。
 樹皮を思わせる褐色肌。
 それから、白く、量が多く、長い髪。

 着ているものがゆるそうな布一枚ということもあって、小さな体はますます小さく見える。
 けれどこの国の基準だと成人なのだそうだ。
 ……ということを、食事中の会話で、オッタは知っていた。

 オッタは、ホーを見る。
 彼女が、アレクの言葉に対応した。


「仲良くってほどじゃねーよ。今、少し話したぐらいだ」
「おや」
「……なんだよ」
「いや。ところで、オッタさんを借りても?」
「別にあたしのじゃねーよ。オッタに聞け」
「……お前は人見知りなのかと思ったけれど、意外と人と打ち解けるのは得意なのかな」
「さっきからなんだ。なにが言いてーんだ」
「いや、助かると思ってね。そういうわけで――」


 アレクがオッタへと視線を転じた。
 それから、いつも浮かべている笑顔で言う。


「――少しお話、よろしいでしょうか」
「大丈夫」
「では、あちらへ」
「……ここじゃいけないのか?」
「はあ。別にいいんですけれど、ホーには関係ない話ですし、会話の中で、あなたの人に聞かれたくない事情に触れるかもしれませんが」
「オッタには人に聞かれたくない事情はないぞ。……あ、でも、元奴隷っていうのは隠した方がいいんだったな」
「おや? その話は誰からされたので?」
「ブラン」
「……なるほど。まあ、そうですね。隠した方がいい場合は多いでしょう。俺としては、あとでバレるぐらいなら最初から言ってしまった方がいいとは、思いますけど」
「……言うのと、隠すのと、どっちが正しい?」
「結果的に正しかった方が正しい、というのが答えでしょうかねえ」
「……よくわからない」
「『絶対にどっちがいい』というのはないということですよ。状況による、というのが、ずるいように聞こえるかもしれませんが、唯一の答えですね。だから失敗しながら覚えていくしかない」
「難しい」
「そうですねえ。まあ、最終的には、あなたの好きなようにするのが一番ですよ。隠し事が得意なら隠せばいい。苦手なら隠さない方がいい」
「オッタは隠し事が苦手だ」
「なら、言ってしまってもいいのでは? まあ、聞かれるまでわざわざ答えることはないとも思いますけど」
「むむむ……難しい。でも、がんばる」
「はい。ところで、お話を始めても?」
「すまなかった。オッタは話を聞く。なんの話だ?」
「明日からの修行の話です」


 アレクがそう言うと。
 ホーから「げっ」という声が上がった。

 オッタとアレク、二人で同時にそちらを見る。
 ホーは気まずそうに視線を泳がせた。


「……いや、悪い。邪魔はしねーよ。続けてくれ」


 アレクとオッタは、お互いへと視線を戻す。
 それから、アレクは説明を始めた。


「本日の修行で、丈夫さとHPを伸ばしていただきました。本来ですと、このあともステータスアップをメインに据えて修行をしていくのですが、あなたの場合、事情が事情なので、先にスキルを覚えていただこうかなと思っていますよ」
「オッタにわかるように言ってほしい」
「スキル……特技……ええと……」
「……」
「そうですね、必殺技を、覚えましょう」
「必殺技か! オッタはそういうの、わりと好きだ!」
「気に入っていただけたのならば、なによりです。では詳しい修行の内容ですが……今回ははっきりした目標がありますね。『エンさんに勝つ』という」
「そうだ。オッタはエンに勝つ」
「エンさんは優れた大剣使いですね。大型武器を使っているのに、隙がない」
「強い」
「はい。世間的な平均から逸脱した強さの持ち主です。きっと命懸けの修行と実戦を繰り返したのでしょう。もっとも、才能や天運もあったのでしょうが」
「エンはすごい」
「そうですね。では、あなたが勝てるようになるには、どうしたらいいでしょうか」
「どうしたらいい?」
「……二種類の方法が考えられます。一つ、エンさんが疲れるまで攻撃を受け続け、一気に斬りこむ。長期戦の方向ですね」
「エンが疲れるところが想像できない」
「そうですねえ。それに、長期戦で大剣を受け続けるというのも、かなりストレスがかかります。間違うと一瞬で死ぬような攻撃を、長いあいだ避け続けるというのは、精神的にきつい」
「つまり、きついのか」
「そうですね。そして、第二の方法は、短期決戦です。戦いが始まった途端、エンさんの大剣をくぐり抜けて、一撃を与えて勝負を決める方法です」
「エンの剣は速い」
「そうですねえ。それに、一撃で決められなかった時、高い確率で負けとなる。奇襲めいた戦法なので二度目はないでしょう。たった一回きりしか挑戦できず、しかも駄目なら負けるというのは、かなり精神的にきついでしょう」
「つまり、きついのか」
「そうですね。そもそも、エンさんは強い。総合力で見れば、あなたもそこそこですが、戦闘能力で言えばあなたはエンさんの足元にも及ばない。それを一週間でどうにかするのですから、どちらの修行もつらいものになるでしょう」
「それならオッタはどうしたらいい?」
「今挙げた二つの方法には、両方とも、いい点、悪い点がありますね。それを考えたうえで、あなたならどうしますか?」
「オッタはそういうの苦手だ。頭で考えてもよくわからない。こういう時、オッタはいつも、直観で選ぶ」
「では、直観でいきますと?」
「両方やればいい」
「そうですね」


 アレクとオッタがうなずき合う。
 その時。
 ガタン! という音がした。

 アレクとオッタは、同時に音の方向を見た。
 そこでは、ホーが立ち上がっていた。


「いやいやいやいや……あんたらおかしいって。どっちもきついって言ってるじゃんか。なんでそこで『両方』っていう発想になるんだよ」
「しかし、ホー、考えてみましょう」
「だから考えた結果おかしいって言ってんだろ」
「とあるダンジョンに挑む際に、弓で行こうか、剣で行こうか、迷ったとしましょう」
「あたしらは髪で戦うからそういう迷いはねーよ」
「ともかく、迷ったとしましょう。そういう時、こうは思わないかな?」
「どう思うんだ」
「『そうだ、弓も剣も両方持って行けばいい』」
「……冒険者ってさあ、普通、武器は一種類しか持って行かないもんだぞ。モンスターを見てから使う武器選んでるヒマなんてだいたいの場合はねーし。武器が増えれば荷物も増えるから、お宝持ち帰れなくなるし。それに、いざという時頼るのは使い慣れた武器だしさ」
「そうだね」
「だから、両方持って行くなんてありえねーって言ってんだよ!」
「つまり二つの武器を両方使い慣れれば、『いざという時』でも適切な使い分けができるということだね」
「でもその、使い慣れるための、修行、めちゃくちゃきついじゃねーかよ! おいオッタ! あんたはいいのか!?」


 ホーが叫ぶ。
 オッタは首をかしげた。


「修行がきついのは当たり前。たまに死ぬぐらいじゃないものを修行と言わない」
「アレクさんの修行はいつも死ぬだろ!」
「死んでも生きるから、安全」
「……そういうことじゃなく……! くそ、あんたもそっち側か!」
「……?」
「アレクさん側のやつだったってことだよ!」
「……オッタはたしかに、ホーの正面に座っている。どちらかと言うと、アレクの近く」
「物理的な距離の話じゃねーよ!」
「距離は、距離。オマエとオッタが近くにいるか、遠くにいるか、そういう意味でしかない。それとも別な意味があるのか?」
「……わかった」
「オッタはなにがなんだかわからない。オマエはなにを言いたい」
「もう口出ししねーから、話を続けてくれ」
「……そうか?」


 オッタは、アレクに視線を戻した。
 アレクもまたこちらを見て、話を続ける。


「えー、それでは、両方覚えようという方針で修行を行うわけですが……どちらの作戦にも重要なのは『回避力』ですね」
「攻撃を避けるのは得意だ。オッタには直観と素早さがある」
「はい。あなたの適性はまさにそれですね。なので、明日の修行では回避力を鍛え、自己客観視の力を養いましょう。スキル的には『見切り』でしょうか」
「わかった。オッタはなにをする?」
「やること自体はそう難しくはないですよ。ただ、攻撃を避け続けていただくだけですから」
「簡単だな」
「はい。修行に使うダンジョンは『殺意の洞窟』と呼ばれる場所ですね。こちらのダンジョンですが、難易度は『立ち入り禁止』となっております」
「立ち入り禁止なのに入っていいのか?」
「許可は先ほど、とってきました。ギルドマスターからは『好きにしろ』と」
「好きにしていいのか」
「はい。ダンジョンの説明をしても?」
「今されても忘れる気がする」
「では現地でいいでしょうかね?」
「いい」


 オッタはうなずく。
 すると、正面の席から「いやいやいやいや」という慌てたような声があがる。
 ホーだった。


「聞いとけって。悪いこと言わねーから」
「でも、どうせ、やる。今聞いても、あとで聞いても、変わらない。そしたら忘れにくいように、あとで聞く方がいい。オッタにしては完璧な理論だと、自分で自分を褒めたいぐらい」
「……わかった。あたしが聞きたい。だから聞かせてくれ」
「ホーも同じ修行をするのか?」
「しねーけど……」
「でも、オッタは誰かと一緒になにかをやるのが好きだ。よかったらホーもどうだ?」
「あんたらは常識が欠如してるから、ついていくのは面白そうなんだが、ちょっとした興味のために心を破壊されるのはごめんだな……」
「ホーも難しいことを言う。まだ小さいのに」
「あたしは大人だ」
「そうだった。……難しい。子供みたいな大人もいる。大人みたいな子供もいる」
「大人みたいな子供?」
「ブラン」
「ああ、まあ、たしかに、歳のわりにしっかりしてるよな。ちょっと人見知りするけど」
「危険人物として完成されている」
「……危険人物?」
「…………秘密だった。オッタはなにも知らない。なにも言わない」
「気になることを……」
「ところでホーは修行に興味があるのか?」
「興味があるってーか……先に聞いておいた方が、あんたのためだと思うんだが……覚悟とか、そういう」
「覚悟ならもう決まっている」
「あたしもな、実際に修行内容を聞くまでは、いつもそう思ってるよ」
「……よくわからない。つまりホーは、オッタの修行に興味がすごいのか?」
「……なんつーか、あんたは、見てて危なっかしくて放っておけねーんだよなあ……」
「?」
「ああ、もう、そうだよ。そういうことでいいから、修行内容を聞いておけ」
「わかった。アレク、教えてほしいって、ホーが」


 オッタがアレクを見る。
 彼は微笑んでうなずいた。


「では。『殺意の洞窟』は、その名の通り、殺意の高い罠が複数仕掛けられているダンジョンですね」
「罠回避は得意」
「はい。あなたはレベル八十のダンジョンに、レベル四十相当のステータスで挑んで、最上階までたどりついたお方です。罠回避や探索における適性の高さは、かなりのものだと思います」
「そうだろう。オッタの自慢だ。危ないことがあると、尻尾がふくらむ。ブランと話してる時みたいに」
「……なぜ、ウチの娘と会話中に尻尾がふくらむのでしょうか」
「あいつヤバイ」
「はあ……よくわかりませんが。ええと、まあ、あなたが罠回避を得意としているのは充分に承知しています。ですので『立ち入り禁止』のダンジョンを選ばせていただきました」
「わかった」
「修行場所は、『殺意の洞窟』の中でももっとも罠密度が濃い大広間です。そこの広間は、入った途端に四方八方から矢が飛んできます」
「そういう罠は別に珍しくない」
「そうですね。でも、その広間の矢のトラップは回避が不可能なんです」
「……がんばってもだめか?」
「そうですねえ。俺の動体視力で確認したところ、その広間はどこに立っていても、同時に十八方向から矢が飛んできます。奇跡的に回避できたとしても、三十秒間、高速、高密度で矢が降り注ぎますから、回避しきるのは不可能かと思いますよ」
「すごい」
「はい。罠が発動した光景は、ちょっと圧巻ですよ。青白い光の筋が、四方八方から、豪雨のような音を立てつつ降り注ぐ……ある種幻想的な美しささえ感じます」
「青白い?」
「つまり物質的な矢ではなく魔法の矢ですね。広場に冒険者が踏み入った衝撃で発生する矢の魔法と申し上げましょうか。なので、実は魔力吸着率を極限までカットした装備であれば無傷で抜けることも可能なんです」
「対策ができるのか」
「理論上ね。現実には不可能です。そこの矢を無効化できるほど魔力吸着率が低い装備となると、この世界には俺の使っているマントぐらいでしょう」
「すごい装備だ」
「師匠から受け継いだものですけれどね。まあ、師匠はうっかり魔法を使わないように、拘束具として用いていたようですが。実際、あれをつけて魔法を使うのはかなりきつい」
「うっかり魔法を使う?」
「魔法は色々派手なので暗殺向きではありませんから」
「暗殺するのか」
「ああ、申し訳ない。すぐに話が逸れるのが、俺の悪い癖です。……話を戻しても?」
「そうだった。修行の話をホーが知りたがっている」
「では、ホーのために話を戻しますか。修行内容は、その広間で矢を回避することです。すべて回避し終えたら、修行は終了となります」


 アレクの発言。
 それに対しオッタより早く反応したのは、ホーだった。


「いや、無理って言っただろ!? 『その広間の矢のトラップは回避が不可能』って、あんた、さっきしっかり言ってたよな!?」
「ああ、失礼。『回避が不可能とギルドマスターは判断したようです』というのが、正しい表現かな。つまるところ、このダンジョンが『立ち入り禁止』にされている理由の説明だね。言葉が足りずに申し訳ない」
「ギルドマスターの判断は正しいって! あのババア、ああ見えてダンジョンを見る目はたしかだからな!?」
「そういえば、ホー。お前の今の仕事は、『特殊構造物ダンジョン専門調査員』だね」
「……なんだ唐突に。すげー嫌な予感がするんだが」
「四方八方から矢が三十秒間降り注ぐダンジョンというのは、髪の扱いの習熟にとても役に立ちそうに思わないか?」
「やだやだやだ」
「オッタさんも誰かと一緒にやりたがっているようだし、明日の修行は、一緒にやろうか。明日からの定まった予定もなかったはずだろう?」
「もう、おわったもん……修行、もうおわったんだもん……」
「ははは。修行に終わりはないよ。生きるということは、それそのものが修行みたいなものさ」
「そんな人生やだあ……!」
「それじゃあ、明日、オッタさんと一緒に修行でいいかな?」


 アレクが笑う。
 ホーが。
 泣きそうな目でオッタを見た。

 彼女は、ぷるぷると体を震わせ、懇願するような目で、オッタを見ている。
 オッタはふと懐かしい記憶を思い出す。

 それは、剣闘奴隷時代。
 試合に出されることを怖がる年下の奴隷。
 その子が震えて、怖がって、今にも泣きそうな顔の時、自分はどう言ってあげただろう?

 オッタは思い出す。
 そして、当時と同じ言葉を、ホーにかけた。


「大丈夫。オッタも一緒だ」


 その言葉は救いにならず。
 ホーは、「やだあ!」と叫んだ。
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